飢食は雪で満たされる

音央とお

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雪乃に対し、女子たちが好意的に見る一方で、教師からの視線は厳しいものになっていく。
授業態度も良く、真面目な生徒であるからこそ、その影響力を心配されているようだった。
なにせ、一部の女子からは「絶対に負けないで」などと熱い支持を得ているらしい。

「ありがとう」「大丈夫」と笑う雪乃はどこか健気で、それがまた支持者を増やしていく。
すでに雪乃だけの問題ではなくなっていた。


「親が呼び出しを食らった!?」

綾の声はよく通る。
それが意図せぬものであっても。
大声を出してしまったことに「ごめん」と謝っているが、雪乃の次の一言は注目されてしまう。教室中の視線が一点に集中する。

「えっと……これまでどおりの改善をお願いされただけで。今回はお父さんが呼び出されただけ。本当にそれだけ……」
「いやいや、親が呼び出されるなんて嫌だったよね」

綾は雪乃の肩を抱き、直と山田に「ちょっと来て」と言って教室を抜け出す。どこか当てがあるわけでもなく、使用されていなかった音楽室の中へと入った。

「2人は廊下で見張ってて。野次馬が近付かないように!」
「ええ……。はいはい、分かったよ。ドアの前にいるよ」

山田は指示に従い、廊下を睨んだ。迫力だけは一人前だ。
一方の直はドアを背にして足元を見つめている。

「いくつか質問するけど、嫌なことは答えなくていいからね」

優しい口調で、綾が質問を始めた。

「相手はどこまでこの状況を理解してくれてるの?」
「……状況は把握してるよ」

綾は怪訝な様子で「それでも、送迎はやめないの? せめて目立たない場所にするとか」と突っ込んだ。

「心配だから、校門まで送るって聞かなくて」

その声には説得が上手く機能していないことが滲み出ていた。

「心配って言われたら、どうしようもないよね。特に雪乃ちゃんは相手の安心を優先しちゃいそう」
「……うん。安心させてってよく言われる」
「悪い人ではなさそうだよね。ちょっと、その人のことを聞いてもいい?」

雪乃は「……軽くなら」と答える。

「名前は?」
「……碧葉くん」
「いつから知り合ったの?」
「これは、生まれた頃かな」
「そんなに前!?」

綾にとって想定外の答えだった。また大きな声になっていることに気付いたようで、咳払いをする。

「お父さんの親友の子どもが、碧葉くんで……」
「幼馴染ってやつ? 山田と直みたいな」
「……あの2人みたいな関係ではないかな」

影を落とす言い方だった。雪乃は話を続ける。

「お父さんが海外に行くことになって、うちは父子家庭で留守にしがちだから、碧葉くんの家で預かってもらうことになったの。……それが小学校を転校した理由」
「そうだったんだね」
「少しお兄さんの碧葉くんは、私の面倒をよく見てくれた」

だんだんと声が小さくなっていく。

「いつも一緒にいた。お父さんが日本に帰ってきてバラバラになったから、碧葉くんの不安は強いみたい。私を守らなきゃって今でも思ってる」
「雪乃ちゃんがして欲しくないことはちゃんと伝えてるんだよね?」
「うん……」
「これは手強そうだね」

年季の違いに綾は苦い思いになっていた。
「どうすれば安心してくれるのかな~」と答えの見えないことを口にする。

「大丈夫。……慣れてるから。こうやって誰かに話すのは初めてだから。もうこの話は終わりにしていい?」
「うん、またいつでも聞くからね」
「心配しなくて大丈夫だよ!」

雪乃は明るい声を出す。
そんなドア越しに断片的に聞こえてきた会話を、直は脳内で反芻していた。

――なんか腹立つ。

そんな思いを抱えながら。


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