7 / 14
7
しおりを挟む
直が廊下を歩いていると、名前を覚えてもいない女子たちが噂話に花を咲かせていた。普段ならば気にもとめないが、雪乃という名前に眉がぴくりと動いた。
「毎朝、車で送ってもらってるよね」
「校門の前まで来てたら目立つよ」
「しかも見た? 運転席の人がめちゃくちゃ格好良いの!」
「恋人なのかな?」
「そうに決まってる。毎朝だよ? 放課後もよく車を見かけるから」
直はスマホを取り出し、その場に留まる。
急いで返信しているように見えるだろう。
画面は真っ暗で、感情のない表情だけが映り込んでいるのに。
「時間に融通が利くから、たぶん大学生じゃない?」
「年上の彼氏っていいよね。余裕ありそうだし」
「あの過保護っぷりは、雪乃ちゃんが可愛くて心配なんだろうねー」
「幸せを見せつけられてるって感じ」
「いやいや、僻みやめろって~」
笑い声が上がる。
雪乃のことをよく知らないからこそ、好き勝手に話題にされている。直は舌打ちをして、ゆっくりと歩き始めた。
それは慎重に周囲を確認しているようでもあった。
* * *
雪乃がため息を吐いた。
担任に呼び出され、教室に帰ってきた瞬間にだ。
それに目敏く綾は気付いてしまう。
「どうかしたの?」
「……ちょっと注意をされて」
送迎が目立っているということで呼び出されたと話す。
他にも保護者にされている生徒はいるが、雪乃の場合は親密そうな若い男だから問題視となった。
「えー、差別じゃん」と綾は頬を膨らませる。
「来なくていいって言ってるんだけど」
「それは愛だね、愛」
その言葉に雪乃は瞬きしてから口角を上げ、「そうだね」と笑った。
今もまたスマホは振動している。確認せずとも相手は分かっているようで表示を見ない。
「ごめん、ちょっと電話してくる」
踵を返して出ていく雪乃を止める人間はいない。
直は雪乃の席に置かれた鞄を見た。
最近持つようになったそれは、藍色の大きなもので小柄な女子の体には見合っていないように見えてしまう。
まるで誰かの使用品を譲れたような、そんな違和感。
雪乃の身の回りのものは、そんな違和感だらけだった。
それに気を留めているものなど殆どいないであろう。
男の存在が見え隠れするそれらを、直は睨んだ。
「毎朝、車で送ってもらってるよね」
「校門の前まで来てたら目立つよ」
「しかも見た? 運転席の人がめちゃくちゃ格好良いの!」
「恋人なのかな?」
「そうに決まってる。毎朝だよ? 放課後もよく車を見かけるから」
直はスマホを取り出し、その場に留まる。
急いで返信しているように見えるだろう。
画面は真っ暗で、感情のない表情だけが映り込んでいるのに。
「時間に融通が利くから、たぶん大学生じゃない?」
「年上の彼氏っていいよね。余裕ありそうだし」
「あの過保護っぷりは、雪乃ちゃんが可愛くて心配なんだろうねー」
「幸せを見せつけられてるって感じ」
「いやいや、僻みやめろって~」
笑い声が上がる。
雪乃のことをよく知らないからこそ、好き勝手に話題にされている。直は舌打ちをして、ゆっくりと歩き始めた。
それは慎重に周囲を確認しているようでもあった。
* * *
雪乃がため息を吐いた。
担任に呼び出され、教室に帰ってきた瞬間にだ。
それに目敏く綾は気付いてしまう。
「どうかしたの?」
「……ちょっと注意をされて」
送迎が目立っているということで呼び出されたと話す。
他にも保護者にされている生徒はいるが、雪乃の場合は親密そうな若い男だから問題視となった。
「えー、差別じゃん」と綾は頬を膨らませる。
「来なくていいって言ってるんだけど」
「それは愛だね、愛」
その言葉に雪乃は瞬きしてから口角を上げ、「そうだね」と笑った。
今もまたスマホは振動している。確認せずとも相手は分かっているようで表示を見ない。
「ごめん、ちょっと電話してくる」
踵を返して出ていく雪乃を止める人間はいない。
直は雪乃の席に置かれた鞄を見た。
最近持つようになったそれは、藍色の大きなもので小柄な女子の体には見合っていないように見えてしまう。
まるで誰かの使用品を譲れたような、そんな違和感。
雪乃の身の回りのものは、そんな違和感だらけだった。
それに気を留めているものなど殆どいないであろう。
男の存在が見え隠れするそれらを、直は睨んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる