12 / 14
12
しおりを挟む
教室で綾と話していた山田が、「そういえば」と口を開いた。
「雪乃ちゃんって小説にハマってるの?」
「たしかによく読んでるよねー。面白いみたい」
「俺たちはそういうのからっきしだもんな」
今も雪乃は本を読んでおり、山田は自分の近くにいた男に目を向ける。相も変わらぬ直は活字中毒のように文庫本から視線を外すことがない。
「雪乃ちゃんが直みたいになってる。複雑なんだけど」
「そんなことないでしょ。全然違うじゃん」
「でも、今読んでるやつ、直が読んでたことがあるやつ」
「たまたまでしょ」
綾に笑い飛ばされ、山田は気のせいかと結論づける。
その後も直と雪乃は教室の喧騒も忘れ、本を読み進めていた。
* * *
まだ寒さは厳しいけれど、ほんの少し陽射しに春が混じり始めた。直は同じ話を繰り返し、繰り返し、読んでいる。
もう全て頭に入っているのに、そうしなければ不調をきたすかのように続けている。
今も一人残った教室で文庫本に目を通していた。
廊下から足音が聞こえてくる。勢いよくドアを開けた雪乃は少し息を乱していた。
「あ……ごめんなさい」
読書の邪魔をしたと思ったのだろう。小さな声で謝った後、教室の中へと足を踏み入れた。
「今日は当番じゃないんだね?」
その質問で図書室からやって来たことが分かる。
「そうだけど」とだけ返した直はページをめくる。
雪乃は視線が泳いだあと、自分の席へと座った。今日は許可を取ることもなく、本を取り出した。
時々、直のほうを盗み見ているけれど、本人は気付いていないかのように字を追うことに夢中だった。
雪乃の本はほとんど進んでいなかったが、それを指摘するような人間はいなかった。
* * *
直が久しぶりに山田の部屋に入った。
アメコミ・ヒーローのフィギュアや愛読している漫画が並べられ、ごちゃごちゃしている場所だ。
「炭酸でいいよな?」
氷の入ったグラスとペットボトルをトレイに乗せ、山田は足でドアを開けた。胡座をかいて、だらけて座る2人はコントローラーを手に取った。
「お前がゲームやりたがるなんて、小学生以来じゃね? 昔よくやったやつにする?」
「なんでもいい」
「じゃあ、操作が簡単なコレにするか」
選んだのはすごろくのようなゲームで、選択を間違えないように進んでいくのが攻略のコツだった。
「うわぁ、借金した……」「おっ、ラッキー」などと山田はいちいち反応を見せるのに対し、直は無言だった。選択を失敗しても成功しても、自分が選んだことなので納得しているようだった。
「うわーっ、結局大差つけられてるし……。違うゲームしようぜ! 次は勝つ!」
「うん」
休日の朝から夕方まで、途中で食事を挟みながら遊んだ。
「こんなに付き合ってくれるなんて珍しいこともあるんだな」と山田はしみじみと感じていた。
「冷蔵庫から飲み物取ってくる。……あれ? 今日は氷を残したのか?」
いつだって直は噛み砕いていた。
今日は残った氷が水に変わっていた。
「まあ、いいや。ちょっと待ってて」
山田は階段を降りていく。残された直の視線は部屋の中を彷徨う。この部屋には直の記憶に直結するものが溢れていた。そっとコントローラーを置く。
「ただいま。あれ? 帰るのか?」
直はコートとマフラーを身に着けていた。
立ち上がり、山田の横をすり抜ける。
「うん。……確認できた」
「なにが?」
返事はない。ただ、憑き物が落ちたような顔をしている。
階段を降りていく音を聞きながら山田は首を傾げた。
「まあ、直だしな。また遊ぼうなー!」
その大声は、届いたか分からない。
「雪乃ちゃんって小説にハマってるの?」
「たしかによく読んでるよねー。面白いみたい」
「俺たちはそういうのからっきしだもんな」
今も雪乃は本を読んでおり、山田は自分の近くにいた男に目を向ける。相も変わらぬ直は活字中毒のように文庫本から視線を外すことがない。
「雪乃ちゃんが直みたいになってる。複雑なんだけど」
「そんなことないでしょ。全然違うじゃん」
「でも、今読んでるやつ、直が読んでたことがあるやつ」
「たまたまでしょ」
綾に笑い飛ばされ、山田は気のせいかと結論づける。
その後も直と雪乃は教室の喧騒も忘れ、本を読み進めていた。
* * *
まだ寒さは厳しいけれど、ほんの少し陽射しに春が混じり始めた。直は同じ話を繰り返し、繰り返し、読んでいる。
もう全て頭に入っているのに、そうしなければ不調をきたすかのように続けている。
今も一人残った教室で文庫本に目を通していた。
廊下から足音が聞こえてくる。勢いよくドアを開けた雪乃は少し息を乱していた。
「あ……ごめんなさい」
読書の邪魔をしたと思ったのだろう。小さな声で謝った後、教室の中へと足を踏み入れた。
「今日は当番じゃないんだね?」
その質問で図書室からやって来たことが分かる。
「そうだけど」とだけ返した直はページをめくる。
雪乃は視線が泳いだあと、自分の席へと座った。今日は許可を取ることもなく、本を取り出した。
時々、直のほうを盗み見ているけれど、本人は気付いていないかのように字を追うことに夢中だった。
雪乃の本はほとんど進んでいなかったが、それを指摘するような人間はいなかった。
* * *
直が久しぶりに山田の部屋に入った。
アメコミ・ヒーローのフィギュアや愛読している漫画が並べられ、ごちゃごちゃしている場所だ。
「炭酸でいいよな?」
氷の入ったグラスとペットボトルをトレイに乗せ、山田は足でドアを開けた。胡座をかいて、だらけて座る2人はコントローラーを手に取った。
「お前がゲームやりたがるなんて、小学生以来じゃね? 昔よくやったやつにする?」
「なんでもいい」
「じゃあ、操作が簡単なコレにするか」
選んだのはすごろくのようなゲームで、選択を間違えないように進んでいくのが攻略のコツだった。
「うわぁ、借金した……」「おっ、ラッキー」などと山田はいちいち反応を見せるのに対し、直は無言だった。選択を失敗しても成功しても、自分が選んだことなので納得しているようだった。
「うわーっ、結局大差つけられてるし……。違うゲームしようぜ! 次は勝つ!」
「うん」
休日の朝から夕方まで、途中で食事を挟みながら遊んだ。
「こんなに付き合ってくれるなんて珍しいこともあるんだな」と山田はしみじみと感じていた。
「冷蔵庫から飲み物取ってくる。……あれ? 今日は氷を残したのか?」
いつだって直は噛み砕いていた。
今日は残った氷が水に変わっていた。
「まあ、いいや。ちょっと待ってて」
山田は階段を降りていく。残された直の視線は部屋の中を彷徨う。この部屋には直の記憶に直結するものが溢れていた。そっとコントローラーを置く。
「ただいま。あれ? 帰るのか?」
直はコートとマフラーを身に着けていた。
立ち上がり、山田の横をすり抜ける。
「うん。……確認できた」
「なにが?」
返事はない。ただ、憑き物が落ちたような顔をしている。
階段を降りていく音を聞きながら山田は首を傾げた。
「まあ、直だしな。また遊ぼうなー!」
その大声は、届いたか分からない。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる