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いつも読んでいた本を、直が読まなくなった。
それに一番戸惑ったのは雪乃だった。静かな読書仲間と認識していたのに、これでは読むことができなくなる。
「本はもう、いい」
その一言に、雪乃の眉が下がる。
借りたい本はずっと貸し出し中になっているし、そこから新しい世界を見つけたと思っていた。
「私は、ここにいてもいいの?」
「なんで聞くの?」
図書室は直のものではない。
誰でも自由に過ごしていい場所だ。
それなのに雪乃は、直の反応に息が詰まると感じてしまった。
「……いいよって言ってほしい」
「うん」
求めた回答ではないことに、雪乃は知らず知らず唇を噛んだ。
* * *
昼休みの教室でサイレントモードの雪乃のスマホがずっと光っている。
“碧葉くん”の文字に「出なくていいの?」と綾が心配をしているが、首を横に振るだけだった。
「……喧嘩でもしたのかな」
山田と直のもとにやって来た綾が、声を潜めて呟く。
「でも、今朝も車は見かけたけど」と山田は首を傾げる。
「雪乃ちゃんが一方的に怒ってるとか?」
「いや、あの表情はそうには見えないけどな」
心細そうにスマホを見つめていた。
「直はどう思う?」
問われた直は、頬杖をつきながら「さあ?」の一言。
薄情者のように映った綾は苛立ちを隠さなかった。
「その言い方はないんじゃない?」
まずいと焦った山田が間に入る。
「こいつが口下手なのは、お前も知ってるだろう!」と。
「でも、綾の言いたいことは分かる。どうしたんだよ、直?」
聞こえているはずなのに、直は何の反応もしなかった。
* * *
放課後のグラウンドを重い足取りで雪乃が歩いている。
周りの人間は軽やかに去っているのに、そこだけ時間がゆっくりと進んでいるようだった。
直は教室の窓からそれを見つけた。
そこにいるのが分かっているかのように、雪乃は振り返る。でも、何も起こらない。
2人の視線は交わらない。
やがて雪乃を乗せた車が去って行った。
* * *
見た目には何の変哲もない。
それでも、長い年月を隣で過ごした山田は違和感を覚えていた。普段の直なら行う習慣が削ぎ落とされている。
一つに気付いてしまえば、あれもこれもと気になり出す。だから、山田は踏み込んだ。
「最近、何かあった? 」
「別に」
「隠すな。俺は騙せないからな?」
確信していると言いたげな様子に、直は僅かに口角を上げた。
「もう迷わなくなった、それだけだ」
すっきりとした表情は、これ以上の答えは与えないと言いたげで、彼の性格を知る山田は口を閉じるしかなかった。
「……そうだ、これを返しておいて」
直は鞄から一冊の本を取り出した。
条件反射で受け取った山田は困惑する。
「なんだこれ? 昔流行ったシリーズ本?」
「……もう、必要ないみたいだから」
* * *
それは綾が何気なく口にした言葉だった。
「雪乃ちゃんの肌って白いよね。雪みたいに綺麗。この透明感は内面が綺麗だからなのかな」
褒めているのに、雪乃は「やめて」と小さく否定をした。
その肩は震え、涙を隠すように顔を手で覆う。
「私は綺麗なんかじゃない」
はっきりと口にした。綾がその反応に「え? どうしたの?」と慌てふためく。
教室の中がちょっとした騒ぎになった。
雪乃は縋るように直の方を見た。
しかし、直は雪が降りそうな空を見上げているだけ。
それが残酷な真実のようで、雪乃の心は軋んだ。
それに一番戸惑ったのは雪乃だった。静かな読書仲間と認識していたのに、これでは読むことができなくなる。
「本はもう、いい」
その一言に、雪乃の眉が下がる。
借りたい本はずっと貸し出し中になっているし、そこから新しい世界を見つけたと思っていた。
「私は、ここにいてもいいの?」
「なんで聞くの?」
図書室は直のものではない。
誰でも自由に過ごしていい場所だ。
それなのに雪乃は、直の反応に息が詰まると感じてしまった。
「……いいよって言ってほしい」
「うん」
求めた回答ではないことに、雪乃は知らず知らず唇を噛んだ。
* * *
昼休みの教室でサイレントモードの雪乃のスマホがずっと光っている。
“碧葉くん”の文字に「出なくていいの?」と綾が心配をしているが、首を横に振るだけだった。
「……喧嘩でもしたのかな」
山田と直のもとにやって来た綾が、声を潜めて呟く。
「でも、今朝も車は見かけたけど」と山田は首を傾げる。
「雪乃ちゃんが一方的に怒ってるとか?」
「いや、あの表情はそうには見えないけどな」
心細そうにスマホを見つめていた。
「直はどう思う?」
問われた直は、頬杖をつきながら「さあ?」の一言。
薄情者のように映った綾は苛立ちを隠さなかった。
「その言い方はないんじゃない?」
まずいと焦った山田が間に入る。
「こいつが口下手なのは、お前も知ってるだろう!」と。
「でも、綾の言いたいことは分かる。どうしたんだよ、直?」
聞こえているはずなのに、直は何の反応もしなかった。
* * *
放課後のグラウンドを重い足取りで雪乃が歩いている。
周りの人間は軽やかに去っているのに、そこだけ時間がゆっくりと進んでいるようだった。
直は教室の窓からそれを見つけた。
そこにいるのが分かっているかのように、雪乃は振り返る。でも、何も起こらない。
2人の視線は交わらない。
やがて雪乃を乗せた車が去って行った。
* * *
見た目には何の変哲もない。
それでも、長い年月を隣で過ごした山田は違和感を覚えていた。普段の直なら行う習慣が削ぎ落とされている。
一つに気付いてしまえば、あれもこれもと気になり出す。だから、山田は踏み込んだ。
「最近、何かあった? 」
「別に」
「隠すな。俺は騙せないからな?」
確信していると言いたげな様子に、直は僅かに口角を上げた。
「もう迷わなくなった、それだけだ」
すっきりとした表情は、これ以上の答えは与えないと言いたげで、彼の性格を知る山田は口を閉じるしかなかった。
「……そうだ、これを返しておいて」
直は鞄から一冊の本を取り出した。
条件反射で受け取った山田は困惑する。
「なんだこれ? 昔流行ったシリーズ本?」
「……もう、必要ないみたいだから」
* * *
それは綾が何気なく口にした言葉だった。
「雪乃ちゃんの肌って白いよね。雪みたいに綺麗。この透明感は内面が綺麗だからなのかな」
褒めているのに、雪乃は「やめて」と小さく否定をした。
その肩は震え、涙を隠すように顔を手で覆う。
「私は綺麗なんかじゃない」
はっきりと口にした。綾がその反応に「え? どうしたの?」と慌てふためく。
教室の中がちょっとした騒ぎになった。
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しかし、直は雪が降りそうな空を見上げているだけ。
それが残酷な真実のようで、雪乃の心は軋んだ。
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