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名案だと思ったのに、日奈子に止められてしまった。
そのことに不満を抱きつつ、健太郎くんの待つ家の鍵を開けた。
「ただいまー」
「春花ちゃん」
被せるように名前を呼ばれて、あれ?という違和感を覚えた。
腕を組み、仁王立ちしている健太郎くん。目がちっとも笑っていない笑顔を向けられている。
……あら? あらら?
「平山から話は聞いた」
「……日奈子の裏切り者め」
「春花ちゃんはそんなことしなくていいんだよ」
口調は優しいけど、これはキレてる……よね?
「でも、私は健太郎くんに不自由させたくない」
「不自由なんてしていない」
「嘘だよ、それは」
疑いの目を向ければ、健太郎くんから笑顔が消えた。
「金銭のことは最初から条件に入ってなかったよね? お小遣いだっていらないくらい貰っている。これ以上はいらない」
「私が渡したいの!」
「気持ちだけでいい。俺は趣味もないから、今のままで十分だよ」
真剣な態度に、嘘を言っている様子はない。
これが演技なら俳優の才能がある。
「……じゃあ、私が健太郎くんにしてあげられることって何?」
甘やかすことも、大金を渡すこともできない。
飼い主失格で存在意義を考えてしまう。
健太郎くんは少し考えてから、形のよい薄い唇を動かした。
「笑顔でいて欲しい。君の笑顔が好きだから」
思わぬ要求に耳を疑った。
そんなもので良いわけがないのに。
「俺の言葉は、信用できない?」
急に甘えたような口調になり、息が止まるかと思った。
声が出せなくて首を横に振る。
「なら、夜職はやめてね?」
「……はい」
健太郎くんがそこまで言うなら、従うしかない。
いつの間にか私の体に、そうインプットされていた。
* * *
翌日、昼休憩の時間に日奈子へ抗議の電話をかけた。
「なんで健太郎くんに言うのー!」
『当事者同士で会話するべきだと思ったから』
あっけらかんと言われ、それが間違いではないことも理解はしているから、……言い返せない。
『先輩の反応、どうだった?』
「……静かにキレてた、かな?」
『へえ、そんな感じなんだ』
キレてるところを見るのは初めてだった。
健太郎くんっていつも穏やかな印象で、余計に“優しい人はキレさせたら怖い”っていうのは本当なんだなって。
『それだけ、春花のことを大切に思ってくれているんだと思うよ。これに懲りたら、簡単に自分を犠牲にしないこと。……いいね?』
別に自分を犠牲にしていると思ってないんだけどな。
健太郎くんに喜んで欲しかっただけだから。
『返事は?』
「……はい」
二人に心配をかけたなら、そこは反省しよう。
「健太郎くんって何をすれば喜んでくれると思う?」
『そんなに何かしたいの?』
うん、したい。
一緒にいてくれるんだから、見返りは返したい。
『それって、春花の言葉を借りるなら“ヒモを飼う女”として?』
「どういうこと?」
質問の意図が分からなかった。
そんなの、当たり前じゃん。
『本当にそれだけ?』
日奈子はなおも問いかけてくる。
『それだけじゃ、ないんじゃない?』
その問いは、私の中に静かに染み入ることになる。
どうしてそれが気になるのかも理解できていないまま。
そのことに不満を抱きつつ、健太郎くんの待つ家の鍵を開けた。
「ただいまー」
「春花ちゃん」
被せるように名前を呼ばれて、あれ?という違和感を覚えた。
腕を組み、仁王立ちしている健太郎くん。目がちっとも笑っていない笑顔を向けられている。
……あら? あらら?
「平山から話は聞いた」
「……日奈子の裏切り者め」
「春花ちゃんはそんなことしなくていいんだよ」
口調は優しいけど、これはキレてる……よね?
「でも、私は健太郎くんに不自由させたくない」
「不自由なんてしていない」
「嘘だよ、それは」
疑いの目を向ければ、健太郎くんから笑顔が消えた。
「金銭のことは最初から条件に入ってなかったよね? お小遣いだっていらないくらい貰っている。これ以上はいらない」
「私が渡したいの!」
「気持ちだけでいい。俺は趣味もないから、今のままで十分だよ」
真剣な態度に、嘘を言っている様子はない。
これが演技なら俳優の才能がある。
「……じゃあ、私が健太郎くんにしてあげられることって何?」
甘やかすことも、大金を渡すこともできない。
飼い主失格で存在意義を考えてしまう。
健太郎くんは少し考えてから、形のよい薄い唇を動かした。
「笑顔でいて欲しい。君の笑顔が好きだから」
思わぬ要求に耳を疑った。
そんなもので良いわけがないのに。
「俺の言葉は、信用できない?」
急に甘えたような口調になり、息が止まるかと思った。
声が出せなくて首を横に振る。
「なら、夜職はやめてね?」
「……はい」
健太郎くんがそこまで言うなら、従うしかない。
いつの間にか私の体に、そうインプットされていた。
* * *
翌日、昼休憩の時間に日奈子へ抗議の電話をかけた。
「なんで健太郎くんに言うのー!」
『当事者同士で会話するべきだと思ったから』
あっけらかんと言われ、それが間違いではないことも理解はしているから、……言い返せない。
『先輩の反応、どうだった?』
「……静かにキレてた、かな?」
『へえ、そんな感じなんだ』
キレてるところを見るのは初めてだった。
健太郎くんっていつも穏やかな印象で、余計に“優しい人はキレさせたら怖い”っていうのは本当なんだなって。
『それだけ、春花のことを大切に思ってくれているんだと思うよ。これに懲りたら、簡単に自分を犠牲にしないこと。……いいね?』
別に自分を犠牲にしていると思ってないんだけどな。
健太郎くんに喜んで欲しかっただけだから。
『返事は?』
「……はい」
二人に心配をかけたなら、そこは反省しよう。
「健太郎くんって何をすれば喜んでくれると思う?」
『そんなに何かしたいの?』
うん、したい。
一緒にいてくれるんだから、見返りは返したい。
『それって、春花の言葉を借りるなら“ヒモを飼う女”として?』
「どういうこと?」
質問の意図が分からなかった。
そんなの、当たり前じゃん。
『本当にそれだけ?』
日奈子はなおも問いかけてくる。
『それだけじゃ、ないんじゃない?』
その問いは、私の中に静かに染み入ることになる。
どうしてそれが気になるのかも理解できていないまま。
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