「兎の檻」は誰が壊したか

音央とお

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第三章

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空から雪が散り始める。
環の背中に顔を埋めながら、私は自分の心臓の音を聞いていた。息が苦しくなるほど鼓動は速い。

「お前、迷惑かけてトンズラこくとか舐めてんのか? あの後、半殺しにされかけたんだからな」
「……」

宙は滅多なことでは自分から動かない。
あの暗いモニターだらけの部屋で、情報を集めて駒に指示を出す。
その手段を飛ばして現れていることに驚いた。

「無視とかイラつくんだけど?」

高圧的な言い方に、何も言い返せなくなる。
私が失敗したことで迷惑をいっぱいかけた事は明白で、それを謝っていない。

「……KINGのツラ、初めてマトモに見たけどイイ男じゃん。ムカつくなあ」

大きなため息を吐き出し、宙は喋り続ける。

「なんでアンタみたいな男が、妹のことを囲ってんの? モカなんかより相応しいイイ女なんて山ほどいるだろ。バカで扱いやすいくらいしか能がない。世の中をなーんも知らないから引き出せる情報もない。俺が生かしてやってるから生きてこれただけ。それを反抗するとか本当にバカ。……まあ、顔は悪くないとは思うけど、それにしたって使い捨てるにしてもコスパ悪いだろ。……返せ。返せよ、それは俺の妹だ」

落ちてくる雪が冷たい。

やっぱり道具としてしか私をみていない宙に、いまさら失望もしないけど……。
環の前でこんなに醜いやり取りをしていることが恥ずかしかった。

「なあ、モカ。お兄ちゃんと帰ろうか? 今回のことは特別に許してやるからさ! まさかKINGを利用して半年以上も逃亡するとか、ちょっと見直したんだぜ。昔から無条件で可愛がられるよな、お前。……本当にイラつくわ」

ずっと黙っていた環は静かに問う。
「満足したか?」と。

「はあ?」
「お前が、時間稼ぎのためにベラベラ喋っているのは分かっている」
「へえ、分かっていて話を聞いてくれるとか、さすが王様は器が違うね」

からかう口調の宙に対し、動じることなく、威圧感のある低い声で「不愉快だ」と告げる。
その重さに、思わず私が身じろぎしてしまった。
 
「モカちゃん、じっとしていて」
「え? 」

肩に担ぎ上げられた。視界が揺れる。

体勢が変わったことで、宙と目が合った。
よく見ると濁った瞳をしていて、ゾワッと寒気がする。

「……どこに連れて行く気だ。返せっ!」

環は白い息を吐きながら、宙の様子を眺めた。

「無理だな」

一瞬の沈黙の後、続きの言葉を落とした。

「これは俺のものだ」

ヒュッと息を呑んだ。
迷いのない宣言に、私が震えそうだった。
宙も目を見開いて凍りついている。

その横を、ゆっくりと環は歩き始める。
砂利を踏む音が響く。踏むごとに宙の姿が小さくなっていく。

「……俺は」と、残された宙が声を張り上げる。
玩具を取り上げられた子どもみたいに、怒りを隠そうともしない。

「どこに行こうと。俺は……日本中、たとえ国外だろうと、お前たちを見つけ出すからな!」

それを聞いた環はくつくつと喉を鳴らした。

「甘いな。俺は地獄の果てでもモカちゃんを見つけに行くさ」

「……っ」宙は悔しそうに歯を食いしばっていた。

環の言葉をじっくりと噛み締めて、身震いがした。


……もしかしたら、私は王様のとんでもない一面を引きずり出したのかもしれない。

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