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第三章
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環はどこにもいかない。
そう思える朝はなんて幸せなんだろう。
目を覚ますと手を握り合っていた。
私の手が小さく見えるくらい大きい。起こさないようにそっと抜け出して、環に布団を掛け直す。
布団が小さくて足が出ちゃうなぁ。
普段は意識しない、左足首に刻まれたタトゥーを指でなぞる。英文で小さなものだけど、情報屋としての信条がそこにある。
きっと一生消されることはない。
環の居場所はそこだから。
「……」
起きている気配はない。
ごくりと唾を呑み込み、そっとタトゥーに唇を寄せる。
軽く触れた私の気持ち。……環はもう気づいている?
食器を片付けに来てくれた仲居さんが「そういえば」と口を開いた。
「今朝、庭に兎がいたそうですよ。まだいるかも」
「へぇ!」
離れの周りには綺麗に整えられた庭があるようだけど、ほとんど雪で覆われてしまっている。ちょっと見に行ってみたいかも。
「散歩してみない?」
提案に環はうなずくけど、これでもかというほどマフラーやコートを着込ませようとする。本人は浴衣に羽織りで出かけようとしているのに。
「モカちゃんは女の子だからね」
「心配性過ぎない?」
思っていたほど外は寒くなく、溶けた雪が木から滑り落ちていた。
「いない、みたいだね」
人間の気配に隠れているのかも。
これ以上探すのは、臆病な子には可哀想かな。
「野生の兎、見てみたかったな」
自由に飛び回ってるのかな。
きっと、昼の似合う世界なんだろうね。
「戻ろうか」と環に手を引かれる。
うなずきながら、銀世界を後にした。
* * *
宿で過ごす最後の夜になった。
ゆっくりとした時間はとても満ち足りていた。
「連れてきてくれてありがとう」
布団の中で、お互いの熱を分け合って暖を取る。
「帰りたくない?」
その質問に素直にうなずく。
ここで過ごした時間は何も不安がなくて、何も疑わずに済んだ。環といて初めてのことだったかもしれない。
「モカちゃんが望むなら、またいつでも連れてくるよ」
「この時間に慣れたら厄介だろうな」
想像して苦笑する。
ちゃんと帰らなきゃね。
「ねえ、環さん」
身体を擦り寄せる。
「私のことを好きにしてよ」
「……悪い冗談だね。そんなにいけない子に育てた覚えはないよ」
「育てられた覚えはないもの」
はぐらかされちゃった。
彼はまだ引き返せる道を用意してくれている。
楽しい時間だったから、今日は少しだけ逃げ道に迷い込んであげる。
そう思える朝はなんて幸せなんだろう。
目を覚ますと手を握り合っていた。
私の手が小さく見えるくらい大きい。起こさないようにそっと抜け出して、環に布団を掛け直す。
布団が小さくて足が出ちゃうなぁ。
普段は意識しない、左足首に刻まれたタトゥーを指でなぞる。英文で小さなものだけど、情報屋としての信条がそこにある。
きっと一生消されることはない。
環の居場所はそこだから。
「……」
起きている気配はない。
ごくりと唾を呑み込み、そっとタトゥーに唇を寄せる。
軽く触れた私の気持ち。……環はもう気づいている?
食器を片付けに来てくれた仲居さんが「そういえば」と口を開いた。
「今朝、庭に兎がいたそうですよ。まだいるかも」
「へぇ!」
離れの周りには綺麗に整えられた庭があるようだけど、ほとんど雪で覆われてしまっている。ちょっと見に行ってみたいかも。
「散歩してみない?」
提案に環はうなずくけど、これでもかというほどマフラーやコートを着込ませようとする。本人は浴衣に羽織りで出かけようとしているのに。
「モカちゃんは女の子だからね」
「心配性過ぎない?」
思っていたほど外は寒くなく、溶けた雪が木から滑り落ちていた。
「いない、みたいだね」
人間の気配に隠れているのかも。
これ以上探すのは、臆病な子には可哀想かな。
「野生の兎、見てみたかったな」
自由に飛び回ってるのかな。
きっと、昼の似合う世界なんだろうね。
「戻ろうか」と環に手を引かれる。
うなずきながら、銀世界を後にした。
* * *
宿で過ごす最後の夜になった。
ゆっくりとした時間はとても満ち足りていた。
「連れてきてくれてありがとう」
布団の中で、お互いの熱を分け合って暖を取る。
「帰りたくない?」
その質問に素直にうなずく。
ここで過ごした時間は何も不安がなくて、何も疑わずに済んだ。環といて初めてのことだったかもしれない。
「モカちゃんが望むなら、またいつでも連れてくるよ」
「この時間に慣れたら厄介だろうな」
想像して苦笑する。
ちゃんと帰らなきゃね。
「ねえ、環さん」
身体を擦り寄せる。
「私のことを好きにしてよ」
「……悪い冗談だね。そんなにいけない子に育てた覚えはないよ」
「育てられた覚えはないもの」
はぐらかされちゃった。
彼はまだ引き返せる道を用意してくれている。
楽しい時間だったから、今日は少しだけ逃げ道に迷い込んであげる。
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