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第五章
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宙が2~3時間留守にすると言ったある日のこと、ドアをノックする音が聞こえてきた。
部屋の主が不在時の訪問者は初めてのことで、どう対応するかの指示も貰っていない。
諦めて帰る様子はないのか、再びノック音が響く。
ドアスコープから覗いてみると、若い男女が立っていた。
ノックを続けているのは女の方で、男は止めようとしているようだった。何となく男の方には見覚えがある。
……ここで女の子をみるのは初めてかも?
そんな疑問が浮かびつつ、男が宙の兵隊であることは分かるので、僅かにドアの隙間を開けた。
「あの……あの人なら留守です……」
宙の名前を口にして良いのか迷い、ぼかした言い方にした。
男が「ヤベッ」と呟いた。
「そうなんすね! 分かりました、帰ります!……あの、俺達と会話したことはあの人には秘密で……」
「ちょっと!」
焦ったように早口で喋る男に女が怒った。
「この女、何? ここって女は出入りしないんじゃないの?」
「……そうだよ。だから、付いてくるなって言ったじゃん。それなのにお前が押しかけて」
「じゃあ、この女は何よ!?」
聞こえてくる会話に首を傾げる。
ここって女性厳禁なの……?
何の説明もされたことがない。
……でも、宙が嫌いそうなのは、分かるかも。
ちゃんとしてさえいれば、容姿は悪くないようで、学生の頃は家に女の子たちが押しかけてきたことがある。
いくら冷たい態度を取ろうともお構いなしな人達はいた。
宙は女の子と距離を取りがちだったイメージだ。
ドンッ
ゴテゴテした長い爪がドアの隙間に入ってきた。
強い力でドアを引っ張られる。
「おい! やめろって!」男が止めるがお構いなしだ。
入ってきた女に「ふーん」と上からじろじろと見られた。足元のヒールが高く、露出度の高い派手な服装には威圧感がある。
逆らっては駄目だと、本能的に伝わってくる。
「帰るぞ! お前、消されるぞ!」
「えっ」と私が驚きの声を上げる。
なんで? 消される?
「……えーっ、地味じゃない?」
先の尖った爪が、私の頬を撫でる。
その感触に喉がひくついた。
ニヤニヤと笑う仕草、甘ったるい香水の匂い、私はこれを知っている。
環と一緒にいて、知らない女に向けられたことがある。
――これはここにいては、駄目な存在だ。
「……帰って」
女の目を見て告げる。
声を張り上げることは出来ないけれど、意志は伝えたい。
震える手を後ろに隠しながら、声を絞り出し続ける。
「帰ってください。兄は今は、不在ですから」
「……兄?」と女は眉を顰めた。
「こんな女があの人の妹だっていうの?」
「やめろって! 来いよ!」
パンッと頬を叩く音が響く。
埒が明かないと判断した男は女に手を挙げた。そして、腕を掴んで引きずっていく。
「ちょっと、何するのよ! なんで私が叩かれるのよ!」
怒鳴り散らす声を無視し、男は「すみません……すみません……」と私に謝ってくる。その声に覇気はなく、怯えるように呆然としてしまう。
「……」
残された私は立ち尽くし、ぽつりと呟いた。
「私は、なんでここにいるの……?」
女を必要としない場所。
そこに私を留め、何も命じない。
……初めて、宙が何をしたいのかと疑念を抱いた。
部屋の主が不在時の訪問者は初めてのことで、どう対応するかの指示も貰っていない。
諦めて帰る様子はないのか、再びノック音が響く。
ドアスコープから覗いてみると、若い男女が立っていた。
ノックを続けているのは女の方で、男は止めようとしているようだった。何となく男の方には見覚えがある。
……ここで女の子をみるのは初めてかも?
そんな疑問が浮かびつつ、男が宙の兵隊であることは分かるので、僅かにドアの隙間を開けた。
「あの……あの人なら留守です……」
宙の名前を口にして良いのか迷い、ぼかした言い方にした。
男が「ヤベッ」と呟いた。
「そうなんすね! 分かりました、帰ります!……あの、俺達と会話したことはあの人には秘密で……」
「ちょっと!」
焦ったように早口で喋る男に女が怒った。
「この女、何? ここって女は出入りしないんじゃないの?」
「……そうだよ。だから、付いてくるなって言ったじゃん。それなのにお前が押しかけて」
「じゃあ、この女は何よ!?」
聞こえてくる会話に首を傾げる。
ここって女性厳禁なの……?
何の説明もされたことがない。
……でも、宙が嫌いそうなのは、分かるかも。
ちゃんとしてさえいれば、容姿は悪くないようで、学生の頃は家に女の子たちが押しかけてきたことがある。
いくら冷たい態度を取ろうともお構いなしな人達はいた。
宙は女の子と距離を取りがちだったイメージだ。
ドンッ
ゴテゴテした長い爪がドアの隙間に入ってきた。
強い力でドアを引っ張られる。
「おい! やめろって!」男が止めるがお構いなしだ。
入ってきた女に「ふーん」と上からじろじろと見られた。足元のヒールが高く、露出度の高い派手な服装には威圧感がある。
逆らっては駄目だと、本能的に伝わってくる。
「帰るぞ! お前、消されるぞ!」
「えっ」と私が驚きの声を上げる。
なんで? 消される?
「……えーっ、地味じゃない?」
先の尖った爪が、私の頬を撫でる。
その感触に喉がひくついた。
ニヤニヤと笑う仕草、甘ったるい香水の匂い、私はこれを知っている。
環と一緒にいて、知らない女に向けられたことがある。
――これはここにいては、駄目な存在だ。
「……帰って」
女の目を見て告げる。
声を張り上げることは出来ないけれど、意志は伝えたい。
震える手を後ろに隠しながら、声を絞り出し続ける。
「帰ってください。兄は今は、不在ですから」
「……兄?」と女は眉を顰めた。
「こんな女があの人の妹だっていうの?」
「やめろって! 来いよ!」
パンッと頬を叩く音が響く。
埒が明かないと判断した男は女に手を挙げた。そして、腕を掴んで引きずっていく。
「ちょっと、何するのよ! なんで私が叩かれるのよ!」
怒鳴り散らす声を無視し、男は「すみません……すみません……」と私に謝ってくる。その声に覇気はなく、怯えるように呆然としてしまう。
「……」
残された私は立ち尽くし、ぽつりと呟いた。
「私は、なんでここにいるの……?」
女を必要としない場所。
そこに私を留め、何も命じない。
……初めて、宙が何をしたいのかと疑念を抱いた。
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