神様だった人を、好きになってしまった話

音央とお

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隣り合って座ることがあっても、私たちは会話なんてしたことがなかった。
向こうは私の名前すら認知していないかもしれない。

「何だよ。うるせぇな!」と、水田先生と話していた彼が声を上げた。

教科書を読んでいた私は何が起きていたのか分からない。
東雲くんはゴミ箱を蹴り飛ばし、相談室から出て行った。

……え? どうしたの?

彼のことをよく知らないけれど、あんな荒げた声を出すような子ではないと思っていた。

自分に向けられたものではないのに、手が震えた。

「びっくりしたわよね。ごめんなさいね」と苦笑しながら、水田先生は散らばったゴミを拾い始めた。

「東雲くんは繊細な子なの。本当は、あんなに乱暴じゃないから誤解しないであげてほしい」

「……」

そんなことを言われても、目に見える彼はいつも怖かった。
その怯えが伝わったのか、水田先生は困ったように頬を掻いていた。

「吉田さんって本は読む?」

「本? ……小説とかは読まないです」

漫画なら少しは読む。
でも、周りの話題に合わせるためだけの選択って感じ。私にはこれという趣味なんかなかった。

「読んでみて欲しい本があるの」

そう言って差し出されたのは、真っ黒な一冊。
表紙が本の顔というのなら、明るい話ではないことが一目で分かるものだった。

「……」

「気が向いたらでいいから」

そこまで言うのなら、どうせ何もやることはないからと読むことにした。

タイトルも作者もろくに見ずに読み始めて、慣れないせいで一週間もかかった。……だけど、

「すごい……」

終わる頃には放心状態になってしまった。

ホラーという理解のできないジャンルのはずなのに、私のことを書かれているのかと思った。

普通は見透かされたら怖いはずなのに、それすら心地よくさせる。爪弾きにされようと、この世に存在することを許されている気持ちになれた。

こんな世界があったなんて……!

そこでやっと、どんな人が書いたのだろうと好奇心が生まれた。

――東雲はづき。

表紙に小さく印字された名前を見て、頭が真っ白になるってこういうことなんだ……と生まれて初めて思った。

「おはようございます。……この間はすみませんでした」

罪悪感いっぱいという様子で、気まずそうに東雲くんは久しぶりに登校してきた。

彼の登場を待ちきれなかった私は、おもむろにその手を掴んだ。ブンブンと振り回す。

「東雲くん!!」

「えっ、何?!」

「すごいね! すごいんだね、君!」

「何が?!」

話したこともない女子に、距離感のバグを起こされた東雲くんは押し負けていた。

「小説読んだよ。発売されているやつは全部読んだけど、次はいつ出るの?! こんな才能があったなんてすごいねぇ!」

「読んだのか……」と茫然としている東雲くん。
私は上機嫌で好きな台詞やシーンを語り出した。

「……やめて。恥ずかしい。めちゃくちゃ読んでるじゃん、吉田さん」

「うん、何回も読んだ!」

名前を覚えられていたことに驚きつつ、そんな些細なことはどうでもいい。

「新作も楽しみにしてるね」

東雲はづきは、私の世界を変えた神様になった。



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