ノワールの誘惑と日常

音央とお

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バイトを終えると0時を回っていて、天気予報は外れだったのかと空を見上げて思った。

ザァァァ……という音が辺り一帯に響く。

「雨って言ってなかったのにー」

家まで徒歩圏内ではあるけれど、傘を差さずに帰るのは躊躇するくらいには降っている。

「莉子さん」

道路の向こうから、傘を差した遼一が軽く手を挙げた。
どうやら、わざわざ迎えに来てくれたらしい。

「助かった、ありがとう」

「玄関を見たら、家に傘を置いたままだったから気になって」

愛用している紫の傘のことかな。
……でも、その傘持ってきてないよね?

私の考えが伝わったのか、遼一は意味ありげに笑った。

「相合傘でいいかなって。くっつけるし」

「歩きにくいだけだよ、それ」

一本しかないなら仕方がないな。
濡れないように肩を抱かれ、傘の中へと引きずり込まれる。

「早く帰ろうよ。寒い」

「雨のせいかな? いつもより気温が下がってるよね」

「帰ったら、莉子さんの体で温めてくれる?」

「……」

それはお誘いということかな。……明日は平日なのに。

「お風呂で温まったら?」

「もう入ってきたから。莉子さんが入ればいいだけだよ」

肩を掴んでいた手が、私の耳をなぞった。
ただ触っているだけなのに、その動きは意図的なものを感じる。

「どう? 気分乗ってきた?」

「……うーん」

「明日は3限からだよね?」

時間割まで把握済み。
ああ、もう、逃げられないやつじゃん。

「一回だけね」

そう告げれば、耳から離れた手が、腰を強く抱いた。

遼一は鼻歌をうたい出したけど、こういう時だけはやる気が満ちている。歩く速度が少し上がっていることに気づき、思わず苦笑してしまった。

雨はまだまだ止みそうになかった。



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