シンデレラになりたい私 × 王子様になりたくないあなた

音央とお

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――シンデレラの大まかな“あらすじ”はこんな感じだと思う。


継母と義姉たちに虐められていたシンデレラ。

お城で舞踏会が行われるけど、着ていくようなドレスはない。
そこに魔法使い(諸説あり)がやってきて、魔法をかけてくれる。

美しく変身したシンデレラは王子に見初められるけれど、午前零時に解ける魔法に焦ってガラスの靴だけを彼の元に残していく。

そして、ガラスの靴を手掛かりに、見事にシンデレラフィットする娘を探し出す王子様。
二人は結ばれてハッピーエンド!

家族からの虐めとかは置いといて。
自分だけの王子様に見初められてハッピーエンドなんて、恋に恋する女の子なら一度くらい想像してみるんじゃないだろうか。

私はまさにそれっていうか、人一倍どころか何百倍それを夢見ている女の子だ。



*   *   *



シンデレラと王子様の恋の舞台となったのはお城での舞踏会だけど、この時代の日本の世界にそんなものは存在しない。
もし存在していたとしても庶民には関係のない話である。

「今日もモブの子たちが集まって、やかましいったらありゃしない」

まだまだ暑い9月の下旬、持参した扇子で扇ぎながらテニスコートのほうを俯瞰する。

フェンス越しにコートをぐるりと囲む女子生徒たちの目当ては、イケメン揃いと言われるテニス部のレギュラー選手たちだ。
いちいちキャーキャー騒いで、練習の妨げになっている自覚を持ったほうがいい。

私は出来る女なので、こうして校舎の二階から見下ろしている。べ、別に先輩たちに目をつけられるのが怖いわけじゃないしっ!

「おい、莉央」

少し困ったような声に「ん?」と返事をする。
私の髪の毛をいじっていた凛ちゃんが手を止め、顔を覗き込んでくる。切れ長の奥二重の目が鋭くなっているから、本気ホンキモードだ。

「動くとやりづらいから、じっとしててな?」
「……はい、ごめんなさい」

手先が器用な凛ちゃんに髪の毛のアレンジを頼んだのは私なので、大人しく謝る。
コートに釘付けで、気付かぬうちに身を乗り出していたようだ。椅子の元の位置に戻る。

「あー、なるほど。ここはこうするのか」

暫く何度もスマホをいじって動画を巻き戻していたが、やっとやり方を理解したらしい。そこからはテキパキと手を動かしていく。
不器用な私からすると、男らしい大きな凛ちゃんの手は魔法使いみたいだった。

「よし、完成!」

手鏡を渡されたので覗き込む。
想像どおりの編み込みのハーフアップに「すごい」とうっとりしてしまう。

「すごい、絵本の中のお姫様みたい!可愛い!」
「うん、可愛い。莉央に似合ってる」
「ふふふ、一度この髪型をやってみたかったんだよね。ありがとう、凛ちゃん!」

近くにあった椅子を引き寄せ、凛ちゃんは腰を下ろした。
もう誰もいなくなった放課後の教室は静かだ。

「やり方は覚えたから、次は半分くらいの時間でできると思う」
「すごい。私は練習しても全然ダメなのに」
「コツコツ続ければ、莉央も上手くなるって」
「そうとは思えないんだよ」

何時間も頑張ってもしっくりこない。
人間には向き不向きというものがあるのだと痛感する。
唇を尖らせていたら、「お菓子でも食べる?」と動物のイラストがプリントされたクッキーを見せられた。

「この味知らない。新作?」

一つ貰ったけど美味しい。
こういうの見つけてくるの上手なんだよね。前に貰ったチョコレートも本当に美味しかった。

お菓子に夢中になっているうちに、テニス部は片付けを始めていた。
目当ての男子に声をかけている女子たちの姿が見える。そこでは差し入れを持った姿も珍しくない。

「やっぱり、凪くんは誰からも受け取っていないっぽい……」

一際、女子が列を作っているのは小笠原 なぎくん
清潔感のある短髪に爽やかな笑顔が印象的で、まるで王子様みたいと言われている。

「……」

何度も渡そうとして渡せていない手紙が机の中にある。
私のことを意識してもらうきっかけになればと、心を込めて書いた手紙だ。
今日こそは!と気合を入れるために、凛ちゃんに可愛くしてもらった。大丈夫、舞台に立つ魔法はかけられた。

「行ってくる!」

拳を握りしめ立ち上がる。
凛ちゃんが親指を立て「見守っているから頑張れ」と微笑んだ。



*   *   *



上から眺めるのと段違いで、フェンスに近付くと、女子たちのギラギラした空気を肌で感じる。
怯みそうになるけど、今の私は魔法のかかったプリンセスだから最強だ。モブなんかに負けない……!

胸が早鐘を打っているのが分かるから、深呼吸をしながら凪くんのほうへと近付いていく。
緊張して頭が真っ白になるのが一番ダメなんだから、落ち着け自分。

周りからじろじろ見られているのが分かる。やりにくいな。こちらを品定めするような視線が痛い。

あと少しで凪くんに声が届く距離という場面で、先輩に声を掛けられた。
私でも知ってるくらいチャラいと噂されているテニス部の副部長だ。

「見慣れない顔だね、こんな可愛い子がいたなんてびっくりした」

立ち塞がって、邪魔しないで欲しい。
今日はメイクも上手に盛れたから、褒められるのは嬉しいけど、今はそんなものを求めていない。

聞こえないフリして通り抜けようとするが、動きを読まれて道を塞がれる。
この動きはスポーツ選手だから俊敏なんだろうか。どう足掻いても敵わないと言いたげな薄ら笑いが鼻につく。こういう支配的な態度って苦手。

無視は諦めて口を開く。

「通してもらえませんか?」
「ツンとした声も可愛い~。ヤバい、一目惚れしたかも」
「……」

あまりに軽薄すぎて無理!!
私を見初めるのはアンタモブじゃない!
こんな王子様の要素ゼロな男に用はない!

イライラしていたら、「やめてあげてください」とよく通る凛とした声に助けられた。

声の主は私を背中に隠し、先輩から遮るように腕を伸ばしていて、体を張って守ってくれるのが伝わってくる。

うそ、嘘、嘘でしょう!?
その正体に気付いて心の中で叫ぶ。
何度も盗み見た、覚えのある背中。

「明らかに困ってるのが伝わってくるのに、絡むのやめてください」
「口説いてる途中なんだから邪魔するなよー、凪」

すぐ目の前に凪くんがいる!!

颯爽と助けてくれるその姿は、まさに王子様だった。
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