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高校入学時に、思い切ってやった部屋の模様替え。
淡いピンクと白を基準にして、お気に入りの部屋になっている。
生活感のあるごちゃごちゃした物は見えないように隠しているので、部屋に入ると一点だけ違和感を覚えるかもしれない。
ベッドのサイドテーブルの上に置かれた一冊の絵本。
私のお姫様、シンデレラの物語だ。
「……凪くん、近くで見ると王子様すぎる」
ベッドの上でうっとりと、今日の出来事を振り返る。
副部長のことは思い出すだけでもイライラするけど、それに勝る高揚感。今夜は眠れないかも。
誰かと語り合いたくて、自然とスマホに手を伸ばす。
『もしもし』
数コールで出てくれた、凛ちゃん。
電話の向こうから微かに音楽が流れてくる。
「何を聴いてるの?」
『インディーズのバンドの新曲。莉央は知らないようなグループだな』
「歌詞はよく聞き取れないけど、このメロディー好きかも。今度ゆっくり聴かせてよ」
凛ちゃんとは音楽の趣味も合うから、きっと気に入ると思う。それはさておき。
「今日は本当にありがとう! 凛ちゃんのお陰でいろいろ助かったよ」
『俺は手助けしただけだから。頑張ったのは莉央だよ』
「頑張れたのは凛ちゃんがいたからだよ」
『……そう』
顔が見えなくても分かる。この間の取り方は、きっと照れている。
洗練された涼しげな顔立ちが、困ったように崩れているんだろうな。想像するだけで微笑ましい。
『手紙にSNSのアカウント書いたんだろう? 連絡はあった?』
「まだ。今日は来ないかも」
時計の針は22時を過ぎた。
明日もまた学校だ。
「感触は悪くないと思うんだよね。手紙も受け取ってくれたし」
『良かったな』
「早く連絡欲しいなー」
落ち着かなくてそわそわしちゃう。
シンデレラは王子様と会った夜、どんな気持ちだったのだろう。
ふと、姿見に映り込んだお風呂上がりの自分の姿を見つめる。髪型もメイクも華やかさが消えて、さっぱりしたものだ。素の自分がそこにいる。
まるで灰被りに戻ったみたい。
何の武器も持たない、私。
弱気な自分が顔を出しそうになる。
「ねえ、凛ちゃん」
『ん?』
「また魔法をかけてくれる?」
『魔法?』
「凛ちゃんにまた可愛くしてもらいたいの」
髪型のことだと理解したようで『それくらい、いつでもいいよ』と優しい声が返ってくる。
「次はどんな髪型にしようかな。三つ編みを重ねるやつとかやってみたい」
『画像か動画送ってくれたら、予習しておく』
「凛ちゃんは美容師になれるよ」
『高く評価してくれるのはありがたいけど、俺が可愛くするのは莉央だけで充分だよ。他の人には無理』
凛ちゃんの手先の器用さなら、絶対に才能があって人気者になりそうだ。
伝えたら余計に恥ずかしがるだろうから、黙っておくけどね。
これ以上は触れられたくないとばかりに、話題を変えられる。
『俺のことより、凪くんだよ。勇気があって、俺まで痺れた』
「でしょう、でしょう!……今日の出来事でまたファンが増えたんじゃないかな」
周りに女子がたくさんいた。
私と彼の手紙のやり取りを見られて、反感を買っているかも。
人気者に近付くというのはリスクもある。
そこはノーリスク、ノーリターンだと思っているので仕方がない。
* * *
いつの間にか通話をしながら寝ていたようで、朝起きたら電源の入らないスマホが床に転がり落ちていた。
慌てて充電器を挿し込んでみたけど、凪くんからの連絡は無かったようだ。
手紙は受け取ってくれたけど、読んでくれなかったのかな? 手紙の内容に引かれたとか……?
悶々としながら教室に向かっていると、廊下の向こうから朝練終わりの凪くんが歩いてきた。
ジャージ姿でラケットバッグを背負っている。
予期せぬ遭遇は、心の準備ができていない。手櫛で髪の毛を整え直す。
歩いているだけなのに、スローモーションのように目が奪われる。真っすぐに伸びた背筋の美しさに人柄が表れているようだ。
「おはよう」
私の目の前に立ち止まった凪くん。
ただの挨拶ですら、爽やかさしかない。
「……おはよう」
なんで返事くれないの?という疑問を口に出すことができずにいると、向こうからその話題を出してきた。
「連絡できていなくてごめん。昨日は忙しくて読めなくて、今朝起きて読んだよ。そうしたら、直接会いたくなって」
教室が離れているのにこんなところで遭遇したのは、私に会いに来てくれたから?
用事でもなければ、うちのクラスの前まで来ないもんね。
想像したら、ドキッと胸が高鳴った。
「えっと、手紙を読んでくれてありがとう」
そわそわして指で毛先をくるくる弄る。落ち着け、落ち着け。
プリンセスに憧れて、長く伸ばしている髪だけど、不器用なせいでそのままにしてあるか、一つに結ぶくらいしかしない。
「あとでちゃんと連絡するから。これからよろしく」
「はい!」
目を細めて笑う表情が優しい。
手紙に書いたのは、友達になりたいってことだから付き合うとかではないのだけど、好意は絶対にバレる内容。
これは受け入れてくれたと受け取るよ?
ぴょんぴょん飛び上がりたい気持ちをぐっと抑えて、余裕のあるフリをした私、えらい!
淡いピンクと白を基準にして、お気に入りの部屋になっている。
生活感のあるごちゃごちゃした物は見えないように隠しているので、部屋に入ると一点だけ違和感を覚えるかもしれない。
ベッドのサイドテーブルの上に置かれた一冊の絵本。
私のお姫様、シンデレラの物語だ。
「……凪くん、近くで見ると王子様すぎる」
ベッドの上でうっとりと、今日の出来事を振り返る。
副部長のことは思い出すだけでもイライラするけど、それに勝る高揚感。今夜は眠れないかも。
誰かと語り合いたくて、自然とスマホに手を伸ばす。
『もしもし』
数コールで出てくれた、凛ちゃん。
電話の向こうから微かに音楽が流れてくる。
「何を聴いてるの?」
『インディーズのバンドの新曲。莉央は知らないようなグループだな』
「歌詞はよく聞き取れないけど、このメロディー好きかも。今度ゆっくり聴かせてよ」
凛ちゃんとは音楽の趣味も合うから、きっと気に入ると思う。それはさておき。
「今日は本当にありがとう! 凛ちゃんのお陰でいろいろ助かったよ」
『俺は手助けしただけだから。頑張ったのは莉央だよ』
「頑張れたのは凛ちゃんがいたからだよ」
『……そう』
顔が見えなくても分かる。この間の取り方は、きっと照れている。
洗練された涼しげな顔立ちが、困ったように崩れているんだろうな。想像するだけで微笑ましい。
『手紙にSNSのアカウント書いたんだろう? 連絡はあった?』
「まだ。今日は来ないかも」
時計の針は22時を過ぎた。
明日もまた学校だ。
「感触は悪くないと思うんだよね。手紙も受け取ってくれたし」
『良かったな』
「早く連絡欲しいなー」
落ち着かなくてそわそわしちゃう。
シンデレラは王子様と会った夜、どんな気持ちだったのだろう。
ふと、姿見に映り込んだお風呂上がりの自分の姿を見つめる。髪型もメイクも華やかさが消えて、さっぱりしたものだ。素の自分がそこにいる。
まるで灰被りに戻ったみたい。
何の武器も持たない、私。
弱気な自分が顔を出しそうになる。
「ねえ、凛ちゃん」
『ん?』
「また魔法をかけてくれる?」
『魔法?』
「凛ちゃんにまた可愛くしてもらいたいの」
髪型のことだと理解したようで『それくらい、いつでもいいよ』と優しい声が返ってくる。
「次はどんな髪型にしようかな。三つ編みを重ねるやつとかやってみたい」
『画像か動画送ってくれたら、予習しておく』
「凛ちゃんは美容師になれるよ」
『高く評価してくれるのはありがたいけど、俺が可愛くするのは莉央だけで充分だよ。他の人には無理』
凛ちゃんの手先の器用さなら、絶対に才能があって人気者になりそうだ。
伝えたら余計に恥ずかしがるだろうから、黙っておくけどね。
これ以上は触れられたくないとばかりに、話題を変えられる。
『俺のことより、凪くんだよ。勇気があって、俺まで痺れた』
「でしょう、でしょう!……今日の出来事でまたファンが増えたんじゃないかな」
周りに女子がたくさんいた。
私と彼の手紙のやり取りを見られて、反感を買っているかも。
人気者に近付くというのはリスクもある。
そこはノーリスク、ノーリターンだと思っているので仕方がない。
* * *
いつの間にか通話をしながら寝ていたようで、朝起きたら電源の入らないスマホが床に転がり落ちていた。
慌てて充電器を挿し込んでみたけど、凪くんからの連絡は無かったようだ。
手紙は受け取ってくれたけど、読んでくれなかったのかな? 手紙の内容に引かれたとか……?
悶々としながら教室に向かっていると、廊下の向こうから朝練終わりの凪くんが歩いてきた。
ジャージ姿でラケットバッグを背負っている。
予期せぬ遭遇は、心の準備ができていない。手櫛で髪の毛を整え直す。
歩いているだけなのに、スローモーションのように目が奪われる。真っすぐに伸びた背筋の美しさに人柄が表れているようだ。
「おはよう」
私の目の前に立ち止まった凪くん。
ただの挨拶ですら、爽やかさしかない。
「……おはよう」
なんで返事くれないの?という疑問を口に出すことができずにいると、向こうからその話題を出してきた。
「連絡できていなくてごめん。昨日は忙しくて読めなくて、今朝起きて読んだよ。そうしたら、直接会いたくなって」
教室が離れているのにこんなところで遭遇したのは、私に会いに来てくれたから?
用事でもなければ、うちのクラスの前まで来ないもんね。
想像したら、ドキッと胸が高鳴った。
「えっと、手紙を読んでくれてありがとう」
そわそわして指で毛先をくるくる弄る。落ち着け、落ち着け。
プリンセスに憧れて、長く伸ばしている髪だけど、不器用なせいでそのままにしてあるか、一つに結ぶくらいしかしない。
「あとでちゃんと連絡するから。これからよろしく」
「はい!」
目を細めて笑う表情が優しい。
手紙に書いたのは、友達になりたいってことだから付き合うとかではないのだけど、好意は絶対にバレる内容。
これは受け入れてくれたと受け取るよ?
ぴょんぴょん飛び上がりたい気持ちをぐっと抑えて、余裕のあるフリをした私、えらい!
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