シンデレラになりたい私 × 王子様になりたくないあなた

音央とお

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お弁当を食べ終えると、再来週に迫った体育祭の話題になった。

高校生活で初めての体育祭だけど、うちの学校は真面目な内容とおふざけが混ざった楽しいものだと聞いている。

あまり運動が得意ではない生徒は、パン食い競争や借り物競争に参加することが多く、私も“玉入れ”というチームに迷惑をかけないものを選んだ。
体育祭ではモブに徹するんだ……。

「凪くんは何に出場するの?」
「チーム対抗リレーと障害物競走だったかな」

さすがテニス部のエース。
チーム対抗リレーなんて体育祭の大目玉と言われている。このリレーの得点で大逆転もあるらしい。

「チームは別だけど、こっそりと凪くんの応援しようかな」

きっと同じ気持ちの女の子は多い。
凪くんはきょとんとした後、「じゃあ、怒られないようにこっそり応援してね」と顔を綻ばせた。それがあまりに尊いもので、

ごめん、チームのみんな、私はこの笑顔を取る。

「俺も玉入れは莉央ちゃんのチームを応援するね」
「そこは応援してもらうほどのものでは……」

上手く玉を投げ入れる自信がない。
周りと揉みくちゃになっているだけで終わりそう。自分の姿が簡単に想像できる。

でも、凪くんの活躍が見れるのは本当に楽しみ!

「そろそろ教室に戻るね」
「……うん」

別れが名残惜しい。
お弁当の味は緊張で分からなかったけど、心は充実感でいっぱいだ。楽しいお昼ごはんだった。

椅子から立ち上がったけど、凪くんはその場から動かずにこちらを見つめている。

「どうしたの?」
「今夜、連絡するから。そこで次のお弁当の約束を決めよう」

これは凪くんも同じ気持ちってことだよね?

「うん! また一緒に食べたい!」

嬉しくて頬が緩んじゃう。
次の約束が出来るってこんなに嬉しいんだ。

「それじゃあ、また」

曲がり角で姿を消すまで、その背中を見つめた。
こんなに話をしたのは初めてだけど、イメージどおりだったな。
やっぱり、私の王子様は凪くんで間違いない。この予感は当たる気がする。



*   *   *



体育祭直前ということで、それに向けた練習を始めることになった。
他のクラスが行っているなら、うちのクラスも……という連鎖が起きるようで、ほとんどのクラスが何かしらの特訓をしているらしい。

玉入れなんて練習の必要性を感じないけど、クラスメイトから放課後の練習を持ちかけられた。
断る理由も思いつかないので、参加を決めたのは良いのだけど、

「……えいっ!」

玉を思い切って投げても、カゴの中に入れられないのがほとんどだ。投げても投げても、虚しく落ちていく玉たち……。

さすがに下手くそ過ぎでは? 

頭を抱えていると、「教えようか?」という声が掛かった。横目で見ると、見知らぬ男子の先輩2人だった。
体育祭はクラスごとに他の学年と合同のチームを組むらしくて、紫色の鉢巻きを首にぶら下げている彼らはチームメイトという訳らしい。

特訓の参加率が高いのは、出会いの場と思っている人間も少なからずいそう。そんなことが頭に過って、一気に面倒くさい気持ちになった。

「うーん、もう少し自分で何とかしてみます」

波風を立てぬように、はっきりと断らないせいかな。
先輩たちはしつこかった。

「フォームが悪いんじゃない?」
「もっと腕を伸ばして~」

勝手に腕をベタベタ触ってくる。ぞわっと鳥肌が立つ。
ちょっと! 無理なんだけど!

「触るの、やめてください」

声が強張る。
嫌がっているんだから、完全にセクハラだよ?

先輩たちが不良っぽい見た目のせいもあってか、近くにいる一年生たちは、不安そうに遠巻きに見ているだけだ。
助けてくれそうな先生たちも周りにいないし、なんとか腕を振りほどいて逃げるくらいしか道はない。
睨んで見せるけど、体格の違う男子たちにはとても敵わない。

「名前教えてよ~」
「こんなに可愛い子と一緒のチームなんてラッキーじゃん。これから毎日、練習楽しみだね~」

目をつけられた。
こんなことなら、特訓なんて参加するんじゃなかった。

「迷惑です!」と勇気を出して声を上げてみても、下心を隠そうともしない様子で笑われるだけだった。
不快感だけが募っていく。

「ロングヘアーが似合うのもポイント高いよね~」

ポニーテールを引っ張られそうになった時だった。
先輩の腕を掴み、払い除ける人物が現れたのだ。
その正体を見て、ホッとする。

「凛ちゃん!?」

「はあ……」と息を乱しながら、凛ちゃんは先輩たちを無言で睨んだ。怒鳴るよりも、なぜだか威圧感がすごい。
空気が重くて、私まで思わず息を呑んだ。

「なんだよ……」と先輩たちが呟くけど、気圧されているのか声が小さい。
全く不良とかではないのに、涼しげな凛ちゃんの顔立ちと大きな体は強そうに見える。
とっても優しいのに、女子たちが「怖そう」と口を揃えて話し掛けないくらいだから……。

「やめてください。女の子を怖がらせるとか最低ですよ?」

軽蔑を隠そうともしない、冷たい声。
凛ちゃんの背後から、遅れてクラスの男子が数人集まってきた。偶然にもみんな体格に恵まれている人たち。

「りんたろー、喧嘩か? 加勢しようか?」
「いや、先輩たちもそんな問題起こすわけないよ。謹慎とかダサいじゃん。……ね?」

淡々とした口調の圧が凄い。
先輩たちは顔を見合わせ、悪態をついて去って行ったけど、これも小さすぎてよく聞き取れなかった。

「……っ、凛ちゃ~ん!」

視界がゆらゆらと揺れる。
こんなことで泣いてないけど、泣くわけないけど、涙ぐんでしまう。

「怖かったなぁ、もう大丈夫だから」

聞き慣れた柔らかい口調が、不安を包み込んでくれるようだった。



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