5 / 25
5
しおりを挟む
お弁当を食べ終えると、再来週に迫った体育祭の話題になった。
高校生活で初めての体育祭だけど、うちの学校は真面目な内容とおふざけが混ざった楽しいものだと聞いている。
あまり運動が得意ではない生徒は、パン食い競争や借り物競争に参加することが多く、私も“玉入れ”というチームに迷惑をかけないものを選んだ。
体育祭ではモブに徹するんだ……。
「凪くんは何に出場するの?」
「チーム対抗リレーと障害物競走だったかな」
さすがテニス部のエース。
チーム対抗リレーなんて体育祭の大目玉と言われている。このリレーの得点で大逆転もあるらしい。
「チームは別だけど、こっそりと凪くんの応援しようかな」
きっと同じ気持ちの女の子は多い。
凪くんはきょとんとした後、「じゃあ、怒られないようにこっそり応援してね」と顔を綻ばせた。それがあまりに尊いもので、
ごめん、チームのみんな、私はこの笑顔を取る。
「俺も玉入れは莉央ちゃんのチームを応援するね」
「そこは応援してもらうほどのものでは……」
上手く玉を投げ入れる自信がない。
周りと揉みくちゃになっているだけで終わりそう。自分の姿が簡単に想像できる。
でも、凪くんの活躍が見れるのは本当に楽しみ!
「そろそろ教室に戻るね」
「……うん」
別れが名残惜しい。
お弁当の味は緊張で分からなかったけど、心は充実感でいっぱいだ。楽しいお昼ごはんだった。
椅子から立ち上がったけど、凪くんはその場から動かずにこちらを見つめている。
「どうしたの?」
「今夜、連絡するから。そこで次のお弁当の約束を決めよう」
これは凪くんも同じ気持ちってことだよね?
「うん! また一緒に食べたい!」
嬉しくて頬が緩んじゃう。
次の約束が出来るってこんなに嬉しいんだ。
「それじゃあ、また」
曲がり角で姿を消すまで、その背中を見つめた。
こんなに話をしたのは初めてだけど、イメージどおりだったな。
やっぱり、私の王子様は凪くんで間違いない。この予感は当たる気がする。
* * *
体育祭直前ということで、それに向けた練習を始めることになった。
他のクラスが行っているなら、うちのクラスも……という連鎖が起きるようで、ほとんどのクラスが何かしらの特訓をしているらしい。
玉入れなんて練習の必要性を感じないけど、クラスメイトから放課後の練習を持ちかけられた。
断る理由も思いつかないので、参加を決めたのは良いのだけど、
「……えいっ!」
玉を思い切って投げても、カゴの中に入れられないのがほとんどだ。投げても投げても、虚しく落ちていく玉たち……。
さすがに下手くそ過ぎでは?
頭を抱えていると、「教えようか?」という声が掛かった。横目で見ると、見知らぬ男子の先輩2人だった。
体育祭はクラスごとに他の学年と合同のチームを組むらしくて、紫色の鉢巻きを首にぶら下げている彼らはチームメイトという訳らしい。
特訓の参加率が高いのは、出会いの場と思っている人間も少なからずいそう。そんなことが頭に過って、一気に面倒くさい気持ちになった。
「うーん、もう少し自分で何とかしてみます」
波風を立てぬように、はっきりと断らないせいかな。
先輩たちはしつこかった。
「フォームが悪いんじゃない?」
「もっと腕を伸ばして~」
勝手に腕をベタベタ触ってくる。ぞわっと鳥肌が立つ。
ちょっと! 無理なんだけど!
「触るの、やめてください」
声が強張る。
嫌がっているんだから、完全にセクハラだよ?
先輩たちが不良っぽい見た目のせいもあってか、近くにいる一年生たちは、不安そうに遠巻きに見ているだけだ。
助けてくれそうな先生たちも周りにいないし、なんとか腕を振りほどいて逃げるくらいしか道はない。
睨んで見せるけど、体格の違う男子たちにはとても敵わない。
「名前教えてよ~」
「こんなに可愛い子と一緒のチームなんてラッキーじゃん。これから毎日、練習楽しみだね~」
目をつけられた。
こんなことなら、特訓なんて参加するんじゃなかった。
「迷惑です!」と勇気を出して声を上げてみても、下心を隠そうともしない様子で笑われるだけだった。
不快感だけが募っていく。
「ロングヘアーが似合うのもポイント高いよね~」
ポニーテールを引っ張られそうになった時だった。
先輩の腕を掴み、払い除ける人物が現れたのだ。
その正体を見て、ホッとする。
「凛ちゃん!?」
「はあ……」と息を乱しながら、凛ちゃんは先輩たちを無言で睨んだ。怒鳴るよりも、なぜだか威圧感がすごい。
空気が重くて、私まで思わず息を呑んだ。
「なんだよ……」と先輩たちが呟くけど、気圧されているのか声が小さい。
全く不良とかではないのに、涼しげな凛ちゃんの顔立ちと大きな体は強そうに見える。
とっても優しいのに、女子たちが「怖そう」と口を揃えて話し掛けないくらいだから……。
「やめてください。女の子を怖がらせるとか最低ですよ?」
軽蔑を隠そうともしない、冷たい声。
凛ちゃんの背後から、遅れてクラスの男子が数人集まってきた。偶然にもみんな体格に恵まれている人たち。
「りんたろー、喧嘩か? 加勢しようか?」
「いや、先輩たちもそんな問題起こすわけないよ。謹慎とかダサいじゃん。……ね?」
淡々とした口調の圧が凄い。
先輩たちは顔を見合わせ、悪態をついて去って行ったけど、これも小さすぎてよく聞き取れなかった。
「……っ、凛ちゃ~ん!」
視界がゆらゆらと揺れる。
こんなことで泣いてないけど、泣くわけないけど、涙ぐんでしまう。
「怖かったなぁ、もう大丈夫だから」
聞き慣れた柔らかい口調が、不安を包み込んでくれるようだった。
高校生活で初めての体育祭だけど、うちの学校は真面目な内容とおふざけが混ざった楽しいものだと聞いている。
あまり運動が得意ではない生徒は、パン食い競争や借り物競争に参加することが多く、私も“玉入れ”というチームに迷惑をかけないものを選んだ。
体育祭ではモブに徹するんだ……。
「凪くんは何に出場するの?」
「チーム対抗リレーと障害物競走だったかな」
さすがテニス部のエース。
チーム対抗リレーなんて体育祭の大目玉と言われている。このリレーの得点で大逆転もあるらしい。
「チームは別だけど、こっそりと凪くんの応援しようかな」
きっと同じ気持ちの女の子は多い。
凪くんはきょとんとした後、「じゃあ、怒られないようにこっそり応援してね」と顔を綻ばせた。それがあまりに尊いもので、
ごめん、チームのみんな、私はこの笑顔を取る。
「俺も玉入れは莉央ちゃんのチームを応援するね」
「そこは応援してもらうほどのものでは……」
上手く玉を投げ入れる自信がない。
周りと揉みくちゃになっているだけで終わりそう。自分の姿が簡単に想像できる。
でも、凪くんの活躍が見れるのは本当に楽しみ!
「そろそろ教室に戻るね」
「……うん」
別れが名残惜しい。
お弁当の味は緊張で分からなかったけど、心は充実感でいっぱいだ。楽しいお昼ごはんだった。
椅子から立ち上がったけど、凪くんはその場から動かずにこちらを見つめている。
「どうしたの?」
「今夜、連絡するから。そこで次のお弁当の約束を決めよう」
これは凪くんも同じ気持ちってことだよね?
「うん! また一緒に食べたい!」
嬉しくて頬が緩んじゃう。
次の約束が出来るってこんなに嬉しいんだ。
「それじゃあ、また」
曲がり角で姿を消すまで、その背中を見つめた。
こんなに話をしたのは初めてだけど、イメージどおりだったな。
やっぱり、私の王子様は凪くんで間違いない。この予感は当たる気がする。
* * *
体育祭直前ということで、それに向けた練習を始めることになった。
他のクラスが行っているなら、うちのクラスも……という連鎖が起きるようで、ほとんどのクラスが何かしらの特訓をしているらしい。
玉入れなんて練習の必要性を感じないけど、クラスメイトから放課後の練習を持ちかけられた。
断る理由も思いつかないので、参加を決めたのは良いのだけど、
「……えいっ!」
玉を思い切って投げても、カゴの中に入れられないのがほとんどだ。投げても投げても、虚しく落ちていく玉たち……。
さすがに下手くそ過ぎでは?
頭を抱えていると、「教えようか?」という声が掛かった。横目で見ると、見知らぬ男子の先輩2人だった。
体育祭はクラスごとに他の学年と合同のチームを組むらしくて、紫色の鉢巻きを首にぶら下げている彼らはチームメイトという訳らしい。
特訓の参加率が高いのは、出会いの場と思っている人間も少なからずいそう。そんなことが頭に過って、一気に面倒くさい気持ちになった。
「うーん、もう少し自分で何とかしてみます」
波風を立てぬように、はっきりと断らないせいかな。
先輩たちはしつこかった。
「フォームが悪いんじゃない?」
「もっと腕を伸ばして~」
勝手に腕をベタベタ触ってくる。ぞわっと鳥肌が立つ。
ちょっと! 無理なんだけど!
「触るの、やめてください」
声が強張る。
嫌がっているんだから、完全にセクハラだよ?
先輩たちが不良っぽい見た目のせいもあってか、近くにいる一年生たちは、不安そうに遠巻きに見ているだけだ。
助けてくれそうな先生たちも周りにいないし、なんとか腕を振りほどいて逃げるくらいしか道はない。
睨んで見せるけど、体格の違う男子たちにはとても敵わない。
「名前教えてよ~」
「こんなに可愛い子と一緒のチームなんてラッキーじゃん。これから毎日、練習楽しみだね~」
目をつけられた。
こんなことなら、特訓なんて参加するんじゃなかった。
「迷惑です!」と勇気を出して声を上げてみても、下心を隠そうともしない様子で笑われるだけだった。
不快感だけが募っていく。
「ロングヘアーが似合うのもポイント高いよね~」
ポニーテールを引っ張られそうになった時だった。
先輩の腕を掴み、払い除ける人物が現れたのだ。
その正体を見て、ホッとする。
「凛ちゃん!?」
「はあ……」と息を乱しながら、凛ちゃんは先輩たちを無言で睨んだ。怒鳴るよりも、なぜだか威圧感がすごい。
空気が重くて、私まで思わず息を呑んだ。
「なんだよ……」と先輩たちが呟くけど、気圧されているのか声が小さい。
全く不良とかではないのに、涼しげな凛ちゃんの顔立ちと大きな体は強そうに見える。
とっても優しいのに、女子たちが「怖そう」と口を揃えて話し掛けないくらいだから……。
「やめてください。女の子を怖がらせるとか最低ですよ?」
軽蔑を隠そうともしない、冷たい声。
凛ちゃんの背後から、遅れてクラスの男子が数人集まってきた。偶然にもみんな体格に恵まれている人たち。
「りんたろー、喧嘩か? 加勢しようか?」
「いや、先輩たちもそんな問題起こすわけないよ。謹慎とかダサいじゃん。……ね?」
淡々とした口調の圧が凄い。
先輩たちは顔を見合わせ、悪態をついて去って行ったけど、これも小さすぎてよく聞き取れなかった。
「……っ、凛ちゃ~ん!」
視界がゆらゆらと揺れる。
こんなことで泣いてないけど、泣くわけないけど、涙ぐんでしまう。
「怖かったなぁ、もう大丈夫だから」
聞き慣れた柔らかい口調が、不安を包み込んでくれるようだった。
0
あなたにおすすめの小説
「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない
橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。
そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。
1~2万文字の短編予定→中編に変更します。
いつもながらの溺愛執着ものです。
星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い
希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。
一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。
ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。
その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。
彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。
しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!
まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。
人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい!
そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。
そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。
☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。
☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。
☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。
☆書き上げています。
その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。
愛が重いだけじゃ信用できませんか?
歩く魚
恋愛
【ヤンデレと戦えるのは遊び人である】
古庵瑠凪は、大学内における、いわゆる「何でも屋」に相当するサークルに所属している。
生徒を助け、浮かれたように遊び、大学生の青春を謳歌する、そんな毎日。
しかし、ある日「お見舞い」が自宅のドアにかけられていたことを皮切りに、彼の平穏な日々に変化が訪れる。
「好きだからです。世界中の誰よりも好きで好きでたまらないからです」
突然の告白。ストーカーの正体。
過去の一件から恋人を作らないと決意した瑠凪は、さまざまな方向に「重い」ヒロインたちのアプローチから逃れることができるのか?
鏡の中の他人
北大路京介
恋愛
美容師として働くシングルマザー。顧客の一人が、実は自分の元夫を訴えている原告側の弁護士。複雑な立場ながらも、彼の髪を切る親密な時間の中で、プロとしての境界が曖昧になっていく。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる