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体育祭の振替休日も終わり、ちょっと早めに登校をしてみた。教室からテニスコートを見下ろす。
ボールの弾む音、掛け声、朝特有のゆるい空気。
今朝もテニス部には数人の女子のギャラリーが出来ていた。イケメン揃いだから、誰が目当てかはバラバラだろうけど、一番に視線を集めていたのは間違いなく、凪くんだった。
彼が動くと女子の応援の温度が違う。それは私もなんだけど。
ボール拾いをしていた凪くんが、ふとこちらを見上げた。
ばっちりと目が合ったので「わぁ」と小さく声が漏れてしまう。びっくりした。
「おはよう」と口が動いた気がするので、私も「うん、おはよう」と声を出さずに挨拶を交わす。朝から王子様スマイルを貰ってしまい、胸が高鳴った。
「莉央ーっ! おはよっ!」
舞ちゃんに背中を叩かれる。
彼女は今日も完璧なギャル顔で、つけまつげの長さに目を奪われる。自然に盛るメイクが上手い。
「んー? なんかめっちゃ見られてるー?」
「あっ、ごめん。メイクが上手でいいなぁって思ってた」
「あはっ。こっちおいで。ちょこっとだけやってあげる。新作のチークがかわいいんだー。まじ、みんなに布教したい。でも、莉央はギャルじゃないから軽くやるねー」
テキパキとメイクは施され、いつもより毛量感のあるまつ毛がマスカラで作られた。
舞ちゃんの言うとおり、チークの色味が可愛かった。
「そんなに嬉しそうにされると、凛の気持ちが分かるわぁ」
「え?」
「やばっ。あとで怒られちゃうかも。想像できてウケる」
「?」
くすくすと楽しそうな舞ちゃんに首を傾げていると、斜め前の席の佐野くんが登校してきた。
「佐野っち、おはよ! 」
「あ、おはよう」
「おはよう、佐野くん」
「……うん」
一瞬だけ、じぃーっと顔を見られた気がする。
「凛太郎は登校してるけど、体調悪いみたいだから保健室に連れてった」
「えっ! 凛ちゃん、大丈夫なの?」
「どうだろうね。元気ないよ、アイツ」
そんなふうに言われたら心配だよ。風邪なのかな?
舞ちゃんが私の肩に手を置く。
「まだ時間あるし、保健室に行ってきたら? 莉央は気になって授業どころじゃないでしょ?」
「うん……」
「ほらほら、行っといでー」
迷っていたら背中を押され、駆け足気味で保健室に向かった。
* * *
“職員室にいます”という札の掛かったドアをそっと開け、一つだけカーテンの閉められたベッドを見つけた。あれがそうかな?
そっと声を掛けてみる。
「凛ちゃん?」
「……莉央?」
ゆっくりとカーテンを開くと、ぼんやりとした表情の凛ちゃんと目が合った。いつもと様子が違うのは明らかだった。喋り方ものんびりだ。
横向きになっていたので、顔の近くまで寄ってみる。
「お熱あるの?」
「ちょこっとだけ」
「飲み物買ってこようか?」
「いい。……ここにいて」
甘えたいのが筒抜けで、キュンってなっちゃった。
体調悪いと心細くなるよね。寂しそうなのも分かる。
こんなに大きな男の子なのに、守ってあげたくなるのはなんでだろう。
揺らいだ目線が“置いてかないで”って言われているみたいで、ふふっと笑う。
「先生が戻ってくるまで、一緒にいるね」
「うん、いて」
「心細いなら、手を繋いでいようか?」
「……、だい……じょうぶ」
高校生だもん、さすがにそこまではされたくないか。
「なんか、今日の莉央が、いつも違う」
たどたどしい声で告げられ、考える。もしかして、あれかな?
「舞ちゃんにメイクしてもらったからかも」
「……えっ」
「ちょっと可愛くなってない?」
凛ちゃんは言葉を失っていた。あれ?
可愛いって言ってくれると思ったのにな。
勝手に期待しちゃってたことに気付いて、恥ずかしい。
「いや、ちがう、かわいい。可愛いに決まってる」
慌てたようにフォローされた。
そして、拗ねたように呟く。
「莉央を可愛くするのは、俺の……なのに」
まさかの言葉に目を丸くする。
凛ちゃんは私の専属スタイリストの気分でいてくれたんだ?!
こんなことで拗ねるなんてと思うけど、プロ意識を感じる。凛ちゃんは否定するけど、プロになった方かいい。その気持ち、私だけなのもったいない!
「大丈夫だよ、自信を持って。一番は凛ちゃんだから」
「え?うん?? ……当たり前だろ」
うん、うん。
その思いの熱さは、ちゃんと伝わってるよ!
ズレた布団をかけ直してあげる。
凛ちゃんの身体にはちょっと小さそうだな。
「……」
壁時計の秒針だけが、静かな保健室の中に響く。
視線はこちらに向けられたまま、会話はない。
不思議とその沈黙も心地良い。
次第に、凛ちゃんの瞼が閉じかけては開くを繰り返す。
「眠い?」
「うん……」
「ちょっと隈ができてる。寝不足だったんじゃない?」
「そうかも。ずっと夢見が悪くて」
あと一歩で眠りに落ちそうという雰囲気だ。
「怖い夢を見たの?」
「うん、絶対に勝てない夢。何度走っても、あと一歩で負ける……」
もしかして、それは体育祭のことなのかな?
夢で魘されるほど悔しかったんだ。
あの日の凛ちゃんは、ちょっと怖いくらい真剣だった。
「きっと次は勝てるよ」
「……」
「凛ちゃんなら大丈夫だよ」
こんなに熱い思いがあるんだから。
「だから、安心して眠ってね」
切なそうに眉を寄せ、凛ちゃんは眠り落ちた。
ボールの弾む音、掛け声、朝特有のゆるい空気。
今朝もテニス部には数人の女子のギャラリーが出来ていた。イケメン揃いだから、誰が目当てかはバラバラだろうけど、一番に視線を集めていたのは間違いなく、凪くんだった。
彼が動くと女子の応援の温度が違う。それは私もなんだけど。
ボール拾いをしていた凪くんが、ふとこちらを見上げた。
ばっちりと目が合ったので「わぁ」と小さく声が漏れてしまう。びっくりした。
「おはよう」と口が動いた気がするので、私も「うん、おはよう」と声を出さずに挨拶を交わす。朝から王子様スマイルを貰ってしまい、胸が高鳴った。
「莉央ーっ! おはよっ!」
舞ちゃんに背中を叩かれる。
彼女は今日も完璧なギャル顔で、つけまつげの長さに目を奪われる。自然に盛るメイクが上手い。
「んー? なんかめっちゃ見られてるー?」
「あっ、ごめん。メイクが上手でいいなぁって思ってた」
「あはっ。こっちおいで。ちょこっとだけやってあげる。新作のチークがかわいいんだー。まじ、みんなに布教したい。でも、莉央はギャルじゃないから軽くやるねー」
テキパキとメイクは施され、いつもより毛量感のあるまつ毛がマスカラで作られた。
舞ちゃんの言うとおり、チークの色味が可愛かった。
「そんなに嬉しそうにされると、凛の気持ちが分かるわぁ」
「え?」
「やばっ。あとで怒られちゃうかも。想像できてウケる」
「?」
くすくすと楽しそうな舞ちゃんに首を傾げていると、斜め前の席の佐野くんが登校してきた。
「佐野っち、おはよ! 」
「あ、おはよう」
「おはよう、佐野くん」
「……うん」
一瞬だけ、じぃーっと顔を見られた気がする。
「凛太郎は登校してるけど、体調悪いみたいだから保健室に連れてった」
「えっ! 凛ちゃん、大丈夫なの?」
「どうだろうね。元気ないよ、アイツ」
そんなふうに言われたら心配だよ。風邪なのかな?
舞ちゃんが私の肩に手を置く。
「まだ時間あるし、保健室に行ってきたら? 莉央は気になって授業どころじゃないでしょ?」
「うん……」
「ほらほら、行っといでー」
迷っていたら背中を押され、駆け足気味で保健室に向かった。
* * *
“職員室にいます”という札の掛かったドアをそっと開け、一つだけカーテンの閉められたベッドを見つけた。あれがそうかな?
そっと声を掛けてみる。
「凛ちゃん?」
「……莉央?」
ゆっくりとカーテンを開くと、ぼんやりとした表情の凛ちゃんと目が合った。いつもと様子が違うのは明らかだった。喋り方ものんびりだ。
横向きになっていたので、顔の近くまで寄ってみる。
「お熱あるの?」
「ちょこっとだけ」
「飲み物買ってこようか?」
「いい。……ここにいて」
甘えたいのが筒抜けで、キュンってなっちゃった。
体調悪いと心細くなるよね。寂しそうなのも分かる。
こんなに大きな男の子なのに、守ってあげたくなるのはなんでだろう。
揺らいだ目線が“置いてかないで”って言われているみたいで、ふふっと笑う。
「先生が戻ってくるまで、一緒にいるね」
「うん、いて」
「心細いなら、手を繋いでいようか?」
「……、だい……じょうぶ」
高校生だもん、さすがにそこまではされたくないか。
「なんか、今日の莉央が、いつも違う」
たどたどしい声で告げられ、考える。もしかして、あれかな?
「舞ちゃんにメイクしてもらったからかも」
「……えっ」
「ちょっと可愛くなってない?」
凛ちゃんは言葉を失っていた。あれ?
可愛いって言ってくれると思ったのにな。
勝手に期待しちゃってたことに気付いて、恥ずかしい。
「いや、ちがう、かわいい。可愛いに決まってる」
慌てたようにフォローされた。
そして、拗ねたように呟く。
「莉央を可愛くするのは、俺の……なのに」
まさかの言葉に目を丸くする。
凛ちゃんは私の専属スタイリストの気分でいてくれたんだ?!
こんなことで拗ねるなんてと思うけど、プロ意識を感じる。凛ちゃんは否定するけど、プロになった方かいい。その気持ち、私だけなのもったいない!
「大丈夫だよ、自信を持って。一番は凛ちゃんだから」
「え?うん?? ……当たり前だろ」
うん、うん。
その思いの熱さは、ちゃんと伝わってるよ!
ズレた布団をかけ直してあげる。
凛ちゃんの身体にはちょっと小さそうだな。
「……」
壁時計の秒針だけが、静かな保健室の中に響く。
視線はこちらに向けられたまま、会話はない。
不思議とその沈黙も心地良い。
次第に、凛ちゃんの瞼が閉じかけては開くを繰り返す。
「眠い?」
「うん……」
「ちょっと隈ができてる。寝不足だったんじゃない?」
「そうかも。ずっと夢見が悪くて」
あと一歩で眠りに落ちそうという雰囲気だ。
「怖い夢を見たの?」
「うん、絶対に勝てない夢。何度走っても、あと一歩で負ける……」
もしかして、それは体育祭のことなのかな?
夢で魘されるほど悔しかったんだ。
あの日の凛ちゃんは、ちょっと怖いくらい真剣だった。
「きっと次は勝てるよ」
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