シンデレラになりたい私 × 王子様になりたくないあなた

音央とお

文字の大きさ
14 / 25

14

しおりを挟む
体育祭の振替休日も終わり、ちょっと早めに登校をしてみた。教室からテニスコートを見下ろす。
ボールの弾む音、掛け声、朝特有のゆるい空気。

今朝もテニス部には数人の女子のギャラリーが出来ていた。イケメン揃いだから、誰が目当てかはバラバラだろうけど、一番に視線を集めていたのは間違いなく、凪くんだった。
彼が動くと女子の応援の温度が違う。それは私もなんだけど。

ボール拾いをしていた凪くんが、ふとこちらを見上げた。 
ばっちりと目が合ったので「わぁ」と小さく声が漏れてしまう。びっくりした。

「おはよう」と口が動いた気がするので、私も「うん、おはよう」と声を出さずに挨拶を交わす。朝から王子様スマイルを貰ってしまい、胸が高鳴った。


「莉央ーっ! おはよっ!」

舞ちゃんに背中を叩かれる。
彼女は今日も完璧なギャル顔で、つけまつげの長さに目を奪われる。自然に盛るメイクが上手い。

「んー? なんかめっちゃ見られてるー?」
「あっ、ごめん。メイクが上手でいいなぁって思ってた」
「あはっ。こっちおいで。ちょこっとだけやってあげる。新作のチークがかわいいんだー。まじ、みんなに布教したい。でも、莉央はギャルじゃないから軽くやるねー」

テキパキとメイクは施され、いつもより毛量感のあるまつ毛がマスカラで作られた。
舞ちゃんの言うとおり、チークの色味が可愛かった。

「そんなに嬉しそうにされると、凛の気持ちが分かるわぁ」
「え?」
「やばっ。あとで怒られちゃうかも。想像できてウケる」
「?」

くすくすと楽しそうな舞ちゃんに首を傾げていると、斜め前の席の佐野くんが登校してきた。

「佐野っち、おはよ! 」
「あ、おはよう」
「おはよう、佐野くん」
「……うん」

一瞬だけ、じぃーっと顔を見られた気がする。

「凛太郎は登校してるけど、体調悪いみたいだから保健室に連れてった」
「えっ! 凛ちゃん、大丈夫なの?」
「どうだろうね。元気ないよ、アイツ」

そんなふうに言われたら心配だよ。風邪なのかな?
舞ちゃんが私の肩に手を置く。

「まだ時間あるし、保健室に行ってきたら? 莉央は気になって授業どころじゃないでしょ?」
「うん……」
「ほらほら、行っといでー」

迷っていたら背中を押され、駆け足気味で保健室に向かった。


*   *   *


“職員室にいます”という札の掛かったドアをそっと開け、一つだけカーテンの閉められたベッドを見つけた。あれがそうかな?
そっと声を掛けてみる。

「凛ちゃん?」
「……莉央?」

ゆっくりとカーテンを開くと、ぼんやりとした表情の凛ちゃんと目が合った。いつもと様子が違うのは明らかだった。喋り方ものんびりだ。

横向きになっていたので、顔の近くまで寄ってみる。

「お熱あるの?」
「ちょこっとだけ」
「飲み物買ってこようか?」
「いい。……ここにいて」

甘えたいのが筒抜けで、キュンってなっちゃった。
体調悪いと心細くなるよね。寂しそうなのも分かる。
こんなに大きな男の子なのに、守ってあげたくなるのはなんでだろう。
揺らいだ目線が“置いてかないで”って言われているみたいで、ふふっと笑う。

「先生が戻ってくるまで、一緒にいるね」
「うん、いて」
「心細いなら、手を繋いでいようか?」
「……、だい……じょうぶ」

高校生だもん、さすがにそこまではされたくないか。

「なんか、今日の莉央が、いつも違う」

たどたどしい声で告げられ、考える。もしかして、あれかな?

「舞ちゃんにメイクしてもらったからかも」
「……えっ」
「ちょっと可愛くなってない?」

凛ちゃんは言葉を失っていた。あれ?
可愛いって言ってくれると思ったのにな。
勝手に期待しちゃってたことに気付いて、恥ずかしい。

「いや、ちがう、かわいい。可愛いに決まってる」

慌てたようにフォローされた。
そして、拗ねたように呟く。

「莉央を可愛くするのは、俺の……なのに」

まさかの言葉に目を丸くする。
凛ちゃんは私の専属スタイリストの気分でいてくれたんだ?!
こんなことで拗ねるなんてと思うけど、プロ意識を感じる。凛ちゃんは否定するけど、プロになった方かいい。その気持ち、私だけなのもったいない!

「大丈夫だよ、自信を持って。一番は凛ちゃんだから」
「え?うん?? ……当たり前だろ」

うん、うん。
その思いの熱さは、ちゃんと伝わってるよ!

ズレた布団をかけ直してあげる。
凛ちゃんの身体にはちょっと小さそうだな。

「……」

壁時計の秒針だけが、静かな保健室の中に響く。
視線はこちらに向けられたまま、会話はない。
不思議とその沈黙も心地良い。

次第に、凛ちゃんの瞼が閉じかけては開くを繰り返す。

「眠い?」
「うん……」
「ちょっと隈ができてる。寝不足だったんじゃない?」
「そうかも。ずっと夢見が悪くて」

あと一歩で眠りに落ちそうという雰囲気だ。

「怖い夢を見たの?」
「うん、絶対に勝てない夢。何度走っても、あと一歩で負ける……」

もしかして、それは体育祭のことなのかな?
夢で魘されるほど悔しかったんだ。
あの日の凛ちゃんは、ちょっと怖いくらい真剣だった。

「きっと次は勝てるよ」
「……」
「凛ちゃんなら大丈夫だよ」

こんなに熱い思いがあるんだから。

「だから、安心して眠ってね」

切なそうに眉を寄せ、凛ちゃんは眠り落ちた。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い

希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。 一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。 ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。 その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。 彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。 しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。 人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい! そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。 そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。 ☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。 ☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。 ☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。 ☆書き上げています。 その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。

愛が重いだけじゃ信用できませんか?

歩く魚
恋愛
【ヤンデレと戦えるのは遊び人である】 古庵瑠凪は、大学内における、いわゆる「何でも屋」に相当するサークルに所属している。 生徒を助け、浮かれたように遊び、大学生の青春を謳歌する、そんな毎日。 しかし、ある日「お見舞い」が自宅のドアにかけられていたことを皮切りに、彼の平穏な日々に変化が訪れる。 「好きだからです。世界中の誰よりも好きで好きでたまらないからです」 突然の告白。ストーカーの正体。 過去の一件から恋人を作らないと決意した瑠凪は、さまざまな方向に「重い」ヒロインたちのアプローチから逃れることができるのか?

鏡の中の他人

北大路京介
恋愛
美容師として働くシングルマザー。顧客の一人が、実は自分の元夫を訴えている原告側の弁護士。複雑な立場ながらも、彼の髪を切る親密な時間の中で、プロとしての境界が曖昧になっていく。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

処理中です...