シンデレラになりたい私 × 王子様になりたくないあなた

音央とお

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見つめ合ったまま、動けなかった。
だって、少しでも動けば、この熱は消えてしまう。
あと少しで何か掴めそうな気がするの。

凪くんはどうしてそんな目を向けるの?
そう聞きたいのに、聞けない。この時間を壊してしまいそうで。



――その時、突風がカーテンを吹き飛ばす。

 
「……あっ」

熱が奪われた。そっと、凪くんは腕を離した。

「ごめん、近すぎたよね」 

一歩後ろに引かれ、待ってよ!と心が叫んだ。
凪くんはいつも通りの顔をして、何でもなかったみたいな温度に戻る。

「今日は女子によく話しかけられるんだ。自意識過剰だと思うんだけど、見つかりたくなくて、つい。ごめんね」
「そ、そうなんだ。でも、今日の凪くんに話しかけたいのは分かるかな。体育祭で格好良かったもん!」
「見ていてくれたよね。分かったよ」
「……見てたよ、凪くんのこと」

胸にズキッと痛みが走る。
どうして、こんな時に俯く凛ちゃんを思い出すんだろう。今は凪くんと話しているのに。

「うれしい。莉央ちゃんが俺を見ていてくれて」
「凪くんって本当に、みんなが言うみたいに王子様みたいだね。とってもキラキラしてたよ」
「そんなことないよ。王子なんて、そんなものじゃない。そんな素敵なものじゃないよ」

凪くんは淡々とした声で否定した。
どうして? 王子様みたいだなんて素敵なのに不安そうなの?

「莉央ちゃんは、……莉央ちゃんだけは、俺のことをただの男として見て欲しい」
「えっ」
「だめ?」
「駄目じゃないけど」

どうして、の疑問が浮かぶ。それを問い掛ける前に、凪くんは表情を崩した。

「良かった」

自然な動作で手を取られる。 
凪くんの指先は少し震えていた。

「莉央ちゃんのことを特別に思っているから。俺のことをもっと知ってほしい。莉央ちゃんはどう? 嫌?」
「嫌なわけない!」
「うん、うれしい」

胸がキュンっと返事をした。

「じゃあ、今日から友達以上で見てね?」
「はわぁぁ……」

至近距離で破壊力のある笑顔を見せられたら、変な声も出るよ。これにときめかない女の子はいる?……いない。

「莉央ちゃんの特別になれるよう、頑張るからね」

追撃に、もう頭がパンクしそう……。
よろよろと後退るけど、後ろにあるのは窓だから逃げ道がない。まるで私の未来みたいだ。

王子様と思わないでいられるかなんて、無理。



*   *   *


家に帰ってからも、凪くんとの時間の余韻は、心の中でぽかぽかと続いている。
ママから「大丈夫?」なんて心配されてしまった。

いや、無理無理無理~っ!

凪くんの言葉を反芻する。
咄嗟に掴まれた瞬間、二人だけのカーテンの中、震えていた指の冷たさ、あの笑顔。

「……はあ」

気持ちが落ち着かない。
飾ってある絵本に手を伸ばす。大切なシンデレラの物語。

凪くんは、ずっと想像していた王子様みたい。
初めて見かけた日、本当に現実にいるなんて夢みたいだった。

「凪くんはいつから知ってくれていたのかな。やっぱり私のほうが先だよね、地味だし」

彼は入学してすぐに、女子に噂の王子様だった。
凪くんのことを知らない女子なんて、全校生徒で1割くらいだと思う。
勉強もスポーツも出来て、品行方正。 
モテるのにそれを鼻にかけない。
ちょっと出来過ぎだとすら言われる、スーパーマン。

そんな人に“特別になれるよう、頑張るからね”なんて……

「まるでシンデレラだよ」

ときめきが溢れるように、バタバタと足が動いちゃう。
じっとなんてしてられないよ。どうしよう、どうしようかな。……どうしたらいい!?

スマホを手に取る。
でも、すぐに机の上に戻した。
いつもなら、真っ先に掛けるけど、今日は無理だった。
ついつい話を聞いてもらうのに慣れてしまっている。

「凛ちゃん、何してるかな」

原田くんたちと笑っていたのに、リレー後のあの姿が胸に残る。触れたら今にも壊れそう、っていうのかな。
凛ちゃんにもあんな一面があったんだなって思ったよ。

凪くんが自分のことをもっと知ってほしいというのも分かる。
近くにいる凛ちゃんのことすら、こんなふうに知らないのだから。

「凪くんのことを知るとか、どうすればいいんだろう」

明日から、きっと何か変わる。
そんな予感がする。

ドアの向こうから「お風呂済ませちゃいなさい」とママの声が掛かる。

「はーい」

洗面所に行く前に三つ編みを解いちゃおう。
姿見の前に立ち、やっぱり可愛いなって再確認。

こんなに可愛くしてくれるのは凛ちゃんだけ。
応援だってしてくれる。

なのに、凪くんの応援を優先する私って、

「バカだよね」

たぶん、「そんなことないよ。それでいいんだよ」って返してくれそうだから、余計に胸のしこりは残ってしまうんだ。







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