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閉会式のあとは、各自が担当の片付けをしたら解散らしい。それぞれの持ち場に向かっていると、原田くんの泣き叫ぶような声が聞こえてきた。
「凛太郎ぐん、ごめんな。ごめんなざい!」
土下座する勢いのそれに、男子たちが止めに入っている。
「俺がもっと、自分の体調に気づいていれば、こんなことには!」
「なんで謝るの。最後まで諦めなかったじゃん。あと、怪我してるんだから無理するなよ」
「ゔぅ……もっと責めてくれよ……」
大丈夫かな。
様子を見に行きたいけど、今は凛ちゃんの側に近付く資格はない気分。応援しなかった私が何を言えるというんだろう……。
「凛太郎のところに行かないの?」
背後から声を掛けられてびっくりした。
リレーの走者だった、佐野くんが赤コーンを抱えて立っていた。
「うん、今はやめておくね」
凛ちゃんが笑っている姿を見られただけでもホッとした。
ずっとあのままだったら、どうしようって。
「まあ、そのほうがいいか。でも、珍しいね。莉央ちゃんのほうが凛太郎のことを目で追ってるなんてさ」
「え?」
「君って、こうやって凛太郎のことを見つめるなんてないでしょう」
「そんなことないよ? よく凛ちゃんと目が合うし」
凛ちゃんがいるなぁ、とか見つけると笑顔を返してくれる。いるだけで目立つ人なのに、目を奪われるのは普通だと思う。
「そういうことじゃないんだけど」
そんなふうに困った顔をされても、具体的に言ってくれないと分からないよ?
大人っぽい雰囲気が凛ちゃんと似ているけど、佐野くんは謎かけみたいなことしか言わない。
優しさが全然違うから困っちゃう。
「いつかこの答えが分かるといいね」
「むずかしい」
「たぶん、無理なんだろうなぁ」
なぜかため息を吐かれた。
やれやれと言いたげだ。ちょっと意地悪されてる気分だよ。
むくれていたら、佐野くんは「そういう顔にみんな弱いんだろうね」としみじみ感心していた。なにが?
佐野くんが男子たちのほうに視線を向ける。
いつの間にか原田くんが凛ちゃんに泣きついていた。
「ちょっとした修羅場だね、あれ」
雰囲気は和やかだけど、原田くんの一人反省会が終わらないみたい。
凛ちゃんは棒立ちになって頭を掻いている。
「凛太郎のことで困ったことがあれば言いな。俺はアイツの友達だから、話くらいは聞くよ」
「凛ちゃんで困ること?」
「全然なさそうな顔してるな。本当にそういうところだよね」
「……むずかしい。佐野くんの話は」
「あえて核心に触れないようにしてるからだよ。大事なことは自分で見つけなきゃね。俺は君のために言ってるの」
「うーん?」
よく分からない人だなぁ。
佐野くんは先生に呼ばれて、踵を返していく。
残された私は凛ちゃんを見つめる。……今日は、視線が合わない。
* * *
「莉央ちゃん」
鞄を取りに教室に戻っていると、廊下で凪くんが待っていた。リュックを背負っているということは、暫く待たせたのかもしれない。
「お疲れさま」
思わずどきっとするほど、今の凪くんの視線は柔らかい。
「約束を覚えているよね?」
「うん」
体育祭のあとで時間をもらえるか?って言ってたもんね。
朝から胸の中にあったよ。どきどきしていた。
「打ち上げとかない? 俺のクラスは何人か行くみたいだよ」
「大丈夫。今日はもうくたくた! ……玉入れとダンスしかやってないけど」
周りと比べたら、運動量が全然だったことに気付いてしまった。
「玉入れを頑張ってるの見たよ」
「2個しか入らなかった。恥ずかしい」
「一生懸命なのは伝わったよ」
「……忘れて」
ぴょんぴょん跳ねてた(舞ちゃん談)だけなんて、恥ずかしいから。
傍目に見たら、ダメダメ過ぎたと思うよ?
想像するだけで気が遠くなる。
「忘れられるかなぁ。目に焼き付いたから、無理かも」
「ふふっ」と思い出し笑いされると複雑です。
凪くんの視線に、一挙一動を見られているのを感じ取る。
いやいや、そんなに見つめられたら困る。
落ち着かなくて前髪を指で整えた。……顔が赤くなってるのなんてバレてるよね?
視界の端で、ふわふわとカーテンが舞う。
それを目で追っていると、女子の話し声が近付いていることに気付いた。
階段を上ってきてるみたいだ。
「こっち」
手を引かれ、二人でカーテンの中へと隠れる。
後ろから抱き締められていることに気付いて、息を呑んだ。――え? なんで?
「凪くん?」
「しーっ」
人差し指がそっと唇に当てられる。
その男の子らしい大きな手と、耳元で聞こえる心臓の音を意識すると、息が熱を帯びてしまう。
「うわー、誰かいちゃついてる」という声。
カーテンで隠れない足元だけ見えたら、そう思うよね……!
気まずさがあるのか、女子たちは駆け足で通り過ぎて行った。
「……」
「……」
「……ごめん。咄嗟に隠れたら、こうなっちゃった」
いつもより上擦った声に、私の心臓の鼓動が加速する。
おそるおそる目線上げると、顔を赤くした凪くんの視線とぶつかる。その瞳の奥には熱が宿っていた。
その熱は私にだって移ってくるやつだ。
「凛太郎ぐん、ごめんな。ごめんなざい!」
土下座する勢いのそれに、男子たちが止めに入っている。
「俺がもっと、自分の体調に気づいていれば、こんなことには!」
「なんで謝るの。最後まで諦めなかったじゃん。あと、怪我してるんだから無理するなよ」
「ゔぅ……もっと責めてくれよ……」
大丈夫かな。
様子を見に行きたいけど、今は凛ちゃんの側に近付く資格はない気分。応援しなかった私が何を言えるというんだろう……。
「凛太郎のところに行かないの?」
背後から声を掛けられてびっくりした。
リレーの走者だった、佐野くんが赤コーンを抱えて立っていた。
「うん、今はやめておくね」
凛ちゃんが笑っている姿を見られただけでもホッとした。
ずっとあのままだったら、どうしようって。
「まあ、そのほうがいいか。でも、珍しいね。莉央ちゃんのほうが凛太郎のことを目で追ってるなんてさ」
「え?」
「君って、こうやって凛太郎のことを見つめるなんてないでしょう」
「そんなことないよ? よく凛ちゃんと目が合うし」
凛ちゃんがいるなぁ、とか見つけると笑顔を返してくれる。いるだけで目立つ人なのに、目を奪われるのは普通だと思う。
「そういうことじゃないんだけど」
そんなふうに困った顔をされても、具体的に言ってくれないと分からないよ?
大人っぽい雰囲気が凛ちゃんと似ているけど、佐野くんは謎かけみたいなことしか言わない。
優しさが全然違うから困っちゃう。
「いつかこの答えが分かるといいね」
「むずかしい」
「たぶん、無理なんだろうなぁ」
なぜかため息を吐かれた。
やれやれと言いたげだ。ちょっと意地悪されてる気分だよ。
むくれていたら、佐野くんは「そういう顔にみんな弱いんだろうね」としみじみ感心していた。なにが?
佐野くんが男子たちのほうに視線を向ける。
いつの間にか原田くんが凛ちゃんに泣きついていた。
「ちょっとした修羅場だね、あれ」
雰囲気は和やかだけど、原田くんの一人反省会が終わらないみたい。
凛ちゃんは棒立ちになって頭を掻いている。
「凛太郎のことで困ったことがあれば言いな。俺はアイツの友達だから、話くらいは聞くよ」
「凛ちゃんで困ること?」
「全然なさそうな顔してるな。本当にそういうところだよね」
「……むずかしい。佐野くんの話は」
「あえて核心に触れないようにしてるからだよ。大事なことは自分で見つけなきゃね。俺は君のために言ってるの」
「うーん?」
よく分からない人だなぁ。
佐野くんは先生に呼ばれて、踵を返していく。
残された私は凛ちゃんを見つめる。……今日は、視線が合わない。
* * *
「莉央ちゃん」
鞄を取りに教室に戻っていると、廊下で凪くんが待っていた。リュックを背負っているということは、暫く待たせたのかもしれない。
「お疲れさま」
思わずどきっとするほど、今の凪くんの視線は柔らかい。
「約束を覚えているよね?」
「うん」
体育祭のあとで時間をもらえるか?って言ってたもんね。
朝から胸の中にあったよ。どきどきしていた。
「打ち上げとかない? 俺のクラスは何人か行くみたいだよ」
「大丈夫。今日はもうくたくた! ……玉入れとダンスしかやってないけど」
周りと比べたら、運動量が全然だったことに気付いてしまった。
「玉入れを頑張ってるの見たよ」
「2個しか入らなかった。恥ずかしい」
「一生懸命なのは伝わったよ」
「……忘れて」
ぴょんぴょん跳ねてた(舞ちゃん談)だけなんて、恥ずかしいから。
傍目に見たら、ダメダメ過ぎたと思うよ?
想像するだけで気が遠くなる。
「忘れられるかなぁ。目に焼き付いたから、無理かも」
「ふふっ」と思い出し笑いされると複雑です。
凪くんの視線に、一挙一動を見られているのを感じ取る。
いやいや、そんなに見つめられたら困る。
落ち着かなくて前髪を指で整えた。……顔が赤くなってるのなんてバレてるよね?
視界の端で、ふわふわとカーテンが舞う。
それを目で追っていると、女子の話し声が近付いていることに気付いた。
階段を上ってきてるみたいだ。
「こっち」
手を引かれ、二人でカーテンの中へと隠れる。
後ろから抱き締められていることに気付いて、息を呑んだ。――え? なんで?
「凪くん?」
「しーっ」
人差し指がそっと唇に当てられる。
その男の子らしい大きな手と、耳元で聞こえる心臓の音を意識すると、息が熱を帯びてしまう。
「うわー、誰かいちゃついてる」という声。
カーテンで隠れない足元だけ見えたら、そう思うよね……!
気まずさがあるのか、女子たちは駆け足で通り過ぎて行った。
「……」
「……」
「……ごめん。咄嗟に隠れたら、こうなっちゃった」
いつもより上擦った声に、私の心臓の鼓動が加速する。
おそるおそる目線上げると、顔を赤くした凪くんの視線とぶつかる。その瞳の奥には熱が宿っていた。
その熱は私にだって移ってくるやつだ。
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