シンデレラになりたい私 × 王子様になりたくないあなた

音央とお

文字の大きさ
11 / 25

11

しおりを挟む
体育祭の最終種目、チーム対抗リレー。
凛太郎が属する紫チームは、これに勝てば、凪の属する青チームに逆転勝利するという場面だった。


――運命のホイッスルが鳴る。


「佐野っちー! 行けー!」

舞ちゃんが叫ぶ。
紫の第一走者である佐野くんは、凛ちゃんのお友達だ。
サッカー部の俊足がトラックを駆け抜ける。

「佐野っちも速いけど、相手が悪いね。1位のやつは陸上部のスプリンターだよ」
「舞ちゃんは何でも詳しいね」

第二走者の男子にバトンが渡る。
現在の順位は黄、紫、青、その他と続いていき、徐々に距離に差が生まれていく。
黄チームと紫チームの間でも5メートルくらいの差が広がっている。

「巻き返せるよー! 次の走者は原田か」

第三走者の原田くんにバトンが渡る。
スタートダッシュしたはずが、徐々にスピードが落ちていく。

「あれ?」と違和感に気付く。
原田くんは“まずい”という表情で、第四走者の手前で勢いよく転倒した。
転がっていくバトンを拾おうとするけれど、立ち上がろうとしてもよろけてしまう。その顔色は悪い。

「え? どうしたの!?」
「アイツ、もしかしたら騎馬戦の時に足を痛めていたのかも。あの感じだと、走るまで本人も大丈夫だと思っていたんじゃない?」

ざわざわと応援席に動揺が広がる。
その間もレースは続くので、紫チームは4位に転落している。

「原田くん……」

最後の力を振り絞るようにして、よろよろと次の走者にバトンを手渡した。
その姿に手拍子がパラパラと起こるけど、本人は魂が抜けたような表情だ。

しかし、もう1位とは絶望的な差が開いている。

「大丈夫、次は野球部の俊足だから。その後は凛だね」

舞ちゃんの真剣な眼差し。
私も固唾を呑んでレースの行方を見守る。
先頭集団はもう次の走者にバトンを渡そうとしていた。

第五走者の場所で横並びに立っている、凛ちゃんが凪くんに向かって口を開いた。それは凪くんだけに聞こえ、一瞬だけ驚いたような表情になったかと思えば、口角を上げた。
その直後にバトンが凪くんに渡る。

「うわー。王子の足の速さ、ヤバいね」

首位との差をあっという間に縮め、独走していく。まるで軽やかな風みたいで、誰も追いつかせない背中だった。
女子たちから黄色い悲鳴が上がる。

「凛にバトンが渡ったよ。でも、ちょっと巻き返したとはいえ、王子のところまでは差がありすぎる……」

舞ちゃんの声には諦めが滲んでいて、それを聞いて、胸の前で握っていた手に力を入れた。
緊迫した終盤のレースに息が止まりそう。

「……あれ? ちょっと待って。凛のやつ、めちゃくちゃ速くない?」
「うそ……」

目の前の光景が信じられなかった。
まるで目の前の獲物を狙う獣のように、凛ちゃんのスピードは加速していく一方だった。ぞくりっと身震いがした。

2位を走っていた黄チームを追い抜き、凪くんとの差は10メートルくらいにまで縮まっている。

うぉぉぉぉぉ!!という男子たちの雄叫びが木霊する。
「凛太郎ー!!」という、佐野くんと原田くんの叫び声も聞こえてくる。

「いける!いけるよ、凛ー!」
「凛ちゃん……」

凪くんが背後をチラッと確認した。
その表情に驚きはない。まるで、凛ちゃんが追いついてくるのが分かっていたように。

凛ちゃんは驚異のスピードで、確実に距離を詰めていく。8メートル、7メートル……あと1メートル。凪くんの喉元まで迫った。
観客のボルテージは最高潮といわんばかりに、そこかしこから声援が上がる。

凪くんと凛ちゃん、どちらを応援するか競っている。まるでこの声援合戦に負けたほうが負けみたいな空気がある。


――先に約束したのは俺だから。応援してくれるよね?


凪くんとの約束が頭を過ぎる。
どちらも必死の表情で、胸が苦しくなる。

……私は凪くんを応援するって言ったんだよ。

ゴールの瞬間はスローモーションを見ているようだった。
あと一歩で追いつく。獣が最後の牙を剥いているようで、息を忘れてしまう。
もうゴールテープを切ることしか見えていないようで、踏みしめた場所が砂を舞い、二人とも勢い余って転がり込んだ。

先に起き上がった凪くんが泥を払い、凛ちゃんに手を伸ばした。それにほんの少し躊躇を見せるが、手を取った。
観客はその様子を静かに見守った。息を殺すのが当然の空気だった。

先生から勝者が伝えられる。

「ただいまの判定は――」

目を閉じても、声は耳に届いてしまう。逃げることはできない。

「――青組の勝利です!!」

その判定にグラウンドは煩いくらい盛り上がったけれど、凛ちゃんは顔を押さえて俯いていた。肩の震えが泣いているようにすら見えた。凛ちゃんが人前でそんなことするはずないのに。

友達として、その姿に胸が締め付けられそうになる。

「原田の分まで頑張っていたけど、惜しかったね」
「うん……」

舞ちゃんに肩を抱かれる。

「ねえ、莉央」

責めるような色は一切なく、優しく問われる。

「どっちの応援をしたの?」

ドキッとした。チームを裏切ったことを見透かされていたなんて。気まずくて俯いてしまう。

「なるほど、王子かー。あ、怒ってるわけじゃないよ」

よしよし、と頭を撫でられる。

「でも、その顔は……」と言いかけたのに、続きは聞こえなかった。

凪くんを応援するって約束を守ったのに、あんなに必死になっている凛ちゃんを応援できなかった。どちらか一方は応援できないって分かっていたはずなのに。
今夜は自己嫌悪で眠れないかも……。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。 人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい! そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。 そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。 ☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。 ☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。 ☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。 ☆書き上げています。 その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。

愛が重いだけじゃ信用できませんか?

歩く魚
恋愛
【ヤンデレと戦えるのは遊び人である】 古庵瑠凪は、大学内における、いわゆる「何でも屋」に相当するサークルに所属している。 生徒を助け、浮かれたように遊び、大学生の青春を謳歌する、そんな毎日。 しかし、ある日「お見舞い」が自宅のドアにかけられていたことを皮切りに、彼の平穏な日々に変化が訪れる。 「好きだからです。世界中の誰よりも好きで好きでたまらないからです」 突然の告白。ストーカーの正体。 過去の一件から恋人を作らないと決意した瑠凪は、さまざまな方向に「重い」ヒロインたちのアプローチから逃れることができるのか?

鏡の中の他人

北大路京介
恋愛
美容師として働くシングルマザー。顧客の一人が、実は自分の元夫を訴えている原告側の弁護士。複雑な立場ながらも、彼の髪を切る親密な時間の中で、プロとしての境界が曖昧になっていく。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

一条さん結婚したんですか⁉︎

あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎ 嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡ ((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜 ⭐︎本編は完結しております⭐︎ ⭐︎番外編更新中⭐︎

処理中です...