シンデレラになりたい私 × 王子様になりたくないあなた

音央とお

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文化祭の準備は着々と進み、放課後に残れる人が内装の準備をすることになっている。
手先の器用な凛ちゃんは射的の看板の色塗りを任されていた。
少し長い髪をハーフアップにして、真剣な眼差まなざしで筆を走らせている。

「凛の横顔って美人。黙ってると魅力が増すタイプだな、あれは」と舞ちゃんが腕を組みながら唸る。

確かに綺麗だけど……

「笑ってる時の凛ちゃんのほうが素敵だと思うなぁ」

柔らかい眼差しで、微笑んでくれてる時が一番好き。

「あー、それは……。莉央といる時の凛はいい笑顔だと思うよ、うん」
「どうかした?」
「うーん、いや、そのとおりだと思うよ」

舞ちゃんにしては歯切れの悪い様子に首を傾げる。
笑顔で誤魔化された……気がする。
なんだろう?

見つめていると、一瞬こっちを見て目を伏せた。
再びどうしたのか聞こうとする前に、言葉が被せられる。

「そんなことより、ちょっと休憩しよー。お腹空いちゃった!学校の前のコンビニで何か買ってこよー?」
「……そうだね。凛ちゃんにも何か買ってあげよう」

違和感の正体は掴めないまま、拾ったはずなのに指の間からこぼれ落ちるようだった。
でも、聞いちゃいけないような気がする。

「アイスでも食べようかな」
「お? いいねー。食べよ、食べよ!」

財布とスマホだけを持って、舞ちゃんと出かけることにした。

準備に追われているのはどこのクラスも同じで、中庭では演劇の練習が行われていた。

「へぇ~、いろんなクラスがやってるみたいだねー。あっちは3年生だし、向こうは1年生のクラス」
「見てわかるんだ」
「友達の姿が見えたからねー」

軽く話しているけど、顔が広いからだね。

「んー? これだと、お互いの状態が筒抜けだけど、これも戦略か。えー、おもろっ」

舞ちゃんは私に見えないものが見えている。
そう考えると、やっぱりさっきのは……。駄目だ、私ではわかんないよ。
手のひらに爪を立てる。こうしていないと不安で震えそう。

「あれ? あそこにいるのって王子じゃない?」

俯いていた顔を上げる。
指が向けられた先を追えば、稽古中の凪くんが立っていた。

「人魚姫やるんだっけ? 声がよく聞こえないから、どこのシーンかさっぱりだねー」
「うん、でも、佇まいだけでも王子様って分かるよ」

服装はジャージ姿なのに、彼が王子様で間違いないというオーラがある。
きっと、華があるって言われるのはこんな人なんだと思う。

所作の一つ一つが美しいから、ほう……っと感嘆の息がもれてしまう。
女の子に伸ばす手も、踵を返す姿も、ゆっくりじゃないけど丁寧なんだ。
不自然さは全くなくて、長年意識された動きなのかも。

「なんか、じっくり見比べると、凛とは真逆のタイプだよねー」
「うん。……なんで凛ちゃん?」
「身近なイケメンだから?」

それで比較したんだ。
うーん、二人を比べるとかしたことがないなぁ。
言われてみれば、対照的なのかも?

「原田でも佐野っちでもいいけどー。ちょっと絵面的に弱いじゃん。……あ、今の発言は本人たちには内緒ね」

舞ちゃんは「やっちまったぁ」とわざとらしく頭を抱えたポーズを取る。そのおちゃめさに、くすりと笑ってしまう。

「莉央は王子に夢中なんでしょ?」
「……ふぇ!?」
「あはは、意識してるのはバレバレだってー。かわいいなー」

やさしく頭を撫でられる。

「でも、王子は周りが放っておかないだろうね。ほら、見てごらん」
「え?」

言われたとおり、周囲を観察してみると、他のクラスの人達が練習を止めて凪くんに注目していた。
「あれが噂の王子」なんて声が聞こえてくる。うっとりとした目で見ている子もいて、胸がざわついた。

凪くんがモテることはずっと知っていた。
仲良くなればなるほど、自分は特別に思われてるんじゃないかって感じているけど、不安にもなる。

相手役おひめさまの子、可愛いな。
凪くんもそう思ってる?
――王子様に想われるなんて、ずるい。

頭に過った言葉に、自分でびっくりした。

「今、嫌なことを考えちゃったかも。どうしよう!」
「え? どうしたー? 落ち着いて」
「わかんないよ」
「おーい、莉央ー? 聞こえてるー?」
「どうしよう……」

モヤモヤするこの胸の感じ、こんなの欲しくない。
絵本みたいにキラキラでロマンチックな気持ちだけ抱えていたい。妙に落ち着かなくて、自分が嫌いになりそう。

これはきっと、知る必要のないこと。
だって、絵本のお姫様には書いてなかったもん。








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