シンデレラになりたい私 × 王子様になりたくないあなた

音央とお

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凪くんのお家訪問は夢のような時間で、そのふわふわとした余韻に引き摺られながら週明けを迎えた。

校内の至るところに、文化祭という非日常感が見え隠れし始めた。ほぼ完成した飾りや看板が廊下や教室の一角にある。

「日直は準備室までこのノートを運んでくれ」

授業終わりの先生の言葉に「はい」と反応する。
今日は佐野くんと日直だ。

「このくらい、俺一人で大丈夫だよ」
「私も日直だから、ちゃんとやりたい」

なんて押し問答の末、三分の一程度のノートを運ぶことになった。並んで上の階の準備室を目指す。
これと言った共通の話題がないけど、無言も気まずいので口を開く。

「佐野くんの彼女は文化祭に来るの?」

かわいいキャラ弁を持たせてくれる、凛ちゃんとも同じ中学だったという彼女。その他の情報を知らないため、輪郭がつかめない。

「来るよ。俺のいないところで、変なちょっかいかけられないと良いんだけどね」

「文化祭って浮かれた奴が多いから」と付け加えられる。
どこか飄々としているのに、意外と彼女には熱いらしい。

「凛ちゃんとも久しぶりに会うんだよね?」
「卒業式以来じゃない? ……と言っても、あの二人はそんなに関わりがなかった。なんとなく知ってる程度の顔見知りってところ」
「そうなんだ」
「君の知り合いは来ないの? 中学の同級生とか」
「高校に入ってから、そんなに連絡を取っていないんだよね」

そう考えると、私の人間関係は狭い。
最近の通話の履歴を考えてみても、凪くんと凛ちゃんだけで、埋め尽くされそう。

「莉央」

準備室から出ると、廊下で凛ちゃんが待っていた。
佐野くんが「わざわざお迎え?」と笑った。

「どうしたの? なんかあった?」
「最近ゆっくり話せてないから」
「なるほど、お互い忙しかったもんね」

休み時間も準備に追われ、疲れているから夜の電話も数分で切ってしまう。今日はやっと忙しさも落ち着いた日だ。

「水を差すのもあれだから、俺は先に戻るよ」

目配せをされた凛ちゃんが「うん」と答えた。

「佐野くんの彼女ってどんな人?」
「なんで?」
「さっき、そんな話をしたから。同じ中学だったって聞いたよ」
「……静かな感じってことしか。あと、佐野がすごく大事にしてる」

それはさっきの会話でも伝わってきた。
誰かに大事にされてるっていいなぁ。

「中学の時の凛ちゃん。……想像できないな」
「別に普通だよ」

凛ちゃんの普通?
普段の様子を思い浮かべると、面倒見が良さそうだなという結論になる。

凛ちゃんは、私の知らない過去を思い出して「それなりに楽しかったけど、戻りたいとは思わない。今が一番幸せ」と呟いている。そして、視線が絡み合う。
ああ、凛ちゃんの視線はなんで、いつもこんなに擽ったいほど温かいのかな。

「髪の毛、直してもいい? ちょっとゴムが弛んでる」

言われてみれば、触ると弛んでいることに気付く。
髪を解いて、ゴムを手渡した。

「髪の質なのかな? すぐに解けちゃうんだよね」
「サラサラしてるせいなのかも。莉央らしい質感で俺は好きだけどね」

気にしていることを、それもいいねと褒めてくれる。

「どうせなら、ちょっとアレンジする?」
「やった! うれしい」
「何にする?」
「おまかせするよ。簡単なのでいいからね」

窓ガラスの反射に目を向けると、凛ちゃんは真剣な表情をしていた。テキパキと大きな手を動かし、あっという間に低めのお団子を作ってしまう。おくれ毛を多めに残しているのが、また可愛い。

「凛ちゃん! 完璧! 簡単なので良いって言ったのに、すごい」
「これくらい、いつでもやるし」

耳が赤くなっているのを隠せてないよ?

「落ち着くなぁ……」という気持ちが声に漏れる。

「ん?」
「やっぱり、凛ちゃんといると落ち着くなって思ったの。最近ゆっくり話せていなかったの、私も寂しかったのかも」

交友関係が狭くても、凛ちゃんみたいな友達がいれば充分だ。

「いつもありがとうね」
「別に、普通だし」

顔を隠しても、耳で丸わかりだよ?

それを誤魔化すように話題を変えられる。

「文化祭さ、一緒に回る? 野宮や原田も誘ってもいいし」
「うん、そうしよう。みんなで回ると楽しいだろうね」

クレープを食べたり、お化け屋敷に入ったり。
憧れていた少女漫画の世界みたいな文化祭。きっと楽しい。
想像を膨らませていると、凛ちゃんは意外そうな顔をしていた。おそるおそるといった様子で口を開く。

「……凪くんはいいの?」
「劇の準備と、テニス部の出し物で忙しいみたいなんだ」

とっても残念だよ、と寂しそうに笑っていたのを思い出す。

「そっか……」
「凪くんの劇は見に行きたいかな」
「うん、いいよ。莉央が行きたいなら俺も行く」
「楽しみだなぁ」

心を弾ませている横で、凛ちゃんが目を伏せていたことに私は気付いていなかった。
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