シンデレラになりたい私 × 王子様になりたくないあなた

音央とお

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――いつもと違う時間。

クラスメイトたちが「2日間頑張るぞ」って気合いを入れた顔をして、小さな子から大人まで、普段は別の空間で授業を受けている制服の子たちまで、いろんな色が見え隠れする。

「そんなわけで、文化祭1日目だー! みんな頑張るぞー!!」

安定の原田くんの雄叫び。
うん、頑張るぞって気が引き締まる。

「じゃあ、凛と莉央は校門のところでビラ配ってねー。積極的に声をかけなくても大丈夫。むしろ近寄ってくるから。あはっ」

ずっしりとした紙の束を渡される。
舞ちゃんといっぱい悩んで完成させた傑作……かな?
出来はいいと思うけど、ちゃんとお客さんを呼び込めるかな。

周囲の視線を感じると思ったら、浴衣を着た凛ちゃんに一点集中してた。でも、わかる。
男物の無地な浴衣のはずなのに、女子よりも華がある。
舞ちゃんの言う“近寄ってくる”ってこういうところなんだろうね。

「あっ、ビラを渡すのは莉央の役目ね。凛は目を引くけど、怖がられるから。……ってどうした? 鈴木ちゃん。なんか肩が震えてるけどー」
「野生の狼と小兎みたいな二人。この二人が並ぶことで相殺される。――いいえ、魅力が倍増するの!」

普段は大人しい鈴木さんが、感情爆発したように喋りだした。「浴衣の提案をした私、天才では? 知ってた」と、よく分からないけど自画自賛を始めたみたい。

その様子に圧倒されて戸惑っていると、「行くよ」と凛ちゃんに袖を引っ張られる。うん、行こう。

爆音でミセスの“ライラック”が流れている。
いいね、自然と足取りが軽くなる。

「射的とスーパーボールすくいやってます。良かったら来てね」

小さな女の子にビラを手渡す。紅葉みたいな手が可愛すぎた。
次に渡したのは年配のご婦人で、凛ちゃんの浴衣を褒めて行った。
その次は女子大生くらいのグループだった。私の髪形が素敵って言ってくれた。

「……」

用意された半分ほどのビラを配り終えて思うけど、男性に全然渡していない気がする。遠巻きに目は合うんだけど、気付いた途端にいなくなる。
そんなに恥ずかしがり屋ばっかりなのかな……。

「疲れてない?」

凛ちゃんに顔を覗き込まれる。いつの間にこんなに近くにいたんだろう。さっきまで2メートルくらい離れていたのに。

「順調に捌けてると思うけど、男子に渡せてなくて」
「渡したいの?」
「そりゃそうだよ?」

不思議なことを聞くなぁ。
ビラの一部を取り、その辺にいる男子たちに「どうも」「はい」と配り始める。笑顔を作っているはずなのに、言い方の温度が低い。もう! そんなんじゃ来てくれないよ?

「こんにちはー。射的とスーパーボール来てください!」

凛ちゃんの分まで愛想良くしたつもりが、なぜか男子にもっと避けられ続けた。私、この役割が向いてないのかも……。


*   *   *


教室に戻ってみると、ビラの効果はあったのか廊下にまで行列ができていた。

「じっくり狙って。そう、上手。はい、そこで銃爪を引いて」

小学生の男の子に、射的の狙い方を教えてあげる凛ちゃん。低音だけど優しい声だ。
「すみません、あの特権は子どもだけなんです」と鈴木さんが周りに説明していた。そりゃ、大人には不要だろう。

時計の針がてっぺんを指す頃、舞ちゃんが待ち切れない様子で口を開いた。

「よーし、当番終わりー! 文化祭回ろー! 佐野っちは彼女と回るだろうから、原田と舞と莉央と凛ね」
「お腹空いちゃった」
「うんうん、何食べるー?」

ちょうどお昼だから、どこも混んでるかも。
文化祭のプログラムを見ながら相談する。

「原田くんは何が食べたい?」
「唐揚げ!」

手分けをしながら食べ物を集めて、みんなで屋上で食べた。今日だけは屋上も開放されていて、ますます特別な日って感じがする。

「王子の劇って何時からなの?」
「2時半からみたい」
「じゃあ、そろそろ移動しとくー? 私の読みでは、早めに行かないと埋まるかもー」

凪くんが出るってなると、それはそうかも。
ポケットの中に入れていたスマホが振動する。噂をしていたからかな? 凪くんからの着信だった。

少し周りから距離を取り、電話に出る。

「どうしたの?」
『……莉央ちゃん。ごめん、声が聞きたくなって』

気のせいかな?
声がちょっと硬い気がする。

「緊張してる?」
『……バレたかな。うん、思ったより大きな舞台で上手くやれるか……』
「大丈夫だよ。凪くんは誰よりも王子様みたいだから」

心からそう思っているから伝えたのに、凪くんからの反応は静かだった。




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