Freaks! “つゆ払い役”の天才魔導士が役目を終えて退場、なんて許さない!

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第四章 救いの糸

ep.18 一筋の光

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 『先輩は、ときどき地下に連れて行かれるんだ』

少年のささやきに、胸が不安でいっぱいになる。
コンスタンシアは、学園の廊下を急いでいた。周囲の景色は遠のき、耳に残るのは自分の呼吸の音だけだった。

『なんで、ですか』

コンスタンシアの問いに、少年はただ首を横に振った。

『戦術科の実験室の裏に、出入り口があるはず。……行くなら、気を付けて』

休日の校舎は、ひどく静まり返っていた。
コンスタンシアは足を止め、実験室の裏に立った。

 校舎の影に、それはあった。雑草に隠れた鉄の扉。

コンスタンシアは扉に手をかざし、少年に教えられた呪文を唱えた。
扉の動く轟音に、彼女は思わず肩を縮める。

暗闇が、口を開いた。
地下へと続く階段。冷気が足元に絡みつく。

本当に、こんな場所に彼が……?

『憧れとか、あの人には通じないよ』

コンスタンシアは、かぶりを振った。

ううん。ただ、当たり前に、そこにいてほしいの。
話せなくてもいい。ふと横を見たら、本を読んでいる彼がいてほしい。

ぎゅっと拳を握り直し、コンスタンシアは足を踏み出した。

 どれくらい下っただろうか。階段を下りるたびに、胸の鼓動が激しくなる。

地下通路に辿り着いた。見渡す先の壁に、一か所だけ、明かりの灯る燭台があった。
コンスタンシアは、その扉の前に立ち、息を吐く。

鍵はかかっていなかった。
扉を開けた瞬間、カビと鉄の臭い、そして生ぬるい湿気が押し寄せた。

「先輩!」

鈍く光を返す濡れた石床の上に、彼は横たわっていた。
コンスタンシアは駆け寄る。躊躇いがちにその肩に触れた。

思わず、冷たさに手を引きそうになった。

どうしよう。顔が真っ白だ。
とにかく、温かくしなきゃ。
どうして、彼がこんな――。

慌ただしく上着を脱ぎ、そっと彼に被せた。
そのときにやっと、彼の手首の鎖に気付く。

「なに、これ……」

それに触れると、彼の指先が小さく跳ねた。
コンスタンシアは慌てて手を引っ込める。

「……誰」

長い睫毛が震え、彼は瞼を開いた。
若葉色の瞳は、焦点を失ったように揺れている。

「コンスタンシアだよ」

声は掠れていた。うまく声が出なかった。

「コン、スタンシア……?」

翠の目が、彼女の姿を捉えた。

「……本当、に?」
「本当だよ」

コンスタンシアは、彼の手にそっと自分の手を重ねた。
氷のように冷たくて、泣きそうになる。

「……どう、して」

絞り出したような彼の声。
コンスタンシアは、震える自分の手を押さえた。

「……会いたかったから。ここから、出よう」

彼の目がわずかに見開き、すぐに伏せられた。
その指先が、ほんのかすかに、彼女の手を握り返した。

◇◆◇

 暗闇の中、彼はただ息を殺して耐えていた。――その声が、ここに届くまでは。

 目を開けているのか、起きているのか、眠りの中なのか、わからなかった。
音も、身体の感覚も、どこか遠い。
呼吸の苦しさと、手足の冷たさだけが、確かだった。

まるで、水の中にいるみたいだ。

 ギルバートは濡れた石床に横たわっていた。
その両手首には、魔力を封じる輪が嵌められている。

彼の指先が輪に触れた。ぞくりとした感覚に、指は力なく離れた。

その輪によって、彼の身体を巡る魔力は遮られ、感覚も再生も、すべてが止められていた。

 どれくらいの時間が経ったのか、それすらも曖昧だった。

罰の時間は、とうに終わっていた。
ただ、封じられた魔力が戻る反動――眠っていた痛みと感覚が呼び起こされ、体中を暴れまわる苦しみ――を恐れ、動けずにいたのだった。

「……会いたかったから。ここから、出よう」

耳に落ちた柔らかな声を、ギルバートは拒むことができなかった。

 二人は地下を抜け、誰もいない廊下をゆっくりと進んだ。

枷を外された瞬間、彼女の体温は焼き付くように感じた。
けれど今は、ただ温かい。
その温もりに縋らないように、ギルバートは足に力を込める。

 分かれ道で、ギルバートは足を止めた。

「そっちは目立つから。こっち」
「でも……」
「……医務室は、だめなんだ」

話したところで、理解されるはずはない。そう思っていた。
けれど、彼女は少し考えて、「わかった」とだけ答えた。

「じゃあ、先輩の部屋に」

当たり前のようにそう言って、小さな体で、彼を支え直す。
その膝が震えていることに、ギルバートはずっと前から気づいていた。

――本当に、何も聞かないんだな。

それが、今の彼には救いであり、胸に残る棘だった。
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