僕らはミステリー愛好会！ ～シリーズ全三話収録～

【本章】 叙述トリックとは

「ねぇ、これ読んだ？！ 面白かったぁ。特にラスト、驚かされた。主人公って実は――あ、ネタバレしちゃて大丈夫？ 」
　いつものハイテンションで、忠宏が一冊の短編集を差し出してきた。
　彼が気に入ったらしい『ピンチヒッター』は、そこに収録された作品の一つだ。
「俺も読んだよ。これは、あれだ。所謂、叙述トリックってやつだよな」
　勇は素っ気無い。忠宏とは対照的だ。
「じょじゅ……何それ」
「読者を意図的に騙すやつ。俺はあんま好きじゃない」
　きっぱりと放つ勇。忠宏は溜息をもらしながら、今度は僕の方を向いた。 
「ねぇ、啓太は どう思う」 
「場合によるかな。ちゃんとした伏線があればいいと思う」 
「へぇ……」
　自分から聞いてきた割に、伏線には興味がないのか反応が薄い。代わりに勇がくいついてきた。 
「あぁ、啓太にとっちゃ伏線があるか否かが重要なんだな。俺としちゃ、それ以前に、この設定自体が受け入れ難い」 


　叙述トリック――人によって、または種類によって賛否はあるものの、創作におけるテクニックの一つとして広く親しまれている。 

　××と思わせといて、実は○○でした―― 

　本当は○○であるものを、叙述力によって あたかも××であるように、読み手に錯覚させるのだ。 あくまで〝叙述〟によるものだから、映像が加われば一発でバレてしまうものはある。特に、見た目に関するものは隠しようがないから。
　だけど、叙述トリックには割とたくさんの種類があって、見た目に関係ないものもあれば、演出によって上手く誤魔化せてしまうものもある。その為、叙述トリックを軸にした小説でありながら、ドラマ化や映画化された作品も少なくない。

　僕は、メモ用紙とペンを取り出した。数ある叙述トリックのパターンを書き出してみようと思ったからだ。