ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ

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第205話 途方に暮れる報道関係者③

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 暴力団員二人組とボロボロの姿となった更屋敷太一を見て米沢は顔を強張らせる。

「なっ……!?」

 な、何で……確かに撒いた筈なのにっ……!?

 だからこそ、多少、危険を冒してまでレンタカーをステーションに戻しに来たのだ。しかし、今となっては、それが完全に仇となってしまっている。

「『なっ……!?』って、何だ? 今、どこに行くつもりだったんだ、コラッ!」
「す、すいません! すいませんっ! 」

 腕を上げ威嚇する暴力団員に怯える米沢。
 逃走しようとしていた現場を抑えられた米沢は必死になって考える。

 ど、どうする?
 どうしたらいいっ!?

 更屋敷太一は暴力団員に確保されている。
 もし万が一、俺が更屋敷太一を唆し、被害届を出させた事がバレたら……。
 もしバレてしまったら……!?

「そんな事は聞いてねーんだよ! どこに行くつもりだったんだって聞いてるんだよっ!」
「は、はい! そ、それはですね……何と言いますか……」

 その場凌ぎでもいい!
 頭をこねくり回してでも言い訳を……!
 言い訳を考えなくては……!
 言い訳を考えなくては、私は山に……。山に埋められてしまう……!

 米沢は必死になって考える。
 米沢の事を見張っていた暴力団員に対する言い訳を……。
 泣きそうになりながらも必死になって考える。

 何かないか……何かないかっ!?
 そ、そういえば、さっき車の中で任侠会に関するラジオが流れていた様な……。

 米沢は懸命になって頭を働かせる。

『――はっ!?』

 そ、そうだっ!?
 思い出したっ!!
 広域暴力団・任侠会に警察の家宅捜索が入ったんだ……!
 そうラジオで流れていたっ!
 しかも、かなり大掛かりな捜索だった筈……!
 そ、それなら……。

 米沢は入館証を取り出し、暴力団員に提示する。

「――ち、違う! 違うんですよっ! 私はあなた方の力になりたかっただけで……そ、そう! この入館証を……この入館証を持って放送局に行くつもりだったんです……! す、すべてはあなた方の為に働く為にっ……ほ、本当ですっ!」

 暴力団と繋がりを持つのは嫌だがこうなっては仕方がない。
 そう言っておかない事には命の保証はない。
 暴力団は誰も彼処もアウトロー。
 一般人である私に、どうこうなる様な存在ではない。

 すると、暴力団員が恫喝してくる。

「――ああっ? 適当な事を言ってんじゃねーぞ、コラッ!」
「い、いえ、そんなつもりは……!? わ、私は局内でそれなりの地位にいます! あなた方の推薦する相手をテレビに出す事もできます! 情報の横流しも可能です! だから……ですからっ……!?」

 米沢がそう言うと、暴力団員は入館証を取り上げ、呟くように言う。

「ふーん……そこまで言うなら、俺達の言う事を聞いて貰おうか……」
「えっ……?」

 い、一体何をさせる気で……。

「――そうだな……とりあえず、警察を非難するニュースでも流して貰おうか」
「えっ? け、警察を非難するんですか……?」
「ああ、簡単だろ? 今、うちの事務所に警察がガサ入れしていてよぉ。まずはそれについて非難して貰おうかじゃねーか……ちょっと、騒ぎ過ぎなんじゃねーかってよ?」

 じ、冗談じゃない。
 そ、そんな、報道のタブーに触れる様な事できる筈が……。

 そんな事を考えていると、暴力団員の一人が米沢に顔を近付ける。

「その顔……出来ねーって顔してるぜ? ふーん。へえ……そう……」
「い、いや、できない訳では……しかし、他局が揃って同じ報道をしている中、それを擁護する様な報道を流す事は……」

 流石にできない。
 そんな事をすれば、流石に不審に思う。不審に思ってしまう。
 警察も馬鹿じゃない。間違いなく暴力団との癒着を疑うだろう。
 それに警察を敵に回せば、警察庁が総務省を介して圧力をかけてくるかも知れない。
 しかし、断ればどうなるか……。

 暴力団員は米沢の肩を軽く叩くと笑みを浮かべる。

「――なに、安心しな。大丈夫だ。お前は何も考えず俺達の操り人形になっていればいいんだよ。それになぁ……お前ん所の社長も俺達の操り人形……問題ねーよ」
「はっ? 社長がっ……!?」

 それを聞いた瞬間、米沢は顔を強張らせる。

 ど、どういう事だ……。操り人形??
 まさか、社長まで暴力団員に脅されて……。

「――何もわかんねーって顔だなぁ……。特別に教えてやるぜ。更屋敷太一を襲ったのは、親父の孫の祐樹坊ちゃんだけじゃない。日毎放送の社長、猪狩雄三の息子も絡んでいたんだよ!」
「ええっ……!?」

 社長の息子が更屋敷太一を!?
 んんっ? いやいや、ちょっと、待て。その情報を暴力団員が知っているという事は……。

「――お前のせいで親父がパクられそうになっているのは許せねぇが、このご時世でテレビ局の上層部と関係が持てたのは大きい。今回の件は借りにしておいてやるから安心しな……お前のお蔭で猪狩は俺達の手に落ちたも同然だ」

 その瞬間、米沢は心の中で絶叫を上げた。

 や、やっぱり、バレてる――!?

 更屋敷太一の姿がボロボロになっている時点で察するべきだった。
 恐らく、対面する前から知っていたのだろう。米沢が被害届を提出させた事を……。

「……あ、ありがとうございます」

 米沢に言える事は、『借りにして頂きありがとうございます』のただ一言だけだった。

 ◇◆◇

「さて、久しぶりに王城の様子でも見に行くか……」

 珍しく早起きをした俺こと、高橋翔はヘッドギアの電源を入れ、頭にかぶるとベッドで横になる。

「――コネクト『Different World』!」

 そう言うと、『Different World』の世界へ再ダイブした。

 王城の隣りに聳え立つゴミの山。

「相変わらず、酷い状況だな……。うん……」

 まあ、国中のゴミを一挙に集めているからな……。
 こうなるのも当然か……。

 外側から王城を眺めているだけでよくわかる。
 本当に酷い状況だ。
 王城を覆う様に被せた事により、ゴミ山から発生した煙が上空に溜まっている。
 まるでロンドンスモッグ。
 とんでもない公害が城壁の中で発生しているのではないだろうか。
 そう思ってしまう程、拙い状況だ。

「――大丈夫かな……これっ……?」

 城壁の中、マジで大変な事になっているんじゃ……。
 これ、中で死人とか出てないよね?

 とりあえず、城門へと向かうと、中から呻く声が聞こえてくる。

『だ、誰か……誰か助けて……』
『何でも……何でもする……だから、せめて私だけでも……』
『お願い……します……悪かったから助けてくれ……』

「お、おう……」

 城壁内は想像以上にヤバい状況の様だ。
 俺に気付いた自警団が気まずそうな表情を浮かべ向かってくる。

「状況の報告を……」
「――はい。貴族の方々はどうやら食糧すべてを賊に奪われてしまった様でして……。昨日より助けを求めこの様な状況に……」
「そっか……」

 そういえば、城壁内に追いやったな……。城壁近くに住んでいた浮浪者達を……。
 どうやらその浮浪者達が賊となり、王城の食糧を奪い去ってしまった様だ(まあ、知ってたけど……)。
 城壁内には、ゴミが燃えた際に発生した煙が充満している。
 となれば、中は地獄そのもの……。

「取り敢えず、この防毒マスクをして、影の精霊・シャドーを持っている部隊を中に突入させて……」

 透明な壁で覆われている内に、城壁内のゴミを処理しないと大変な事になりそうだ。王都に大気汚染物質が流れ込んでしまう。

 そう言ってアイテムストレージから防毒マスクを取り出すと、自警団に渡していく。

「はい。すぐに突入させます!」
「うん。その後、城門の前に貴族と浮浪者の方々を一度、保護する様に……ああ、水は与えてもいいけど、食事は与えない様に気を付けてね。契約を結んだ者から順次、療養する様に……」

 もはや、俺が指示すべき事ではないが、最初にこれを始めたのは俺自身。
 その責任は取らなくてはならない。

『もう三日……三日経ったぞ……』
『死ぬ……このままでは死んでしまう……』

 それに城壁内から聞こえてくる声があまりにも……何というか……。
 これが兵糧攻めの恐ろしさかと思ってしまった。

 明智光秀や豊臣秀吉も行ったとされる兵糧攻め。
 確かに効果抜群だ。戦わずして勝つという戦いの王道がこれ程までに有効だとは……。
 まあ、お蔭で貴族共の聞くに堪えない恨み言や罵詈雑言を聞かずに済んだから良しとするか……。
 上級国民の思い付きや失敗のツケを払わされるのは、いつだってそこに住む国民なのだ。今回はそのツケを強制的に上級国民……いや、支配者階層の方々に取らせただけ。
 むしろ、城壁内に貴族家当主を閉じ込めたお蔭で、その貴族が兵士を動かし、戦いに発展する事も無かった。貴族以外に被害を受けた者はおらず、むしろ、被害を最小限に抑えて差し上げた訳だ。感謝される覚えはあっても、恨まれる覚えは全くない。

 影の精霊・シャドーを持っている部隊と自警団が防毒マスクを顔に着け、城壁内に突入してから数時間後。

 血色の悪い髭面の貴族が血色は良いが青褪めた表情を浮かべる浮浪者達と共に城門から出てきた。
 三日間、風呂に入っていなかったのだろう。皆、酷い臭いだ。
 丸々太っていた貴族達が三日、食事を抜いただけでゲッソリした表情となってしまった。体調も悪いのだろう。何だか、咳き込んでいる様にも見える。

「皆さん、大丈夫ですか? これ飲みます?」

 そう言うと、俺はアイテムストレージから回復薬を取り出す。
 上級回復薬の定価は一本当たり一千万コル。
 暇な時に作成したメニュー表形式で、定価をお知らせすると、貴族達は目を見張らせ睨み付けてきた。
 当然だ。提供する以上、金は取る。
 しかし、値段の高さ故か誰も回復薬に手を出さない。

「う、うぐぐぐぐっ……」

 不本意な契約書に署名させられた貴族達は回復薬で体調を戻す事ができぬまま、この場から運ばれていく。
 誰かしら自分の地位を笠に着て横暴をかましてくるかと思ったが、そこまで馬鹿な奴はいなかったらしい。流石はお貴族様。兵糧攻めという名の苦行を経て自分の置かれた立場をようやく理解したらしい。

 ちなみに、城壁内で捕らえた浮浪者達は自警団によって牢屋送りとなった。
 当然だ。この世界は貴族社会だぞ。
 城壁の中、貴族相手に盗賊行為を働くなんてどうかしている。
 例えそれが、俺の仕組んだものであってもだ。
 まあ、その証拠も今となっては残されていない。本人達のみぞ語る証拠なき陰謀論と化したので良しとしておこう。

「さて、それはそうと……」

 たった三日でボロボロな姿となった貴族達を後目に、俺は、影の精霊・シャドーを持つ部隊のお蔭で綺麗になった城門へと向かった。

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 2022年1月7日AM7時更新となります。
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