ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ

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第385話 タラタランチュラの毒

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 兵士と共にミズガルズ聖国の助祭、レンティの尋問を終えた俺はため息を吐く。

「いやー、話が壮大になり過ぎて意味がわからないな……東京都知事選の出馬とセントラル王国の侵略を二つ同時にこなそうとするとか一体、何を考えているんだ?」

 無理だろ。そのジョブ回し。世界跨ってるし……
 しかも、その両方が俺と対立関係にあるってどういうことよ。意味がわかんないよ。

「わ、私だって知るものか! 猊下の崇高な考えが我々、下々の者に分かる筈がないだろ!」

 まあ、言われてみればその通りだ。その『下々の者』の中にさりげなく俺を含めているのがムカつくが、セイヤの奴が東京都知事選に出馬している理由を助祭が知っている筈もない。
 そもそも、ゲーム世界の住民達からして見れば、俺の住む世界の方が異世界に当たる。

「私が知っているのは、猊下がこの世界と異なる世界を統一しようとしている事だけだ!」
「この世界と異なる世界を統一ねぇ……」

 いや、仮にも、聖なる国の教皇様が世界統一ってどうなのよ。滅茶苦茶、野心と煩悩に溢れているじゃないか。
 そんな奴に世界を支配されるなんて冗談じゃない。特定の宗教を押し付けられるなんてごめんだね。

「なら、徹底的に邪魔しないといけないな……」

 幸いな事にセイヤの注意は今、セントラル王国の侵略と都知事選に向いている。
 エレメンタルの調査によれば、都知事選の期間の内、一週間はあちらに掛かりきりになる筈だ。
 いくら聖国の教皇とはいえ、教皇就任とリージョン帝国侵略から間もない。
 奴は自分が教皇になる為なら手段を選ばず、自分以外の枢機卿を消し去るような男だ。
 まず他人は信用しない。する筈がない……となれば、奴が取る手段は限られてくる。

 十中八九、狂信者か契約書または隷属の首輪の力で支配下に置いたセイヤにとって都合の良い奴隷を手足として使ってくる。
 ミズガルズ聖国の聖騎士も教皇就任と共に入れ替えたと言うし、各国に配置された教会はある意味で聖域……治外法権と言っても過言ではない。この世界に住む者にとって治外法権で国でも容易に手を出す事ができないのだからセントラル王国を侵略する際、使う手段は侵略されたリージョン帝国と同じになる筈だ。
 しかし、残念だったな。
 この世界には俺がいる。そう……無神論者の俺がな……。
 一応、ゲーム世界で本物の神と呼ばれる存在に会ったし、護衛をして貰っているがあれはあくまでもゲーム内だけの存在。
 現実世界で神様と会った事がないのだから信じるに値しない。だからこそ、躊躇いなくやれる。

 俺は笑みを浮かべると、一緒に連行されてきた助祭に話しかける。

「もちろん、ユルバン助祭は俺の手助けをしてくれますよね?」

 ユルバン助祭とは、過去にセントラル王国王都支部の教会の司祭だった男。
 祝福を受けに教会に訪れたカイルと呪いの装備の産物であるヤンデレ少女メリーさんの仲を解呪(引き裂こうと)しようとした結果、死に掛け、教会を破壊され降格処分となった挙句、多額の負債を負い、俺に金を借りて教会を建て直した呪いの装備を身に纏うキャバクラ通いの生臭助祭である。

 事情聴取の一環で共に連行されたユルバンは目をひん剥きながら言う。

「嫌です。仮にも私は聖職者ですよ? 神を裏切るような事はできません」
「ほぅ……」

 よくもまあ堂々と真っ当な事を言えたものだ。自分の事は棚に上げ、宣言するとは流石である。

「そうか。それじゃあ、お前との付き合いはこれでお終いだな」

 つまりそれは、俺が敵に回るという事だ。
 それじゃあ、遠慮なく……。

「……そういえば、これ、何だか分かるかな?」

 そう言って、テーブルに取り出したのは、タラタランチュラ。神経系の猛毒を持つモンスターの死骸。
 その毒は無味無臭ながら四時間かけて臓器を麻痺させ、死に至らしめる強力な代物。
 死の恐怖を長く味合わせる為、この国の極刑にも使われる猛毒だ。

 タラタランチュラを見たユルバン達は一様に顔を青褪めさせる。
 そして、目の前に置かれた飲みかけのカップを見ると、ただ一言「まさか……」と呟いた。

 俺としても、こんな非道な手段はできる限りとりたくなかった。
 しかし、今は非常時……。
 尋問に立ち会っている兵士達はタラタランチュラの死骸を見て驚愕の表情を浮かべ、ユルバンは俺を睨み付ける。

「あなた……正気ですか?」

 尋問相手の飲み物に毒を混ぜるなんて正気かとでも言いたいのだろう。
 俺はそれに笑顔で答える。

「……ああ、正気だよ。お前達は思い違いをしているようだが、俺はセントラル王国を拠点にしている。そんな俺がセントラル王国の事を思い行動に移す事がそんなに疑問か?」

 逆に俺からしてみれば、お前達に対して「正気か? 頭大丈夫か?」と問い掛けたい気分だ。こっちは拠点毎国を奪われそうになっているんだよ。手段なんて選んでいられるか。

 すると、尋問を受けていたレンティが体を震わせる。

「う、嘘だ。私の命があと数時間で終わる? そんな、そんな馬鹿なっ……!」
「馬鹿はお前だよ。まあ、でも流石に可哀想に思えてきたな……よし。そんなお前達に朗報だ」

 俺の言った朗報という言葉に教会関係者の面々が顔を上げる。
 そんな彼等の前に立つと、俺は状態異常回復薬と契約書。そして、隷属の首輪を取り出した。

「これは君達の行動と言動を縛る契約書だ。状態異常回復薬の価格は一本当たり一千万コル……君達は今、お金を持っていないだろうからね。この契約書兼借用書にサインし、借金の返済が終わるまで隷属の首輪を付けてくれるなら今すぐこれを提供しよう」

 悪魔の様な俺の提案に教会関係者達は愕然とした表情を浮かべる。
 飲んで状態異常を回復したい。しかし、その為には契約書への署名と借金返済までの間、隷属の首輪の着用を求められる。それだけは絶対に嫌だという気持ちが見て取れた。

 おそらく、聖国の教義と教皇への忠義に挟まれ冷静な判断を下す事ができないのだろう。
 俺ならば、教義や秘密を守って死ぬのも誰かの為に死ぬのも御免である。

「君達はもしかしたら勘違いをしているかも知れないから一応、言っておく。教義を守る事と教皇への忠義はイコールじゃない。ニアイコールだ。何故なら、教皇はただの称号……人間が教皇なんて大層な箔を付け偉そうにしているだけで、教皇は神じゃない。食べて動いてクソして寝るだけの君達と同じ人間だ。そんな人間の為に死ぬのはあまりにもバカらしい。そう思わないか?」

 今頃、教会関係者達の頭の中で天使と悪魔が囁いているのだろう。
 勿論、死を押し付けるのが悪魔で、生にしがみ付けと囁いているのが天使だ。
 俺は少しでも天秤の傾きが天使側に行く様に囁きかける。

「……それに、俺はお前達から金を回収したい訳じゃない。邪魔をしないで欲しいだけだ。俺は平和主義者なんでね。聖国と戦争なんてしたくないんだよ。だが、今、教会を放置すれば、王国も帝国の様に突如として教会に現れた聖騎士団により制圧されてしまうかも知れない。俺はそれを防ぎたいんだ。お前達も戦争をしたい訳じゃないんだろ? だから、協力してくれ。それにサインし、戦争が終わるまでの間、我関せずを貫いてくれるだけでいい。俺はそれ以上を望まない」

 そう告げると、教会関係者達は互いに目を向け合い話し合いを始めた。
 生死が掛かっている事柄だ。茶化さず話し合いする教会関係者達に目を向けていると、ユルバン助祭が前に出てくる。

「……先ほどの話は誠ですか?」
「ああ、本当だ。俺は両国が戦争状態になるのを防ぎたい。協力してくれ」

 そう言って頭を下げると、ユルバン助祭は契約書兼借用書にペンを走らせ、隷属の首輪を首に着用する。

「……これで、よろしいですか?」
「ああ、よくぞ決断してくれた……」

 状態異常回復薬を手渡すと、ユルバン助祭はそれを一気に飲み干した。
 その光景を見ていた教会関係者達も同様に契約書兼借用書にペンを走らせ、首に隷属の首輪を装着した。
 そして、手渡された状態異常回復薬をがぶ飲みすると、空になった瓶をテーブルの上に置く。

「素晴らしい。皆、契約書にサインし、隷属の首輪を装着してくれたのか……」

 誰一人として漏れがない事を確認すると、俺は契約書兼借用書を回収し、笑みを浮かべる。

「……さて、ここからは怒らないで聞いてほしい。実は……君達の飲物に毒なんて入っていないんだ」

 そう告げると、尋問に立ち会っていた兵士と教会関係者全員が鳩に豆鉄砲を喰らったかの様な顔をした。
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