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びーぜろ

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第405話 手負いの獣による精一杯の反撃

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「ギャ!」
「ギャアッ!!」
「や、やめ……もうやめでぇぇぇぇ!?」

 聖騎士に虐殺され、俺の手によって蘇った聖国の民衆による容赦のない投石攻撃。
 命名神の逆鱗により反撃を封じられた聖騎士達は身を守る為、身を捩る。
 しかし、民衆は止まらない。

「…………」
「…………」
「…………」

 無駄な言葉を吐く事なくただひたすら無言で石を投げ続ける。

「もうやめっ! やめて!」
「すいませんでした! もうやめてくださいィィィィ!!」

 聖騎士の必死な懇願を一切聞く事なく投石を続ける民衆。
 聖騎士が泣き叫ぶ姿を見てほくそ笑むその姿に戦慄すら感じる。

「これが民衆の怒りか……怖いな」

 死なないと分かっているのか、はたまた中々、くたばらない事に剛を煮やしているのか投石に一切の遠慮がない。
 石だけではなく、崩壊した聖門の瓦礫や煉瓦まで投げ付けていく。

 最早、言葉は不要。
 民衆による聖騎士の蹂躙劇を他所に、俺は大聖堂を見上げる。

「……さて、セイヤ。ここまで来たぞ」

 よくもやってくれたな……マイナー宗教の教皇様よぉ。
 自国の聖騎士に逆侵攻を掛けられる気分はどうだ? 最高か?

 そんな視線を向けていると、指を噛みながらこちらを見下ろすセイヤの姿が見える。

 どうやら相当応えている様だ。
 窓から見える焦りようを見るだけで俺の心が浄化されていくのを感じる。
 流石はマイナー宗教の教皇。
 恨みの晴らし方をよく知っている。

「でも、お前がそこにいちゃダメだろ……」

 帝国や王国侵攻を目論み実行に移したのは他でもないお前なんだからさ。
 行動には責任が伴う。

「そろそろ出てきて貰おうか。お山の大将」

 そう呟くと、俺は無遠慮にモブフェンリルバズーカを打ち出した。

 ◆◆◆

「な、何だ……何だ、これは……」

 聖騎士に聖門を落とされたかと思えば、何故、民衆が聖騎士を襲っている?
 意味が分からない。意味が分からない。
 何故だ。何故、こんな事になる。

「我が命じたのは王国侵略……ただそれだけだ。なのに……何故、聖国が侵略されている……」

 もし万が一、奴等がここに辿り着けばどうなる?
 教皇である我は間違いなく殺される。憎しみに囚われた民衆に話が通じるとは思えない。

「に、逃げなくては、このままでは拙い。殺されてしま……」

 ……いや、逃げてどうする。

 恐らく、奴等は追ってくる。
 最早、聖国に逃げ場はない。ならば、あちら側の世界に行くか?
 ……論外だ。あちら側の世界に逃げ帰るのは我のプライドが許さない。

 セイヤは指を齧りながら思考する。
 窓の外を見れば、民衆が聖騎士を襲っている姿が見える。
 一箇所に集まっている今がチャンスだ。
 我には、闇の大精霊が付いている。

「よし。あの痴れ者共を皆殺しにし……」

 ドオオオオン!

 その瞬間、爆発音が鳴り響き、足元が崩れる。

 お、おおおおっ!?

 爆発に巻き込まれた影響で一瞬記憶が飛ぶ。
 
「よお、お山の大将。会えて嬉しいぜ」

 気付けば目の前にモブフェンリルが立っていた。

 ◆◆◆

 このモブフェンリルとは初対面だが、雰囲気で分かる。

「……貴様、この世界の人間ではないな?」

 そう尋ねると、モブフェンリルは嬉しそうに笑う。

「ああ、よくわかったな」
「そうか……」

 納得いった。
 こやつも我と同様、神より何らかの力を授かった口か……敵対するのはあまりに愚策。

「ならば話が早い。我と取引しようではないか。貴様の願いを何でも一つだけ叶えてやる。だから、この件から手を引け」

 恐らく、このモブフェンリルが今の状況を作り出した元凶……
 何の怨みがあってこんな馬鹿げた事をしたのか分からないが、今は理由なんてどうでもいい。
 我が直々に折れてやる。
 それで命が助かり、愚民共を纏めて始末できるのであれば問題ない。
 教皇である我が直々に折れてやったのだ。
 モブフェンリルには、我の言う事を聞く義務がある。

 すると、我の言葉が理解できなかったのかモブフェンリルが首を傾げた。

「……何言ってるんだ、お前? 頭大丈夫か? 正気か?」
「……お前だと?」

 お前呼ばわりされた事に怒りが沸く。
 しかし、ここで怒る訳にはいかない。

「正気に決まっているだろう……」

 このクソモブフェンリルが……
 我をお前扱いした罪は後程取らせるとして、今はこの者をこの場から退けるのが優先……
 返事を待っていると、モブフェンリルは笑みを浮かべる。

「正気ね……願いを何でも叶えてくれると言うのは本気か?」
「ああ、二言はない。我に叶えられる願いであれば何でも叶えてやる」
「……もし、それが嘘だった場合、俺、結構、本気で怒っちゃうと思うけど大丈夫か?」

 教皇である我に『大丈夫か?』とは、くどくも馴れ馴れしい野郎だ。
 セイヤはイラつきながらモブフェンリルに返事する。

「二言は無いと言っただろう? 問題ない」
「そうか、なら……」

 そう呟くと、モブフェンリルは我の前に手を伸ばしてくる。

「お前の命を俺にくれ。お前でも叶えることのできる願いだ。問題ないだろ?」

 モブフェンリルの願いを聞いたセイヤは笑みを浮かべる。
 教皇である我の命を貴様にだと?
 何という失敬だ。面白いと思って言っているのだろうが悪辣が過ぎる。

「冗談が過ぎるな――」
「――いや、冗談じゃねーよ。周りの状況を見れば分かるだろ? 民衆はお前の血を求めている。民衆に暴虐の限りを尽くした聖騎士達を見て見ろ」

 民衆に投石されている聖騎士達は皆、虫の息。
 血を流しながら民衆の気が晴れるのを祈る者すらいた。

「……民衆に暴虐の限りを尽くした聖騎士があの有様なのに、何で、その命令をしたお前がタダで済むと思っているんだ? 民衆達に聞いて見ろ。お前が願いを叶えてくれると言ったら、民衆は真っ先にお前の死を願うだろうよ」
「な……馬鹿な……」

 我は教皇だぞ?
 聖国のトップだ。国で一番偉い存在だ。
 それを……言うに事を欠いて庇護対象である民衆がこの我の死を願うだと!?
 馬鹿馬鹿しい。

 深呼吸し、息を整えると、セイヤはモブフェンリルを睨み付ける。

「――残念ながらそれはできない相談だな。宗教で自死は禁じられている」
「そうか、なら交渉決裂だな」

 その瞬間、待っていましたと言わんばかりに、民衆がセイヤを囲い込む。

「……まったく、愚かな連中だ」

 セイヤは自分を囲い込む民衆達に視線を向けると深いため息を吐く。

「貴様らには、信奉者として生きたまま我に奉仕して欲しかったが仕方がない。そんなに死にたければ殺してやろう」

 セイヤは黒いロザリオを取り出すと、それを天に掲げる。

「……悪あがきはよせ。何をするつもりだ」

 モブフェンリルの言葉にセイヤは笑みを浮かべたまま問い返す。

「……モブフェンリルよ。貴様は何故、この国が遺体を燃やす事を禁じているか知っているか?」

 セイヤの問いにモブフェンリルはため息を吐きながら返答する。

「どうでもいい。さっさと、俺の問いに答えろ。一体、何をするつもりだ……」
「ふ……所詮は獣。我の様に崇高な者の考えを理解できる筈もないか……」

 ムカつく言い方である。
 しかし、モブフェンリルは激昂しない。
 哀れな者でも見るかの様な視線をセイヤに送り続ける。

「……大聖堂には歴代教皇と枢機卿。そしてら彼等が使っていたエレメンタルが眠っている。我が神から与えられた力は人の理に反する力。その力……存分に味わうがよい!」

 その視線がセイヤの癇に障ったのか、セイヤはモブフェンリルを睨みつけると捲し立てる様にそう言葉を吐いた。
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