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第5話 スキル検証
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ノアは落ちている木を拾い一ヶ所に集めると、魔の森に自生している着火草で薪に火を焚べる。
肉を串打ちし、火が当たるような角度で地面に持ち手を刺すと肉に火が通るのを待つことにした。
ジュウジュウと音を立てて焼ける肉……香ばしい匂い。
見ているだけで涎が出てくる。
「……こ、こんなもんでいいかな?」
一時間ほど肉を焼くと、ノアは串を手に取り豪快にかぶりつく。
(――柔らかっ⁉︎ こ、こんなにホーン・ラビットの肉が美味しいなんて……)
脂肪が少なく味は淡泊だが、クセがなく筋繊維が細くて柔らかい。
思いもよらぬ味わいに、ノアは万冠の表情を浮かべる。
(こんな美味しい肉が食べれるなら、もう一生、この森に住んでもいいかも知れないな……)
洗濯や行水は近くに流れている川で済まし、食事は、魔の森に生きる魔物を狩って食べる。野菜が必要になれば、そこら辺に自生している草を食べればいいし、魔の森の向こう側にある村に旅立つまでに必要なお金は魔石で補えばいい。
魔石は、それを壊すことで経験値に換えることができ、エネルギー源として使えることから換金性も高い。ホーン・ラビットの魔石でも、数を集めれば、かなりのお金になるはずだ。
その日からノアの魔の森生活が始まった。
魔の森での生活は思いの外、楽だった。
朝、起きて川で顔を洗い、川で冷やしていたマップルを頬張り朝食を済ませる。
それから魔石を獲得するためホーン・ラビットを狩り、肉は昼食代わりに平らげる。
一応、ホーン・ラビットの角は薬として需要があるので保存しておき、日が暮れるまで魔の森探索を行う。
不思議なことに、ホーン・ラビット以外の魔物に遭遇することは一度もなかった。
この森……魔の森には、様々な魔物が生息している。
ホーン・ラビットは魔の森に生息する代表的な魔物だが、他にも、フォレスト・ウルフやアングリー・ベアなど肉食の魔物が現れてもおかしくないのに不思議なこともあるものだ。
折角なので、自分に与えられた固有スキルの検証も行うことにした。
ノアに与えられた固有スキルは『リセット』と『付与』の二つ。
『リセット』でステータスを初期化し、『付与』で手に取った石にステータスを移し替える。すると、石の堅さが少しだけ増した気がした。
『リセット』と『付与』を繰り返し、石にステータス値を100ほど移し替え、木に向かって軽く投げて見ると、音も無く、まるで木をすり抜けたかのように幹に丸い穴が開く。
「す、すごい……」
茫然と呟くノア。
短剣にステータス値を付与した時も思ったが、到達者クラスのステータス値を付与すると、普通の石でもとんでもない威力を発揮する。
軽く投げただけで、音もなく幹を抉るなんてものすごい破壊力だ。
流石にこんな危険な物をその辺に放置できない。
ノアは投げた石を拾うと、それをポケットにしまう。
石にステータス値を付与し、投げただけでこれだけの力を発揮したのだ。
それなら植物や木にステータス値を付与したらどうなるのだろうか。
先ほど幹に穴を開けた木に手を当てると、先ほどと同様。『リセット』と『付与』を繰り返し、木にステータス値を移していく。
すると、ステータス値を移してすぐ木に変化があった。
なんと、先ほど、穴の開いた箇所が再生したのだ。
(……ええっ! なんで再生したのっ⁉︎)
何度か検証を繰り返した結果、『体力値』には、再生効果があることがわかった。
どうやら、元々持っていたステータス値を上回るステータス値を付与することで、損傷を受けた組織や器官などを復元する効果があるようだ。
検証する度に次々、見付かる『付与』の可能性。
『付与』することが楽しくなってきたノアは次に、持っていた魔石に目を付けた。
ノアが手にしている魔石は、『魔の森』最弱の魔物、ホーン・ラビットの魔石。
ホーン・ラビットの魔石にステータス値を付与すると、面白い現象が起きた。
魔石の中で燃える赤い炎。
この炎の色が強くなったかと思えば、赤い目をしたホーン・ラビットに姿を変えたのだ。
『キュイキュイ!』
ホーン・ラビットは、赤い目をノアに向けると、耳をピンと伸ばし、白く丸い尻尾を左右に振りながらすり寄ってくる。
「うわぁ……」
(なにこの生き物……超可愛い)
食用肉としてしか見ていなかったホーン・ラビットが見せた可愛い一面に一瞬にして心を奪われるノア。
撫でると、柔らかくふわふわな感触が手を伝う。
(しかも超柔らかい……)
ノアに撫でられ気持ち良さそうな表情を浮かべるホーン・ラビット。
遭遇すると、ほぼ100パーセントの確率で体当たりをかましてくるのが嘘のようである。
(目が紫っぽいような……いや、赤か? ということは火属性のホーン・ラビットなのかな?)
ホーン・ラビットの属性は目の色によって異なり、現在、赤色の目=火属性、青色の目=水属性、緑色の目=風属性、黄色の目=木属性、土色の目=土属性、白色の目=聖属性、黒色の目=闇属性の七属性が確認されている。
「ねえ、君は魔法が使えたりするの?」
属性持ちの魔物は須らく魔法が使える。
興味本位でそう尋ねると、ホーン・ラビットは近くに生えている木に視線を向けた。
まるで、見ていろと言わんばかりにノアをチラ見すると、角に魔力を貯め始める。
赤く光るホーン・ラビットの角。
ホーン・ラビットが木に向かって角を振ると、熱線が走り木を真っ二つにした。
「……す、すごい」
ホーン・ラビットがこんなに強いと思わず唖然とした表情を浮かべるノア。
『キュイキュイ!』
そんなノアの足元に体を擦り付け愛嬌を振りまくホーン・ラビット。
(いつも体当たりばかりしてくるホーン・ラビットがこんなに懐いて……)
膝に乗せ撫でていると、ホーン・ラビットが後ろ足で立ち上がる。
「うん? どうかしたの??」
鋭利な目つきで森の奥を睨むホーン・ラビット。
すると、森の奥から男の悲鳴が聞こえてきた。
「た、助けてっ! 助けてくれぇぇぇぇ!」
茂みに隠れ様子を探ると、血に塗れた傭兵風の男がこちらに向かって来るのが見える。
フォレスト・ウルフかアングリー・ベアにでも襲われたのだろうか。
「う、うわっ⁉︎」
木の根に足を取られ、倒れる男。
男が背後を振り向くと、木々をスラリと抜けて白く雄々しい魔物が現れた。
(あ、あれはフォレスト・ウルフ? いや、それにしては体格ががっしりし過ぎているような……)
初めて見る魔物の姿に呆然としていると、男に向けて前脚を振り被った。
「あ、危ないっ!」
ポケットに手を突っ込み、石を手に持つと、それを思い切り魔物に投げ付ける。
『グ、グルゥ……』
魔物は一瞬、ノアに視線を向けるも、そのまま地面に這いつくばる傭兵風の男に手を振り下ろした。
「い、いやぁぁぁぁ!」
傭兵風の男が魔物に縊り殺されそうになる。
その瞬間、ノアの投げた石が魔物の体に当たった。
『グ、グギャアアアアッ!!』
「ぎゃああああっ!! って、あれ?」
到達者クラスのステータス値が付与された石に当たった魔物は絶叫を上げる。
あまりの恐怖に男は一瞬、目を瞑る。
男が目を開けると、そこには血みどろとなりふっ飛ばされた魔物の姿がそこにあった。
「だ、大丈夫ですかっ!」
ノアが男の下に駆け付ける。
すると、男はただ一言「助かったのか……?」と呟いた。
(石にステータス値を付与しておいて本当に良かった……)
もし、ステータス値を付与した石が無ければ、男の命はなかったかもしれない。
ホッと、一息を吐くと傭兵風の男は「ありがとな」と言って、逃げていく。
「えっ? ちょっと……⁉︎」
その瞬間、肌を鋭利なナイフで刺すような感覚に襲われた。
(――な、なんだっ!?)
恐る恐る背後を振り向くと、そこには銀色の髭を生やし右手に黒々とした斧を持つドワーフの姿があった。背中には、銀色に輝く斧を背負っている。
「――ほう。見た所、子供にしか見えないが、こんな所までワシらを探しにくるとはのぅ……それにワシの白虎に深手を負わせるとは……」
突然、現れたドワーフに驚き、半歩後ろに退がる。
その瞬間、ドスッと、なにかが木に刺さる音が聞こえた。
「へっ?」
「ほぅ……これを避けるか……」
流れる汗。
ドワーフに視線を向けると、右手から斧が消えていることに気付く。
恐る恐るドワーフから視線を外し、左に視線を向けると、そこには黒々とした斧が突き刺さっていた。
「――――っ!!!?」
殺されるかもしれない恐怖に恐慌状態に陥るノア。
『キュイキュイ!』と、ホーン・ラビットも叫んでいる。
しかし、『逃げなきゃ』という感情と体が反比例して思うように体を動かすことができない。それ所か腰が抜けた。
思うように動かない体を必死に動かし、この場から逃げようとする。
「うん? なんじゃ? ワシたちのことを探しにきた癖に、もしかして怖いのか? 変な子供じゃのぅ」
訳の分からないことを呟き、ゆっくり近付いてくるドワーフ。
「まあ、どうでもいいか……よっこいせっと……!」
ドワーフは木から斧を引き抜くと、ノアに視線を向けた。
そして、斧を思い切り振り被る。
「さて、子供よ。戦斧の露と消えるがよい……」
「う、うわぁああああっ!?」
無情にも振り下ろされる斧。
首に迫る刃。
(ダメだっ……もう死……)
死を覚悟し、目を瞑るノア。
その瞬間、『バキッ!!』と音を立て戦斧の刃が粉々に砕け散る。
(あれっ?)
ノアが薄く目を開けると、そこには……目を丸くして見つめるドワーフの姿があった。
「……はっ?」
困惑した感じのドワーフの声を聞き、斧が当たったはずの首に手を当てる。
どうやら切られてはいないようだ。
混乱しつつ、ドワーフの持っていた斧に視線を向ける。
すると、そこには柄だけを残し、粉々に砕け散った斧の成れの果てがあった。
「……えっ?」
『キュイッ??』
意味がわからず二度見するノア。
ホーン・ラビットも驚いている。
見間違いだろうかと目を擦るも、その光景は変わらない。
そのまま、ドワーフに視線を向けると、まるで化け物でも見たかのような表情を――
「う、うおぉぉぉぉ! ワシの、ワシの戦斧が……ワシ、渾身の力作がぁああああっ!?」
――浮かべたかと思ったら、柄だけになってしまった戦斧を抱き締め喚き、泣きだしてしまった。
「ワシの戦斧がっ! 魂を込めた力作が砕け散ってしまったぁああああっ!」
年甲斐もなく喚くドワーフ。
「……え、えーっと、大丈夫ですか? なんかすいません。た、多分、寿命だったんですよ。その戦斧の……形ある物はいつか壊れる。それが遅いか、早いかだけの違いじゃないですか。ドワーフさんの戦斧は役目を終えて砕け散った。ただ、それだけですって、丁重に弔って上げましょう?」
殺されかけたにも関わらず、号泣するドワーフを慰めようとするノア。
しかし、ドワーフの嘆きは止まらない。
「そんな訳がないじゃろっ! この戦斧はつい先日、仕上がったばかりの戦斧だったんじゃぞっ!? それを……それをぉおおおおっ!!」
斧の破片を泣きながら手でかき集めるドワーフ。
その狂気に中てられ、後退るノア。
(――あ、あれ? 動ける?)
後退ったことで、体が思うように動くことに気付いたノアはホーン・ラビットを肩に乗せるとその場から走り去った。
「――ま、待てっ!」
ドワーフが待つよう静止するが知ったことではない。
ノアはドワーフの言葉を無視し、必死に走る。
「待てと言っているじゃろっ! う、うぬっ? お、お主は……待てっ! 待つんじゃっ!」
ドワーフの言葉を無視し、無我夢中で木々の間を走り抜けるノア。
気付いた時には、ノアは木の上に建てられたツリーハウスの下に辿り着いていた。
肉を串打ちし、火が当たるような角度で地面に持ち手を刺すと肉に火が通るのを待つことにした。
ジュウジュウと音を立てて焼ける肉……香ばしい匂い。
見ているだけで涎が出てくる。
「……こ、こんなもんでいいかな?」
一時間ほど肉を焼くと、ノアは串を手に取り豪快にかぶりつく。
(――柔らかっ⁉︎ こ、こんなにホーン・ラビットの肉が美味しいなんて……)
脂肪が少なく味は淡泊だが、クセがなく筋繊維が細くて柔らかい。
思いもよらぬ味わいに、ノアは万冠の表情を浮かべる。
(こんな美味しい肉が食べれるなら、もう一生、この森に住んでもいいかも知れないな……)
洗濯や行水は近くに流れている川で済まし、食事は、魔の森に生きる魔物を狩って食べる。野菜が必要になれば、そこら辺に自生している草を食べればいいし、魔の森の向こう側にある村に旅立つまでに必要なお金は魔石で補えばいい。
魔石は、それを壊すことで経験値に換えることができ、エネルギー源として使えることから換金性も高い。ホーン・ラビットの魔石でも、数を集めれば、かなりのお金になるはずだ。
その日からノアの魔の森生活が始まった。
魔の森での生活は思いの外、楽だった。
朝、起きて川で顔を洗い、川で冷やしていたマップルを頬張り朝食を済ませる。
それから魔石を獲得するためホーン・ラビットを狩り、肉は昼食代わりに平らげる。
一応、ホーン・ラビットの角は薬として需要があるので保存しておき、日が暮れるまで魔の森探索を行う。
不思議なことに、ホーン・ラビット以外の魔物に遭遇することは一度もなかった。
この森……魔の森には、様々な魔物が生息している。
ホーン・ラビットは魔の森に生息する代表的な魔物だが、他にも、フォレスト・ウルフやアングリー・ベアなど肉食の魔物が現れてもおかしくないのに不思議なこともあるものだ。
折角なので、自分に与えられた固有スキルの検証も行うことにした。
ノアに与えられた固有スキルは『リセット』と『付与』の二つ。
『リセット』でステータスを初期化し、『付与』で手に取った石にステータスを移し替える。すると、石の堅さが少しだけ増した気がした。
『リセット』と『付与』を繰り返し、石にステータス値を100ほど移し替え、木に向かって軽く投げて見ると、音も無く、まるで木をすり抜けたかのように幹に丸い穴が開く。
「す、すごい……」
茫然と呟くノア。
短剣にステータス値を付与した時も思ったが、到達者クラスのステータス値を付与すると、普通の石でもとんでもない威力を発揮する。
軽く投げただけで、音もなく幹を抉るなんてものすごい破壊力だ。
流石にこんな危険な物をその辺に放置できない。
ノアは投げた石を拾うと、それをポケットにしまう。
石にステータス値を付与し、投げただけでこれだけの力を発揮したのだ。
それなら植物や木にステータス値を付与したらどうなるのだろうか。
先ほど幹に穴を開けた木に手を当てると、先ほどと同様。『リセット』と『付与』を繰り返し、木にステータス値を移していく。
すると、ステータス値を移してすぐ木に変化があった。
なんと、先ほど、穴の開いた箇所が再生したのだ。
(……ええっ! なんで再生したのっ⁉︎)
何度か検証を繰り返した結果、『体力値』には、再生効果があることがわかった。
どうやら、元々持っていたステータス値を上回るステータス値を付与することで、損傷を受けた組織や器官などを復元する効果があるようだ。
検証する度に次々、見付かる『付与』の可能性。
『付与』することが楽しくなってきたノアは次に、持っていた魔石に目を付けた。
ノアが手にしている魔石は、『魔の森』最弱の魔物、ホーン・ラビットの魔石。
ホーン・ラビットの魔石にステータス値を付与すると、面白い現象が起きた。
魔石の中で燃える赤い炎。
この炎の色が強くなったかと思えば、赤い目をしたホーン・ラビットに姿を変えたのだ。
『キュイキュイ!』
ホーン・ラビットは、赤い目をノアに向けると、耳をピンと伸ばし、白く丸い尻尾を左右に振りながらすり寄ってくる。
「うわぁ……」
(なにこの生き物……超可愛い)
食用肉としてしか見ていなかったホーン・ラビットが見せた可愛い一面に一瞬にして心を奪われるノア。
撫でると、柔らかくふわふわな感触が手を伝う。
(しかも超柔らかい……)
ノアに撫でられ気持ち良さそうな表情を浮かべるホーン・ラビット。
遭遇すると、ほぼ100パーセントの確率で体当たりをかましてくるのが嘘のようである。
(目が紫っぽいような……いや、赤か? ということは火属性のホーン・ラビットなのかな?)
ホーン・ラビットの属性は目の色によって異なり、現在、赤色の目=火属性、青色の目=水属性、緑色の目=風属性、黄色の目=木属性、土色の目=土属性、白色の目=聖属性、黒色の目=闇属性の七属性が確認されている。
「ねえ、君は魔法が使えたりするの?」
属性持ちの魔物は須らく魔法が使える。
興味本位でそう尋ねると、ホーン・ラビットは近くに生えている木に視線を向けた。
まるで、見ていろと言わんばかりにノアをチラ見すると、角に魔力を貯め始める。
赤く光るホーン・ラビットの角。
ホーン・ラビットが木に向かって角を振ると、熱線が走り木を真っ二つにした。
「……す、すごい」
ホーン・ラビットがこんなに強いと思わず唖然とした表情を浮かべるノア。
『キュイキュイ!』
そんなノアの足元に体を擦り付け愛嬌を振りまくホーン・ラビット。
(いつも体当たりばかりしてくるホーン・ラビットがこんなに懐いて……)
膝に乗せ撫でていると、ホーン・ラビットが後ろ足で立ち上がる。
「うん? どうかしたの??」
鋭利な目つきで森の奥を睨むホーン・ラビット。
すると、森の奥から男の悲鳴が聞こえてきた。
「た、助けてっ! 助けてくれぇぇぇぇ!」
茂みに隠れ様子を探ると、血に塗れた傭兵風の男がこちらに向かって来るのが見える。
フォレスト・ウルフかアングリー・ベアにでも襲われたのだろうか。
「う、うわっ⁉︎」
木の根に足を取られ、倒れる男。
男が背後を振り向くと、木々をスラリと抜けて白く雄々しい魔物が現れた。
(あ、あれはフォレスト・ウルフ? いや、それにしては体格ががっしりし過ぎているような……)
初めて見る魔物の姿に呆然としていると、男に向けて前脚を振り被った。
「あ、危ないっ!」
ポケットに手を突っ込み、石を手に持つと、それを思い切り魔物に投げ付ける。
『グ、グルゥ……』
魔物は一瞬、ノアに視線を向けるも、そのまま地面に這いつくばる傭兵風の男に手を振り下ろした。
「い、いやぁぁぁぁ!」
傭兵風の男が魔物に縊り殺されそうになる。
その瞬間、ノアの投げた石が魔物の体に当たった。
『グ、グギャアアアアッ!!』
「ぎゃああああっ!! って、あれ?」
到達者クラスのステータス値が付与された石に当たった魔物は絶叫を上げる。
あまりの恐怖に男は一瞬、目を瞑る。
男が目を開けると、そこには血みどろとなりふっ飛ばされた魔物の姿がそこにあった。
「だ、大丈夫ですかっ!」
ノアが男の下に駆け付ける。
すると、男はただ一言「助かったのか……?」と呟いた。
(石にステータス値を付与しておいて本当に良かった……)
もし、ステータス値を付与した石が無ければ、男の命はなかったかもしれない。
ホッと、一息を吐くと傭兵風の男は「ありがとな」と言って、逃げていく。
「えっ? ちょっと……⁉︎」
その瞬間、肌を鋭利なナイフで刺すような感覚に襲われた。
(――な、なんだっ!?)
恐る恐る背後を振り向くと、そこには銀色の髭を生やし右手に黒々とした斧を持つドワーフの姿があった。背中には、銀色に輝く斧を背負っている。
「――ほう。見た所、子供にしか見えないが、こんな所までワシらを探しにくるとはのぅ……それにワシの白虎に深手を負わせるとは……」
突然、現れたドワーフに驚き、半歩後ろに退がる。
その瞬間、ドスッと、なにかが木に刺さる音が聞こえた。
「へっ?」
「ほぅ……これを避けるか……」
流れる汗。
ドワーフに視線を向けると、右手から斧が消えていることに気付く。
恐る恐るドワーフから視線を外し、左に視線を向けると、そこには黒々とした斧が突き刺さっていた。
「――――っ!!!?」
殺されるかもしれない恐怖に恐慌状態に陥るノア。
『キュイキュイ!』と、ホーン・ラビットも叫んでいる。
しかし、『逃げなきゃ』という感情と体が反比例して思うように体を動かすことができない。それ所か腰が抜けた。
思うように動かない体を必死に動かし、この場から逃げようとする。
「うん? なんじゃ? ワシたちのことを探しにきた癖に、もしかして怖いのか? 変な子供じゃのぅ」
訳の分からないことを呟き、ゆっくり近付いてくるドワーフ。
「まあ、どうでもいいか……よっこいせっと……!」
ドワーフは木から斧を引き抜くと、ノアに視線を向けた。
そして、斧を思い切り振り被る。
「さて、子供よ。戦斧の露と消えるがよい……」
「う、うわぁああああっ!?」
無情にも振り下ろされる斧。
首に迫る刃。
(ダメだっ……もう死……)
死を覚悟し、目を瞑るノア。
その瞬間、『バキッ!!』と音を立て戦斧の刃が粉々に砕け散る。
(あれっ?)
ノアが薄く目を開けると、そこには……目を丸くして見つめるドワーフの姿があった。
「……はっ?」
困惑した感じのドワーフの声を聞き、斧が当たったはずの首に手を当てる。
どうやら切られてはいないようだ。
混乱しつつ、ドワーフの持っていた斧に視線を向ける。
すると、そこには柄だけを残し、粉々に砕け散った斧の成れの果てがあった。
「……えっ?」
『キュイッ??』
意味がわからず二度見するノア。
ホーン・ラビットも驚いている。
見間違いだろうかと目を擦るも、その光景は変わらない。
そのまま、ドワーフに視線を向けると、まるで化け物でも見たかのような表情を――
「う、うおぉぉぉぉ! ワシの、ワシの戦斧が……ワシ、渾身の力作がぁああああっ!?」
――浮かべたかと思ったら、柄だけになってしまった戦斧を抱き締め喚き、泣きだしてしまった。
「ワシの戦斧がっ! 魂を込めた力作が砕け散ってしまったぁああああっ!」
年甲斐もなく喚くドワーフ。
「……え、えーっと、大丈夫ですか? なんかすいません。た、多分、寿命だったんですよ。その戦斧の……形ある物はいつか壊れる。それが遅いか、早いかだけの違いじゃないですか。ドワーフさんの戦斧は役目を終えて砕け散った。ただ、それだけですって、丁重に弔って上げましょう?」
殺されかけたにも関わらず、号泣するドワーフを慰めようとするノア。
しかし、ドワーフの嘆きは止まらない。
「そんな訳がないじゃろっ! この戦斧はつい先日、仕上がったばかりの戦斧だったんじゃぞっ!? それを……それをぉおおおおっ!!」
斧の破片を泣きながら手でかき集めるドワーフ。
その狂気に中てられ、後退るノア。
(――あ、あれ? 動ける?)
後退ったことで、体が思うように動くことに気付いたノアはホーン・ラビットを肩に乗せるとその場から走り去った。
「――ま、待てっ!」
ドワーフが待つよう静止するが知ったことではない。
ノアはドワーフの言葉を無視し、必死に走る。
「待てと言っているじゃろっ! う、うぬっ? お、お主は……待てっ! 待つんじゃっ!」
ドワーフの言葉を無視し、無我夢中で木々の間を走り抜けるノア。
気付いた時には、ノアは木の上に建てられたツリーハウスの下に辿り着いていた。
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"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
追放された最強魔法使い〜政治的に追放されたけど、Aランク到達で黙らせたら文句を言わせない〜
あちゃ
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ハラルドは勇者パーティの一員だった。しかし、王子の外交的な策略によってパーティからはずされてしまうことに。
勇者パーティ復帰の条件は最上位のAランク冒険者になること。
スキルや武器を駆使してAランク冒険者まで成り上がるストーリー。
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