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第10話 サクシュ村の動向②

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「残念ながら……」
「ま、まさか、取り逃がしたと?」

 デイリーの言葉にダグラスは首を縦に振る。

「体力値を残し、彼の持っていたステータス値はすべて奪い取ったのですが、横槍が入りまして……」
「だ、誰がそんな横槍を……」
「……そんなことは決まっているでしょう? 『読心』ですよ。私たちは『読心』を追うことで、彼等の住処を突き止めたのですから」
「『読心』がこの村にいたのですか!?」
「ええ、その通りです」

 実際の所はまったく違う。
 傭兵団の一員であるガンツが『付与』のスキル保持者であるノアからステータス値を奪い取り、放置した揚句、逃げられてしまっただけだ。
 幸か不幸かノアを見失う代わりに、『読心』の動向を追うことができ、結果として『使役』と『読心』の住処を突き止めた。ただそれだけのことである。
 正直、ノアのことを見逃したと聞いた時は、ガンツの奴を殺してやろうかとも思ったが、運はダグラス達に味方した。

 デイリーには、あえて言わないが、一応、ノアの住処も見つけてある。
 もぬけの殻だったが、大方、『読心』辺りがノアに避難を促したのだろう。
 もしかしたら、彼等の住処に身を寄せているのかも知れない。

「そ、それでは奴等が逃げぬ内に捕らえなければっ!」
「――まあ、お待ち下さい。急いてはことを仕損じます。相手はあの『使役』と『読心』ですよ?」

 それに、奴等がいるのは『魔の森』の最深部。
 そして、その場所は四体の化け物が守っている。捕らえるにしても準備は必要だ。

(――入念に準備を進めなければ……なにせ、相手はあの到達者。油断できぬ相手だ。しかし、焦る必要はない。私たちには、これがあるのだから……)

 左耳に付けた黒いピアスに視線を向けニヤつくダグラス。
 それに、このピアスには、つい最近、手に入れたばかりの強力なスキルが付与されている。

(まったく、『付与』のスキル保持者様々だ。このスキルのお陰で、私は到達者とも対等以上にやりあうことができるのだからな……)

「し、しかし、悠長にしていては……」

『使役』と『読心』に逃げられるかも知れないと焦るデイリー。
 そんなデイリーに、ダグラスは首を振って答える。

「……村長。焦ってはいけません。大丈夫ですよ。彼等は必ず捕らえて見せます。私を信じて下さい。なに、逃げられやしませんよ。なにせ傭兵団を総動員して彼等の住処に見張りを置いているのですから。村長も知っているでしょう?」

 実際に、そんなことはしていない。
 しかし、村長であるデイリーを安心させるため、うそぶくダグラス。
 デイリーは、安心しきった表情を浮かべると、軽く頭をかいた。

「……そ、そうでしたね。私としたことが情けない」
「いえいえ、村長の心配もわかります。しかし、ここは我らダグラス傭兵団にお任せ下さい。決して、悪いようには致しません」

 そう言って、柔和な笑みを浮かべるダグラス。

「もちろん、ダグラス殿に任せます。捕らえ方について私は一切関知致しません。それで、よろしいですね?」
「ええ、もちろんです。決行は折を見て行う予定です。念のため、他の傭兵団にも応援を頼んでおりますので、もう少々お待ちを……戦力が揃い次第、『使役』と『読心』の捕獲に向かいます。それでは、私はこれで……」

 そう告げるとダグラスは立ち上がる。

 村長宅から外に出ると、ダグラス傭兵団の団員の一人、ルイズが近くに寄ってきた。

「……団長。『使役』と『読心』に目立った動きはありません」
「そうですか。ご苦労様でした。引き続き警戒に当たりなさい。応援の傭兵団が到着し、もう一人のスキル保持者の第二スキルが発現したら向かいますよ」

 ダグラスが独自に購入した二人目の『付与』のスキル保持者が十五歳を迎えるのは二週間後。

(――決行は、それを待ってから……さて、彼女からはどのようなスキルが発現するのでしょうねぇ?)

「……楽しみです」

 そう呟くと、ダグラスは舌舐めずりをした。

 ◇◆◇

 ここは『魔の森』の最深部にあるイデアとブルーノの住む家。
 その地下では、黒板を前にチョークを持つイデアの姿があった。
 ホーン・ラビットは、我関せずとテーブルの隅で丸くなっている。

「ふえっ、ふえっ、ふえっ。それではまず、この世界の基本について教えようかねぇ……」
「えっと、この世界の基本について……ですか?」

(一応、教会で習ったからそれなりに知っているつもりなんだけど……)

 そんなことを思いながら席に着き、羽ペンを持つノア。

「それでは、まず基本中の基本。この世界で流通しているお金について勉強をしようかねぇ」

 そう呟くと、イデアは宙から六枚の硬貨を取り出す。

「まず、この鉄でできた硬貨。これを鉄貨といい、一枚当たり十ゴルドの価値がある。次にこの銅でできた硬貨。これを銅貨といい、一枚当たり百ゴルドの価値がある。ここまではいいかい?」
「う、うん。多分、大丈夫……なはず」

 この世界には五種類の硬貨が流通している。
 一枚当たり十ゴルドの価値がある鉄貨。
 一枚当たり百ゴルドの価値がある銅貨。
 一枚当たり千ゴルドの価値がある銀貨。
 一枚当たり一万ゴルドの価値がある金貨。
 一枚当たり十万ゴルドの価値がある聖銀貨。
 一枚当たり百万ゴルドの価値がある聖金貨。 

 ちなみにノアが教会から支度金として貰った銀貨三枚には、三千ゴルドの価値がある。パン一個当たり百ゴルド。安宿一泊で千ゴルドが相場なので、銀貨三枚あれば、パンを三十個購入又は安宿に三泊できる計算だ。

「なんだい? 随分と不安そうな声を上げるじゃないか。なんだか心配になってくるねぇ……」
「い、いや、そんなことないですよ。銀でできた硬貨が一枚千ゴルドの価値がある銀貨。金でできた硬貨が一枚当たり一万ゴルドの価値がある金貨。そして、聖銀でできた硬貨が一枚当たり十万ゴルドの価値がある聖銀貨でしょ?」

 ノアが硬貨を指差し、そう言うとイデアは少し驚いた表情を浮かべる。

「おやおや、金貨や聖銀貨なんて触ったこともないだろうに、よくわかったねぇ。正解さ……」

 確かに孤児として教会で育てられたノアは金貨や聖銀貨なんて見たことはない。
 ただ知識として知っていただけだ。
 ノアの様子を見てイデアは考え込む。
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