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第35話 鍛練の裏側で……①
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ノアとイデアが鍛錬に打ち込んでいる頃、サクシュ村では魔の森に住む『読心』の魔女・イデアと『使役』のドワーフ・ブルーノの捕獲に向け着実に準備が進んでいた。
「――ふふふっ、今日という日を待ち侘びたぞ……」
今日は、ダグラスが購入した『付与』のスキル保持者・レジーナの『発現の儀』を行う日。
スタンピードによる影響でサクシュ村が半壊してから二週間。
傭兵団の団長・ダグラスはこの日を心待ちにしていた。
ボロボロになった教会で、逃げられないように隷属の首輪を付け、感情を無くした表情で佇むレジーナを見て、ダグラスはほくそ笑む。
(もうすぐだ。もうすぐ新たなスキルが手に入るっ……)
『付与』のスキル保持者が賜わる二つ目のスキルはどれも強力。後は祭壇を定位置に設置すれば『発現の儀』を行うことができる。
スタンドグラスの光に照らされる位置に祭壇を設置すると教会内に人が入ってくる気配を感じた。
「――おう。ダグラス、邪魔するぞ?」
「うん? ああ、ミギーか。準備ができたのか?」
ミギー傭兵団の団長・ミギー・クレナンデッツ。
『使役』と『読心』の捕獲に失敗した時のために呼び出していた傭兵団の団長だ。
ダグラスの問いにミギーは笑いながら答える。
「おうよ。当然だ。そんなことより、ダグラス。お前が対象の捕獲に失敗するなんて珍しいじゃないか。『使役』と『読心』はそんなに手強い相手だったのか?」
「ああ、あれは手強いなんてもんじゃあない。浅はかだった。準備が足りていなかった。侮っていたよ。お蔭で村もこのザマさ……」
ダグラスは『使役』のドワーフ・ブルーノとの戦いを脳裏に浮かべ思い返す。
(……あれは信じられない程、強かった。たった、数旬の内に何度、イメージだけで殺されたかわからない。斬撃の鋭さ、手数の多さ……そのすべてが今の私を軽く凌駕していた)
たった一人。たった一人のドワーフを相手にしてこの体たらくだ。
「――だからこそ、ミギー。お前は侮るなよ。あれは人の形をした災害だ。下手に触れれば大怪我では済まない。そんなことよりも、今、準備ができたと言ったか?」
「ああ、言った。できたぜ。『使役』そして『読心』を捕縛するための準備がな……」
「そうか……! それでは、俺の傭兵団と共に先に向かっていてくれ」
ミギーに次いで、扉の前で待機するダグラス傭兵団の傭兵・ガリアに視線を向けると、ガリアは黙って頷いた。
「――別にいいけどよ……わかっているだろうな?」
「ああ、わかっているさ。獲物は早い者勝ち……。もし君達が『使役』と『読心』を捕えた際には、相場の倍の価格で買い取ってやるよ」
「へえっ、相場の倍で買ってくれるのか? いいね。そう言われると、やる気が出るってもんだ。それじゃあ、俺は行くぜ。早く来ねーと、折角の獲物がいなくなっちまうかも知れねーぞっ? ふへははははっ!」
ミギーが教会から出て行くのを見届けると、ダグラスはガリアに視線を向ける。
「……さて、邪魔者はいなくなったな。ガリア。報告を……」
ダグラスがそう言うと、ガリアは片膝を付いて答える。
「――はい。違法薬物『エムエム』の生育及び精製方法を前村長より聞き出し、その販売ルートを確保致しました」
ガリアの報告を聞き、ダグラスは深い笑みを浮かべる。
「……そうか。よくやった。ならばこの村にいる必要はなくなったな」
目ぼしい『付与』のスキル保持者は買い取った。村を占領した際、支払った金も回収している。
違法薬物『エムエム』の生育及び精製方法を聞き出せれば、こんな村には用はない。
折を見て行動に移す予定ではあったが丁度良かった。
理由もなく機密を聞き出し、村を滅ぼしたとあれば、近くにあるユスリ村がサクシュ村に対し調査を行う可能性がある。
その点ではスタンピードは好都合だった。サクシュ村は魔の森近くに作られた秘密村。村を滅ぼし証拠隠滅するための理由として申し分ない。
「はい。それで……村人たちはどう致しますか?」
「そうだな……飼うにしても、食糧が足りない。売るにしても足が付く。ならば、いっそのこと処分する他ないだろう。まあ、その話は一度、置いておくとして、先にこちらを片付けよう」
ダグラスはそう言うと、隷属の首輪に付いた鎖を引き『付与』のスキル保持者・レジーナに命令を降す。
「――さあ、レジーナよ。祭壇の前で神々に祈りを捧げろ」
「はい……」
ダグラスの言葉に隷属の首輪が反応し、レジーナを強制的に祭壇の前に連れて行く。
そして、祭壇の前に膝を付き、祈りを捧げると、祭壇に置かれた水晶がキラリと光り、地面に光の文字が浮かびあがる。
「ど、『同族殺し』……」
地面に浮かび上がった『同族殺し』のスキル名。
それを見たダグラスは瞳孔を開き歓喜した。
「――おお、おおっ! 『同族殺し』……よくやったっ! よくやったぞ、レジーナッ!」
『同族殺し』……それは、自分と同じ種族の他者を殺せば殺すほど、自分のステータスが永続的に底上げされる固有スキルの名前。
(――このスキルがあれば……このスキルがあれば私は最強だっ!)
心の内側から湧き上がる喜びの感情に焦がされたダグラスは、レジーナに視線を向け深い笑みを浮かべた。
「――ふふふっ、今日という日を待ち侘びたぞ……」
今日は、ダグラスが購入した『付与』のスキル保持者・レジーナの『発現の儀』を行う日。
スタンピードによる影響でサクシュ村が半壊してから二週間。
傭兵団の団長・ダグラスはこの日を心待ちにしていた。
ボロボロになった教会で、逃げられないように隷属の首輪を付け、感情を無くした表情で佇むレジーナを見て、ダグラスはほくそ笑む。
(もうすぐだ。もうすぐ新たなスキルが手に入るっ……)
『付与』のスキル保持者が賜わる二つ目のスキルはどれも強力。後は祭壇を定位置に設置すれば『発現の儀』を行うことができる。
スタンドグラスの光に照らされる位置に祭壇を設置すると教会内に人が入ってくる気配を感じた。
「――おう。ダグラス、邪魔するぞ?」
「うん? ああ、ミギーか。準備ができたのか?」
ミギー傭兵団の団長・ミギー・クレナンデッツ。
『使役』と『読心』の捕獲に失敗した時のために呼び出していた傭兵団の団長だ。
ダグラスの問いにミギーは笑いながら答える。
「おうよ。当然だ。そんなことより、ダグラス。お前が対象の捕獲に失敗するなんて珍しいじゃないか。『使役』と『読心』はそんなに手強い相手だったのか?」
「ああ、あれは手強いなんてもんじゃあない。浅はかだった。準備が足りていなかった。侮っていたよ。お蔭で村もこのザマさ……」
ダグラスは『使役』のドワーフ・ブルーノとの戦いを脳裏に浮かべ思い返す。
(……あれは信じられない程、強かった。たった、数旬の内に何度、イメージだけで殺されたかわからない。斬撃の鋭さ、手数の多さ……そのすべてが今の私を軽く凌駕していた)
たった一人。たった一人のドワーフを相手にしてこの体たらくだ。
「――だからこそ、ミギー。お前は侮るなよ。あれは人の形をした災害だ。下手に触れれば大怪我では済まない。そんなことよりも、今、準備ができたと言ったか?」
「ああ、言った。できたぜ。『使役』そして『読心』を捕縛するための準備がな……」
「そうか……! それでは、俺の傭兵団と共に先に向かっていてくれ」
ミギーに次いで、扉の前で待機するダグラス傭兵団の傭兵・ガリアに視線を向けると、ガリアは黙って頷いた。
「――別にいいけどよ……わかっているだろうな?」
「ああ、わかっているさ。獲物は早い者勝ち……。もし君達が『使役』と『読心』を捕えた際には、相場の倍の価格で買い取ってやるよ」
「へえっ、相場の倍で買ってくれるのか? いいね。そう言われると、やる気が出るってもんだ。それじゃあ、俺は行くぜ。早く来ねーと、折角の獲物がいなくなっちまうかも知れねーぞっ? ふへははははっ!」
ミギーが教会から出て行くのを見届けると、ダグラスはガリアに視線を向ける。
「……さて、邪魔者はいなくなったな。ガリア。報告を……」
ダグラスがそう言うと、ガリアは片膝を付いて答える。
「――はい。違法薬物『エムエム』の生育及び精製方法を前村長より聞き出し、その販売ルートを確保致しました」
ガリアの報告を聞き、ダグラスは深い笑みを浮かべる。
「……そうか。よくやった。ならばこの村にいる必要はなくなったな」
目ぼしい『付与』のスキル保持者は買い取った。村を占領した際、支払った金も回収している。
違法薬物『エムエム』の生育及び精製方法を聞き出せれば、こんな村には用はない。
折を見て行動に移す予定ではあったが丁度良かった。
理由もなく機密を聞き出し、村を滅ぼしたとあれば、近くにあるユスリ村がサクシュ村に対し調査を行う可能性がある。
その点ではスタンピードは好都合だった。サクシュ村は魔の森近くに作られた秘密村。村を滅ぼし証拠隠滅するための理由として申し分ない。
「はい。それで……村人たちはどう致しますか?」
「そうだな……飼うにしても、食糧が足りない。売るにしても足が付く。ならば、いっそのこと処分する他ないだろう。まあ、その話は一度、置いておくとして、先にこちらを片付けよう」
ダグラスはそう言うと、隷属の首輪に付いた鎖を引き『付与』のスキル保持者・レジーナに命令を降す。
「――さあ、レジーナよ。祭壇の前で神々に祈りを捧げろ」
「はい……」
ダグラスの言葉に隷属の首輪が反応し、レジーナを強制的に祭壇の前に連れて行く。
そして、祭壇の前に膝を付き、祈りを捧げると、祭壇に置かれた水晶がキラリと光り、地面に光の文字が浮かびあがる。
「ど、『同族殺し』……」
地面に浮かび上がった『同族殺し』のスキル名。
それを見たダグラスは瞳孔を開き歓喜した。
「――おお、おおっ! 『同族殺し』……よくやったっ! よくやったぞ、レジーナッ!」
『同族殺し』……それは、自分と同じ種族の他者を殺せば殺すほど、自分のステータスが永続的に底上げされる固有スキルの名前。
(――このスキルがあれば……このスキルがあれば私は最強だっ!)
心の内側から湧き上がる喜びの感情に焦がされたダグラスは、レジーナに視線を向け深い笑みを浮かべた。
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