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びーぜろ

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第六章 商業ギルド対立編

第152話 リマと大臣の話し合い

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 面会謝絶となっている財務大臣の部屋では、包帯で身体を覆った傷だらけの財務大臣と、多額の負債を抱えた商人連合国アキンドの評議員リマが話し合いを行っていた。

「なんでそんな状態になっているんだ? 佐藤悠斗との話し合いはどうした? 本当に会いに行ったのか?」

「し、仕方がなかろう。お主に言われた通り、一度は会いに行ったさ! ああ、会いに行った!! しかし、この有様を見れば分かるだろッ!」

 リマはジッと財務大臣に視線を這わせる。

「傷だらけだな。何があったんだ?」

 財務大臣は、全身包帯まみれにも拘らず、ガバッと起き上がりリマにこう言い放つ。

「踏みつけられたんだよッ! アポを取ってユートピア商会に行ったら、商会に並んでいる冒険者やその他の客に肩をぶつけられた揚句、踏みつけられたんだよッ!!」

 財務大臣はリマに唾を飛ばしながら口撃を仕掛ける。

 しかし、そんな回答が返ってくると思っていなかったリマは思いっきり財務大臣の口撃を一身に浴びてしまう。
 リマは財務大臣の唾だらけになった顔を拭き、財務大臣に鋭い視線を向ける。

「お前がそんな状態になろうが、そんなことはどうでもいい。さっさと佐藤悠斗からユートピア商会を取り上げろッ! 俺は商人連合国アキンドの執行担当評議員として、フェロー王国の流通を止めることもできるんだぞ? それにこの話は、そちら側にしてもメリットがあることだ。」

 散々辛酸を舐めさせられたリマが考えた佐藤悠斗への復讐の、それがフェロー王国による『ユートピア商会の国営化』である。
 ユートピア商会で扱っている商品の品質は高く、中でも、『照明器具』や『冷蔵庫』といった画期的な商品は、フェロー王国側としても、国の戦略物資として独占したいほどの代物であった。

 現在、フェロー王国では街中にユートピア商会から取り寄せた街路灯を設置する計画が進行している。街中に街路灯を設置すれば、さぞかし明るい街並みとなることだろう。

 夜間の犯罪件数も減るだろうし、午後5時には閉まっていた店の営業時間も延び経済活動が活発になることが予想される。

 それに、ユートピア商会では、付与魔法の使える人材(佐藤悠斗本人だが……)を抱えていることも把握している。フェロー王国として、ぜひユートピア商会から引き抜きたい。

「しかし、私からユートピア商会の会頭に話をしても、素直に頷くとは思えん。王室御用達の栄誉ならともかく、国に商会を献上させるのだぞ? そんな前例、聞いたこともないわッ!」

「佐藤悠斗はまだ15歳と成人したばかり、フェロー王国に住んでいる以上、国の重鎮の話しに耳を傾けない訳にはいくまい。それに奴には子供が3人いる。あの年にして随分子煩悩のようだ。いざとなれば、子供もこのフェロー王国に住めなくなることを示唆してやればいい。最悪、攫ってしまえば奴も言うことを聞かざる負えんだろう。」

 財務大臣は疲れ切った表情でリマに告げる。

「……リマ殿。いくら国とはいえ、ひとつの商会にそんなことができる訳なかろう。そんな事をしてしまえば、フェロー王国の威信に傷がつく。それに、ユートピア商会は商業ギルドを一時的に脱退している状態というではないか……。そんな状態の商会に手を出せば、商人連合国アキンドが黙ってはいまい。」

「商人連合国アキンド、執行担当評議員の私が言っているんだ! 問題ないに決まっているッ! いいからすぐにやれッ!! 今すぐフェロー王国の流通を止めてもいいんだぞッ!」

 すると、面会謝絶となっている財務大臣室の扉が開かれ1人の男が入ってきた。

「誰だッ!」

 リマが扉にいる男に視線を向けると、顔を青ざめる。

「あ、ああ……アラブ・マスカット……。」

「財務大臣から話は聞かせてもらった。もちろん今の話しもな。リマ評議員……残念だよ。」

 リマは慌ただしく財務大臣とマスカットの顔を交互に見つめる。

「い、いえッ! ち、違うのです。これは何かの間違いで……。私はそんな事を言った覚えはありません! ただ、財務大臣に善意のアドバイスをしていただけで……。」

 マスカットは冷めた目でリマを見下し、冷めた目でリマの言葉を遮る。

「商人連合国アキンドの評議員に必要な資質、それが分かるか?」

 マスカットの問いにリマは何も発言できずにいる……。

「清廉潔白で高い倫理性があること、公平であること、公私混同をしないこと。一国の流通を止めることができる程の力を持つ評議員だからこそ求められるものだ……。貴公は評議員会議の決定を2度破り、自身に与えられた権限を不当に行使した。商人連合国アキンドの監査担当評議員として許せることではない。」

 リマは財務大臣を睨みつけ、ギリギリと歯を噛みしめる。

「現時点を以って執行担当評議員資格を凍結、監査担当評議員として貴公を評議員不適格とみなし評議員会議にかける。」

 監査担当評議員は、独立した立場から各評議員の職務の執行を監査する権限が与えられている。監査の結果、評議員不適格とみなされた場合、一時的に資格を凍結、評議員を招集し、評議員会議にかけることができる。

 マスカットの言葉にリマは憤怒の形相を浮かべる。

「マスカット、貴様……! 元はといえば貴様が佐藤悠斗を贔屓するからこんなことになっているんだろうが!! 貴様が佐藤悠斗からポーションや仮設機材を買い取っていなければ、こんな事にはならなかったッ! こんな事にはならなかったんだッ!! 貴様こそ評議員としての立場を利用しているじゃないかッ!!」

「ほう……私がどのように評議員としての立場を利用していると?」

「佐藤悠斗との取引が中断されて困るのは貴様だろッ! だからこそ、評議員としての立場を利用して、評議員会議で佐藤悠斗に対する対応を『静観』とした! そうだろ!!」

 マスカットは顎に手を当て考える。

「……違うな。確かに私は、悠斗から『ポーション』と『仮設機材』を購入している。品質の良い商品だからな。しかし、悠斗からこれらの商品を仕入れなくとも、私の商いにまったく影響はない。それは貴公が一番よく分かっているのではないか?
 それに悠斗への対応を『静観』としたのも、今回のようなことを恐れてのことだ。元々、商業ギルドのそのようなやり方には加盟当時から疑問に思っていた……。だからこそ、私も昔、商業ギルドを一時脱退した。
 潤沢な資金を持つ元Aランク商人にそんなやり方をしたらどうなるか、今回のことで身に染みただろう? だからこそ、悠斗に対する対応を『静観』としたのだ。これでもまだ私が評議員としての立場を利用したとでも言うのか?」

 リマはガックリと肩を落とす。

 そんなリマを一瞥するとマスカットは財務大臣に視線を向け、頭を下げる。
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