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第七章 教会編
第182話 異端審問官③
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「……です。……なぜ……です。……何故なのですか! ロプト神様ァァァァ!」
フェロー王国の王都、大司教ソテルが管理する教区教会の礼拝堂にソテルの絶叫が響き渡る。
大司教ソテルは、ロプト神の神託を受け、サンミニアート・アルモンテ聖国のドミニカ修道会を襲撃。異端審問官を見習いごと殲滅した。
そして今日、ソテルの信仰するロプト神のお言葉を頂戴しようと、神託スキルを発動するも全く音沙汰がない。神託スキルを賜わって以来、初めての出来事に衝撃を受け、教区教会内にいる修道士が畏怖する中、十字架に祈りを捧げながら絶叫していた。
当の本人ソテルは、真剣に祈っている。
ただ、心の声がそのまま口から出てしまっているだけだ。
「異端審問官殲滅……異端審問官殲滅……異端審問官殲滅……ッ!」
そしてソテルは思い至る。
まだ異端審問官長ドミニカたちが生きている事に……。
「異端審問官殲滅……。まだ異端審問官は生きている。ロプト神様は私が中途半端に神託を実行してしまった事にお怒りなのですね……。異端審問官を殲滅するまでロプト神様の神託は賜われない。そういう事なのですね!」
実際はこれ以上、余計な神託をしない様、眠りについているだけなのだが、ソテルにはそれを知る由もない。
ソテルの心が冷静さを取り戻す。
「ああ、ああっ! 残りの異端審問官たちも速やかに殲滅致します。もう少々、お待ち下さいませ。」
ソテルはゆっくり立ち上がると、狂喜の笑みを浮かべ異端審問官長ドミニカのいるユートピア商会に向かう。
「待っていなさいドミニカ……神はあなたの魂を御求めになっています。すぐに神の御許へと送り届けて差し上げましょう。」
血の涙を流しながら絶叫していたソテルが急に笑顔を取り戻した事に安堵した修道士たちは、今日もまた血で塗れた礼拝堂の掃除を行う。
ソテルが呟いていた異端審問官殲滅という言葉に、空恐ろしい思いを抱きながら……。
――場所は変わって悠斗邸。
邸内に複数の精霊の反応を捉えた屋敷神が邸宅内を探っていると、ルチアが目覚めた事に気付く。
「どうやらお客様がお目覚めになったようです。おや、精霊を顕現させているようですね。」
屋敷神は悠斗邸最強の守護者の一柱だ。この邸宅で起こるすべての事をリアルタイムで把握する事ができる。
「精霊?」
「はい。どうやら状況把握に努めているようですが……精霊視点で何があったのか話を聞いています。とはいえ、あのような物言いでは伝わるものも伝わりません。丁度食事もできた所ですし、私たちも参りましょう。」
「俺もっ?」
「当然でございます。本邸宅の主人なのですから……。」
屋敷神は配膳台に食事を並べると、それを怪我をして倒れていた修道士の元へと運んでいく。
「それでは、失礼致します。」
屋敷神は、ドアをノックし扉を開けると、配膳台を修道士のいるベッドの横まで運んでいく。俺も屋敷神に続きドアを潜ると、そこには顔色の良くなった修道士の姿があった。
「おはようございます。お客様、体調に問題はありませんでしょうか?」
屋敷神が配膳をしながら尋ねると、修道士は俯き黙りこくってしまう。
「ああ、失礼致しました。自己紹介が遅れてしまい申し訳ございません。ご紹介申し上げます。こちらが我が主、佐藤悠斗様でございます。」
「佐藤悠斗と申します。どうぞよろしくお願いします。」
「そして私は佐藤悠斗様にお仕えしている執事の屋敷神と申します。以後お見知りおきを……。」
修道士の女性は目をパチクリさせると、こちらの自己紹介につられるように口を開く。
「私は聖モンテ教会の修道士、ルチアと申します。悠斗様、屋敷神様。私の事を助けて頂きありがとうございます。助けて頂いて恐縮なのですが、ここはどちらでしょうか。私はサンミニアート・アルモンテ聖国の修道院を訪れていた所、大司教ソテル様によってスヴロイ領の森の中に連れてこられて今に至るのですが……。」
「ここはフェロー王国の王都にある悠斗様の邸宅です。スヴロイ領からですと王都からフェリーを使って1日の距離があります。そしてサンミニアート・アルモンテ聖国についてですが、こちらについては何分地理に精通しておりませんものでして、お力になれず申し訳ございません。」
「そうですか……。」
聖モンテ教会の修道士ルチアは少し落ち込んだような声で呟く。
無理もない。日本の自宅で寛いでいたら、突然攫われ、気付けばニューヨークでした。
そんな様な話だ。
あれ? 俺自身も日本の公園でカツアゲされ、気付けばこの世界ウェークに来ていたし、境遇だけ見ると同じようなものか?
「まずはお食事をお摂り下さい。聖モント教の教区教会は王都にもありますし、スヴロイ領まででよろしければ送り届ける事もできます。それ以上は少し難しいですが。何でしたら暫くの間、こちらで生活をして貰っても構いません。」
スラム街出身の従業員も悠斗邸敷地内に住んでいる。
邸宅内は部屋も広いし、子供たちも最近ではあまり帰って来る事が少なくなった。
空いている部屋ならいくらでもある。
悠斗が慣れない敬語混じりの言葉を口にすると、ルチアが少しだけ微笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせて頂きたく存じます。」
ルチアは屋敷神からフォークとスプーンを受け取ると、配膳された食事に手を伸ばす。
今回用意した食事はカレーである。
毎週末の朝食に出すメニューで、ユートピア商会の従業員に大人気のメニューだ。
今でも朝と昼は従業員たちと飲食を共にしている。
ルチアは初めて見るカレーに興味津々のようだ。
何かを確かめるかのようにルーを混ぜたり、カレーの匂いを嗅いだりしている。
そして意を決して、カレーを口に運ぶと一言「美味しい。」と呟いた。
当然の事である。
屋敷神の作るカレーは絶品なのだ。
常日頃から研究に研究を重ねており、毎週違う味のカレーを俺たちに提供してくれている。
「それでは、何か御用がありましたらそちらの鈴でお呼び下さい。」
「はい。色々と気を使って下さりありがとうございます。」
「それでは失礼します。」
悠斗と共に部屋から出ると屋敷神が、神妙な顔を浮かべる。
「これは侵入者でしょうか? 少し厄介な事になってきましたね……。」
屋敷神の目には、悠斗邸、そしてユートピア商会に爆発物と思わしき物を投げ入れている男たちの姿が映る。屋敷神は悠斗に聞こえない様にそう呟くと、すぐさま土地神の援護に向かう事に決めた。
「悠斗様。申し訳ございません。急遽、用が出来てしまいました。大変恐縮ではありますが、私はこちらにて失礼させて頂きたく存じます。」
いつもであれば魔法陣でロキかカマエルの階層に送り込めばいいだけなのだが、今回はそうはいかない。なにせカマエルの階層は一時的に封鎖している。そしてロキの階層には、ロキが眠りについているため勝手に送り込む事もできない。
屋敷神は「仕方がありませんね。」と呟くと悠斗にペコリと会釈をして立ち去る。
悠斗邸とユートピア商会に異端審問官の魔の手が差し掛かっていた。
フェロー王国の王都、大司教ソテルが管理する教区教会の礼拝堂にソテルの絶叫が響き渡る。
大司教ソテルは、ロプト神の神託を受け、サンミニアート・アルモンテ聖国のドミニカ修道会を襲撃。異端審問官を見習いごと殲滅した。
そして今日、ソテルの信仰するロプト神のお言葉を頂戴しようと、神託スキルを発動するも全く音沙汰がない。神託スキルを賜わって以来、初めての出来事に衝撃を受け、教区教会内にいる修道士が畏怖する中、十字架に祈りを捧げながら絶叫していた。
当の本人ソテルは、真剣に祈っている。
ただ、心の声がそのまま口から出てしまっているだけだ。
「異端審問官殲滅……異端審問官殲滅……異端審問官殲滅……ッ!」
そしてソテルは思い至る。
まだ異端審問官長ドミニカたちが生きている事に……。
「異端審問官殲滅……。まだ異端審問官は生きている。ロプト神様は私が中途半端に神託を実行してしまった事にお怒りなのですね……。異端審問官を殲滅するまでロプト神様の神託は賜われない。そういう事なのですね!」
実際はこれ以上、余計な神託をしない様、眠りについているだけなのだが、ソテルにはそれを知る由もない。
ソテルの心が冷静さを取り戻す。
「ああ、ああっ! 残りの異端審問官たちも速やかに殲滅致します。もう少々、お待ち下さいませ。」
ソテルはゆっくり立ち上がると、狂喜の笑みを浮かべ異端審問官長ドミニカのいるユートピア商会に向かう。
「待っていなさいドミニカ……神はあなたの魂を御求めになっています。すぐに神の御許へと送り届けて差し上げましょう。」
血の涙を流しながら絶叫していたソテルが急に笑顔を取り戻した事に安堵した修道士たちは、今日もまた血で塗れた礼拝堂の掃除を行う。
ソテルが呟いていた異端審問官殲滅という言葉に、空恐ろしい思いを抱きながら……。
――場所は変わって悠斗邸。
邸内に複数の精霊の反応を捉えた屋敷神が邸宅内を探っていると、ルチアが目覚めた事に気付く。
「どうやらお客様がお目覚めになったようです。おや、精霊を顕現させているようですね。」
屋敷神は悠斗邸最強の守護者の一柱だ。この邸宅で起こるすべての事をリアルタイムで把握する事ができる。
「精霊?」
「はい。どうやら状況把握に努めているようですが……精霊視点で何があったのか話を聞いています。とはいえ、あのような物言いでは伝わるものも伝わりません。丁度食事もできた所ですし、私たちも参りましょう。」
「俺もっ?」
「当然でございます。本邸宅の主人なのですから……。」
屋敷神は配膳台に食事を並べると、それを怪我をして倒れていた修道士の元へと運んでいく。
「それでは、失礼致します。」
屋敷神は、ドアをノックし扉を開けると、配膳台を修道士のいるベッドの横まで運んでいく。俺も屋敷神に続きドアを潜ると、そこには顔色の良くなった修道士の姿があった。
「おはようございます。お客様、体調に問題はありませんでしょうか?」
屋敷神が配膳をしながら尋ねると、修道士は俯き黙りこくってしまう。
「ああ、失礼致しました。自己紹介が遅れてしまい申し訳ございません。ご紹介申し上げます。こちらが我が主、佐藤悠斗様でございます。」
「佐藤悠斗と申します。どうぞよろしくお願いします。」
「そして私は佐藤悠斗様にお仕えしている執事の屋敷神と申します。以後お見知りおきを……。」
修道士の女性は目をパチクリさせると、こちらの自己紹介につられるように口を開く。
「私は聖モンテ教会の修道士、ルチアと申します。悠斗様、屋敷神様。私の事を助けて頂きありがとうございます。助けて頂いて恐縮なのですが、ここはどちらでしょうか。私はサンミニアート・アルモンテ聖国の修道院を訪れていた所、大司教ソテル様によってスヴロイ領の森の中に連れてこられて今に至るのですが……。」
「ここはフェロー王国の王都にある悠斗様の邸宅です。スヴロイ領からですと王都からフェリーを使って1日の距離があります。そしてサンミニアート・アルモンテ聖国についてですが、こちらについては何分地理に精通しておりませんものでして、お力になれず申し訳ございません。」
「そうですか……。」
聖モンテ教会の修道士ルチアは少し落ち込んだような声で呟く。
無理もない。日本の自宅で寛いでいたら、突然攫われ、気付けばニューヨークでした。
そんな様な話だ。
あれ? 俺自身も日本の公園でカツアゲされ、気付けばこの世界ウェークに来ていたし、境遇だけ見ると同じようなものか?
「まずはお食事をお摂り下さい。聖モント教の教区教会は王都にもありますし、スヴロイ領まででよろしければ送り届ける事もできます。それ以上は少し難しいですが。何でしたら暫くの間、こちらで生活をして貰っても構いません。」
スラム街出身の従業員も悠斗邸敷地内に住んでいる。
邸宅内は部屋も広いし、子供たちも最近ではあまり帰って来る事が少なくなった。
空いている部屋ならいくらでもある。
悠斗が慣れない敬語混じりの言葉を口にすると、ルチアが少しだけ微笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせて頂きたく存じます。」
ルチアは屋敷神からフォークとスプーンを受け取ると、配膳された食事に手を伸ばす。
今回用意した食事はカレーである。
毎週末の朝食に出すメニューで、ユートピア商会の従業員に大人気のメニューだ。
今でも朝と昼は従業員たちと飲食を共にしている。
ルチアは初めて見るカレーに興味津々のようだ。
何かを確かめるかのようにルーを混ぜたり、カレーの匂いを嗅いだりしている。
そして意を決して、カレーを口に運ぶと一言「美味しい。」と呟いた。
当然の事である。
屋敷神の作るカレーは絶品なのだ。
常日頃から研究に研究を重ねており、毎週違う味のカレーを俺たちに提供してくれている。
「それでは、何か御用がありましたらそちらの鈴でお呼び下さい。」
「はい。色々と気を使って下さりありがとうございます。」
「それでは失礼します。」
悠斗と共に部屋から出ると屋敷神が、神妙な顔を浮かべる。
「これは侵入者でしょうか? 少し厄介な事になってきましたね……。」
屋敷神の目には、悠斗邸、そしてユートピア商会に爆発物と思わしき物を投げ入れている男たちの姿が映る。屋敷神は悠斗に聞こえない様にそう呟くと、すぐさま土地神の援護に向かう事に決めた。
「悠斗様。申し訳ございません。急遽、用が出来てしまいました。大変恐縮ではありますが、私はこちらにて失礼させて頂きたく存じます。」
いつもであれば魔法陣でロキかカマエルの階層に送り込めばいいだけなのだが、今回はそうはいかない。なにせカマエルの階層は一時的に封鎖している。そしてロキの階層には、ロキが眠りについているため勝手に送り込む事もできない。
屋敷神は「仕方がありませんね。」と呟くと悠斗にペコリと会釈をして立ち去る。
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