転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です

第八章 フェロー王国動乱編

第２３５話 ヨルズルの依頼②

　冒険者ギルドのギルドマスター、ヨルズルは顔を上げると、一枚の依頼書を手に取りテーブルへと置く。

「この依頼書を見て頂けませんか？」

　俺はヨルズルさんに言われた通り、テーブルに置かれた依頼書に視線を向けた。
　この依頼、簡単にいえば廃坑の調査依頼の様だ。

「これがＳランク冒険者にしかできない依頼ですか？」

「はい。エストゥロイ領の地下には、様々な鉱物が含まれている鉱脈があり、多くの廃坑が埋められることなく多数放置されたままとなっております。通常の調査依頼であれば、Ａランク以下の冒険者に任せる所ですが先日、遂に起こるべき事が起こってしまいまして……」

「一体何が起こったんですか？」

　ヨルズルは神妙な面持ちで呟く。

「はい。つい先日、廃坑の埋め立てが進んでいない箇所付近で、大規模な陥没事故が発生しました。その際、陥没事故のあった場所で、モンスターの鳴き声を聞いた者が居たそうです。現在、埋め立て作業を順次行っておりますが陥没事故の起こった場所については調査なくして埋め立て作業を行う事ができません」

　ヨルズルは真剣な視線を俺に向けると、手を震わせ土下座する。

「先日、Ｓランク冒険者を調査に向かわせましたが残念ながら帰ってきませんでした。彼がこの依頼を達成できなかった以上、この依頼をこなせるのはＳランク冒険者である悠斗君、君だけです。勝手な願いだと言うのはわかっています。この地に住む人々を陥没事故から守る為に……調査に向かい未だ帰って来る事のないＳランク冒険者を助ける為に力を貸しては貰えないでしょうか……」

　エストゥロイ領の地下がそんな事になっているとは知らなかった。
　陥没事故が起きてしまい、その調査に行ったＳランク冒険者が戻ってこない事からこの依頼の危険度は相当高いだろう。その為もあってか依頼料が白金貨1,000枚（約1億円）と非常に高額となっている。

　俺が目を瞑り「う～ん」と考えていると、ヨルズルさんが縋る様に声をかけてくる。

「勿論、今回の調査には、私も一緒に同行します。他にＡランク冒険者2人も動員しましょう。もうお願いできるのが悠斗君。君しかいないんです。どうか……どうか検討を……」

　俺は「ふうっ」と呟くと、ソファーから立ち上がる。

「ゆ、悠斗君……」

　俺が立ち上がった事に、ヨルズルさんは一瞬悲しそうな表情を浮かべる。

「わかりました。今なら調査に行ったＳランク冒険者の方も生きているかもしれませんし、直ぐに調査に向かう事にしましょう」

「ああ、ああ！　ありがとう！　すぐにＡランク冒険者2人を動員しよう！　申し訳ないんだけど、もう少しだけ待って貰えないだろうか？」

　確かに、今回の調査依頼は危険度がとても高い。
　いくら調査に行ったＳランク冒険者の事が心配だとしても、準備を怠った事で自分迄同じ目に遭ってしまえば本末転倒だ。

「わかりました。それでは俺は一旦邸宅に戻りますので、一時間後ここに集まり現場に向かう事にしましょう」

「はい！　それでは一時間後、準備を整えてお待ちしております」

　俺はそう言い残すと、邸宅に戻る事にした。


　佐藤悠斗がギルドマスター室を去った後、ヨルズルは深い笑みを浮かべる。

「ふふふっ、上手く行った様ですね。これで彼はお終いです……」

　確かに小規模な陥没事故は起こっているが、Ｓランク冒険者を調査に向かわせた事実はない。
　この調査依頼を佐藤悠斗に薦めたのは偏に、ヨルズルにとって邪魔な存在である佐藤悠斗を抹殺する為である。

「それにしても、一時間後ですか……。時間がありませんね」

　まさか、こんな早く彼が動いてくれるとは思っていなかった。
　すぐに準備を進めなければ……。

　ふふふっ、これで佐藤悠斗も終わりだ。

　ヨルズルは通信用の魔道具を起動すると早速、佐藤悠斗抹殺の為、準備に取り掛かる。

「ああ、別に構いませんよ。えっ？　佐藤悠斗と戦いたい？」

　まったく何を言っているんだ？　とはいえ、彼の支援なくして佐藤悠斗を殺す事はできない。

「わ、わかりました。本来であれば、崩落事故を装い死んでもらうのが最も好ましいのですが、あなたがそう言うのであれば仕方がありません。……えっ？」

　ま、まあいいでしょう。
　私には関わり合いのない事です。

　本来であれば、この調査依頼により死んでもらう方が好ましいのですが、協力者がそう言うのであれば仕方がありません。
　一体何が彼を駆り立てるのかは分かりませんが、言う通りにしましょう。

　全く、佐藤悠斗と戦いたいなど元・Ｓ・ラ・ン・ク・冒・険・者・の考える事は常人である私には理解できません。
　とはいえ、これにより私の冒険者ギルドにも平穏が訪れる事は間違いありません。
　佐藤悠斗の育てていた従業員達は、後々私自ら手を回し、私の駒になる様手配致しましょう。

「ふふふっ、楽しくなってきました。さて、彼に言った様にＡランク冒険者の手配をしなくてはなりませんね」

　大事なのは、佐藤悠斗を再起不能に陥らせ、ユートピア商会の従業員達を私の手駒とする事。
　ヨルズルは深い笑みを浮かべると、佐藤悠斗を再起不能に追い込むための策謀を巡らせるのであった。