344 / 486
悠斗の家出
第391話 迷宮攻略の裏側で(side元主神)①
しおりを挟む
『戦神召喚』
突然、発現したその力は、私を驚かせた。
何せ私がそう呟くと、私の目の前につばの広い帽子を被り、長い髭を生やした隻眼の老人が舞い降りたのだ。
隻眼の老人の名は、オーディンというらしい。
この世界ウェークを統べる元主神で、戦争と死を司る神だ。
何故、そんな神が私に力を貸すのかは分からない。
しかし、これだけは言える。
この私にチャンスが回ってきたと……。
「それで、元主神様……。元主神様は何故、私に力を貸してくれようと思ったのです?」
召喚したオーディンにそう質問すると、オーディンは笑みを浮かべる。
「何を言うかと思えば、当たり前のことを聞くでない。奪われた地位を取り戻す為に決まっておろう」
「奪われた地位?」
私に力を貸す事が、何故、主神の地位を取り戻す事と繋がるのかよく分からない。
「ああ、そうだ。あの憎き狡知神ロキにより私の地位は奪われてしまった。ロキがこの世界にいる事は分かっている。だからこそ、お前に力を貸すのだ」
狡知神ロキ?
聞いた事のない神の名だ。
「うん? なんだ、お前はロキの事を知らんのか?」
「は、はい……」
「聖モンテ教の新教皇ソテルが信仰する神の真名だ。お前が敵対視しているこの世界の異物、転移者、佐藤悠斗に力を貸す神の一柱でもある」
「な、なんですって……」
あの狂皇ソテルが信仰する神にして、佐藤悠斗に力を貸す神……。
なる程、それなら納得できる。
この元主神は、この私を利用してロキという神を殺し、次いでその障害となる佐藤悠斗をも殺すと、そう言う事だろう。
願ったり叶ったりだ。
元主神とはいえ、神を利用する事ができるなら心強い。
「それで? 元主神様は、どうやって主神に返り咲くつもりなのです? まさか教会でも乗っ取るおつもりで?」
「ふん。そんな事はせぬよ。あの教皇がいる限り、そんな事をしても無意味だ。しかも、あ奴はロキの使徒。ワシがこの世界に顕現している事を気付かれては厄介だからな……だからこそ、ワシならではの方法で、奴を上回る信仰心を集める」
「元主神様ならではの方法で?」
この元主神……一体何をするつもり?
私が警戒心を露わにすると、オーディンはケタケタ笑う。
「信仰とは救いだ。信仰心は自分の事を助けてくれる。そんな者の心に宿るもの。我々神は、そんな信仰心を糧に力を得ている。オーランド王国の女王フィンよ。どうすれば、信仰心を得る事ができるのか……考えた事があるか?」
「い、いえ……」
そんな事、考えた事もない。
何せ人は信仰心なくして生きていけるのだから。
「信仰心を得る方法は簡単だ。疫病を撒き散らし、戦争を引き起こす。そして、もう駄目だと思ったその時、ほんの少しの希望を人々に与える。ただそれだけの事で信仰心など簡単に得る事ができる……」
「疫病に戦争ですか……」
今更ながらとんでもない神を仲間に引き込んでしまったものだ。
これが元主神の考えか……普通ではない。
もし扱いを間違えれば、オーランド王国が滅ぶ事に繋がりかねない危うさを感じる。
すると、そんな私の心を見通してオーディンが呟いた。
「安心するがいい。この国には何もせぬよ。それに戦争を起こすのは、疫病を撒き散らした後……。疫病を撒き散らし、万能薬があれば助かる筈の命が散っていく。その時、その者は何を思うのか……信仰が憎悪に変わる。憎悪は神を蝕む毒へと変わり、その力を削いでいく」
「なる程、それが元主神様の考えですか……勿論、それについても我が国に被害はない。その様に考えてよろしいのですよね?」
「ああ、当然の事だ。お前にはまだまだやってもらう事がある。協力者であるお前の国に害を与えぬと約束しよう。さて……」
そう言うとオーディンは身体を浮かび上がらせる。
「どちらに行くのですか?」
「何、知れたことよ。この国には疫病を流行らせるのに持ってこいな迷宮があるだろう? それに天界から私の持ち物を迷宮に転移させた。信仰心が薄れてしまった今、迷宮に転移させるのがやっとだったからな……今からそれを取りに行ってくる」
そういうと、オーディンは迷宮のある方向に視線を向ける。
「ついでにお前の部下共も守ってくれるわ」
「部下?」
「ああ、何故かはよく分からんが、迷宮からモンスターが出てきたようだ。このワシが何とかしてやろう。なにせワシはお前の協力者だからな」
「そう。それじゃあ、部下の事を頼んだわ。元主神様……」
私がクスリと笑いながらそう言うと、オーディンは忌々しそうな表情を浮かべた。
「オーディン様だ。元主神様などと呼ぶでないわ」
「ええ、オーディン様」
「ふんっ!」
するとオーディンはその場から姿を消した。
おそらく、兵士達のいる迷宮に向かったのだろう。
しかし、戦争と死を司る神か……。
「オーディンの事を調べておいた方がいいかもしれないわね」
聖モンテ教会の前教皇が信仰していたのがオーディンだった筈。
それにオーディンは言っていた『お前にはまだまだやってもらう事がある』と……。
利用価値がある内はいい。
しかし、この私に利用価値がなくなったら?
オーディンが何をしてくるか分からない。
「できれば、ロキとかいう神と同士討ちになってくれると嬉しいんだけど……」
私はそう呟くと、ハーブティーを啜った。
突然、発現したその力は、私を驚かせた。
何せ私がそう呟くと、私の目の前につばの広い帽子を被り、長い髭を生やした隻眼の老人が舞い降りたのだ。
隻眼の老人の名は、オーディンというらしい。
この世界ウェークを統べる元主神で、戦争と死を司る神だ。
何故、そんな神が私に力を貸すのかは分からない。
しかし、これだけは言える。
この私にチャンスが回ってきたと……。
「それで、元主神様……。元主神様は何故、私に力を貸してくれようと思ったのです?」
召喚したオーディンにそう質問すると、オーディンは笑みを浮かべる。
「何を言うかと思えば、当たり前のことを聞くでない。奪われた地位を取り戻す為に決まっておろう」
「奪われた地位?」
私に力を貸す事が、何故、主神の地位を取り戻す事と繋がるのかよく分からない。
「ああ、そうだ。あの憎き狡知神ロキにより私の地位は奪われてしまった。ロキがこの世界にいる事は分かっている。だからこそ、お前に力を貸すのだ」
狡知神ロキ?
聞いた事のない神の名だ。
「うん? なんだ、お前はロキの事を知らんのか?」
「は、はい……」
「聖モンテ教の新教皇ソテルが信仰する神の真名だ。お前が敵対視しているこの世界の異物、転移者、佐藤悠斗に力を貸す神の一柱でもある」
「な、なんですって……」
あの狂皇ソテルが信仰する神にして、佐藤悠斗に力を貸す神……。
なる程、それなら納得できる。
この元主神は、この私を利用してロキという神を殺し、次いでその障害となる佐藤悠斗をも殺すと、そう言う事だろう。
願ったり叶ったりだ。
元主神とはいえ、神を利用する事ができるなら心強い。
「それで? 元主神様は、どうやって主神に返り咲くつもりなのです? まさか教会でも乗っ取るおつもりで?」
「ふん。そんな事はせぬよ。あの教皇がいる限り、そんな事をしても無意味だ。しかも、あ奴はロキの使徒。ワシがこの世界に顕現している事を気付かれては厄介だからな……だからこそ、ワシならではの方法で、奴を上回る信仰心を集める」
「元主神様ならではの方法で?」
この元主神……一体何をするつもり?
私が警戒心を露わにすると、オーディンはケタケタ笑う。
「信仰とは救いだ。信仰心は自分の事を助けてくれる。そんな者の心に宿るもの。我々神は、そんな信仰心を糧に力を得ている。オーランド王国の女王フィンよ。どうすれば、信仰心を得る事ができるのか……考えた事があるか?」
「い、いえ……」
そんな事、考えた事もない。
何せ人は信仰心なくして生きていけるのだから。
「信仰心を得る方法は簡単だ。疫病を撒き散らし、戦争を引き起こす。そして、もう駄目だと思ったその時、ほんの少しの希望を人々に与える。ただそれだけの事で信仰心など簡単に得る事ができる……」
「疫病に戦争ですか……」
今更ながらとんでもない神を仲間に引き込んでしまったものだ。
これが元主神の考えか……普通ではない。
もし扱いを間違えれば、オーランド王国が滅ぶ事に繋がりかねない危うさを感じる。
すると、そんな私の心を見通してオーディンが呟いた。
「安心するがいい。この国には何もせぬよ。それに戦争を起こすのは、疫病を撒き散らした後……。疫病を撒き散らし、万能薬があれば助かる筈の命が散っていく。その時、その者は何を思うのか……信仰が憎悪に変わる。憎悪は神を蝕む毒へと変わり、その力を削いでいく」
「なる程、それが元主神様の考えですか……勿論、それについても我が国に被害はない。その様に考えてよろしいのですよね?」
「ああ、当然の事だ。お前にはまだまだやってもらう事がある。協力者であるお前の国に害を与えぬと約束しよう。さて……」
そう言うとオーディンは身体を浮かび上がらせる。
「どちらに行くのですか?」
「何、知れたことよ。この国には疫病を流行らせるのに持ってこいな迷宮があるだろう? それに天界から私の持ち物を迷宮に転移させた。信仰心が薄れてしまった今、迷宮に転移させるのがやっとだったからな……今からそれを取りに行ってくる」
そういうと、オーディンは迷宮のある方向に視線を向ける。
「ついでにお前の部下共も守ってくれるわ」
「部下?」
「ああ、何故かはよく分からんが、迷宮からモンスターが出てきたようだ。このワシが何とかしてやろう。なにせワシはお前の協力者だからな」
「そう。それじゃあ、部下の事を頼んだわ。元主神様……」
私がクスリと笑いながらそう言うと、オーディンは忌々しそうな表情を浮かべた。
「オーディン様だ。元主神様などと呼ぶでないわ」
「ええ、オーディン様」
「ふんっ!」
するとオーディンはその場から姿を消した。
おそらく、兵士達のいる迷宮に向かったのだろう。
しかし、戦争と死を司る神か……。
「オーディンの事を調べておいた方がいいかもしれないわね」
聖モンテ教会の前教皇が信仰していたのがオーディンだった筈。
それにオーディンは言っていた『お前にはまだまだやってもらう事がある』と……。
利用価値がある内はいい。
しかし、この私に利用価値がなくなったら?
オーディンが何をしてくるか分からない。
「できれば、ロキとかいう神と同士討ちになってくれると嬉しいんだけど……」
私はそう呟くと、ハーブティーを啜った。
3
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」
「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる
グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。
『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。
2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。
主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。