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悠斗の家出

第392話 迷宮攻略の裏側で(side元主神)②

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 このワシが天界から迷宮に送ったのは、一対の渡鴉『フギンとムニン』、愛馬『スレイプニル』、そして『王座フリズスキャールヴ』の三つ。

 渡鴉フギンとムニンは、フェロー王国にあるヴォーアル迷宮に送った。
 フギンとムニンは、我が愛馬スレイプニルに次ぎ大切な存在だ。元々、フェロー王国の王の元に顕現しようと思い先に送り込んだが、その王は私が顕現する前にロキの使徒の手に渡ってしまった。

 フギンとムニンは、後で回収しよう。
 今、優先すべきは愛馬『スレイプニル』と『王座フリズスキャールヴ』の確保だ。

 私は杖代わりに使っている神器『グングニル』に視線を落とす。
 愛馬スレイプニルと神器グングニル、これさえあれば、戦神であるこの私に負けはない。
 そして、主神の座を奪われる前に、迷宮に送り込んだ王座フリズスキャールヴ。

 王座フリズスキャールヴの力は、ロキの持つスキル『秩序破り』にも勝る力。
 例え、ロキがこの世界に顕現していようが、忌々しいロキのスキル『秩序破り』により因果律を改変されようが、絶大なるその力で圧倒する事もできる。

「ふふふっ、待っておれよロキ。主神の座、すぐに取り戻してくれる」

 そんな事を言っている内に迷宮が見えてきた。
 迷宮に視線を落とすと、マリエハムン迷宮第十階層に設置した筈のボスモンスター『リバイアサン』が大暴れしている。オーランド王国の兵士達も突如としてリバイアサンが現れた為か、全く統率が取れていない様だ。

「しかし、何故、第十階層を守護している筈のリバイアサンがこんな所にっ……むっ?」

 リバイアサンはこのワシに気付くと、口を大きく開け飲み込もうとしてくる。

「ぐっ! 気付かれたかっ! もう少し兵士と共に遊んでいればいいものをっ! しかしこうなっては仕方がないっ!」

 ワシはルーン文字を操り空中に魔法陣を描くと、リバイアサンに向かって雷を放つ。
 雷に打たれたリバイアサンは身を硬直させ仰け反らせた。

「グギャアアアアッ!」
「ふんっ、やったか……!? なにぃ!?」

 しかし、リバイアサンに雷はあまり効果はないようだ。雷を放った事で、怒りの視線を向けてきた。

「ぐっ! これ程まで厄介なモンスターだったとはっ! こやつ水棲のモンスターではなかったのかッ!?」

 完全に予定外だ。
 グングニルを投擲するにも、この間合いではっ!?

 そうこうしている内に、リバイアサンの口がワシに迫いくる。

「ええい、仕方がないっ!」

 リバイアサンに手を向けると、神器『ヴァルハラ』を開放した。

 宮殿ヴァルハラは、天界にいた頃、ワシが住んでいた宮殿の名。こちらの世界に来る時、神器に変え持ってきたものだ。しかし、信仰心が失われてしまった今、十全に扱う事ができずにいる。

 しかし、これ位の事はできるっ!

「『ヴァルハラ:槍の壁』」

 ワシがそう呟くと、槍の壁がリバイアサンを取り囲む。
 そして槍の壁はリバイアサンを閉じ込めるかの様に収縮すると、箱の様な形状をとった。

「死ね!」

 そして、ワシがそう言うと槍の壁がリバイアサンを四方から貫いていく。

「グギャアアアアッ……!」

 槍の壁に閉じ込められたリバイアサンは、身体中に槍を受けると、絶叫を上げ動かなくなった。
 ワシが、槍の壁を解除すると、辺り一帯にリバイアサンの血の雨が降っていく。
 そして、リバイアサンのその巨体を地面に落とすと、地面が大きく脈動した。

「ふんっ! 雑魚の分際で、このワシを手こずらせおって!」

 リバイアサンを倒したワシはグングニルを杖代わりに手に持つと、中隊長の下に降り立った。
 すると、恭しくも、中隊長が声をかけてくる。

「あ、あなた様がフィン様の仰っていたオーディン様でしょうか?」
「うん? フィンから通信でもあったのか? 如何にも、ワシの名はオーディン。フィンの要請によりお前達を助けにきた……」

 ワシがそう言うと、兵士達がワシの事を拝みだした。

「ああ、ああっ……」

 おお、感じる……感じるぞっ!
 このワシに信仰心が流れ込んでくるのを感じる。

 死を感じさせる程の絶望的な状況、そこから助け出された者から流れ込む信仰心……。
 やはり、私の考えに間違いはなかった。

「安心せよ。このワシがいる以上、お前等の安全は保証してやる」

 ワシがそう言うと、更なる信仰心が身体の中に流れ込んでくる。

 ふはっ……ふはははっ!
 素晴らしいっ! 素晴らしい信仰心だっ!
 やはり、フィンの下に降り立った事は間違いではなかった。
 力が、力が溢れてくる!

 この者達を利用し、他国を戦渦に巻き込む。
 そして、このワシが救いを与えてやれば主神として返り咲く事も夢ではない。

 信仰心の源泉たる兵士達を眼下に収めると、ワシはニヤリとほくそ笑んだ。
「さて、愛馬と王座を取りに行くか」

 モンスターから兵士達を助け出したワシは、隊列を整えさせると、マリエハムン迷宮に視線を向けた。

 あの迷宮の奥底には、愛馬スレイプニルと王座フリズスキャールヴがある。
 主神の座に返り咲く為に、あの二つは必ず手に入れねばならぬものだ。
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