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びーぜろ

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第十章 冒険者ギルド編

第398話 ギルドマスター転勤

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 ここはフェロー王国王都支部の冒険者ギルド。
 ギルドマスターのキルギスが部屋で執務に励んでいると、突然、部屋の扉が開いた。

「ギルドマスター! 大変ですっ!?」
「朝から一体どうした。騒々しい……」

 ノックもせず扉を開け部屋に入ってきたギルド職員に視線を向ける。

「ヴォーアル迷宮が、ヴォーアル迷宮が……」
「まあ、まずは落ち着きなさい。ヴォーアル迷宮がどうした」

 ギルド職員は一度、深呼吸をすると衝撃的な言葉を吐き出した。

「は、はい。ヴォーアル迷宮が攻略されました」
「何っ!?」

 その報告に、ガタリと音を鳴らし、立ち上がると前のめりになってギルド職員に質問する。

「ヴォーアル迷宮が攻略されたというのは確かな情報か? 迷宮核は、まさか迷宮核は持ち出されていないだろうなっ!?」

 一番の心配事は迷宮を攻略され、迷宮から迷宮核を抜かれてしまう事だ。
 迷宮核を抜かれては、今後、迷宮で採れる素材を手に入れる事ができなくなる。
 そして、一番の問題は地盤の空洞化。

 他国でいう所のマデイラ王国では、それにより迷宮街付近を放棄しなければならなくなった程だ。

 ここは王都。
 もし万が一、こんな所でそんな事が起きれば大変な事になる。

「すぐにヴォーアル迷宮を調査しろ! 第十階層まで行きボスモンスターが出現する様であれば問題はない。それと同時に攻略者も探すんだ。迷宮の出入りは冒険者ギルドが管理している。管理簿を当たればわかる筈だ」
「は、はい! わかりました!」

 そう指示を出した私は、ギルド職員が部屋から出て行くのを確認するとため息をついた。

 フェロー王国では、迷宮核の持ち出しを禁止している。しかし、禁止しているからといって、迷宮核を持ち出されない根拠にはならない。

「何事もなければ良いのだが……」

 私はそう呟くと、椅子に座り冒険者ギルド本部からの辞令に目を通す。

 辞令にはこう書かれていた。

『フェロー王国王都支部所属ギルドマスター、キルギス。フェロー王国エストゥロイ支部ギルドマスター転属を命ずる。アゾレス王国ギルドマスター、モルトバ。フェロー王国王都支部ギルドマスター転属を命ずる』

「この状況下での配置換えか……」

 正直言って不安しかない。

「次にこの王都支部の就くギルドマスター、モルトバ……あまりいい噂は聞かないが……」

 私は少々の不安を抱えながら、転属命令に従い、準備を始めるのであった。

 後日、冒険者ギルドフェロー王国王都支部に新しくギルドマスターに就任予定のモルトバが到着した。
 その後、キルギスはモルトバへの簡単な引き継ぎを行うと、次の転属先であるエストゥロイ支部へと向かっていった。

 新しくフェロー王国王都支部のギルドマスターに就任したモルトバは、冒険者ギルドが開く前にギルド職員を集めると、皆の前に立ち話を始めた。

「本日よりギルドマスターとして働く事になったモルトバだ。就任早々、君達には耳の痛い話になるかもしれないが、聞いてほしい」

 私は一息溜めると、職員達に向かって話し始める。

「私がギルドマスターになったからには厳しく指導させて貰う。私は前任のギルドマスターとは違い甘くないからな。このギルドの抱える問題にメスを入れさせて貰うつもりだからそのつもりでいてくれ」

 この冒険者ギルドが抱える問題は多い。
 しかし、私が着任したからにはその全てを解決するつもりだ。

「まずは前任のギルドマスターが残していったヴォーアル迷宮の攻略者探しについて、これは最優先に進めてほしい。そして、冒険者ギルドの収支についてだが、護衛依頼が極端に減っている。私が思うにこれはユートピア商会が新たに売り出した『ペンダント型魔道具』が関連していると考えている。この魔道具が冒険者ギルドの利益を著しく侵害している以上、私はギルドマスターとして断固とした立場で販売中止を求める気だ」

 私がそう所見を述べると、ギルド職員の一人が声を上げる。

「しかし、幾ら不利益になっているとはいえ、冒険者ギルドが商会を相手取るんですか?」
「ふむ。確かに君の言いたい事もわかる。しかし、聞いた所によれば、その商会の会頭もそこで働く従業員達も、その殆どが冒険者だというじゃないか。それならば、冒険者ギルドの利益を考えて然るべきだ」

 それにユートピア商会は商人だけではなく冒険者を相手に商売をしている。
 その事を考えれば嫌とは言えない筈だ。

「しかし、損害賠償を求められたらどうするんですか」
「損害賠償? 何故、被害者である冒険者ギルド側が損害賠償を求められねばならない。むしろ、補償を勝ち取る気でいるのだが……」

 私がそういうと、ギルド職員は唖然とした表情を浮かべた。

「まあいい。ユートピア商会との交渉事は私に任せておけ、君達は通常業務をこなしながらヴォーアル迷宮の攻略者探しを行ってくれればそれでいい」
「「「はい」」」

 私がそう言うと、ギルド職員達は元気に返事をしてくれた。
 しかし、やはり所信表明をしてよかった。
 こうしてギルド職員の考えの甘さが浮き彫りになった以上、私が正していかなければならない。
 まったく、就任早々やる事が多すぎる。

 私はその場を解散させると、一人部屋に籠りユートピア商会の会頭を冒険者ギルドに呼ぶ為、手紙を書く事にした。
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