転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です

びーぜろ

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2巻

2-1

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  1 アンドラ迷宮潜入


 ある日、俺、佐藤悠斗さとうゆうとは不良二人からカツアゲされそうになっていたところ、突如とつじょ出現した魔法陣によって異世界に飛ばされた。
 転移先は隣国と戦争中のマデイラ王国という場所。俺と不良達は王国を守るための戦力として召喚されたらしく、強制的に訓練を受ける羽目はめに……
 ともに飛ばされた不良達が強力なスキルとステータスを獲得する中、俺が手に入れたのは『影を操る』というなんとも地味な力だった。
 その能力とステータスの低さを理由に周囲から無能扱いされた俺は、ついにはマデイラ王国にある『マデイラ大迷宮』に訓練の一環でもぐった際、おとりとして捨てられてしまう。
 そんな中、脱出を試みた俺は『召喚』スキルを入手した。そして、大天使のカマエルさんを仲間にすることに成功する。
 自分の能力を、影を便利に使いこなす『影魔法』に密かに進化させていたこともあり、俺はその力を駆使して迷宮を無事脱出。そのままマデイラの人間に気付かれないよう隣国のアゾレスへと移動するのだった。
 二つの国の間にある『名もなき迷宮』も、悪戯いたずら好きな神様のロキさんの力を借りつつ踏破した俺。
 順調に二つの迷宮を攻略した後、俺はポーションを作ったり、次の迷宮攻略の準備をしたりしながら自由気ままな生活を送るのだった。


「うわぁ……近くで見るとより高く感じるな」

 俺は現在、アゾレス王国にある六十階層からなる塔型とうがたの迷宮――『アンドラ迷宮』の前に立っている。
 街の東門を潜って左手すぐのところに位置するこの迷宮のまわりは、露店ろてんが立ち並び、数多くの冒険者でにぎわいを見せていた。
 おそらくあの冒険者達は、これからアンドラ迷宮に挑むのだろう。
 その人の群れの間をぬってアンドラ迷宮の入り口に向かうと、俺は周囲を監視している兵士からギルドカードの提示を求められる。
 アゾレス王国にある二つの迷宮、アンドラ迷宮と『ボスニア迷宮』は、俺が攻略してきたものと異なり、国が管理しているため、兵士に許可をとらないと入れないのだ。
 今まで攻略してきた迷宮にもあった階層の情報を示す掲示板は、兵士達の詰所のようなところに置かれていて、国に管理されているし、色々と勝手が違うみたいだ。
 俺がカードを渡すと、兵士は中身を確認しながら俺に忠告してくる。

「ん? Fランク冒険者が一人で迷宮に入るのか? 悪いことは言わない。パーティを組んでから出直した方がいい」
「大丈夫です。これでも迷宮を一人で探索できるくらいには強いですから」

 自分で言っていて恥ずかしくなってくるが、そうでも言わないと入らせてもらえそうにない空気だったから、仕方がない。
 俺の返答を聞くと、兵士は頭をかく。

「まあ、命を大事だいじにな……危険を感じたらすぐ戻ってくるんだぞ」
「はい! ありがとうございます」

 俺は兵士にお礼の言葉を告げた後、地図を片手に駆け出す。
 外から見た時は細くて狭そうだと思っていたが、思いのほか広大だ。
 一階層は荒野のようなフィールドで、ウルフやオーク、ウルフと同じサイズがあるビッグラビットなどのモンスターがあちこちに出現していた。
 囲まれない限りは、このレベルのモンスターなら死ぬことはないだろうと思いながら、先に進む。
 道中、冒険者がいないことを確認するために、影に入った範囲にいる対象を捕捉する『影探知サーチ』を発動した。
 誰もいないことが分かると、『影収納ストレージ』を発動し、その中にモンスターを次々と沈める。
影収納ストレージ』というのは、量やサイズに関係なく何でも取り込める魔法だ。
 中の酸素をなくしたものにモンスターを入れると、処分することもできる。
 二時間ほど散策しながら『影収納ストレージ』にモンスターを入れまくったところで、最初のボス部屋が見えてきた。
 ギルドで聞いた情報によると、ここで出現するボスはオークロードだったはずだ。
 扉を開け中に入っていくと、部屋の中央に差しかかったあたりで、床に魔法陣が描かれているのが目に入った。
 そこに近付いた途端、魔法陣が光り始め、その中から身長二メートルを超えるオークロードと十数体のオークが現れる。
 そして、オークロード達はこちらにギョロリと視線を向けた後、咆哮ほうこうを上げながら一斉に襲いかかってきた。

「う、うわっ! 『影縛バインド』」

 少し焦りはしたが、相手を縄状なわじょうの影で拘束する魔法を咄嗟とっさに発動し、対処する。
 オークロード達を動けないようにした後は、そのまま『影収納ストレージ』に沈めた。
『影魔法』は使い勝手のいいユニークスキルだと、改めて思う。
 そんなことを考えていると、オークロード達が現れた魔法陣が再び輝き出した。おそらくこの上に乗れば今までの迷宮と同じく次の階層に進めるのだろう。
 そう思って乗った瞬間、辺り一帯には緑が広がっていた。どうやらこの階層は、草原フィールドのようだ。
 周囲には、顔が犬っぽいコボルトや毒々しい色合いのデススネークなどのモンスター、そしてそれらと戦う冒険者の姿があちこちに見える。

「あれは、癒草いやしぐさと毒消草かな?」

 少し遠くに視線をやると、ポーションや毒消しの原料となる薬草が生えていた。
 しばらくして、辺りを見回している俺に、『虫のしらせ』と呼ばれる精霊のペンダントが振動して語りかけてきた。
 このペンダントは、俺に危機が迫っている時に反応して震え出す便利なアイテムだ。

『悠斗……矢が飛んでくる』
「えっ!?」

 俺がペンダントに聞き返したところで、足下に一本の矢が突き刺さった。

「うわっ!」

 情けない悲鳴を上げてしまったが、気を取り直してすぐさま『影探知サーチ』を周囲に使う。
 二人の冒険者らしい人が近くにいるのを捕捉できた。
 おそらく、そのうちの一人が俺に向けて矢を射ってきたのだろう。

「なんだよ、外しているじゃねーか」
「チッ、しかたねーだろ。距離が遠かったんだよ」

 声のする方向に視線を向けると、あまりガラのよくない冒険者風の二人組が言い合いながらこちらに向かっていた。
 二人とも俺の全然知らない人だし、攻撃される覚えもなかったが、会話を聞く限り、間違えて矢を放ってしまった可能性は少なそうだ。
 俺は冒険者風の男の目の前まで行って、尋ねる。

「すみません。これは、どういうことでしょうか?」
「ああっ? うるせぇな! 今取り込み中だよ……っ」

 片方がこちらを振り向き、俺を威嚇いかくするように声を上げた。
 答えてくれないか……少し手荒になるけど理由は確認しておいた方がいいだろう。
 俺は即座に冒険者二人の動きを封じようと、魔法を発動した。

「『影縛バインド』!」

 そして二人にさらに近づき、再び質問する。

「もう一度聞きます。なんで俺に矢を放ったんですか?」
「なんだよ、これ! 動けねぇ! テメェ! なにをしやがった!」

 何をされたか分からず混乱する片方に対し、もう一方の男はこちらを睨み付けながら口を開いた。

「言う訳ねーだろ、バーカ!」

 俺は子供の悪口のような返答にため息をついた。
 このまま質問しても、求めている答えは得られなさそうだ。

「じゃあ……申し訳ないですけど、強制的に教えてもらうことにしますね」

 二人組の頭に手のひらを置き、記憶や精神に干渉する『闇属性魔法』を発動させると、以前アゾレスに移動する時に捕まえたカルミネ盗賊団の連中であることがわかった。
 どうやら、自分達を捕まえて冒険者ギルドに引き渡した俺に対する報復のため、脱獄してから各地で網を張っていたらしい。そんな中で偶然、この二人と俺が出くわしたみたいだ。
 とりあえず生かしたまま二人を『影収納ストレージ』に収め、気分転換に次の階層を軽く散策してから、『影転移トランゼッション』で一階層に移動した。
 そのまま迷宮から出た俺は、残党の二人を引き渡すため冒険者ギルドへと向かう。
 ギルドの扉を開き受付まで歩いていくと、以前カルミネ盗賊団を捕まえた時に対応してくれた女性が声をかけてきた。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。悠斗様、いきなりで申し訳ないのですが、副ギルドマスターが悠斗様に会いたいとのことでして……こちらの部屋に来ていただいてもよろしいでしょうか」
「あ、わかりました」

 こちらの用件を伝える前に呼び出されてしまった。
 まぁ、残党の件は後で伝えればいいだろう。
 そう考えながら受付の女性についていき、副ギルドマスター室に案内された。

「副ギルドマスター、悠斗様をお連れいたしました」
「ああ、ありがとう……君が悠斗君か、活躍はよく聞いているよ。私の名前はバンデット・インサイダーだ。ここの冒険者ギルドの副ギルドマスターを務めている。よろしく頼むよ」

 バンデットさんは、自分の椅子いすから立ち上がって、俺の前に来て手を差し出してきた。
 俺は握手をかわしながら、早速話を切り出す。

「よろしくお願いします。それでお話があると受付の人から聞いたのですが……」

 バンデットさんは俺に近くのソファを勧めた後、自分の席に戻り口を開いた。

「その件なんだがね。実は悠斗君、ここに君を呼んだのは、謝らなければならないことがあるからなんだ。以前、君に捕まえてもらったカルミネ盗賊団だが、どういう手段を使ったのか冒険者ギルドから脱獄してしまってな……」
「冒険者ギルドで尋問にかけ、アジトの場所を吐かせるとうかがっていたのですが、その件はどうなったんですか?」

 俺の質問にバンデットさんは苦々しい表情を浮かべる。

「……残念だが、尋問をする前に脱獄してしまったため、それもできていないんだ。申し訳ない」

 バンデットさんは、その言葉とともに頭を下げた。
 まあ、脱獄してしまったものは仕方がない……というかさっきの二人から情報を得たから知っているんだけどね。
 ちょうどいい具合に盗賊団の団員を捕獲しているし、この二人を尋問すればいいだろう。

「頭を上げてください! 大丈夫です!」

 俺はそう言いながら『影収納ストレージ』からカルミネ盗賊団の団員二人を出すと、暴れないよう『影縛バインド』で縛り上げた。

「実は先ほど、迷宮でカルミネ盗賊団の団員を二人ほど捕まえました。この二人を尋問すれば、今度こそ彼らのアジトを聞き出すことができますよ!」

 顔を上げたバンデットさんは、俺と盗賊団の二人を交互に見て、唖然あぜんとしていた。
 急に影の中から人が出てきたから驚いたのかもしれない。

「逃げたりはしないので大丈夫です。ほらっ!」

 俺は何でも入る空間に繋がる『収納指輪』というアイテムから、『鍵穴のない鉄球付の拘束具』を取り出すと、二人の首と手足に着けていく。
 この拘束具は以前冒険者ギルドで揉め事があった際に使った、切りつけても勝手に再生するヒュドラの素材で作った頑丈がんじょうなものだ。
 素材に使ったヒュドラのことは冒険者ギルドには秘密だから、そこは伏せておこう。

「これでよし、っと……バンデットさん。この拘束具は素材が特殊でして……決して外れない代物です。これでこの二人はもう逃げることはできません!」

 バンデットさんはあごが外れそうな程口を開け、石のように固まったままだ。
 せっかく聞き出すチャンスが再び来たのになんで尋問を始めないんだろう。
 こころなしか顔色も優れないみたいだし……なぜだろう。
 そうか! カルミネ盗賊団に一度脱獄されてしまったから、これだけ拘束してもまだ逃げられる可能性があると気にしているのかもしれない。
 だったらすぐに尋問を始めた方がいいよね。

「バンデットさん、今ここで彼らの尋問をしましょう! 俺に任せてもらえませんか?」
「えっ、それは……」

 バンデットさんは急に怖気おじけづいたように声を上げる。
 何かにおびえているみたいだけどどうしたんだろう。

「Fランク冒険者の俺では心許こころもとないと思うかもしれませんが、問題ありません。俺にはアンドラ迷宮でこの二人の素性を突き止めた実績がありますから。ここでも必要な情報を吐かせてみせます」

 そもそも俺に捕まるような奴らが相手なら、そう手こずることもないはずだ。いざとなればまた『闇属性魔法』で聞き出せるし……

「いや……あの」

 俺の提案に、戸惑うバンデットさん。
 その一方、受付嬢は感銘かんめいを受けたようで、バンデットさんに乗り気になってもらうため、力説し始めた。

「副ギルドマスター、今すぐ尋問に移りましょう。悠斗様はFランクではありますが、以前も大量の盗賊を捕まえた実力者です。きっと力になってくれます!」

 彼女の気迫に負けたのか、バンデットさんはまるで諦めたようにうなずいた。

「そっ、そうだな……すぐに尋問しよう……」

 バンデットさんがそう告げると、カルミネ盗賊団の二人が彼を鋭く睨み付けていた。
 その眼光にひるんだのか、バンデットさんはなかなか二人の前に行こうとしない。
 よほど盗賊団を恐れているのだろうか。仕方がないから俺が一肌脱ぎますか。
 そう思い、弱腰な副ギルドマスターに代わりに俺は二人に近づいた。

「えっ、ちょっ――――まっ!」

 バンデットさんがなにかを言いかけていたが、受付の女性の「悠斗様! お願いします!」という発言が被って何もわからなかった。
 俺は、団員の二人の頭に手のひらをかざし、『闇属性魔法』で拠点の場所を言いたくなるよう暗示をかけていく。さっきみたいに直接情報を読み取らないのは、彼らの口から言ってもらった方が信憑性しんぴょうせいが増すからだ。
 数秒ほどして、二人は目をトロンとさせながらつぶやいた。

「カルミネ盗賊団の……アジトは……アゾレス王国貴族街の……クロッコ男爵の邸宅……」

 貴族の邸宅が根城か。
 貴族街に盗賊なんかが入り込んで、よく捕まらなかったものだと感心してしまう。
 二人の自白を聞くやいなや、受付の女性が声を上げた。

「副ギルドマスター! 貴族が関わっているとなると、私達の手には負えません。すぐにギルドマスターに報告しましょう!」

 そして彼女は、ギルドマスターを呼びにいくために駆け出していってしまった。
 行動力がある人だ。
 役目を終えた俺は、バンデットさんにすべてを任せることにし、盗賊の二人をそのままに部屋を出ようとする。
 ふとバンデットさんの方を振り返ると、なぜか机の上で頭を抱えていた。
 今後の仕事が増えることに悩んでいるのだろうか。
 俺は厄介事やっかいごとを押し付けて申し訳ないと思いつつ、その場で一礼し、ギルドを後にするのだった。


 アゾレスに着いてから滞在している『私の宿屋』に戻った俺は、部屋備え付けのポーション風呂に浸かりながら今日あったことを思い返していく。
『私の宿屋』とは、アゾレスに移動する前に助けたアラブ・マスカットという商人が経営している宿だ。助けたお礼にと長い間タダで泊めてもらっている。
 ちなみに、マスカットさんは他にも『私の商会』など『私のグループ』をまとめあげる会頭で、俺もそこに迷宮で手に入れた素材を卸すなど、持ちつ持たれつの関係を続けている。

「まさか盗賊団が俺に復讐しにくるとは思わなかったな……」

 風呂で疲れや身体の汚れをリフレッシュした俺は、バスローブを羽織はおってベッドにダイブした。
 うつ伏せになり、頭まで毛布を被ると、いい具合に眠気が襲ってくる。
 俺はその睡魔にいざなわれるまま、夢の世界にダイブするのだった。


 ◆◇◆◇◆


 俺の名前は、バンデット・インサイダー。アゾレス王国冒険者ギルドの副ギルドマスターだが、カルミネ盗賊団という組織の協力者でもある。
 そんな俺がサポートしているカルミネ盗賊団だが、最近、悠斗とかいうガキにまとめて捕まってしまった。
 しかも、商人連合国アキンドの評議員であり、大商人のアラブ・マスカットを襲撃している最中の出来事だったようだ。
 Fランク冒険者に捕まるとは、軟弱なんじゃくな奴らである。
 とはいえ、組織のうちかなりの人数が捕まったと聞いた時は俺も冷や汗をかいた。
 尋問前に俺があいつらを逃がさなければヤバかっただろう。
 あいつらが手に入れた金の二割を貰えるとはいえ、今回に限って言えば、逃がすためにかかった労力と金の方が格段に上だった。割に合わない……
 そろそろ手を引いて、関係を切ることを検討した方がいいのかもしれない。
 しかもギルドマスターからは、カルミネ盗賊団を捕縛した冒険者に、逃がしたことを謝罪しておくよう命じられる始末……忌々いまいましい話だ。
 ふざけやがって! あのガキがカルミネ盗賊団を捕まえなきゃ、こっちは万事うまくいっていたんだよ!
 しかし、ギルドマスターの命令に逆らえるはずもないので、不本意ではあるが受付嬢に、悠斗という冒険者が来たら俺の部屋に来るよう伝えておくことにした。
 それから数週間ほどして、例の悠斗が冒険者ギルドに来訪したと受付嬢から連絡が入る。
 そのまま俺の部屋に通すと、入ってきた悠斗に軽い挨拶と自己紹介をする。
 あとはひとまず、謝罪したというポーズだけとれば丸く収まるだろう。
 とりあえず盗賊団が勝手に逃げたことにして、不慮ふりょの事故の扱いというのが話を進めやすいか。

「……実は悠斗君、ここに君を呼んだのは、謝らなければならないことがあるからなんだ。以前、君に捕まえてもらったカルミネ盗賊団だが、どういう手段を使ったのか冒険者ギルドから脱獄してしまってな……」

 そう説明すると、悠斗が質問をしてきた。

「冒険者ギルドで尋問にかけ、アジトの場所を吐かせると伺っていたのですが、その件はどうなったんですか?」
「……残念だが、尋問をする前に脱獄してしまったため、それもできていないんだ。申し訳ない」

 これでとりあえず謝罪は済んだ。途中、こいつへの忌々しさが顔に出てしまったかもしれないが、まぁそれも問題ないだろう。

「頭を上げてください! 大丈夫です!」

 よし、これで話はまとまったか……と顔を上げたところで衝撃の光景が視界に入った。
 どっ、どうしてここに逃がしたはずのカルミネ盗賊団の二人がいるんだ!

「実は先ほど、迷宮でカルミネ盗賊団の団員を二人ほど捕まえました。この二人を尋問すれば、今度こそ彼らのアジトを聞き出すことができますよ!」

 Fランク冒険者のこいつにまた捕まったって……!?
 俺が呆然としていると、団員二人が急に苦しそうな声を上げる。
 悠斗はなにやら語り始めているが、驚きのあまり話の内容が頭に入ってこない。
 頑張って考えをまとめようとしていると、悠斗がこんなことを言ってきた。

「バンデットさん、今ここで彼らの尋問をしましょう! 俺に任せてもらえませんか?」
「えっ、それは……」

 できるわけねーだろ! 団員二人と俺は共犯者なんだよ! 喋られると俺も終わりなんだよ!
 しかし、そんな俺の内心が伝わるわけもなく、勝手に話が進んでいく。

「Fランク冒険者の俺では心許ないと思うかもしれませんが、問題ありません。俺にはアンドラ迷宮でこの二人の素性を突き止めた実績がありますから。ここでも必要な情報を吐かせてみせます」

 そんな悠斗の勢いに感化されたのか、とうとう受付嬢まで俺を説得しようとしてくる。

「副ギルドマスター、今すぐ尋問に移りましょう。悠斗様はFランクではありますが、以前も大量の盗賊を捕まえた実力者です。きっと力になってくれます!」

 いや……そんなことを言われたら尋問せざるをえなくなるだろうが!
 なぜか最終的に悠斗一人で尋問するという話まで勝手に進み、口を挟んで止めようとしたタイミングでも受付嬢に話を遮られてしまった。

「カルミネ盗賊団の……アジトは……アゾレス王国貴族街の……クロッコ男爵の邸宅……」

 悠斗が手を翳して間もなく、二人は自分達の拠点をペラペラ喋り始める。今の一瞬で何が起きた!?
 俺がこの状況を打開するため考えをまとめていると、またもや受付嬢が暴走し始める。

「副ギルドマスター! 貴族が関わっているとなると、私達の手には負えません。すぐにギルドマスターに報告しましょう!」

 お、おい! 待ってくれぇ!
 俺の心の声は受付嬢に届かなかったらしい。部屋の扉を開け、そのままギルドマスターを呼びに行ってしまった。
 ただ謝罪するために呼び出したはずが、なんでこんなことに……


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