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2巻

2-3

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「くっ!」

 回避しようとするも、バハムートの方が一手早い。
 迫りくるブレスを前にして死を覚悟していると、同時に俺の胸元の精霊のペンダントが光り出した。
 今までは振動していただけだったのに、これは……?
 俺が疑問に思うと同時に、突然風が舞い上がり、バハムートの吐いたブレスが弾かれる。
 気付いた時には、俺の周りに竜巻のバリアのようなものができていた。

「い、今のは一体……」
『バハムートを相手に油断するのはよくない……』

 声のする方を見ると、そこには羽の生えた水色の精霊がいた。
 この声、ペンダントの精霊なのか?
 それにしても、今のは危なかった。精霊さんが助けてくれなかったら、バハムートのブレスを受け大怪我を負っているところだ。場合によっては、死んでいたかもしれない。

「悠斗様、ご無事ですか!」

 カマエルさんもこっちの状況が気になったのか、上空から声をかけてくれる。

「うん、こっちは大丈夫! カマエルさんは上手くそいつの注意を引き付けておいて!」

 ブレスを吐き切ったバハムートは、水の弾丸をあちこちに向けて放っていた。
 無数の弾丸による追撃だが、こちらに飛んでくる分は、精霊さんのバリアのおかげで弾かれていく。

『バハムートの攻撃は私が防ぐ……悠斗達は攻撃に集中して……』
「うん、わかった! カマエルさん、もう少し耐えててね!」

 俺は防御を精霊さんに任せると、『影刃ブレード』や『影槍ランス』を発動させる。


 こちらに隙を見せた一瞬を狙い、バハムートに向けて一斉にそれらを発射した。
 ひと通り攻撃を打ち込み終わった後、全身がズタズタになったバハムートが橋の上に倒れ伏す音が響き渡った。
 俺は息を整えながらカマエルさんに向かって問いかける。

「お、終わった……みたいだね。カマエルさんケガはない?」
「ええ、もちろんです。これほどの巨体で素早さも兼ね備えているとは……なかなかの強敵でした」
「俺も少し、迷宮やボスモンスターを甘く見ていたよ。ごめんね」

 そしてそのまま精霊さんに向き直る。

「精霊さんもありがとね」

 お礼を言うと、精霊さんは無表情でこう答えた。

『悠斗が無事ならそれでいい……少し力を使い過ぎたから、私はしばらくの間、ペンダントの中で休む。それじゃあ……』

 最後に俺の目の前でクルっと一回転した後、精霊さんはペンダントの中へと戻っていく。
 クールな精霊さんである。
 それにしても実体化できるなんて驚いた。

「それじゃあ、行こうか」

 そう言うと俺達は魔法陣に乗り、次の階層へと向かうことにしたのだった。


「ここが五十一階層……」

 目の前には広大な沼地が広がっていた。

「ええ、この手の階層には、厄介なモンスターが数多く存在することが多いです。気を付けて進みましょう」
「うん」

 足に泥がまとわりつき非常に歩きにくい。
 しかも、出現するものもひる型の吸血モンスターや、寄生型のモンスターが多い。実に気持ちが悪いエリアだ。

「ゆ、悠斗様っ! これ、なんとかなりませんか……」

 カマエルさんもかなりこのステージを嫌がっているようで、怯えた声を出している。

「う、うん。ちょっとやってみる」

 俺は『土属性魔法』で沼地を固め、道を作る。
 そして再び歩きはじめるのだが、足場を作ってからは、吸血モンスターや寄生タイプのモンスターは寄ってこなくなった。
 多少沼地から高い位置に作ったので、這い上がることができないのかもしれない。

「ありがとうございます、助かりました」
「いいよ、気にしないで。名もなき迷宮の昆虫達より気持ち悪いもんね、早く行こう!」

 そんなこんなで、六十階層のボス部屋まで辿り着いた俺達は勢いよく扉を開く。
 いよいよラスボスだと思い中央を見ると、魔法陣が禍々まがまがしく光り出し、中から体長二十メートルを超える巨大な獣が現れた。
 俺達を見つけるなり『グオォォォ!』と咆哮を上げる獣の突進をかわし、すかさず鑑定する。

「『ベヒモス』か……こいつも見た目の割に俊敏だな」

 五十階層で死にかけた俺はあの時の反省を生かし、油断なく『影縛バインド』を発動させる。
 身動きが取れなくなったベヒモスの首や手足を即座に『影刃ブレード』で切り飛ばし、『影槍ランス』で心臓を貫いておいた。完全に動けなくなったのを確認し、『影収納ストレージ』に収納する。
 カマエルさんはといえば、一瞬の出来事に口をポカンと開けている。
 かつてないほど最短のボス戦だったために、呆気にとられているみたいだ。
 カマエルさんの意識がこちらに戻ってくるのを待つより先に、中央の魔法陣が再び輝き出す。

「カマエルさん、魔法陣のとこ行くよ」

 そう言って俺が魔法陣に乗ると、すぐ後からついてきてくれた。
 それにしても、ここは全部で六十階層とギルドで得た情報にはあったはず……ということは、おそらく迷宮核コアがある隠し階層へ通じているのだろう。
 魔法陣によって飛ばされた先は、八畳位のこぢんまりした部屋。
 部屋の奥に宝箱と、光り輝く水晶のような球体が置いてあるのを見て、マデイラ大迷宮の最終階層を思い出す。
 この球体は、きっとここの迷宮核コアだ。
 まず宝箱に『鑑定』をかけ、トラップが無いことを念入りに確かめた後、開けてみる。
 中から出てきたのは、指輪とブレスレットだった。
 それらを『鑑定』してみると、このように表示された。


 状態異常無効の指輪
  効果:すべての状態異常を無効化する指輪。
     既に状態異常にあるものでも、指輪をつけることで無効化できる。


 付与のブレスレット
  効果:装着者の使える魔法や魔力を生物やモノに付与することができる。


「どちらも凄い効果のアイテムですね。そういえば、以前迷宮で手に入れた宝箱はどうされたのですか?」
「えっ、そんなのあったっけ?」
「ええ、あの名もなき迷宮で手に入れた時の宝箱です」

 収納指輪を確認すれば、たしかに宝箱がある。
 すっかり開けるのを忘れていた。

「本当だ……開けてみるね」

 宝箱を収納指輪から取り出して中を見ると、十個の水晶がはめられた小さなロザリオが収められていた。
『鑑定』してみると、このように表示された。


 身代わりのロザリオ
  効果:即死、部位欠損、呪いなど、十個ある水晶の数だけ、身代わりになってくれる。


 なんとこのロザリオ、大きな負傷のたぐいを十回も防いでくれるようだ。

「悠斗様、このロザリオは必ず肌身離さず持っておくようにしてください」
「うん」

 俺は手に入れた『状態異常無効の指輪』と『身代わりのロザリオ』を身に着ける。そして、台座の迷宮核コアに視線を向けた。

「カマエルさん、この迷宮核コア、持ち帰るとまずいかな?」
「私はどちらでもいいと思いますよ?」

 するとカマエルさんの言葉に続いて、精霊のペンダントが震え出した。

『悠斗……迷宮核コア持って帰るべき……』

 ペンダントの精霊さんは、迷宮核コアを持っていくことを推奨すいしょうしているようだ。
 よくよく話を聞いてみると、一度迷宮を出たらそう簡単に回収できないし、迷宮を自分で作るにせよ、アイテムとして売るにせよ、持っているに越したことはない、ということらしい。
 俺はその言葉に従い、迷宮核コアを収納指輪に収めると、カマエルさんとともに『影転移トランゼッション』で迷宮の外に出た。
 帰ろうとしたところで、迷宮の掲示板は攻略者がいた場合、何も表示されなくなることを思い出す。
 このままここを去ったら、すぐに騒ぎになっちゃうな。何とかして掲示板の表示を誤魔化すことはできないだろうか。
 そう考えて、カマエルさんに声をかけた。

「悠斗様。そういう時は、ロキの出番ですよ」

 言われてはたと気付く。
 俺の髪の色を変えて捜索の攪乱かくらんを手伝ってくれた、こういう工作に最適そうな仲間がいたんだった。
 カマエルさんの助言に従い、『天』のカードを出すと、目の前に中性的な子供の見た目をした神様が現れた。

「悠斗様、急に呼び出してどうしたの……ってここ、アンドラ迷宮の近く?」

 辺りを見回しながらそう言うロキさんに、俺は召喚した経緯を説明する。

「そうなんだ。実はアンドラ迷宮を今さっき踏破したばかりなんだけどね。攻略すると、迷宮の掲示板に何も表示されなくなることを思い出して……これだとすぐにバレちゃうから何とかならないかなって思ってたところなんだ」
「なるほどね~。つまり掲示板が機能していればいいってことだよね。とりあえずそのそばまで連れていってもらっていい?」

 俺は頷き、ロキさん、カマエルさんと一緒に『影転移トランゼッション』で詰所まで移動する。
 兵士達が出払っていることを俺とカマエルさんで確認すると、ロキさんは物体を変化させるスキル『変身者トランスフォーム』を唱えた。
 すぐに、掲示板には『踏破階数/現在階層数:四十階層/六十階層』という表示がされる。

「これなら迷宮内を兵士が確認しない限りは、誰も気付かないと思うよ~」
「ロキさん、凄いよ! ありがとう!」

 俺がお礼を言うとすぐに、ロキさんは「じゃあ、ボク忙しいから!」という言葉とともに、『天』のカードへと戻っていった。

「悠斗様、兵士達がいつ戻ってくるかわかりませんし、私達も早くここを出ましょう」
「それもそうだね」

 無事掲示板のすり替えに成功した俺は、カマエルさんと一緒に『影転移トランゼッション』で『私の宿屋』へと向かうのだった。



  3 ギルドマスターの嫌がらせ


「それにしても、今回の迷宮攻略は刺激的でしたね。五十階層でバハムートを相手にした時はもう駄目かと思いました!」
「本当にそうだね。精霊さんが助けてくれなかったら危ないところだったよ」

影転移トランゼッション』で『私の宿屋』に戻った俺は、カマエルさんと攻略時の話で盛り上がった。
 そしてその裏で、俺は密かにカマエルさんへのサプライズを考えていた。
 カマエルさんには、マデイラ大迷宮、名もなき迷宮、アンドラ迷宮と、三つの迷宮を踏破する際に色々とサポートしてもらっている。この機会に何かお礼したいと思ったのだ。
 ひと通り話し終えたところで、カマエルさんが窓の外を見て声を上げる。

「おや、もうこんな時間ですか。それでは、そろそろ私もおいとまさせていただきます」
「あ、カマエルさん、ちょっと待って」

 俺は『天』のカードに戻ろうとするカマエルさんを引き止め、席に着かせた。
 そして収納指輪から自分で作った料理を取り出し、次々とテーブルに並べる。
 ホテルの人に注文すると、カマエルさんのことを見られちゃうからね。それは極力避けたい。

「一体どうしたのです? 先ほどからテーブルの上一杯に料理を並べて……」

 俺は答えずに困惑するカマエルさんを一瞥いちべつした後、さらに以前屋台で購入したパンや串焼きやサラダ、そして飲み物も置いた。
 俺が全て並べ終えたところで、カマエルさんは料理の匂いをかぐように前のめりになる。

「カマエルさんにはいつもお世話になっているからね。迷宮攻略記念ってことで、食事を振る舞おうかと思ってさ」

 準備が終わったところで、カマエルさんにいつものお礼を伝える。

「改めて、カマエルさん。いつも迷宮攻略を手伝ってくれてありがとう。ぜひ料理を食べていってよ」
「ええ、ありがたくいただきます」

 カマエルさんはフォークを料理に突き刺し、どんどん口に運んでいく。

「気に入ってもらえたようだね。『私の宿屋』は、お風呂も凄いんだ。今準備するから、料理を食べ終わったらぜひ入っていってよ」

 それだけ伝えて俺は浴室に移動し、浴槽のお湯に『聖属性魔法』を発動する。
 風呂のお湯が上級ポーションに変わっていった。
 風呂の準備を整えた俺が戻ると、テーブルに並べてあった料理を綺麗に食べ終え、椅子の背にもたれかかっているカマエルさんの姿があった。
 俺が戻ってきたことに気付いたカマエルさんが口を開く。

「ああ、悠斗様。悠斗様の用意してくださった料理。大変美味おいしゅうございました」
「それはよかった。お風呂の用意もできたから、いつでも入って」
「風呂ですか……そういえば、ここ数年入った記憶がありませんね。私達には『浄化』がありますから、入浴するのは久しぶりです」
「じゃあ、なおのこと入ってほしいな。お湯は上級ポーションだから、疲れが吹っ飛ぶと思うよ」
「それは楽しみです」

 カマエルさんを風呂場に送り出した俺は、テーブルの上を片付けた後、呼び鈴を鳴らし、コンシェルジュにエールを注文する。
 そしてまもなく、コンシェルジュがエールの入ったジョッキを持ってきてくれたので、入り口で受け取った。
 ほぼ同時のタイミングで、満足そうな表情をしたカマエルさんが浴室から出てくる。

「とてもいい湯加減でした。おや、悠斗様が手に持っているものは?」

 部屋に戻った俺は、そう尋ねてくるカマエルさんにジョッキを差し出す。

「これはエールだよ。さあ、飲んでみて」
「え、ええ、ありがとうございます」

 風呂から出た後のビールは最高だと、以前父さんが言っていた。この世界で手に入るビール――エールビールを用意したけど、カマエルさんは喜んでくれるだろうか?
 カマエルさんは俺からエールを受け取ると、ゴクゴクッと喉を鳴らしながら一気に飲み干した。

「かぁ~っ!」

 カマエルさんは満足そうな声を上げ、俺に視線を向けてくる。

「悠斗様、ここは天国かなにかでしょうか? こんなに美味しいエールを飲んだのは初めてです」

 すっかり上機嫌だ。どうやら相当満足したらしい。

「それにしても、あの風呂のお湯は凄いですね。上級ポーションと聞いていましたが、まさかそれ以上のものとは……」
「どういうこと?」

 風呂のお湯にかけた聖属性魔法は、多分上級ポーションレベルのはずなんだけど……

「あの風呂のお湯は間違いなく、ポーションより効能が優れた上級万能薬です。いや、もの凄い贅沢ぜいたくをした気分ですね。天界にいた時でさえ、あれほどまでに万能薬を使用したお湯に浸かったことはありません」

 万能薬といえば、体力回復だけじゃなく、状態異常も治してくれるような最強アイテムだ。
 自分の中ではポーション風呂だと認識していただけに驚いた。

「えっ、そうなの? なんにせよ満足してくれたみたいでよかったよ。次に迷宮を攻略する時にもまた呼ぶから、力になってね」
「ええ、もちろんですとも。本日は興味深い体験ができて嬉しかったです。それではまた……」

 その言葉とともに、カマエルさんは『天』のカードに戻っていった。

「ふふっ、喜んでもらえてよかった。さて、俺も今日はゆっくりしようかな」

 あんなにテンションの高いカマエルさんを見たのは初めてかもしれない。
 俺はカードをバインダーにしまうと、風呂で疲れを癒し、ベッドで軽く睡眠をとるのだった。


「う、う~ん……あれ、いま何時?」

 目を覚ますした俺は、午後三時をまわっていることに気付き、慌てふためく。
 マスカットさんの経営する『私の商会』にモンスター素材をおろしに行く予定があったのだが、その約束の時刻を大幅に過ぎていたのだ。

「や、やばい! すぐに準備しなくっちゃ!」

 マスカットさんもきっと待ちわびていることだろう。
 俺は着替えを手早く済ませると、『私の商会』に急いだ。

「お、お待たせしました! マ、マスカットさん! 遅れてすみません!」

 俺が『私の商会』の建物の中に入ると、マスカットさんがジロリと視線を向けてきた。

「悠斗君、随分遅かったではないか……」

 マスカットさんは、今までに見たことのない恐ろしい表情をしていた。
 目が少し血走っていて、めちゃめちゃ怖い……

「ちょっと立て込んでおりまして、ここに来るのが少し遅れてしまいました。すみません!」
「今後は時間には気を付けてくれよ……じゃあ早速倉庫へ向かうとしよう」
「はい……申し訳ないです」

 しっかり謝った後、そのままマスカットさんについていき、倉庫へ向かう。

「さあ、ここにモンスターの素材を出してくれ」

 言われた通り、回収した素材を次々と出していった。
 倉庫の広さを考えると、俺が所持しているものも、ここでかなり引き取ってもらえそうだ。
 ほとんどの場所だとあまり多くは出せないから、こういう時こそなるべく在庫を減らしたい。
 ふと気になったことがあったのでマスカットさんに尋ねる。

「……そういえば、この前珍しいモンスターを捕獲したんですが、そちらについても引き取っていただけませんか?」
「ん? 捕獲? 素材ではなく生きたままということかい」

 俺の言葉を聞き、マスカットさんは不思議そうな顔をした。

「そうです。どこかにモンスターを入れるおりはありますか?」
「ああ、少し待ってくれないか。いま用意する」

 そう言ってマスカットさんが手を叩くと、従業員とおぼしき人達が十を超える檻を運んできた。

「これで足りるか?」
「はい。これだけあれば、問題ありません」

 俺は酸素がある方の『影収納ストレージ』を展開すると、生け捕りしたレアモンスター達を次々に出した。
 従業員さんと協力し、檻の中に入れていく。

「おお、これはすごい! ユニコーンにバイコーン……こっちはゴールドシープやシルバーシープじゃないか。いったいこんな稀少なモンスター達をどこで……」

 マスカットさんは檻に入れたモンスター達を見て、感嘆の声を上げていた。
 しかし俺はその問いには答えずに、アンドラ迷宮で入手したものを黙々と取り出していく。
 あらかた倉庫に出し終えると、空いたスペースにマデイラ大迷宮で倒したモンスター達の素材も追加で出した。以前冒険者ギルドで買い取ってもらえなかった分だ。

「おお、今度はドラゴンか!? なんだ、この首の数は!」

 目を丸くしているマスカットさんに、出したモンスター達の説明をする。

「こっちのでかいドラゴンみたいなのが『ニーズヘッグ』で、首だけのが『ヒュドラ』というモンスターです」

 俺の言葉を聞きながら、マスカットさんは顎に手を当てた。
 そしてニーズヘッグの身体に手を添えると、「うーむ」と唸る。

「……どれもこれも状態がよい。素材も傷がほとんどついていないし、かなり高額になるだろう」

 それから俺は、マスカットさんに連れられ、彼の部屋へ移動する。
 マスカットさんはソファにどっかりと腰を下ろし、話し始めた。

「さて、君が持ち込んだモンスターと素材の数々……素晴らしかった! 生きているモンスターだけでも概算で白金貨一万枚になるだろう。見たこともないモンスターもいるようだし、全部合わせると白金貨三万五千枚を超えるかもしれん!」

 白金貨一枚あたり十万円……ということは、総額で三十五億!?

「そっ、そんなに貰えるんですか!?」
「ああ、こんな綺麗な状態のモンスターは初めてだ。ニーズヘッグなどは見たことないし、どんな値がつくかもわからん!」

 正直、白金貨三万五千枚と言われても、金額が大きすぎて実感が湧かないが、とてつもない大金ということだけはわかった。

「換金はいつくらいになりそうですか?」
「そうだな……明後日の朝まで待ってほしい。ちょうど、明日オークションが開かれる。至急、出品の申請をしてみよう。これだけの物だ。断られることはあるまい」

 明後日になるとはいえ、こんな莫大な金額をすぐに用意できるだなんて、流石『私のグループ』の資金力だ。

「それでは、また明後日、こちらに伺いますね」
「ああ、楽しみに待っていてくれ」

 マスカットさんと別れの言葉を交わした俺は、今度は冒険者ギルドに足を運ぶことにした。

「さて、冒険者ギルドにも、迷宮で手に入れた素材を売りに行きますか……」

影収納ストレージ』と収納指輪の中にある沢山のモンスターは、冒険者ギルドにも売ろうと考えていた。
 俺がアンドラ迷宮の核を持っていることで、迷宮は機能を停止しているし、モンスターの素材入手は今後難しくなっていくはずだ。
 このタイミングで素材を渡せば、依頼達成の数を増やせて、ギルドでの自分の株を上げておけると思ったのだ。
 冒険者ギルドの中に入ると、受付には多くの冒険者が並んでいた。
 ギルドに併設されている酒場では、冒険者達が楽しそうに酒をあおっている。
 見る限り、アンドラ迷宮の迷宮核コアが抜かれたことが騒ぎになっている様子もなく、気付いている人もいなさそうだ。
 ロキさんの掲示板偽装が功を奏したようだ。
 俺は、依頼ボードから常設依頼書を剥がし、受付の列に並ぶ。
 待つこと十数分、ようやく俺の番が回ってきた。
 カウンターの前に立つと、受付嬢が笑みを浮かべる。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。こちらの席にお座りください」
「あ、はい」

 俺は受付嬢の言う通り椅子に腰かけた後、ギルドカードと常設依頼書を提出した。
 俺のカードを見た途端、受付嬢の表情が曇り始める。そして、そのままギルドカードと常設依頼書を返却してきて、口を開いた。

「悠斗様、大変申し上げづらいのですが……現在当ギルドでは、Fランク以下の冒険者は依頼を受けることができません」
「えっ? なんで急に……」

 俺がそう質問すると、彼女は平謝りする。


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