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第二章 アベコベの街

第67話 アベコベの街の支配者オーダー・インベーション②

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「これはなかなか……エミリア君も大胆な条件を提示したね」
「は、はい……先日のお話を聞き、オーダー様の養子……いえ、息子として引き取られる位であれば、許容範囲内だと……」
「まあ、断られてしまったからには仕方がないね」

 エミリアさんから羊皮紙を受け取ると、オーダーさんがそれを破り捨てる。

 その瞬間、僕は「ああああああっ! 仕官のチャンスがぁぁぁぁ!」と心の中で絶叫を上げた。

 覆水盆に返らず。
 この街の領主であるオーダーさんに羊皮紙を破られては、もはや取り返しがつかない。

「さてと、それでは本題に入らせて貰おうかな?」
「ほ、本題ですか?」
「ああ……」

 そう言うと、オーダーさんはどこからともなく新たな羊皮紙を取り出した。
 エミリアさんからペンを受け取り、ペンを走らせていく。

「これでよし……さて、ノース君には、いくつか聞きたいことがあるんだけど、答えてくれるかい?」
「は、はい!」

 辺境伯であるオーダーさんからの質問。
 一体なにを質問されるんだろう。

 内心ビクビクだ。

「それでは質問させて貰おうか、君は孤児院出身だったね。両親のことは覚えているかい?」

 えっ?
 両親のこと?

「……いえ、覚えていません」

 フラナガン院長からは孤児院の近くで拾ったと聞いている。残念ながら両親の記憶はない。

「ふむ。両親のことは覚えていないか……では、もう一つ。君のギフト『キノコマスター』について……『キノコマスター』のギフトは、様々なキノコを召喚することのできるギフトだと聞いているが……その点に相違はないかい?」

「は、はい。その通りです。僕のギフト『キノコマスター』は様々な種類のキノコを召喚することができます」
「なるほど……例えば、こんなキノコも召喚することができるという訳か」

 オーダーさんは、目の前に透明なボードを浮かべるとなにか操作していく。
 すると、天井からマッシュルーム・アサシンが落ちてきた。

 <驚きましたね。なにをやったのかはわかりませんが、まさか護衛のマッシュルーム・アサシン一体を行動不能に追い込むなんて……>

 どうやらマッシュルーム・アサシンが天井で隠密していたらしい。
 しかし、あのマッシュルーム・アサシンを行動不能に追い込むことができるなんて、流石は領主。いま、一体なにをやったんだろう?

「まあそうなりますね……」

 そう呟くと、オーダーさんが思案げな表情を浮かべる。

「となると、やはり……領外にあるキノコもノース君のギフトで作り出したものか……」

 そこまで見当が付いているなら、もう隠す意味はない。

「その通りです」

 そう呟くと、思案げな表情はどこへやら、満面の笑みを浮かべた。

「そうか……それは素晴らしいギフトを授かったね。やはり、これなら問題はなさそうだ」

 オーダーさんはそう呟くと、羊皮紙を差し出してくる。

「えっ? なにが問題なさそうなんですか?」
「いや、なんでもないよ。それよりも今日は素晴らしい日だ。まさか十年前に消息不明となっていた息子と再開することができるなんて!」

 ええっ? 息子っ!?

「そ、それはおめでとうございます?」

 よくはわからないが、十年消息不明だったオーダーさんの息子さんが見つかったらしい。

 なぜ、このタイミングでそれを言うのかはわからないが、とりあえず、祝辞を述べる。するとオーダーさんがこれは愉快だと笑い出した。
 オーダーさんの隣では、アメリアさんが目元に手を当て、天井を仰いでいる。

「なにを言っているんだい? 君のことだよ。この十年間、私はずっと君のことを探していたんだ!」
「ええっ! 一体どういうことですか!?」

 ちょっとなにを言っているかわからない。
 脳内がパニック状態だ。

「十年前、私に恨みを持つ貴族が不届き者を雇い、私から愛息ノースを攫っていったのだ。当時、私は自分に許された力の範囲で捜索をした。しかし、発見するには至らなかった……あの時ほど、自分の無力さを悔いたことはなかったよ……しかし、十年の時を経て君に出会うことができた。君が生きていて本当によかった。ノース。どうか私の下に戻ってきてはくれないか……」

 急にお父さんと言われても困る。
 僕が戸惑いの表情を浮かべていると、ナビさんが視界に文字を浮かべてきた。

 <う~ん。ノース様の記憶を幼少期に遡って確認してみましたが、孤児院に預けられる以前の記憶があやふやで確証が持てません。しかし、こうして涙を流しているようですし、相手は辺境伯。もうこの人の子供ということでよろしいのではないでしょうか?>

 ええっ、そんな適当な……。

 しかし、オーダーさんの顔をよく見てみると、なんとなく自分の顔と面影があるような気がしないでもない。
 茶髪だし、なんとなく骨格的なものが似ているような気がしてきた。

 そっか……僕にもちゃんとした親がいたんだ……。
 そう思うと、なんだか目にうっすらと涙が浮かんでくる。

「ぼ、僕、オーダーさんのことあまり覚えていないけどいいの?」

 涙を浮かべながらそう呟くと、オーダーさんが僕の頭を軽く撫でる。

「ああ、私の下に戻ってきてくれ。十年の時を取り戻そう」
「うん!」

 そう言うと、僕はオーダーさんの手を取った。
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