R/F Defence Force the 12th battalion

夏街后羿

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プロローグ:夢と希望が牙剥く世界

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 2050年、日本。
 数十年焦がれた近未来の話になる。空中にモニターが描かれ、一部の人間は脳にチップを埋め込んで脳内をコンピュータと化して通信を行ったりなど便利な世界になりつつある時代。推しも画面から出てくるなんて、世界が全て夢の国となった世界では一つの問題が起きていた。
 みんなの幻想が、人々に牙を剥いてくるようになったのだ。神話や童話、これらがAI技術等によって実体を得て人に牙を向けて襲い始める事態となる。
 世界各国が同一の状況に陥った以上日本も例外では無い。九尾が人を食い、天照が無差別に焼くと言うふざけた字面であまりにも悲惨な事態が発生。日本はそれに対応するべく、自衛隊を出動させ今までの歴史を否定するかのように全てを灰になるまで灼き尽くした。大国であれば、惜しげもなく核を使い伝説に終止符を打った。
 そうして平穏を得た世界だが、結局完全な殲滅には至っていない上に今度は別の問題が現れてしまったのである。
 今、これを読んでいるのであれば一度画面を伏せた上で近くにある本、出来ればを手に取っていただきたい。ライトノベルなら尚想像も付くだろう。どこでも良いのでページを開き、想像をしてみて欲しい。その光景が、現象がそっくりそのまま世界で横行する事態となった。
 そして厄介なことに、これらは先ほどのAI技術とは違い特定の人間が使える能力として登場。現象を引き出せる人間を、現実と妄想の区別が付かないという侮辱を込めて“夢遊者”と呼ぶことになった。これを出来れば矯正、どうしても更生が望めなければ排除することになる。
 しかし、日本ではそれが難航した。理由はいくつかあるが、自衛隊の兵隊が使う武器が他国と比べて若干取り回しが悪く魔法を使う奴に対して戦闘中に隙が出ることや、領土に対し人口が多く戦闘行為を無闇に起こした場合国民の住む場所が減るという問題を抱えていた。
 それでも目先の問題を放っておくよりはマシと肝を延々と舐めさせられる気分を味わいつつ対処に当たり続けた自衛隊は、死体ではあるが遂に夢遊者を確保したのである。
 これを衛生兵と造兵科の隊員が解析。身元は明かされていたが、超法規的措置で夢遊者の対策が確立されるまでは解剖が優先されることとなった。そうして、彼らは解剖の末に一つの事象に辿り着く。
 解剖した夢遊者の死体、神経部分が輝いていたのだ。神経を剥ぎ取り電子鏡で観察をしていたりもしたが、人の人体とそう変わらない組織編成らしい。そうした状況の中、その神経がどう言うものかを知る出来事が起こった。
 ある日研究員が眠いと呟きながら神経の観察を行っていたところ、高級な枕が落ちてきたと言う。びっくりした研究員だったが、今度は肉まんが食べたいと強く願ってみると神経が光り角煮まんが落ちてきたそうだ。そうして、夢遊者の仕組みは明かされた。
 夢遊者達は、神経に何かの異常を来たし夢と現実の境を行き来できるようだ。また、その神経さえあればそれを持たない人間でも作動出来るようになる。この発見は、夢遊者への対策という目先の問題とこれからの政策の方針という長期的な問題を一挙に解決することへ繋がった。
 日本は神経をカード型の発動機として加工。Iイメージジェネレータと呼ばれ、セキュリティカードの面も含めたこれはたった一枚で創作でしかあり得なかったジェットパックやビームライフル等を実現させたのだ。
 そしてこれを扱う専門機関として対理外防衛軍を設立。試験的に運用し、夢遊者への対処を確立。そうして国内の混乱を収めて行っている。その傍ら、余裕が出来た日本は世界で同じ問題が起きている事に危機感を感じて対理外防衛軍の活動を国際連合で報告。常任理事国はあまりの非常時の為、国際的な組織として対理外防衛軍を設立する事を決定。そうして対理外防衛軍はR/F Defence Forceへと名前を変えた。
 技術面はIジェネレータの素材に対する問題があり、加工する際に様々なロックやプログラムを仕込む手順等技術漏洩が出来ない物の為、兵器の製作は日本で行なわれているがそれ以外の運用法などは手広くマニュアル化されており、実際の教本通りの戦術で戦果も上がっているようだ。
 そうして出来上がった史上初めての国際連合軍は、実戦データに基づいた訓練を行い今までの世界を取り戻そうと躍起になって戦い続ける。
 この話は、夢遊者に立ち向かう物達の話だ。

 ◇

 さて、あらすじが終わったが少しだけ主人公の身の回りについて補足説明をさせて欲しい。
 主人公は対理外防衛軍12大隊の独立遊撃部隊に所属している。これは、軍隊的な動きではなく捜査活動と夢遊者の確保をメインとして試作兵器の実地試験を兼ねた部隊となる。生身でのIジェネレータを使用した武器はもちろんの事、乗り込み扱う機動兵器も最新のものを回してもらえたりするという少しお得な部隊だ。
 故に隊員も兵隊としてではなく、個人としてはハイレベルな者が集っていることが多い。隊長は生身での戦闘に強く、同僚は射撃が得意である。主人公は生身はそこそこなものの、機動兵器の扱いが群を抜いて上手いため独立遊撃部隊に所属となった。
 補足はこれにてお終いだ。では、気になっている事を聞かせるとしよう。主人公の名前だ。
 対理外防衛軍12大隊、独立遊撃部隊員。
「七条 ミナト、只今戻りました」
 彼の名前は、七条 ミナトだ。
「おお、戻ったか」
 鍛え上げられた体に顔に彫りがある隊長の陸田 恭次きょうじは、デスクの向こうから手を振って彼を迎えた。
「どうだったよ、例の“MIF”とやらは」
「Iジェネレーターがあるとはいえ15mの人型機動兵器、重心と芯が大きく離れてるロボットなんて隊長は動くとお思いで?」
 陸田は少し不満そうな顔で、ミナトに近寄る。
「リアルってのが逆に希少になったってのにそれ言うか~?Iジェネレータはなんでか知らないけど人型機動兵器とあまりにも相性が良かったんだ。だから“SIF”も人型なんだ」
「あれは人型でも5mで太めに設計されてるから二本足でもそれなりに動けるだけですよ。15mですよ15m、10mも全長が増えたら、遠心力の影響を喰らいやすいはずです。実戦になった時の復帰だって、難しくなって当たり前では」
 ミナトは新型の兵器の視察に行って、素直に感じた事を報告している。
 ところで、彼らが言うMIFやSIF。これらはまず大きな区分として“IFイメージフレーム”と呼ばれる人型機動兵器がある。これは、Iジェネレータの安定性と出力を兵器に活かせないかという試みのもと開発された。
 何故人型なのか?これはIジェネレータの特性によるもの。現実的な戦車や戦闘機をIジェネレータ仕様で作ろうとしたがどれも上手くいかなかったのだ。それに腹が煮えくり返って仕方の無かった技術士官はふざけて作った人型二足歩行のロボットの動力としてIジェネレータを挿入し動かしてみたところ、前述の兵器と桁違いの操作感の安定性と出力を獲得。バランスを崩れるとしても即座に復帰ができる事が判明した技術部は、Iジェネレータの研究も兼ねてIジェネレータ搭載機としてIFを製造。
 製造直後は区分が無かったものの、今後大きめの敵が来ることも考慮して5mクラスの小回りが効くSIFと15mクラスのMIFに区分した。ちなみに、SやMはスモールやミドル、サイズの表記だ。
 今回は今まで5mのSIFしか作っていなかったR/Fの新たな試みとしてMIFを製造。ミナトはIFのパイロットとして優秀であり、関係があるからとお昼休憩終わりからアフタヌーンティーの間で視察。その内容を仕事の休憩を挟む今、隊長である恭次に話している。
「製造途中見せられても別にワクワク……はするけど、これから俺達の仕事道具になるんです。テストもされてない状態じゃなんとも言いようがない」
 その様子じゃ楽しめなかったようだな、という隊長の言葉に頷くミナト。
「全く、いつも頑張ってるんだから2時間くらい夢を見る時間があっても良いと思ったんだがな~」
「夢を見る方法、ご存知ですか?」
「寝ることか」
 休みを与える方法間違えちまったなー、と腕を後ろに組んで考える恭次。その部下は気付かなかったのか……と落胆している。
「悪かったなあ……今度からもう少しサボらせる方法を考えないとな。どうするよ?あと二時間、俺もお前も暇なんだぞ」
「隊長が暇とは」
「書類仕事終わったからなあ。カフェで本読んで潰すことも考えたんだが、出動命令が無いとどうしても困る」
 他愛もない話が続く。サボる方法についてあーでもないこーでもない、と武力を持った者とは思えない体たらくな会話をしていると、彼らの仕事場である独立遊撃部隊室にまた一人やってきた。
 黒いロングヘアーに茶色の目、R/Fの制服を着ているまるで絵に描いたようなキツいOLのような女性がそこにいた。
「木崎大隊長」
「おっ、美人さん」
「貴様ら二人はどうして敬礼の2文字を忘れるのだ?」
 言われてからは遅いと思っていっそ敬礼をしない二人。
 木崎 芳美きざき よしみ大隊長、日本区域を担当する第12大隊のトップである。
「呼び出しても来ないだろうと思ったからわざわざ足を運んだ。貴様らにサボるチャンスをくれてやろうと思ってな」
「いいねえ木崎姐さん俺惚れちゃうな~」
「陸田!貴様はいつまで一等兵のつもりでいる!」
 はい!と姿勢を正す陸田。木崎は一度咳を挟んで、指令を出した。
「話すと疲れる奴らしか居ないから単刀直入に言おう。貴様らには今から旅行に行ってもらう、場所は島根だ」
「島根って言うと……ああ、もしかして神有月の」
「詳しいじゃないか。そうだ、最も夢遊者の被害があった場所だ」
 常識に手間暇掛けて装飾するほどアイデンティティのない日本人は、10月の事を神無月と呼ぶ。
 これは12の月のうち1ヶ月、各地の神様がある場に集まって会議をしたりするからそう呼ばれるようになった。故に全国各地では、10月のことを神無月と呼ぶようになったらしい。
 無論日本の神様なので、神様が一ヶ所に集まる場所も日本にある。それが島根の出雲、大和の時代より神話の絶えない地域だ。
 地名通りの出雲大社という場所に集まって会議するので、その地がある島根県では他県と違い10月の事を神有月と呼ぶ。
「しかし、あそこは自衛隊も厳重警戒してる筈では?」
 ただ、その出雲はそれまでの神話の積み重ねにより、対理外防衛軍が出来る前に神様や魔獣が溢れて自衛隊を悩ませた地と化した。今でこそ羽を伸ばせる穏やかな地である島根県ではあるものの、対理外防衛軍に加え自衛隊も常駐し夢遊者が居ないか監視・巡回をしている場所となっている。
 そんな場所なので、ミナトは驚いて聞き返した。が、木崎は口角を上げて話し続ける。
「だからこそ緊急事態に追われても余裕があるんだろう?サボるチャンスをくれてやると言ったはずだ、掴むかどうかはお前次第だが」
「え、お前達じゃないんですか姐さん!?」
 陸田が驚いた声を出す、隊長とは思えないほど情けない。
「調査の名目でかつあっちにはR/Fも居るんだ。一人追加する、が当たり前ではないか?」
「じゃあ、行くのはミナトだな」
「ちょっと待ってくださいよ隊長。隊長はサボりたくないんですか?」
 ミナトもミナトで、それはどうなんだという発言が出る。しかし隊長、年上の意地なのか彼の肩に手を置いた。
「俺は古い人間だし、何より歳とってあまり活発には動けない。それであれば、様々な場所に視察ついでで旅行できるお前が適任だ」
「しかし___」
「お前の分の書類仕事が出来ると思えば9時から5時で帰れるホワイトな環境になるんだ。暇を持て余しても娯楽に興じることが許されないんじゃ苦痛だからな、尚のことお前の業務が欲しい」
 つまるところ、普通に仕事して帰れる中年の理想とお金貰って休みがてら旅行が出来る若者の理想が両方叶う提案だと、隊長の陸田はそうミナトに説得した。説得された方も、先程まで暇を持て余したせいで妙に反論が出来ずに、自分の隊長に対して頷いた。
「決まりだな。大隊長、行くやつはコイツだ。他の奴らには後で説明しときましょーか」
「しばらくは負担を掛けるな、陸田」
「言ったでしょ木崎の姐さん、仕事の量が丁度良くなるって」
 木崎は大隊長として、改めて指令を出すべくミナトを向き声を出した。
「第12大隊独立遊撃部隊員、七条ミナト!出雲に向かい、只今より期間一ヶ月の調査を命ずる!」
「はっ!」
 指令ともなれば、と背筋を伸ばし敬礼をするミナト。
 _____彼は、日本の歴史に正負共に深き傷跡を残した地である出雲へと向かった。これが、一つの物語の始まりともなる。
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