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緩やかな幻想の底で-1
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時間が時間だった為に新幹線を逃し、七条ミナトは会社の金で夜行列車の個室を予約して乗り込んだ。島根を見て回る、という名目だから初手で一日中ホテルの施設やその近郊で時間を潰してましたでは話にならない。そう思い、人の力を抜くように揺れてる列車の中で彼は横になった。
翌日の8時、出雲に着いた彼はその足で近場の一ヶ月拠点にするホテルへ向かう。
「お待ちしておりました。予約頂いた七条ミナト様ですね?」
「お迎えありがとうございます」
「こちらお客様がご宿泊予定のキーとなります。くれぐれも紛失なさらぬよう、取り扱いにお気をつけ下さい。
あと、お客様に用事がある方がいらっしゃってます」
「了解した」
出迎えの職員を寄越す上に9時には会議をすると大隊長はミナトにメールで送っており、目を開けてからスマホを見て確認した彼はすでに知っていた。予約された707の客室へ入るとR/Fの制服を着た、紺髪銀眼の女がいた。
「あ、お疲れ様です!」
「お疲れ様。俺が七条ミナト、君は?」
「私は街部ルミと申します!」
元気のいい、純粋もいいところのレディだ。
「お迎えありがとう。一ヶ月、調査でこの島根にいることになったんだ。よろしく頼む、何か必要なことがあればすぐに連絡してくれ。人手なら駆けつけるし、何かあるなら持っていこう」
「ありがとうございます!」
一通りの挨拶を済ませたところで、彼はノートパソコンを開いて会議の準備を始めた。
大隊長も参加する会議だが、内容としては調査内容の確認やそれに関する事の説明になる。ルミにも手伝ってもらい、早めに済ませた彼らはマイクとカメラを調整して先に会議に入室。その2分後には、独立遊撃部隊室の光景が映し出されて木崎と陸田がこちらに手を振っていた。
「おはようございます、お二方。デートですか?」
《酷いなあ、違うよ。俺と姐さんそんな仲じゃないって。なぁ?》
《誰が朝ご飯を作ってやったと思ってるんだ?それより……七条、無事に着いたんだな》
「羽根が伸びきって縮むことないくらい余裕がありますが、あくまで調査なので伸ばしすぎないようにしたいですね。とりあえず、ほら」
端っこにいるルミにミナトは、形式上の報告をするよう促す。やはり、いつもとは違う上司に話すからか彼女は緊張しているか、少しおぼつかない感じまでも元気までは崩さずに報告。
「あ、はい!街部 ルミ、七条 ミナトと合流しました!」
《よし、偉いぞ!》
幸い独立遊撃部隊のトップはお人よしも良いところの、好意的な人間。報告した当人も胸を撫で下ろすほど、安堵したようだ。
「なに、礼儀正しくないとあれこれ言うような人じゃないぞ陸田隊長は。そうですよね?」
《もちろんだ!》
「よかったです~……いやー会議とか言われるといまだに緊張しちゃって」
《気持ちは分かるぞ、ルミ。私だって今でもこれで伝わるか?と考えるくらいだ》
和気藹々とした会話も終いとして、木崎は会議の本題に入った。
《今回は単独での調査となる。いつもR/Fや自衛隊が通ってるルート通りではなく、自由に回って夢遊者が居ないかの抜き打ちチェックを頼みたい。無論、発見したら速やかな捕獲もしくは排除をしろ》
「了解。現状44マグナムで足りそうですが、もし足りなくなった場合……厳密に言えばIFの必要性が出て来た時はどうしますか?」
《さっき輸送機にお前のSIFと追加武装を幾つか詰め込んで飛ばした。R/Fの出雲基地に昼頃到着予定だぞ、必要になったら貸してる腕時計で信号を送れ》
手際の良さに感心してるミナトだが、そこから更に質問をした。
「俺のタイラント・ゼロBが居るだけでもありがたいですが、追加武装とは?」
《正確には強化アーマーだな。これを見て欲しい》
パソコンの近くに電子モニターが2枚出て来て、その武装と説明を表示してる。
《まずは接近用のアーマーである〈ファンタジー・アーマーD〉だ。これは、全体的に被せて、全体的に増設したスラスター背中に付けてあるブースターで飛行するといった代物になる》
「背中についてる長いやつが追加ブースターになるんですか?」
《そうだ。ただ、背中についてるやつの大体はバッテリーと放熱板だがな。実際は付け根のところに大きめのスラスターがある》
拡大してみると、アーマーで追加された背中のハードポイントに近いところに噴射口がある。
「なるほど……しかしこれは何の意図が?」
《大まかに言うならばダメージを受けた際の騙し札だろう。後ろの推進機を破壊しておいて、破壊前と同じスピードで来られたら良い不意打ちになるだろう?》
しかし、仕様書にも書いてある通り後ろについているのは放熱版+バッテリー。パージや破損で切り離してスラスターだけ動かした時、余り長くは稼働しない上にオーバーヒートを起こしてしまうので気をつけて欲しいと木崎は言った。
了解した、と一度頷いてからミナトは武装構成について質問をした。
「追加の武器に関しては実体剣と盾。これはどうしてです?単純な装備である、としか分からない」
《ああ、それは重量増加による機動性の低下を避ける為だ》
木崎の話によれば元々は盾や上半身装甲に銃火器を仕込む提案をされていたが、折角装甲と推力に強化したのに射撃寄りになってしまっては高火力を叩き込まれやすく追加武装が無駄になってしまう。相手の攻撃手段を制限しながら、こちらは機動力という慣性と追加装甲という重量を活かした格闘で相手を仕留める。どうしてもと言う時は元々持っていた射撃武器でどうにかするスタンスで、開発したそうだ。
《相当スピードが上がる以上持ち帰る時間が減るが、それは相手へ詰める時の時間も同様に減ると言うことだ。なまじ撃つくらいなら、と思ってくれ》
「なるほど納得だ……わかりました。で、もう一つの方は?」
ファンタジー・アーマーのウィンドウを消して、もう一つの方を見る
《これは試験型レールキャノンだ。実弾を超高速で発射する電磁砲を2門搭載されていて、バッテリーや弾なども入ってる。バックパックに一応のスラスターなども付いているが、機動性は生身の時より劣るだろうな。これはもう狙撃前提の装備だから、あまり説明は要らないな。
以上二つ、お前に預ける》
「ファンタジー・アーマーD及び試験型レールキャノン、確かに受領しました」
お互いに敬礼して、ミナトはそこから手を下ろして軽く一礼。
《なにか、他に話す事はあるか?》
「余裕が確約出来る今のうちにお伺いしたいことが。お土産、どうしますか?」
陸田は画面越しで笑い、木崎も口に手を当てて微笑んでいる。二人はどうしようかと3分ほど話し合って、一つを決めた。
《若草を頼みたい。和菓子なんだが、あれは松平治郷、不昧流の始祖が好んだとされる和菓子を復元したものだ。歳を取るとどうも熱い緑茶の方が舌に合うものでな……だから、折角なので先人の趣味に倣って味わえるそれを買って来てくれ》
先人に倣う、となれば少しロマンチックに感じる。無論お土産を渡す人間は一人ではないのでミナトはもう一人の上司にもお伺いを立てたが『あれこれ頼むのも余計だしみんなの分も併せて同じものを買って来てくれ』と言われて了承。
《他にないなら、失礼させて頂く。時間は余っているが、あまり会議が長すぎるのも考えものだ》
「了解しました。では、俺も失礼させていただきますね」
お互いに敬礼をしてから、ビデオ会議を終えた。部屋にいる二人は背伸びをして、また別の話に入り始める。
「凄いですね、これが独立遊撃部隊の会議かあ……なんというか、緊張感があるような無いような」
「必要最低限の礼儀さえあればかなりフリーだ。とは言え、これも実績のおかげだけどな」
ぐぅ、と音が鳴る。
二人とも落ち着いたのか、それとも緊張が解けたからだろうか。お腹が“自分は今何も入っていませんよ”という、お知らせを身体の持ち主に伝えている。
「あぁ……情けないな。急いで移動して即会議だったもので、今朝は何も食べていない。これでは独立遊撃部隊が凄いと言われた矢先に、ブランドとしての価値が落ちるな」
「そう言う事気にしてた様子が1秒もありませんでしたよね、七条さん」
「内部に対しての体裁を気にしたところで結局仕事は外部からの信用が肝心だからな、同じ会社の人間なら腹減ったら笑い合うくらいで丁度いい」
お互いに笑い合うが、声で腹は膨れることなし。どうしようかと悩んでいると、ルミが一つの提案をして来た。
「七条さん。もし良ければ、今からホテルバイキングで遅めの朝食なんていかがでしょうか。食事代は払ってくれている筈ですし、何より此方の活動内容を共有出来るので」
「あー、レストランに行くなら共有は無しだ。話が漏れては困るからな。と言うより会議は終わったのだし、いっそ休憩しつつ飯を食べるでどうだ?あまり真面目にやっていては、昼からが辛い」
それもそうですね、と頷くルミ。
二人はそれぞれ荷物を置いたまま、客室から外に出た。
レストランにやって来て、金を先に払ってからそれぞれ皿を手に取る。
ホテルは余程の安宿でさえなければ、美味しいものの宝庫である。クロワッサンはパリパリもちもち、ウィンナーや卵焼きは日本人に一番合うような加減で火を入れられている。今回は一ヶ月滞在という話でもあったため、割と良い宿を予約した。ビュッフェの形をとる中で、選択肢にローストビーフや刺身などが当然入っている。
起きてからざっくり三時間ほど何も飲み食いをしていないミナト、早起きしてもお迎えでの緊張感が強くて何も食べていないルミにとっては、互いの若さもあり朝から多く肉を摂取出来る環境に唾液も心も揺れ踊り続けた。
さて、そうして右往左往しているうちに好みの栄養をお上品にかき集めた二人は、窓辺の席に座って、食事を取り始める。
「いただきます」
「いただきまーす!」
お互いに、一つ目の食べ物を口に運ぶ。ミナトは5mm幅のローストビーフをわさびを載せて一枚、ルミは黒胡椒とレモン香るチキンステーキを一切れ口に運んだ。二人の感嘆の声が漏れるのは、おそらく一秒も掛からなかっただろう。
まず、ミナトが口にしたローストビーフは当たり前だがホテルのシェフが作った絶妙な低温調理によって肉内部が日の本の春風景に劣らぬ鮮やかな紅色となっている。これを表面を焼き、樹皮のような強かな色の外側と合わさり、その姿はまさに“食べ桜”と表する事ができるだろう。素材は柔らかい口当たりの松坂牛、と来れば滑らかな食感にほんのり甘い素材の味と出た油で作られたクレイビーソースをかければ、甘く濃厚で上品な肉となるのだ。わさびは、ローストビーフの到来で訪れた口の中の春を過ごした後に来る新緑の風。季節を感じる味わいを、シェフというプロが立てたのだ。彼は舌で味わったその感銘に、声を殺すことは出来なかった。
無論、それは感触は違えどルミも味わった。元々他の肉と比べて脂が少ない鶏肉であったが、こちらも地鶏ならではの名品である薩摩地鶏を使ったこのチキンステーキで、歯応えと控えめな甘さを持つこの肉をステーキとしてジューシーに仕上げた。油と香辛料のみで、後は食感というポテンシャルを引き出すだけでも逸品と化す。ルミはそれに加えて、香辛料も過労死させるほどの味を引き出す酸味としてレモン汁を掛けて頂いたのだ。様々な調味料で全力を引き出され続けた地鶏は、美女の口の中でかつて先祖が薩摩隼人達の下で鎬を削りあった先祖の事を思いながら果てるのだろう。磨き上げられた身体を捌かれ、調理され、その時間とそれに対するブランドという経緯はルミの中で衝撃となって、感嘆の声を漏らした。
「美味しいな……!」
「美味いです!」
二人揃って頬に手を当てて、目を細めてはしっかり噛み締めて味わっている。軍といういつもはきつい立場の仕事をしているのも相まってか、こう言った品を口に運んだ時の喜びは増すに違いない。
「これは恐れ入った、一般市民なものだからあまり品ありきで違うものなど分かりっこ無いと思っていたが!」
「美味しいですよ七条さん!お肉、選んで正解でしたね!」
しかし急いで食べては品に欠ける、と二人は書き込む事なく美味しいと言っては取った料理を食べていく。
そうして互いに残り7割になった頃に、味わいも落ち着いて来た二人。ルミは、このタイミングでミナトに一つ聞きたいことがあると言い出した。
「そう言えば、七条さんってどうして独立部隊に……いえ、正確に言えば何故R/Fに入ったんですか?」
「俺が入った理由?」
ミナトは少し考える。彼自身、何か強い意志が入ったわけではない。しかし、聞かれた手前ただ入ったと言うだけでは相手が同業者な以上失礼に当たる。
「そうだな、じゃあ俺が入ることになったキッカケでも話すか」
どういう意志を持っているか、は無いなら入るきっかけとやらを話せばいいと彼は判断した。
互いに食べる手を少し緩めている今、午前中は休みたいというのもあったミナトはローストビーフを口に運び水を飲み、その最中で一番最初に出会した事件を話すことにした。
翌日の8時、出雲に着いた彼はその足で近場の一ヶ月拠点にするホテルへ向かう。
「お待ちしておりました。予約頂いた七条ミナト様ですね?」
「お迎えありがとうございます」
「こちらお客様がご宿泊予定のキーとなります。くれぐれも紛失なさらぬよう、取り扱いにお気をつけ下さい。
あと、お客様に用事がある方がいらっしゃってます」
「了解した」
出迎えの職員を寄越す上に9時には会議をすると大隊長はミナトにメールで送っており、目を開けてからスマホを見て確認した彼はすでに知っていた。予約された707の客室へ入るとR/Fの制服を着た、紺髪銀眼の女がいた。
「あ、お疲れ様です!」
「お疲れ様。俺が七条ミナト、君は?」
「私は街部ルミと申します!」
元気のいい、純粋もいいところのレディだ。
「お迎えありがとう。一ヶ月、調査でこの島根にいることになったんだ。よろしく頼む、何か必要なことがあればすぐに連絡してくれ。人手なら駆けつけるし、何かあるなら持っていこう」
「ありがとうございます!」
一通りの挨拶を済ませたところで、彼はノートパソコンを開いて会議の準備を始めた。
大隊長も参加する会議だが、内容としては調査内容の確認やそれに関する事の説明になる。ルミにも手伝ってもらい、早めに済ませた彼らはマイクとカメラを調整して先に会議に入室。その2分後には、独立遊撃部隊室の光景が映し出されて木崎と陸田がこちらに手を振っていた。
「おはようございます、お二方。デートですか?」
《酷いなあ、違うよ。俺と姐さんそんな仲じゃないって。なぁ?》
《誰が朝ご飯を作ってやったと思ってるんだ?それより……七条、無事に着いたんだな》
「羽根が伸びきって縮むことないくらい余裕がありますが、あくまで調査なので伸ばしすぎないようにしたいですね。とりあえず、ほら」
端っこにいるルミにミナトは、形式上の報告をするよう促す。やはり、いつもとは違う上司に話すからか彼女は緊張しているか、少しおぼつかない感じまでも元気までは崩さずに報告。
「あ、はい!街部 ルミ、七条 ミナトと合流しました!」
《よし、偉いぞ!》
幸い独立遊撃部隊のトップはお人よしも良いところの、好意的な人間。報告した当人も胸を撫で下ろすほど、安堵したようだ。
「なに、礼儀正しくないとあれこれ言うような人じゃないぞ陸田隊長は。そうですよね?」
《もちろんだ!》
「よかったです~……いやー会議とか言われるといまだに緊張しちゃって」
《気持ちは分かるぞ、ルミ。私だって今でもこれで伝わるか?と考えるくらいだ》
和気藹々とした会話も終いとして、木崎は会議の本題に入った。
《今回は単独での調査となる。いつもR/Fや自衛隊が通ってるルート通りではなく、自由に回って夢遊者が居ないかの抜き打ちチェックを頼みたい。無論、発見したら速やかな捕獲もしくは排除をしろ》
「了解。現状44マグナムで足りそうですが、もし足りなくなった場合……厳密に言えばIFの必要性が出て来た時はどうしますか?」
《さっき輸送機にお前のSIFと追加武装を幾つか詰め込んで飛ばした。R/Fの出雲基地に昼頃到着予定だぞ、必要になったら貸してる腕時計で信号を送れ》
手際の良さに感心してるミナトだが、そこから更に質問をした。
「俺のタイラント・ゼロBが居るだけでもありがたいですが、追加武装とは?」
《正確には強化アーマーだな。これを見て欲しい》
パソコンの近くに電子モニターが2枚出て来て、その武装と説明を表示してる。
《まずは接近用のアーマーである〈ファンタジー・アーマーD〉だ。これは、全体的に被せて、全体的に増設したスラスター背中に付けてあるブースターで飛行するといった代物になる》
「背中についてる長いやつが追加ブースターになるんですか?」
《そうだ。ただ、背中についてるやつの大体はバッテリーと放熱板だがな。実際は付け根のところに大きめのスラスターがある》
拡大してみると、アーマーで追加された背中のハードポイントに近いところに噴射口がある。
「なるほど……しかしこれは何の意図が?」
《大まかに言うならばダメージを受けた際の騙し札だろう。後ろの推進機を破壊しておいて、破壊前と同じスピードで来られたら良い不意打ちになるだろう?》
しかし、仕様書にも書いてある通り後ろについているのは放熱版+バッテリー。パージや破損で切り離してスラスターだけ動かした時、余り長くは稼働しない上にオーバーヒートを起こしてしまうので気をつけて欲しいと木崎は言った。
了解した、と一度頷いてからミナトは武装構成について質問をした。
「追加の武器に関しては実体剣と盾。これはどうしてです?単純な装備である、としか分からない」
《ああ、それは重量増加による機動性の低下を避ける為だ》
木崎の話によれば元々は盾や上半身装甲に銃火器を仕込む提案をされていたが、折角装甲と推力に強化したのに射撃寄りになってしまっては高火力を叩き込まれやすく追加武装が無駄になってしまう。相手の攻撃手段を制限しながら、こちらは機動力という慣性と追加装甲という重量を活かした格闘で相手を仕留める。どうしてもと言う時は元々持っていた射撃武器でどうにかするスタンスで、開発したそうだ。
《相当スピードが上がる以上持ち帰る時間が減るが、それは相手へ詰める時の時間も同様に減ると言うことだ。なまじ撃つくらいなら、と思ってくれ》
「なるほど納得だ……わかりました。で、もう一つの方は?」
ファンタジー・アーマーのウィンドウを消して、もう一つの方を見る
《これは試験型レールキャノンだ。実弾を超高速で発射する電磁砲を2門搭載されていて、バッテリーや弾なども入ってる。バックパックに一応のスラスターなども付いているが、機動性は生身の時より劣るだろうな。これはもう狙撃前提の装備だから、あまり説明は要らないな。
以上二つ、お前に預ける》
「ファンタジー・アーマーD及び試験型レールキャノン、確かに受領しました」
お互いに敬礼して、ミナトはそこから手を下ろして軽く一礼。
《なにか、他に話す事はあるか?》
「余裕が確約出来る今のうちにお伺いしたいことが。お土産、どうしますか?」
陸田は画面越しで笑い、木崎も口に手を当てて微笑んでいる。二人はどうしようかと3分ほど話し合って、一つを決めた。
《若草を頼みたい。和菓子なんだが、あれは松平治郷、不昧流の始祖が好んだとされる和菓子を復元したものだ。歳を取るとどうも熱い緑茶の方が舌に合うものでな……だから、折角なので先人の趣味に倣って味わえるそれを買って来てくれ》
先人に倣う、となれば少しロマンチックに感じる。無論お土産を渡す人間は一人ではないのでミナトはもう一人の上司にもお伺いを立てたが『あれこれ頼むのも余計だしみんなの分も併せて同じものを買って来てくれ』と言われて了承。
《他にないなら、失礼させて頂く。時間は余っているが、あまり会議が長すぎるのも考えものだ》
「了解しました。では、俺も失礼させていただきますね」
お互いに敬礼をしてから、ビデオ会議を終えた。部屋にいる二人は背伸びをして、また別の話に入り始める。
「凄いですね、これが独立遊撃部隊の会議かあ……なんというか、緊張感があるような無いような」
「必要最低限の礼儀さえあればかなりフリーだ。とは言え、これも実績のおかげだけどな」
ぐぅ、と音が鳴る。
二人とも落ち着いたのか、それとも緊張が解けたからだろうか。お腹が“自分は今何も入っていませんよ”という、お知らせを身体の持ち主に伝えている。
「あぁ……情けないな。急いで移動して即会議だったもので、今朝は何も食べていない。これでは独立遊撃部隊が凄いと言われた矢先に、ブランドとしての価値が落ちるな」
「そう言う事気にしてた様子が1秒もありませんでしたよね、七条さん」
「内部に対しての体裁を気にしたところで結局仕事は外部からの信用が肝心だからな、同じ会社の人間なら腹減ったら笑い合うくらいで丁度いい」
お互いに笑い合うが、声で腹は膨れることなし。どうしようかと悩んでいると、ルミが一つの提案をして来た。
「七条さん。もし良ければ、今からホテルバイキングで遅めの朝食なんていかがでしょうか。食事代は払ってくれている筈ですし、何より此方の活動内容を共有出来るので」
「あー、レストランに行くなら共有は無しだ。話が漏れては困るからな。と言うより会議は終わったのだし、いっそ休憩しつつ飯を食べるでどうだ?あまり真面目にやっていては、昼からが辛い」
それもそうですね、と頷くルミ。
二人はそれぞれ荷物を置いたまま、客室から外に出た。
レストランにやって来て、金を先に払ってからそれぞれ皿を手に取る。
ホテルは余程の安宿でさえなければ、美味しいものの宝庫である。クロワッサンはパリパリもちもち、ウィンナーや卵焼きは日本人に一番合うような加減で火を入れられている。今回は一ヶ月滞在という話でもあったため、割と良い宿を予約した。ビュッフェの形をとる中で、選択肢にローストビーフや刺身などが当然入っている。
起きてからざっくり三時間ほど何も飲み食いをしていないミナト、早起きしてもお迎えでの緊張感が強くて何も食べていないルミにとっては、互いの若さもあり朝から多く肉を摂取出来る環境に唾液も心も揺れ踊り続けた。
さて、そうして右往左往しているうちに好みの栄養をお上品にかき集めた二人は、窓辺の席に座って、食事を取り始める。
「いただきます」
「いただきまーす!」
お互いに、一つ目の食べ物を口に運ぶ。ミナトは5mm幅のローストビーフをわさびを載せて一枚、ルミは黒胡椒とレモン香るチキンステーキを一切れ口に運んだ。二人の感嘆の声が漏れるのは、おそらく一秒も掛からなかっただろう。
まず、ミナトが口にしたローストビーフは当たり前だがホテルのシェフが作った絶妙な低温調理によって肉内部が日の本の春風景に劣らぬ鮮やかな紅色となっている。これを表面を焼き、樹皮のような強かな色の外側と合わさり、その姿はまさに“食べ桜”と表する事ができるだろう。素材は柔らかい口当たりの松坂牛、と来れば滑らかな食感にほんのり甘い素材の味と出た油で作られたクレイビーソースをかければ、甘く濃厚で上品な肉となるのだ。わさびは、ローストビーフの到来で訪れた口の中の春を過ごした後に来る新緑の風。季節を感じる味わいを、シェフというプロが立てたのだ。彼は舌で味わったその感銘に、声を殺すことは出来なかった。
無論、それは感触は違えどルミも味わった。元々他の肉と比べて脂が少ない鶏肉であったが、こちらも地鶏ならではの名品である薩摩地鶏を使ったこのチキンステーキで、歯応えと控えめな甘さを持つこの肉をステーキとしてジューシーに仕上げた。油と香辛料のみで、後は食感というポテンシャルを引き出すだけでも逸品と化す。ルミはそれに加えて、香辛料も過労死させるほどの味を引き出す酸味としてレモン汁を掛けて頂いたのだ。様々な調味料で全力を引き出され続けた地鶏は、美女の口の中でかつて先祖が薩摩隼人達の下で鎬を削りあった先祖の事を思いながら果てるのだろう。磨き上げられた身体を捌かれ、調理され、その時間とそれに対するブランドという経緯はルミの中で衝撃となって、感嘆の声を漏らした。
「美味しいな……!」
「美味いです!」
二人揃って頬に手を当てて、目を細めてはしっかり噛み締めて味わっている。軍といういつもはきつい立場の仕事をしているのも相まってか、こう言った品を口に運んだ時の喜びは増すに違いない。
「これは恐れ入った、一般市民なものだからあまり品ありきで違うものなど分かりっこ無いと思っていたが!」
「美味しいですよ七条さん!お肉、選んで正解でしたね!」
しかし急いで食べては品に欠ける、と二人は書き込む事なく美味しいと言っては取った料理を食べていく。
そうして互いに残り7割になった頃に、味わいも落ち着いて来た二人。ルミは、このタイミングでミナトに一つ聞きたいことがあると言い出した。
「そう言えば、七条さんってどうして独立部隊に……いえ、正確に言えば何故R/Fに入ったんですか?」
「俺が入った理由?」
ミナトは少し考える。彼自身、何か強い意志が入ったわけではない。しかし、聞かれた手前ただ入ったと言うだけでは相手が同業者な以上失礼に当たる。
「そうだな、じゃあ俺が入ることになったキッカケでも話すか」
どういう意志を持っているか、は無いなら入るきっかけとやらを話せばいいと彼は判断した。
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