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穏やかな幻想の底で-3
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ルミと別れたその日のうち、太陽が昇る間は何もなかった。誰かと会えば挨拶し、彼女に勧められたカフェに行き、そうしてまた散策して……そうするうちに、月が昇り始める時間帯に。
彼は成人してる。その意味が指すところ、ミナトは己の足を地元の飲食店に向けていた。
「まだやってるか?」
「どうぞ」
店主に確認を取って、カウンター席に座る。
メニュー表を見ると色々あるようだ。油淋鶏風の唐揚げが目に入ると、やはり涎がくすぐられる。
「すいません、油淋鶏風唐揚げご飯大盛りを一つ。あと、ウーロン茶を一つ」
あいよ、という元気な声と共に調理場の音が大きくなった。人はそこそこいるようだが、大体はもう注文した品が届いている。
スマホも見る気が起きないで、ただぼうっとしてるミナト。少し経つと、空いている右の席に座る男が一人。
「こちら、座っても?」
「ああ」
あっけない声で了承の意を返す。
「ありがとうございます……もしかしてあなた、他県から?」
「そうだが」
「そうなんですか、いやここらで見ない方ですから」
邪魔だったか?と聞くといえいえそんなことは!と返ってくる。
「あ、自分の名前は三重アラタって言います」
「七条ミナトだ」
七条さんですねえ、と覚えたふうな声を出すアラタ。どうしてわざわざこんな場所に?という問いを彼に投げられて、ミナトは正体を明かさずに適当に身元をでっち上げる。
「仕事ついでの観光さ。工学系の仕事をやってる、フリーエージェントって奴」
「なるほどすごい。自分は写真家で、いろんなところで写真撮って稼いでます。そう言えば、島根に来るのが初でしたら幾つかお節介をしたいことが」
怪しい仕事でも吹っかけられるのかと身構えたミナトに、全然そんな怪しいことでもないですよと説明するアラタ。
「ちょっとした情報と言ったところです。身の安全確保に役立つ話」
「ほう?」
ミナトはデジタルウォッチを起動して一度時間を確認しつつ、返事する。
「いやあ、最近おかしな連中が台頭してきましてるんですよねえ。身体のどこかに狐の顔が彫られている奴らが“狐願会”と称して暴れ回っているんですよ」
「地元のヤンキーみたいなものか」
「そいつらに出会ったらやけに腕力はあるわ炎を出すこともあるわ大変な事になってるんですよ」
自衛隊やR/Fが居るはずだが、とミナトが聞く。しかし聞かれた方は今もその両者に調査をして貰ってるが尻尾も掴めてないし、おそらく誰かのイタズラだろうという仮説が通ってるとのこと。
「つまりなんだ、被害者は確かにいるんだが証拠が一つもない状態。で、いいのか?」
「そうなんですよ。待ち伏せしても見当たらないんじゃ本当お手上げで」
ミナトは話を聞いているうちに、少し口角を上げた。それを見たアラタは、若干引いている。
「なんで今の話で楽しそうに出来るんです……?」
「楽しいことを聞いたからだ」
話しているうち、あまりに大きな音を立てて扉が開く音がする。
「おい!飯を出せ!」
入ってきたのは若いチンピラで、丁度話をしていた狐が腕に彫られている奴。
「(あいつですよあいつ!)」
「(なるほどな)」
「ほんと使えねえ店主だな、今R/Fと自衛隊に見張られてるんだから此処を支配してる奴らのためにすぐ食える物を用意しろよ」
「お前らに食わせるものはない」
店主が冷たく突き放すようにいうと、チンピラはミナトの方へ近寄ってきた。そうして彼の顔を覗き込むと、下品に笑っている。
「なんだこいつ、おいお前旅行者だろ!なんで旅行者がここに居るんだ?忙しい時に調教が必要なやつを入れるなよ!」
「腹が減っているなら今俺のために作ってもらってる油淋鶏風の唐揚げでよければ勝手に奪って食ってくれ。金は代わりに払っておく」
チンピラは大笑い。苛立った中で、苛立ちを大きくしかねない人間が、予想外にも自分のことを優先してくれる。そうなれば、流石に笑って許そうという気持ちが出てくるのかもしれない。
「あーはっはっは!いいぞ、お前最高だな!名前は?」
「七条ミナトと言う。ほら」
ミナトはそのまま席を立って、チンピラに譲る。その誘いに乗ってチンピラは勢いよく着席。店主に早く出せよ!と叫んでいる。そしてその隣が嫌がる顔をしながら、アラタは彼を見た。
言いたいことは分かっている、と口パクで伝えて自分の口に人差し指を当てて静かにするように伝えるミナト。それを他の客にも全員分かるようにして伝えると、店主も同様に頷く。
あとはもうこのあまりに失礼なやつを懲らしめるだけだ。ミナトは自身の44口径を引き抜き、チンピラに向けると_____
「運の尽きだったな」
という一言を発して、彼の肺に二発撃ち込んだ。
銃声に加えて人が撃たれた時の鈍い音、少し時間が経てば撃たれた奴が悶え苦しむ声で恐怖感が増す。さらに、興味で一発をチンピラが腕に彫った狐のタトゥーに向かって一発撃つ。
すると、撃たれたタトゥーは急に叫びを上げて燃え出した。
「熱い熱い熱い」
「少し黙って貰おうか」
と転げ回るチンピラの顔を思い切り蹴るミナト。蹴られた男は更に悲鳴をあげたが、もう一発撃たれて少し黙った。
「お、おいなんでた、ただだの観光客がじゅ銃なんてももも持ってんだ……!」
「観光客が素直に譲るわけないだろ」
ミナトは拳銃を向けたまま、チンピラに話し続ける。
「俺はR/Fの独立遊撃部隊の人間だ。この出雲へは抜き打ちチェックの目的でやってきたんだが、ようやく尻尾は掴んだ。いい気分だな?」
タトゥー自体が炭になり、その周りの皮膚も燃えている。どうやら能力は使えないらしい。ミナトは、彼が無力化した時点でやりたいことは終えている。後々の時間を稼ぐ為、彼は少し話すことにした。
「お前に問題だ。これを正解したら、命だけは保障してやる」
「な、なんだよ」
「俺の拳銃をそっちから見たら、シリンダーの穴は5つ見えるな?そう、俺は今五発撃った。つまり今見える弾倉の中には弾は入ってない、ではこの銃の中に弾が入っているか当ててみろ」
あまりにふざけ散らかした内容だ。誰が聞いたって正解するような問題を、ミナトは目の前の薄汚いガキに投げつけた。
「五発撃って、今見えるやつが空ならた弾は入ってない!」
「そうか」
ミナトは引き金を引いて、チンピラの頭を撃ち抜いた。
「お前は算数も国語もできないのか、何が出来るんだ?いや何も出来ないからそんなものに頼ってるんだったな、すまないことをした」
反応を返せないタンパク質を飲食店の中に放置するわけにはいかない、と彼はチンピラの頭を引っ掴んで外に放った。
「すまない店主さん、気を悪くした。油淋鶏を焦がしてしまったか?」
「出来上がってる。食え」
「すまないな、こんな奴のために作らせたとあっては金で詫び切ることは出来なさそうだ」
少し問答があったが、腕の時計を見ると十分も経ってない様子。店側もゆっくりやってたんだろう。ミナトはまた時計を少し弄ってから、目の前に出された油淋鶏風の唐揚げにありついた。
2050年ともなれば倫理観もそこそこ変化してきているのか、一人死んだ程度では客は誰一人として動じていない。尤も、死んだのが夢遊者である以上騒ぎ立てることはない。
彼が食べた唐揚げは、甘辛ソースにネギと唐辛子を加えたピリ辛風味で香ばしい唐揚げ。衣には軽くピーナッツを入れてあるのか、食べ応えある食感。味付けで段々とご飯が進む中、隣で問題が起きるまで喋っていたアラタが話しかけてくる。
「今外に色々見えてるけどあれってR/Fなんです?」
「そうだな、夢遊者の回収をしてる。腕時計で一部始終聞いたり後処理求めてたりしてたからな、早いだろ?」
すごいな……と感心するアラタ。彼にも注文していたイカの炙り詰め握りが届いた。それを口にした彼は、醤油を塗って炭火で焼いたイカの香ばしさに米のふっくらした食感やネギのアクセントに舌鼓を打っている。
「ところであれ、尋問とかしなくても良かったんです?生きてないと尋問出来ないでしょ、認知してくれただけでも市民としては万々歳ですけど」
「実は夢遊者って生きてようが死んでようが情報を抜き取りやすいんだ。これは公式ホームページの夢遊者に対する理解を深めるQ&Aでも載っていたんだが、夢遊者は神経が光るんだよな。微弱な光だし何か特別な物質があるわけではないが、ともかくこれが残っていればプログラムで解析可能なんだ」
国が研究機関に金をたんまり注いでデータ化技術を確立させた、だから色々兵器があるとミナトは言った。
「なるほど。しかし、七条さん。殺しちゃったら、あっち暴徒と化しません?元から暴徒みたいなものですけど」
「狐の眷属らしく化けの皮が剥がれただけだ。気にすることはない。ただ、用心はしておくべきか……うーん、どれが出てくるかな」
半分くらい食べた段階で一度箸を置き、色々考えてるミナト。
「世の中には化け物を呼び寄せるために人柱を立てる場合がある。出てくるとなればまあ九尾だろうな、危ないと思ったらすぐその場から離れるんだぞ」
「はい了解」
軽い返事をアラタが返し、また箸を取って二人は食べ始める。
ここからは口数など無いに等しい時間が続いたが、ミナトは別に何も考えずに唐揚げを食べていたわけはなかった。
(狐願会というヤクザじみた名前するってことは、おそらく反社会組織が夢遊者の兵士化を狙っているということだ。さっき殺した奴は下っ端だろうが、恐らくは半グレの一人。箔がつくとは言ったものだが、はてわざわざ分かりやすい夢遊者を兵士にする意味は?シンボルを振り回して強い訳では無い……自衛隊やR/Fを敵に回す時点で得策じゃないからな。普通にやってれば警察の厄介で済む。じゃあ、夢遊者が自発的に集まって?それはそれで目立ちすぎるんじゃないか。大それた行動をやっていたら流石にパトロール隊のセンサーに引っかかるだろう……困ったな。何がしたくて、下っ端にあんな呪いじみたものを埋め込んで)
「兄ちゃん」
(大体あんなものを欲するなんて相当困窮している状態なんだ。国が血眼になって探してる夢遊者で組織化するなんて国への反抗を視野に入れて尚するメリットがある状態でないと困る。今よりも夢遊者が強かった時代でさえ自衛隊や各国の軍が勝っていたから、対夢遊者のスペシャリストのR/Fが確率されてて厳しくなっている筈なのにやる意味は?それこそ貧困か、バカを言え。今2050年だぞ、2020年代とかはともかくアフリカでさえ砂漠の面積が減って都市が建ち続けてるんだ。バブル崩壊後の不景気をずっと引きずっていたのはあって35年のもの、そっから今は15年ほど先。福祉更生や最低賃金は大幅に向上してるから反抗する理由なんざ一つもない)
「兄ちゃん」
かんかん、と軽い鍋を叩く音に意識を引っ張られたミナト。目線の先には、追目の前の皿に追加の唐揚げとご飯のおかわりがあった。
「ああ、考え事をしてただけで決して乞食では」
「あんた沢山食うタイプと見たからそれはこっちからのサービスだ。ありがとな、ちゃんと追っ払ってくれて」
店主の笑顔に頷いて、おかわりを食べ始めるミナト。
「ところで兄ちゃんは、ここの事あまり知らなかったんだよな?じゃあ、仕事に役立つかもしれない情報をいくつか渡そう」
「いいのか?」
「気にすんな。今から出雲に平和が訪れるんだろ?」
R/Fが本気で対策に乗り出してるのは間違いない。平和のために尽力しようと返したミナトに店長は笑顔で頷いてから、出雲の住民について話し始めた。
「まず、兄ちゃんは2000年代前半の人間について知ってるか?」
「1960年代以降に起こった二度のベビーブームで人口は大幅に急増した。それが過激な受験・就活戦争を引き起こし、敗者を大量に産んだ。その子供が2000年代に生まれて、敗者が己の失敗を子供で払拭すべく圧をかけ続けて、結果この年代の人間は歪んでしまった」
「正解だ。中国や韓国よりは全然負けても道はあったが、やはり子供は勉強というものに強く縛られ続けた。そして親も親で、自身が経験した過酷な競争が子供時代の軸になった以上昭和時代の男尊奴婢の思想も相まって本来の親を知らないまま親になった。つまり人付き合いという倫理観よりも勉強という結果を盲信する形となった訳だが、これが“勉強が出来ても常識がない”者達を生み出す温床になったな」
夢遊者は現実に対する執着が無くなった人間ほどなりやすい存在。今確認したのは、時代背景も併せた夢遊者発生のメカニズムについてだ。
店主は確認した後、この内容を踏まえた上で出雲の歴史を辿るように話をした。
彼は成人してる。その意味が指すところ、ミナトは己の足を地元の飲食店に向けていた。
「まだやってるか?」
「どうぞ」
店主に確認を取って、カウンター席に座る。
メニュー表を見ると色々あるようだ。油淋鶏風の唐揚げが目に入ると、やはり涎がくすぐられる。
「すいません、油淋鶏風唐揚げご飯大盛りを一つ。あと、ウーロン茶を一つ」
あいよ、という元気な声と共に調理場の音が大きくなった。人はそこそこいるようだが、大体はもう注文した品が届いている。
スマホも見る気が起きないで、ただぼうっとしてるミナト。少し経つと、空いている右の席に座る男が一人。
「こちら、座っても?」
「ああ」
あっけない声で了承の意を返す。
「ありがとうございます……もしかしてあなた、他県から?」
「そうだが」
「そうなんですか、いやここらで見ない方ですから」
邪魔だったか?と聞くといえいえそんなことは!と返ってくる。
「あ、自分の名前は三重アラタって言います」
「七条ミナトだ」
七条さんですねえ、と覚えたふうな声を出すアラタ。どうしてわざわざこんな場所に?という問いを彼に投げられて、ミナトは正体を明かさずに適当に身元をでっち上げる。
「仕事ついでの観光さ。工学系の仕事をやってる、フリーエージェントって奴」
「なるほどすごい。自分は写真家で、いろんなところで写真撮って稼いでます。そう言えば、島根に来るのが初でしたら幾つかお節介をしたいことが」
怪しい仕事でも吹っかけられるのかと身構えたミナトに、全然そんな怪しいことでもないですよと説明するアラタ。
「ちょっとした情報と言ったところです。身の安全確保に役立つ話」
「ほう?」
ミナトはデジタルウォッチを起動して一度時間を確認しつつ、返事する。
「いやあ、最近おかしな連中が台頭してきましてるんですよねえ。身体のどこかに狐の顔が彫られている奴らが“狐願会”と称して暴れ回っているんですよ」
「地元のヤンキーみたいなものか」
「そいつらに出会ったらやけに腕力はあるわ炎を出すこともあるわ大変な事になってるんですよ」
自衛隊やR/Fが居るはずだが、とミナトが聞く。しかし聞かれた方は今もその両者に調査をして貰ってるが尻尾も掴めてないし、おそらく誰かのイタズラだろうという仮説が通ってるとのこと。
「つまりなんだ、被害者は確かにいるんだが証拠が一つもない状態。で、いいのか?」
「そうなんですよ。待ち伏せしても見当たらないんじゃ本当お手上げで」
ミナトは話を聞いているうちに、少し口角を上げた。それを見たアラタは、若干引いている。
「なんで今の話で楽しそうに出来るんです……?」
「楽しいことを聞いたからだ」
話しているうち、あまりに大きな音を立てて扉が開く音がする。
「おい!飯を出せ!」
入ってきたのは若いチンピラで、丁度話をしていた狐が腕に彫られている奴。
「(あいつですよあいつ!)」
「(なるほどな)」
「ほんと使えねえ店主だな、今R/Fと自衛隊に見張られてるんだから此処を支配してる奴らのためにすぐ食える物を用意しろよ」
「お前らに食わせるものはない」
店主が冷たく突き放すようにいうと、チンピラはミナトの方へ近寄ってきた。そうして彼の顔を覗き込むと、下品に笑っている。
「なんだこいつ、おいお前旅行者だろ!なんで旅行者がここに居るんだ?忙しい時に調教が必要なやつを入れるなよ!」
「腹が減っているなら今俺のために作ってもらってる油淋鶏風の唐揚げでよければ勝手に奪って食ってくれ。金は代わりに払っておく」
チンピラは大笑い。苛立った中で、苛立ちを大きくしかねない人間が、予想外にも自分のことを優先してくれる。そうなれば、流石に笑って許そうという気持ちが出てくるのかもしれない。
「あーはっはっは!いいぞ、お前最高だな!名前は?」
「七条ミナトと言う。ほら」
ミナトはそのまま席を立って、チンピラに譲る。その誘いに乗ってチンピラは勢いよく着席。店主に早く出せよ!と叫んでいる。そしてその隣が嫌がる顔をしながら、アラタは彼を見た。
言いたいことは分かっている、と口パクで伝えて自分の口に人差し指を当てて静かにするように伝えるミナト。それを他の客にも全員分かるようにして伝えると、店主も同様に頷く。
あとはもうこのあまりに失礼なやつを懲らしめるだけだ。ミナトは自身の44口径を引き抜き、チンピラに向けると_____
「運の尽きだったな」
という一言を発して、彼の肺に二発撃ち込んだ。
銃声に加えて人が撃たれた時の鈍い音、少し時間が経てば撃たれた奴が悶え苦しむ声で恐怖感が増す。さらに、興味で一発をチンピラが腕に彫った狐のタトゥーに向かって一発撃つ。
すると、撃たれたタトゥーは急に叫びを上げて燃え出した。
「熱い熱い熱い」
「少し黙って貰おうか」
と転げ回るチンピラの顔を思い切り蹴るミナト。蹴られた男は更に悲鳴をあげたが、もう一発撃たれて少し黙った。
「お、おいなんでた、ただだの観光客がじゅ銃なんてももも持ってんだ……!」
「観光客が素直に譲るわけないだろ」
ミナトは拳銃を向けたまま、チンピラに話し続ける。
「俺はR/Fの独立遊撃部隊の人間だ。この出雲へは抜き打ちチェックの目的でやってきたんだが、ようやく尻尾は掴んだ。いい気分だな?」
タトゥー自体が炭になり、その周りの皮膚も燃えている。どうやら能力は使えないらしい。ミナトは、彼が無力化した時点でやりたいことは終えている。後々の時間を稼ぐ為、彼は少し話すことにした。
「お前に問題だ。これを正解したら、命だけは保障してやる」
「な、なんだよ」
「俺の拳銃をそっちから見たら、シリンダーの穴は5つ見えるな?そう、俺は今五発撃った。つまり今見える弾倉の中には弾は入ってない、ではこの銃の中に弾が入っているか当ててみろ」
あまりにふざけ散らかした内容だ。誰が聞いたって正解するような問題を、ミナトは目の前の薄汚いガキに投げつけた。
「五発撃って、今見えるやつが空ならた弾は入ってない!」
「そうか」
ミナトは引き金を引いて、チンピラの頭を撃ち抜いた。
「お前は算数も国語もできないのか、何が出来るんだ?いや何も出来ないからそんなものに頼ってるんだったな、すまないことをした」
反応を返せないタンパク質を飲食店の中に放置するわけにはいかない、と彼はチンピラの頭を引っ掴んで外に放った。
「すまない店主さん、気を悪くした。油淋鶏を焦がしてしまったか?」
「出来上がってる。食え」
「すまないな、こんな奴のために作らせたとあっては金で詫び切ることは出来なさそうだ」
少し問答があったが、腕の時計を見ると十分も経ってない様子。店側もゆっくりやってたんだろう。ミナトはまた時計を少し弄ってから、目の前に出された油淋鶏風の唐揚げにありついた。
2050年ともなれば倫理観もそこそこ変化してきているのか、一人死んだ程度では客は誰一人として動じていない。尤も、死んだのが夢遊者である以上騒ぎ立てることはない。
彼が食べた唐揚げは、甘辛ソースにネギと唐辛子を加えたピリ辛風味で香ばしい唐揚げ。衣には軽くピーナッツを入れてあるのか、食べ応えある食感。味付けで段々とご飯が進む中、隣で問題が起きるまで喋っていたアラタが話しかけてくる。
「今外に色々見えてるけどあれってR/Fなんです?」
「そうだな、夢遊者の回収をしてる。腕時計で一部始終聞いたり後処理求めてたりしてたからな、早いだろ?」
すごいな……と感心するアラタ。彼にも注文していたイカの炙り詰め握りが届いた。それを口にした彼は、醤油を塗って炭火で焼いたイカの香ばしさに米のふっくらした食感やネギのアクセントに舌鼓を打っている。
「ところであれ、尋問とかしなくても良かったんです?生きてないと尋問出来ないでしょ、認知してくれただけでも市民としては万々歳ですけど」
「実は夢遊者って生きてようが死んでようが情報を抜き取りやすいんだ。これは公式ホームページの夢遊者に対する理解を深めるQ&Aでも載っていたんだが、夢遊者は神経が光るんだよな。微弱な光だし何か特別な物質があるわけではないが、ともかくこれが残っていればプログラムで解析可能なんだ」
国が研究機関に金をたんまり注いでデータ化技術を確立させた、だから色々兵器があるとミナトは言った。
「なるほど。しかし、七条さん。殺しちゃったら、あっち暴徒と化しません?元から暴徒みたいなものですけど」
「狐の眷属らしく化けの皮が剥がれただけだ。気にすることはない。ただ、用心はしておくべきか……うーん、どれが出てくるかな」
半分くらい食べた段階で一度箸を置き、色々考えてるミナト。
「世の中には化け物を呼び寄せるために人柱を立てる場合がある。出てくるとなればまあ九尾だろうな、危ないと思ったらすぐその場から離れるんだぞ」
「はい了解」
軽い返事をアラタが返し、また箸を取って二人は食べ始める。
ここからは口数など無いに等しい時間が続いたが、ミナトは別に何も考えずに唐揚げを食べていたわけはなかった。
(狐願会というヤクザじみた名前するってことは、おそらく反社会組織が夢遊者の兵士化を狙っているということだ。さっき殺した奴は下っ端だろうが、恐らくは半グレの一人。箔がつくとは言ったものだが、はてわざわざ分かりやすい夢遊者を兵士にする意味は?シンボルを振り回して強い訳では無い……自衛隊やR/Fを敵に回す時点で得策じゃないからな。普通にやってれば警察の厄介で済む。じゃあ、夢遊者が自発的に集まって?それはそれで目立ちすぎるんじゃないか。大それた行動をやっていたら流石にパトロール隊のセンサーに引っかかるだろう……困ったな。何がしたくて、下っ端にあんな呪いじみたものを埋め込んで)
「兄ちゃん」
(大体あんなものを欲するなんて相当困窮している状態なんだ。国が血眼になって探してる夢遊者で組織化するなんて国への反抗を視野に入れて尚するメリットがある状態でないと困る。今よりも夢遊者が強かった時代でさえ自衛隊や各国の軍が勝っていたから、対夢遊者のスペシャリストのR/Fが確率されてて厳しくなっている筈なのにやる意味は?それこそ貧困か、バカを言え。今2050年だぞ、2020年代とかはともかくアフリカでさえ砂漠の面積が減って都市が建ち続けてるんだ。バブル崩壊後の不景気をずっと引きずっていたのはあって35年のもの、そっから今は15年ほど先。福祉更生や最低賃金は大幅に向上してるから反抗する理由なんざ一つもない)
「兄ちゃん」
かんかん、と軽い鍋を叩く音に意識を引っ張られたミナト。目線の先には、追目の前の皿に追加の唐揚げとご飯のおかわりがあった。
「ああ、考え事をしてただけで決して乞食では」
「あんた沢山食うタイプと見たからそれはこっちからのサービスだ。ありがとな、ちゃんと追っ払ってくれて」
店主の笑顔に頷いて、おかわりを食べ始めるミナト。
「ところで兄ちゃんは、ここの事あまり知らなかったんだよな?じゃあ、仕事に役立つかもしれない情報をいくつか渡そう」
「いいのか?」
「気にすんな。今から出雲に平和が訪れるんだろ?」
R/Fが本気で対策に乗り出してるのは間違いない。平和のために尽力しようと返したミナトに店長は笑顔で頷いてから、出雲の住民について話し始めた。
「まず、兄ちゃんは2000年代前半の人間について知ってるか?」
「1960年代以降に起こった二度のベビーブームで人口は大幅に急増した。それが過激な受験・就活戦争を引き起こし、敗者を大量に産んだ。その子供が2000年代に生まれて、敗者が己の失敗を子供で払拭すべく圧をかけ続けて、結果この年代の人間は歪んでしまった」
「正解だ。中国や韓国よりは全然負けても道はあったが、やはり子供は勉強というものに強く縛られ続けた。そして親も親で、自身が経験した過酷な競争が子供時代の軸になった以上昭和時代の男尊奴婢の思想も相まって本来の親を知らないまま親になった。つまり人付き合いという倫理観よりも勉強という結果を盲信する形となった訳だが、これが“勉強が出来ても常識がない”者達を生み出す温床になったな」
夢遊者は現実に対する執着が無くなった人間ほどなりやすい存在。今確認したのは、時代背景も併せた夢遊者発生のメカニズムについてだ。
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