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「ぁ、や、やだっ、」
自分の声で目が覚める。最悪。また、あの夢を見た。
「ぁ、……そか…」
あの後顔も見ずに部屋にこもったから。
(…こわい、)
部屋が暗いからだろうか。日が暮れたからだろうか。心臓はバクバク苦しくて、逃げ出したくて。安倍さんはもう寝たのだろう。廊下が暗いのが怖い。慌ててつけて、リビングに走る。すかさずテレビをつけて、音量を上げた。
何でこんなに落ち着かないのだろう。体は疲れているのに、頭の中はずっとぐちゃぐちゃしてる。テレビの音だけじゃ静か過ぎる。息がうるさい。自分の息が、呼吸が聞こえなくなるまで音を上げた。
「…ーい…おーい、」
肩を叩かれて、びっくりしてソファから落ちた。
「ぁ、…ぇ…あ…」
手汗、すごい。体から力が抜けてるのに、強張っている。
「…、うるさかった、です?」
そりゃ夜のど真ん中にこんな大きな音出したらうるさいだろ。ご近所さんにも迷惑だし。
「いや…それより大丈夫?どっか打ってない?」
慌ててリモコンを手に取って画面を消す。ぶつけた膝が痛い。でもそれ以上に、息がしんどくて、体が強張って。
「汗すごいよ?やっぱ熱あるんじゃない?」
「…ぃえ、だいじょうぶ…」
測ってみるだけ測ろうと言われ、体温計を脇に挟む。37.2℃、と、何とも微妙な数値が表示された。
「…ねます、」
気まずい。顔、ちゃんと見れない。見れなくてまた、部屋に逃げてしまった。胸の中が重苦しくて息が詰まりそう。
「っ、」
微熱のせいだろうか。心に穴が空いたみたいにすっごく不安で、寝るのが怖い。また夢の続きを見てしまうんじゃないか、そう思ってしまって、眠くて眠くて仕方がないのに、変に目が冴えて。頭の中で、かつての積み重ねられた日々がぐるぐる回る。大丈夫、って蓋をしたはずなのに。思い出さないようにしていたのに。
あ、やばい、泣く。
何もしていないのに、急にボロボロと涙が溢れた。拭っても拭っても止まらない。体が火照って、目が変に冴えて熱くて痛い。引き攣った声がうるさくて、顔を枕に埋めた。
いつのまに寝ていたのだろう。といっても、1時間くらいしか経っていないのだが。相変わらず体は怠い。でも、お腹が空いた。
そりゃそうか。お菓子とお粥だもんな。目元は少しフラフラして、まあ自業自得で。
考え始めたら、食べ物の事しか頭に浮かばなくなってしまった。ラーメンとか、ハンバーガーとか、味の濃いものが食べたい。ステーキ、カツ丼、天ぷら…
お腹すいた。お腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいた。
気づいたら台所に居た。昨日安倍さんが買ってくれたお粥たち。温める余裕もなく、口に流し込む。あっという間に最後の一袋まで平らげてしまった。なのに、まだまだ食べたい。食べ足りない。
衝動的に冷蔵庫を開けるけど、明日の仕込んだ生肉とか、キャベツとか。
(あ、ベーコン…)
考える間もなく封を切っていた。厚い固まりに齧り付く。なんでこんな事をしてしまうのか、分からない。手作りは食べられないはずなのに、タッパーに保存された切り干し大根とか、漬物とか、昨日の生姜焼きとかを、手づかみでがっついている。今は、お腹が空いた、それしか考えられない。もっと、もっともっと食べたい。
ふと、ゴミ箱が気になった。そうだ、俺。捨てたやつ、あるじゃん。昨日のゴミだから、すぐに見つかった。お菓子の袋におにぎりがへばりついている。汚れた手のまま、米をつかむ。白身がぼろぼろになった目玉焼きも、全部口に入れた。まだ、まだ食べたい。ふと、冷蔵庫の鶏肉が頭に浮かんだ。タレに浸かって美味しそう。濃い醤油の匂いが鼻腔をくすぐった。
「何してんの!!!」
鶏肉を鷲掴んだ腕を、突然掴まれる。そこで俺は、今自分がしでかしていることに気づいた。
「ぁ、ぇ、と、」
「そんなの食べたらお腹壊すよ!?え、もう食べちゃった?」
首を横に振る。でも、シンクには空のタッパーがいくつも転がっていて、食べた残骸の袋も床に散らばっていて。
「ぁ、ぅ、」
何て汚いんだろう。俺の手のひらは汁まみれで、顔の周りにも汚れがついている。
「とりあえず手と顔洗いな。お腹空いたなら焼いたげるから」
開きっぱなしの冷蔵庫。汁が飛び散って、空き巣が入ったみたいだ。
「ぁ、、」
おれ、何した?何でこんなことした?頭がさぁって冷たくなって、手の先が震える。阿部さんが、俺の食べ散らかしたものを片付けている。俺、ゴキブリじゃん。人間のすることじゃ無いじゃん。
「ーーーっ、」
ほんとにバカみてえ。後ろを向いている安倍さんはどんな表情をしているか分からない。
「…ごめんなさい、」
掠れた声は聞こえただろうか。地面に生えたみたいに足が動かない。
「すてて、ごめ、なさい、」
「ごめ、なさい、ごめ、なさい、」
息が詰まる。目の前がぐらぐらする。また、泣きそう。
「フユ君、落ち着いて」
濡れた布の感触が頬に当たった。丁寧に、丁寧に、口の周りのソースやら汁やらが拭われて、手の指までも一本一本幼稚園児にするみたいに拭われていく。
「お腹空いちゃった?」
こくりと頷く。
「何か作ろっか。鶏肉焼く?」
いらない、と首を横に振った。何で怒らないんだろう。何で、こんなに優しい言葉をかけられるんだろう。
「…ごめ、なさい、」
「大丈夫?いっぱい食べて気持ち悪くない?」
さわ、と胃のあたりをさすられる。何か嫌な感じがして、体が固まった。
「だい、じょうぶ、」
「そう?眠れそう?」
「ねむい、です、」
「それは良かった。じゃあね、おやすみ」
触れられたみぞおちの部分がまだぞわぞわしている。俺の体、どうしちゃったのだろう。目を閉じると瞼の裏が熱い。そんで、お腹が満たされたからか、すごく眠くて怠い。チリチリ、モヤモヤ。落ち着かない体を誤魔化すように、頭まで布団をかぶってギュッと目を瞑った。
自分の声で目が覚める。最悪。また、あの夢を見た。
「ぁ、……そか…」
あの後顔も見ずに部屋にこもったから。
(…こわい、)
部屋が暗いからだろうか。日が暮れたからだろうか。心臓はバクバク苦しくて、逃げ出したくて。安倍さんはもう寝たのだろう。廊下が暗いのが怖い。慌ててつけて、リビングに走る。すかさずテレビをつけて、音量を上げた。
何でこんなに落ち着かないのだろう。体は疲れているのに、頭の中はずっとぐちゃぐちゃしてる。テレビの音だけじゃ静か過ぎる。息がうるさい。自分の息が、呼吸が聞こえなくなるまで音を上げた。
「…ーい…おーい、」
肩を叩かれて、びっくりしてソファから落ちた。
「ぁ、…ぇ…あ…」
手汗、すごい。体から力が抜けてるのに、強張っている。
「…、うるさかった、です?」
そりゃ夜のど真ん中にこんな大きな音出したらうるさいだろ。ご近所さんにも迷惑だし。
「いや…それより大丈夫?どっか打ってない?」
慌ててリモコンを手に取って画面を消す。ぶつけた膝が痛い。でもそれ以上に、息がしんどくて、体が強張って。
「汗すごいよ?やっぱ熱あるんじゃない?」
「…ぃえ、だいじょうぶ…」
測ってみるだけ測ろうと言われ、体温計を脇に挟む。37.2℃、と、何とも微妙な数値が表示された。
「…ねます、」
気まずい。顔、ちゃんと見れない。見れなくてまた、部屋に逃げてしまった。胸の中が重苦しくて息が詰まりそう。
「っ、」
微熱のせいだろうか。心に穴が空いたみたいにすっごく不安で、寝るのが怖い。また夢の続きを見てしまうんじゃないか、そう思ってしまって、眠くて眠くて仕方がないのに、変に目が冴えて。頭の中で、かつての積み重ねられた日々がぐるぐる回る。大丈夫、って蓋をしたはずなのに。思い出さないようにしていたのに。
あ、やばい、泣く。
何もしていないのに、急にボロボロと涙が溢れた。拭っても拭っても止まらない。体が火照って、目が変に冴えて熱くて痛い。引き攣った声がうるさくて、顔を枕に埋めた。
いつのまに寝ていたのだろう。といっても、1時間くらいしか経っていないのだが。相変わらず体は怠い。でも、お腹が空いた。
そりゃそうか。お菓子とお粥だもんな。目元は少しフラフラして、まあ自業自得で。
考え始めたら、食べ物の事しか頭に浮かばなくなってしまった。ラーメンとか、ハンバーガーとか、味の濃いものが食べたい。ステーキ、カツ丼、天ぷら…
お腹すいた。お腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいた。
気づいたら台所に居た。昨日安倍さんが買ってくれたお粥たち。温める余裕もなく、口に流し込む。あっという間に最後の一袋まで平らげてしまった。なのに、まだまだ食べたい。食べ足りない。
衝動的に冷蔵庫を開けるけど、明日の仕込んだ生肉とか、キャベツとか。
(あ、ベーコン…)
考える間もなく封を切っていた。厚い固まりに齧り付く。なんでこんな事をしてしまうのか、分からない。手作りは食べられないはずなのに、タッパーに保存された切り干し大根とか、漬物とか、昨日の生姜焼きとかを、手づかみでがっついている。今は、お腹が空いた、それしか考えられない。もっと、もっともっと食べたい。
ふと、ゴミ箱が気になった。そうだ、俺。捨てたやつ、あるじゃん。昨日のゴミだから、すぐに見つかった。お菓子の袋におにぎりがへばりついている。汚れた手のまま、米をつかむ。白身がぼろぼろになった目玉焼きも、全部口に入れた。まだ、まだ食べたい。ふと、冷蔵庫の鶏肉が頭に浮かんだ。タレに浸かって美味しそう。濃い醤油の匂いが鼻腔をくすぐった。
「何してんの!!!」
鶏肉を鷲掴んだ腕を、突然掴まれる。そこで俺は、今自分がしでかしていることに気づいた。
「ぁ、ぇ、と、」
「そんなの食べたらお腹壊すよ!?え、もう食べちゃった?」
首を横に振る。でも、シンクには空のタッパーがいくつも転がっていて、食べた残骸の袋も床に散らばっていて。
「ぁ、ぅ、」
何て汚いんだろう。俺の手のひらは汁まみれで、顔の周りにも汚れがついている。
「とりあえず手と顔洗いな。お腹空いたなら焼いたげるから」
開きっぱなしの冷蔵庫。汁が飛び散って、空き巣が入ったみたいだ。
「ぁ、、」
おれ、何した?何でこんなことした?頭がさぁって冷たくなって、手の先が震える。阿部さんが、俺の食べ散らかしたものを片付けている。俺、ゴキブリじゃん。人間のすることじゃ無いじゃん。
「ーーーっ、」
ほんとにバカみてえ。後ろを向いている安倍さんはどんな表情をしているか分からない。
「…ごめんなさい、」
掠れた声は聞こえただろうか。地面に生えたみたいに足が動かない。
「すてて、ごめ、なさい、」
「ごめ、なさい、ごめ、なさい、」
息が詰まる。目の前がぐらぐらする。また、泣きそう。
「フユ君、落ち着いて」
濡れた布の感触が頬に当たった。丁寧に、丁寧に、口の周りのソースやら汁やらが拭われて、手の指までも一本一本幼稚園児にするみたいに拭われていく。
「お腹空いちゃった?」
こくりと頷く。
「何か作ろっか。鶏肉焼く?」
いらない、と首を横に振った。何で怒らないんだろう。何で、こんなに優しい言葉をかけられるんだろう。
「…ごめ、なさい、」
「大丈夫?いっぱい食べて気持ち悪くない?」
さわ、と胃のあたりをさすられる。何か嫌な感じがして、体が固まった。
「だい、じょうぶ、」
「そう?眠れそう?」
「ねむい、です、」
「それは良かった。じゃあね、おやすみ」
触れられたみぞおちの部分がまだぞわぞわしている。俺の体、どうしちゃったのだろう。目を閉じると瞼の裏が熱い。そんで、お腹が満たされたからか、すごく眠くて怠い。チリチリ、モヤモヤ。落ち着かない体を誤魔化すように、頭まで布団をかぶってギュッと目を瞑った。
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