笑って誤魔化してるうちに溜め込んでしまう人

こじらせた処女

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「…マジで何で…」
ほんの2時間だったと思う。床だから背中が痛くて目が覚めたら、俺を中心にしてできた水溜り。
「大丈夫、生理現象だし。気にしない気にしない…」
呟いて、涙が滲む。また、失敗した。着替えないと、床、掃除しないと。やらなきゃいけないことがいっぱいなのに、今の俺にそれが出来るだけのメンタルはなかった。
 外で颯さんが支度している音がする。本当だったら朝ごはんにおにぎりを作って、行ってらっしゃいってギューしてもらって、玄関までお見送りするはずなのに。
さかき?…まだ寝てるかな…」
控えめにノックが鳴らされて、ドアがゆっくりと開く。
「ぁ…だめ…」
急いで目に溜まった涙を拭って、でもそんな短い時間じゃ何も出来ないから下半身はぐっしょり濡れていて、そんな水溜りの上に座ったままで。
「…へへ、またやっちゃった…」
恥ずかしい。どれだけ漏らせば気が済むんだろう。水分も控えているし、ちゃんとトイレにも行っているのに。あ、でも昨日の夜はそのまま部屋に戻ってしまった。だからしちゃったのかな。
「…床で寝てたの?」
「え、ぁ、まあ、昨日はめんどくさくて…」
「体痛めるし、風邪引くでしょそんなことしたら。言ったよね。俺の部屋おいでねって、何度も何度も」
「でも…そんなの、ぜってぇまた布団汚すじゃん!!嫌だろあんたも!!こんな奴と寝るの!!…ぁ…」
最悪、やってしまった。出勤前の人間に、あたり散らしてしまった。
「やっぱ…変ですよね…でも大丈夫なんで!!気にしてもないし。やっぱり要りますかね?オムツ」
「榊…」
「ごめんなさい朝から怒鳴っちゃって。時間、そろそろ行かないと遅れますよ?」
「でも…」
「ここからですみません。行ってらっしゃい」
「…行ってきます」


「あれ…」
あれから30分。そろそろ片付けよう、そう思って脱いだズボンやら、床を拭いたタオルやらを洗濯機に入れようとした時。寝る前に入れたシーツがないことに気がつく。慌ててベランダに行くと、パタパタと風に吹かれながら白い布が揺れている。
(やってくれたんだ…)
何でいつもみたいに言えなかったんだろう。またやっちゃったって笑って後片付けすればよかっただけなのに。
「あ゛~も゛ぉ…」
イライラして、汚れ物を洗濯機に投げるようにして入れる。頭がぼーっとして、何もしたくない。体が動かない。何とかスイッチだけ入れて、その場に座り込んだ。

ピー…
無機質な音が響いてハッとする。約1時間、何をするわけでもなく座り尽くしていたのだ。慌てて立ち上がって、すっかり汚れの落ちたものを干して、部屋に戻って時計を見ると、もうすっかり昼だった。

 食材の買い出しのために、ダラダラと歩いてスーパーに向かう。颯さんに悪いことをしてしまった。お詫びも込めて、今日はあの人の好きな親子丼にしよう。

(卵、鶏肉、三つ葉、あとは冷蔵庫のもので味噌汁を作って…)
買い忘れがないか、一つ一つエコバッグの中を確認しながら帰り道を歩く。
(あ…ドラッグストア…)
ふと顔を上げた時にたまたま見えた、見慣れた看板。ふらふらと吸い寄せられるように入り口の向かった。

 いつもは立ち寄りもしない、奥の棚。生理用品の横にそれはある。
(結構値段高いな…それに…)
結構デカい。パッケージも中々にわかりやすい。親の介護用だって顔をして、これを持っていけばいいのだろうか。もし異性がレジ担当だったらどうしよう。ぐるぐる考えてしまって、手に取る事すら戸惑ってしまう。
(これ持って、帰らないと、袋入れて貰えるかな、透けたら、もし…)
ひとしきり考えて、頭がぐるぐるしてしまって結局何も買わずに店を出てしまった。何でせっかくの休日にこんなことを考えなければならないのだろう。とんでもなく惨めで、どうしようもなく虚しい。

 家に着いて、食材を冷蔵庫に入れた途端、何もしたくなくなってソファに寝転ぶ。頭が働かなくて、ただひたすらに疲れた。
「あ゛ー…もーやだ…」
眠くて、怠い。熱なんてないはずなのに。どうしようもなく泣きたくて、感情がぐちゃぐちゃで。こんなの、また颯さんに当たり散らしてしまう。


「ん゛…」
いつの間にか眠ってしまったようだ。目を開けた先の時計を見ると、6時を示している。
「やばっ!!ご飯!!」
もうすぐ颯さんが帰ってくる時間なのに。料理どころか、溜まっていた洗濯物も、掃除も何一つできていない。慌てて上半身を起こして台所に行こうとした時、下半身にじっとりとした違和感を感じる。
「ぁ…」
また、やった。今日で3回目。何で、1時間も経っていないのに。こんな短時間でなんて。
震える足で立って、濡れたソファをなぞる。水を吸収する布地だから、多分中まで染みてしまっている。これ、どうやって掃除するんだろう。布団みたいに洗濯機での丸洗いとは勝手が違う。どうしよう。本当に。
 乾いたタオルで何度か叩くけど、シミは消えない。濡れたタオルでも、余計に汚れが広がっている気さえする。
(ど、しよ…)
2年前、新卒でお金がなかった俺に、同居祝いと称して買ってくれたものなのに。
泣きそうだった。呼吸がしにくくなって、地面がぐらぐら揺れて、颯さん、帰ってこないで欲しいなんて思ったりして。でも、そんなこと、叶うはずもない。無慈悲に聞こえるドアの音。体が固まって、びっくりするぐらい動けない。
「ただいまー。榊?何してんのそんなとこで…」
ヒュ…と呼吸がうわずる。
「ごめ、なさ、…」
絞り出した声は絶え絶えで、息もおかしくて。溺れたみたいに苦しくってその場にうずくまった。
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