平熱が低すぎて、風邪をひいても信じてもらえない男の子の話

こじらせた処女

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 明日からは絶対に行きなさい、だとか、休み癖がつく、だとか。嫌味を言われず甲斐甲斐しくしてもらったのは初めてだ。食欲が無いと言ったら嫌な顔せずにお粥を作ってくれて、飲みやすいようにとスポーツドリンクの蓋を緩め、ストローを刺してくれた。喧嘩もせずに休めるってこんなに楽だったんだ。そんな呑気なことを考えながら、部屋に敷いてもらった布団でぬくぬくと眠っていた。



「ぁれ、いまなんじ…」
ふと目が覚めた。すごく眠い。何で目が覚めたんだってくらいに。白けた景色の中、何度か瞬きを繰り返す。
「………………………!!っ、あっ、」
意識がはっきりしたと同時に下腹部がいきなりきゅううううう、と縮んだ。そうだ、俺はこの欲求で起きたんだ。
「っぁ、っうぁ、」
慌てて飛び起きて、廊下を出る。何で。さっき起きたばかりなのに、我慢が効かない。前を握りしめて、必死でトイレに走る。
じゅぅ…
「んひっ、」
おしっこ、でた。チビった。パンパンの下腹は、子供に戻ってしまったみたいに、耐えることを知らないみたいに。おしっこが我慢できない、こんな感覚は久しぶりすぎて、パニックになっていた。
「っ~、でるっ、」
っじゅうううううううっ!!!!!
廊下のど真ん中。熱い体から、尿道からけたたましい量のおしっこが溢れ出て、両の手のひらで前を押さえつけて、それでも止まんない。
「…ぁ…?な、んで、」
普通に1人で起き上がれて、走れるくらいには体力はあって。何で、膀胱ここだけ。何で、たった数十秒を我慢できなかったのだろう。
「どした!?吐いちゃった!?」
慌てた声と足音がリビングから聞こえた。びしゃびしゃの長ズボン、自室から伝って飛び散った水たまり。小さな子供のする「ハズカシイ」をしてしまった。体が動かない。この体の熱は、本来のものなのか、羞恥から来るものなのか。
「ぁ、ぅ、っ、」
声が出ない。動けない。熱かった手のひらが冷えて、足全部気持ち悪い。
「あー、おしっこ出ちゃったかー」
『おしっこ』。滑稽な言葉の響きに涙が出そうになった。
「…ごめ、たおる、とってくる、」
一刻もここから逃げ出したい。そんな思いで焦ったのがダメだった。濡れてツルツルに滑る地面を踏み間違え、盛大にバランスを崩してしまう。
「危なっ…せーふ…大丈夫?どっかひねってない?」
和樹さんに抱き止められ、予測していた痛みはやってこなかった。
「はい…っぁ、……あっ、…」
おしっこ、また出てる。何で、さっき散々出したのに。和樹さんの大きな手のひらに下腹が押されて、止めようと力むけど止められない。
「あー、まだ残ってたか。全部出しちゃいな」
びちゃびちゃとだらしない音を立てて落ちるソレはきっと、和樹さんにもかかってしまっているだろう。
「ごめ、なさ、」
ようやく止まった。泣きたい、死にたい、逃げてしまいたい。
「ついでに体拭いたげる。おいで」
背中を支えられながらリビングに連れて行かれ、タオルを敷いた地面に座らせられる。
「いっぱい汗かいたでしょ。シャツびっしゃびしゃ」
おしっこまみれの足と尻を拭われて、パンツとズボンまで穿かされて。背中も脇も全部拭いてもらって、まるで子供に戻ったようだ。
「はい終わり。お粥作ったんだけど食べれそう?」
「ん、たべれ、ます、」
頭がまだボーッとする。眠くて眠くて仕方がない。待っている間にもついウトウトしてしまった。

 薬のおかげで少し楽になった気がする。お腹が空いたとハッキリ自覚した。目の前の湯気の美味しい出汁の匂いに釣られて、全部食べてしまった。
「お茶は飲まないの?」
喉は乾いている。乾いてるけど。
「…いい、です、」
ガブガブ飲んで空になったペットボトルは捨てられて、また新しいものが並んでいる。
「喉乾いてない?いっぱい汗かいたしさ、脱水なっちゃうよ」
だって。トイレ間に合わない。今回は起きれたけど、寝ながらしてしまうかもしれない。正直、この短時間で2回も失敗してるから、自信がない。
「おしっこ心配?」
顔が一気に熱くなった。高校生にもなって恥ずかしい。顔も見れないまま、首を縦に振った。
「しんどいんだもん。出ちゃっても仕方ないよ?ね?」
「寝る前にトイレ行っとこうか」
「気にしないで。ちゃんと寝る方が大事」
 だって。この歳で。いくら風邪って言ったって。
 渡されるがままに持ったコップには波波の液体が入っている。一口だけ、喉を湿らせるように口に入れた。
「ちゃんと飲みな。喉乾いてるでしょ?」
さっきよりも強められた口調。少し、怒ってる。
「これでもっとしんどくなってもいいの?」
普段優しい和樹さんが怒っている。それが怖くて、入っているお茶を全て飲み干した。
「ん、いい子。枕元にも置いてるから。ちゃんと飲みなね」


 飲んだばっかりでそんなにすぐに膀胱に溜まるわけない、分かってるけど。
(おしっこしたい、かも…)
布団に入って早20分。お腹が疼いたような気がした。寝る前に一応済ませたのに、お腹が気になって眠れない。渋々だるい体を引きずって便器に向き合うと、少ししか出ない。でもムズムズは無くならなくて、しばらく立っていた。
「っぁっ、」
チョロチョロと雀の涙レベルの液体が便器に落ちる。お腹の疼きは無くなった気がする。

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