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あ、トイレ忘れてた。
志貴さんにご飯だと呼ばれたまま、席についてしまった。座った瞬間、ジクリとお腹が疼く。
食事中にトイレに立ってはいけない、それは母親に厳しく言い続けられたもの。途中で立とうものなら腕を掴まれ引き戻されて、叩かれる。小さい頃は我慢が辛くて失敗することも多かったが最近はない。というより、最近は母も忙しく、食事もずっと1人だったから。誰かと顔を突き合わせてご飯を食べるというのが久しぶりだということもあって、忘れていた。
もうご飯も副菜も並べられてて、志貴さんも席についた。今から行くことなんてできない。
今日のメインはポトフだから、ガッツリ汁物。大好きなメニューなのに素直に喜べない。一口啜るたびに膀胱がキツくなっている気さえする。暑くて喉を癒すために水を二杯も飲んでしまったことをふと思い出した。そのくせ最後にトイレに行ったのは昼休みの時。クーラーの風にいちいち鳥肌を立ててしまう。
(志貴さん…)
「何?」
チラリと前を見ると、こちらに気づいたのか、声をかけられる。
「あ、や…何でも…ない…です…」
トイレ、行ってきて良い?なんて。そんな恥ずかしいこと、聞けるはずなくて押し黙る。母さんみたいに殴られるってことはないと思うけど、でも、怒られたくない。呆れられたくない。
志貴さんが帰ってきてから早5日だというのに、抜けない敬語。最初こそは敬語はいらないって言われたものの、俺が治せなかったから、最近は言ってくることはない。血の繋がった兄なのに、一緒にいた期間が短かったからかちゃんと喋れないし、おどおどしてしまう自分に嫌気が差す。クーラーでふるりと震えた体を誤魔化すように、太ももを軽くさすった。
「っふ、んく、」
ご飯を一口飲み込むのが辛い。大きな皿に盛られたスープが忌々しい。下腹を撫でるとさっきよりも膨れて苦しい。前、押さえたい。でも、そんなはしたない事したら。もう中学生なのに、そんなことは許されない。
「大丈夫?手止まってるけど」
「ぁ、すみません、ボーッとしてて…」
「体調悪い?無理しないで残しなね」
「あ、はは、」
残したい。半分も減っていないご飯。お腹は減っているのに苦しい。もうこれ全部残してトイレに駆け込みたい。そうすればいいのだ。あの母親は居ないし、怒られたとしても漏らすよりはマシ。片付けも面倒だし、汚いし。でも、そう思って立とうとするたび、あの時の光景が蘇る。ヒステリックを起こして食器を投げつけてくるあの人を思い出すと、消えない脇腹のアザがじくりと痛む。今でも時々夢に見るから気が滅入る。
これよりもっと痛いこともされたし、理不尽に怒鳴られたりもした。でも、どれだけ昔のことでくだらないと思われても、これが俺にとってのベストオブザトラウマなのだと断言出来る。半ば強制観念のようなもののせいで、鎖に繋がれたみたいに足が動かない。
食べなきゃ。
『おしっこ済ませてからご飯』
何度も何度も刷り込まれた言葉。
これを守らなかった俺が悪い。ちゃんと、守らなきゃ。白米と野菜を一気にかき込んで、一気にポトフを飲みほす。
(早く早く早く早く)
足をぴっちり閉じたまま。背中を何度もゾクゾクとさせながら。ヒクヒクとうるさく痙攣している出口がまだかまだかと待っている。
内股を何度も擦り合わせて、尻も何度も揺らして。
これを飲んだらおしっこ。食器持っていって、そんで、トイレに走って。ちゃんと、便器にする。しないといけない。
「、っんぐ、ごちそうさま、」
飲み終えた。早く、あとは。
「ぁ、…」
食器を重ねようとした瞬間。ジワリと嫌な感触が広がった。
「ん?なになに?」
「ぁあっ、あ、」
じわぁあああ…
出口が、壊れた。
ソコをギュッと押さえて、足を重ね合わせて、お腹をさすって宥めて。こんなみっともない格好をしているのに。ここで止めたらおチビリで済んだのに。その水流はおさまるどころか勢いを増して床にビタビタと落ちていく。
「なに!?え…」
「ぁ、っふぅ、ちが、」
違う、これは違う。水をこぼしてしまった、汗だ、そんな無理のある嘘が次々に浮かぶ。
じょわじょわと止めることもできないまま、床にそれが落ちていって、やっと止まった、そう思った時にはしっかり水溜りができていて。下半身と同時に頭が冷えていく。どうしようも無い、惨状だった。
志貴さんにご飯だと呼ばれたまま、席についてしまった。座った瞬間、ジクリとお腹が疼く。
食事中にトイレに立ってはいけない、それは母親に厳しく言い続けられたもの。途中で立とうものなら腕を掴まれ引き戻されて、叩かれる。小さい頃は我慢が辛くて失敗することも多かったが最近はない。というより、最近は母も忙しく、食事もずっと1人だったから。誰かと顔を突き合わせてご飯を食べるというのが久しぶりだということもあって、忘れていた。
もうご飯も副菜も並べられてて、志貴さんも席についた。今から行くことなんてできない。
今日のメインはポトフだから、ガッツリ汁物。大好きなメニューなのに素直に喜べない。一口啜るたびに膀胱がキツくなっている気さえする。暑くて喉を癒すために水を二杯も飲んでしまったことをふと思い出した。そのくせ最後にトイレに行ったのは昼休みの時。クーラーの風にいちいち鳥肌を立ててしまう。
(志貴さん…)
「何?」
チラリと前を見ると、こちらに気づいたのか、声をかけられる。
「あ、や…何でも…ない…です…」
トイレ、行ってきて良い?なんて。そんな恥ずかしいこと、聞けるはずなくて押し黙る。母さんみたいに殴られるってことはないと思うけど、でも、怒られたくない。呆れられたくない。
志貴さんが帰ってきてから早5日だというのに、抜けない敬語。最初こそは敬語はいらないって言われたものの、俺が治せなかったから、最近は言ってくることはない。血の繋がった兄なのに、一緒にいた期間が短かったからかちゃんと喋れないし、おどおどしてしまう自分に嫌気が差す。クーラーでふるりと震えた体を誤魔化すように、太ももを軽くさすった。
「っふ、んく、」
ご飯を一口飲み込むのが辛い。大きな皿に盛られたスープが忌々しい。下腹を撫でるとさっきよりも膨れて苦しい。前、押さえたい。でも、そんなはしたない事したら。もう中学生なのに、そんなことは許されない。
「大丈夫?手止まってるけど」
「ぁ、すみません、ボーッとしてて…」
「体調悪い?無理しないで残しなね」
「あ、はは、」
残したい。半分も減っていないご飯。お腹は減っているのに苦しい。もうこれ全部残してトイレに駆け込みたい。そうすればいいのだ。あの母親は居ないし、怒られたとしても漏らすよりはマシ。片付けも面倒だし、汚いし。でも、そう思って立とうとするたび、あの時の光景が蘇る。ヒステリックを起こして食器を投げつけてくるあの人を思い出すと、消えない脇腹のアザがじくりと痛む。今でも時々夢に見るから気が滅入る。
これよりもっと痛いこともされたし、理不尽に怒鳴られたりもした。でも、どれだけ昔のことでくだらないと思われても、これが俺にとってのベストオブザトラウマなのだと断言出来る。半ば強制観念のようなもののせいで、鎖に繋がれたみたいに足が動かない。
食べなきゃ。
『おしっこ済ませてからご飯』
何度も何度も刷り込まれた言葉。
これを守らなかった俺が悪い。ちゃんと、守らなきゃ。白米と野菜を一気にかき込んで、一気にポトフを飲みほす。
(早く早く早く早く)
足をぴっちり閉じたまま。背中を何度もゾクゾクとさせながら。ヒクヒクとうるさく痙攣している出口がまだかまだかと待っている。
内股を何度も擦り合わせて、尻も何度も揺らして。
これを飲んだらおしっこ。食器持っていって、そんで、トイレに走って。ちゃんと、便器にする。しないといけない。
「、っんぐ、ごちそうさま、」
飲み終えた。早く、あとは。
「ぁ、…」
食器を重ねようとした瞬間。ジワリと嫌な感触が広がった。
「ん?なになに?」
「ぁあっ、あ、」
じわぁあああ…
出口が、壊れた。
ソコをギュッと押さえて、足を重ね合わせて、お腹をさすって宥めて。こんなみっともない格好をしているのに。ここで止めたらおチビリで済んだのに。その水流はおさまるどころか勢いを増して床にビタビタと落ちていく。
「なに!?え…」
「ぁ、っふぅ、ちが、」
違う、これは違う。水をこぼしてしまった、汗だ、そんな無理のある嘘が次々に浮かぶ。
じょわじょわと止めることもできないまま、床にそれが落ちていって、やっと止まった、そう思った時にはしっかり水溜りができていて。下半身と同時に頭が冷えていく。どうしようも無い、惨状だった。
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