19 / 22
猫さんと一緒に 駆け足お散歩
しおりを挟む
黒猫さんについていく。なんだかいけないことをしている気分だ。
エルスさんは体が小さいのに、身のこなしが軽い。闇夜に紛れる毛色も相まって、油断するとすぐに見失ってしまう。
『もう少しだよ』
エルスさんが立ち止まって、わたしを見上げた。
返事をしようとしたけれど、息が乱れてうまく喋れない。
『まったく、人間ってのは図体がでかいだけの情けない生き物だねぇ』
大きな三毛猫さんが、わたしの足元であくびをした。マブルさんだ。
さすが猫さんたち。わたしも歩き移動が多いので体力に自信はあったけれど、全く敵わない。
膝に手をついて息を整えていると、二匹とも並んでわたしの顔を覗き込んだ。なんとも可愛らしい。
深く息を吸って、なんとか話せるくらいに整えた。
「はぁ……待たせてしまってすみません。まだ町中ですけど、こんなところにも空き家があったんですね」
だいぶ走ってきたとはいえ、まだこのあたりは民家が立ち並んでいるし、道も石畳で舗装されている。
人知れず身を隠す……というのには、向いている場所とは思えない。
「犯人ではなく、誰かが引っ越してきただけなのでしょうか?」
『さてね。それを確かめるのが、あんたの仕事だろう?』
マブルさんが、尻尾でわたしのふくらはぎを叩いた。袖の中のアジンさんが、ビクリと跳ねる。
わたしはローブの上からアジンさんを撫でた。
「付き合わせてしまって、申し訳ないです」
『い、いいってことよ』
小さな震え声が、袖から聞こえた。
エルスさんが足元まで来ていたので、腕を組むようにして袖を隠す。
「もう大丈夫です。そのお家はどこですか?」
『うん。こっちだよ』
エルスさんは細い路地に入った。肩が壁に触れてしまいそうなほど狭い道だ。
「こんな道沿いに家があるんですか?」
『違うよ。ここを抜けた先さ』
二軒ほどの長さだっただろうか。すぐに道は開け、馬車がすれ違えそうな広い道路に出た。
こんな立派な道沿いなら、普通は好立地だ。長く空き家になるとは思えない。
でもすぐに、その理由がわかった。
「道が輪になってるんですね」
大きな木を中心に道が一周している。ここに通じているのは、さっきの細い道だけのようだ。
木を中心にした広場があると思えば悪くない場所に思えるけれど、住みづらそうではある。
家は五軒ほど並んでいた。どの家にも、低めの門がついている。エルスさんは左に三つ行った家の前で止まった。
『ここだよ』
「ありがとうございます」
場所さえわかってしまえば簡単だ。
『すぐに殴り込むのかい?』
マブルさんがわたしの足に体を擦り付ける。
「そんな物騒なことはしません。朝になったら、近くに住んでいる人間に話を聞いてみようかと――」
マブルさんが足から離れ、一瞬にして闇に姿を消した。気づけばエルスさんの姿も見えない。
何事かと思う間もなく、古い戸の軋む音がした。
わたしが立っている門から、数歩入った所。まさにエルスさんがここだといった家の扉が開いたのだ。
開いた扉から顔を出したのは、長い赤毛が印象的な女の子だった。わたしより、少し若いだろうか。きっとヤトコさんと同じくらいだ。
珍しい髪色ではないけれど、よく映えて印象に残りやすい。もしこの人が翻訳術師役をやったのなら、受付のお姉さんがこの特徴を口にしないのは不自然だ。
それとも今はランタンのせいで、赤く映えてしまっているだけなのだろうか。
「どなた?」
か細い優しい声だった。暗い中でも、しっかり目が合っているのがわかる。それくらい、わたしと彼女の距離は近い。
「すみません。道に迷ってしまいまして」
とっさに出たのは、ありきたりな嘘だった。相手の質問に答えてすらいない。
それでも赤毛の女の子は、嫌な顔一つしなかった。
「あらたいへん。このあたりは入り組んでいるものね。案内してあげたいけれど、わたしもここには来たばかりなの。行きたい場所に連れて行ってあげれるかどうか……」
女の子は何か思いついたように、両手を合わせた。
「そうだわ。少ししたら、このあたりに詳しい人が来る予定なの。その人に案内してもらうといいわ。少し休んでいって」
女の子は門を開いて「どうぞ」と中を示した。
エルスさんは体が小さいのに、身のこなしが軽い。闇夜に紛れる毛色も相まって、油断するとすぐに見失ってしまう。
『もう少しだよ』
エルスさんが立ち止まって、わたしを見上げた。
返事をしようとしたけれど、息が乱れてうまく喋れない。
『まったく、人間ってのは図体がでかいだけの情けない生き物だねぇ』
大きな三毛猫さんが、わたしの足元であくびをした。マブルさんだ。
さすが猫さんたち。わたしも歩き移動が多いので体力に自信はあったけれど、全く敵わない。
膝に手をついて息を整えていると、二匹とも並んでわたしの顔を覗き込んだ。なんとも可愛らしい。
深く息を吸って、なんとか話せるくらいに整えた。
「はぁ……待たせてしまってすみません。まだ町中ですけど、こんなところにも空き家があったんですね」
だいぶ走ってきたとはいえ、まだこのあたりは民家が立ち並んでいるし、道も石畳で舗装されている。
人知れず身を隠す……というのには、向いている場所とは思えない。
「犯人ではなく、誰かが引っ越してきただけなのでしょうか?」
『さてね。それを確かめるのが、あんたの仕事だろう?』
マブルさんが、尻尾でわたしのふくらはぎを叩いた。袖の中のアジンさんが、ビクリと跳ねる。
わたしはローブの上からアジンさんを撫でた。
「付き合わせてしまって、申し訳ないです」
『い、いいってことよ』
小さな震え声が、袖から聞こえた。
エルスさんが足元まで来ていたので、腕を組むようにして袖を隠す。
「もう大丈夫です。そのお家はどこですか?」
『うん。こっちだよ』
エルスさんは細い路地に入った。肩が壁に触れてしまいそうなほど狭い道だ。
「こんな道沿いに家があるんですか?」
『違うよ。ここを抜けた先さ』
二軒ほどの長さだっただろうか。すぐに道は開け、馬車がすれ違えそうな広い道路に出た。
こんな立派な道沿いなら、普通は好立地だ。長く空き家になるとは思えない。
でもすぐに、その理由がわかった。
「道が輪になってるんですね」
大きな木を中心に道が一周している。ここに通じているのは、さっきの細い道だけのようだ。
木を中心にした広場があると思えば悪くない場所に思えるけれど、住みづらそうではある。
家は五軒ほど並んでいた。どの家にも、低めの門がついている。エルスさんは左に三つ行った家の前で止まった。
『ここだよ』
「ありがとうございます」
場所さえわかってしまえば簡単だ。
『すぐに殴り込むのかい?』
マブルさんがわたしの足に体を擦り付ける。
「そんな物騒なことはしません。朝になったら、近くに住んでいる人間に話を聞いてみようかと――」
マブルさんが足から離れ、一瞬にして闇に姿を消した。気づけばエルスさんの姿も見えない。
何事かと思う間もなく、古い戸の軋む音がした。
わたしが立っている門から、数歩入った所。まさにエルスさんがここだといった家の扉が開いたのだ。
開いた扉から顔を出したのは、長い赤毛が印象的な女の子だった。わたしより、少し若いだろうか。きっとヤトコさんと同じくらいだ。
珍しい髪色ではないけれど、よく映えて印象に残りやすい。もしこの人が翻訳術師役をやったのなら、受付のお姉さんがこの特徴を口にしないのは不自然だ。
それとも今はランタンのせいで、赤く映えてしまっているだけなのだろうか。
「どなた?」
か細い優しい声だった。暗い中でも、しっかり目が合っているのがわかる。それくらい、わたしと彼女の距離は近い。
「すみません。道に迷ってしまいまして」
とっさに出たのは、ありきたりな嘘だった。相手の質問に答えてすらいない。
それでも赤毛の女の子は、嫌な顔一つしなかった。
「あらたいへん。このあたりは入り組んでいるものね。案内してあげたいけれど、わたしもここには来たばかりなの。行きたい場所に連れて行ってあげれるかどうか……」
女の子は何か思いついたように、両手を合わせた。
「そうだわ。少ししたら、このあたりに詳しい人が来る予定なの。その人に案内してもらうといいわ。少し休んでいって」
女の子は門を開いて「どうぞ」と中を示した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。
馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。
元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。
バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。
だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。
アイドル時代のファンかも知れない。
突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。
主人公の時田香澄は殺されてしまう。
気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。
自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。
ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。
魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる