あなたには翻訳術師が必要です ~異世界の言葉がわかるとかいう都合のいいことが起こらなくても、わたしがいれば大丈夫~

もさく ごろう

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猫さんと一緒に 駆け足お散歩

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 黒猫さんについていく。なんだかいけないことをしている気分だ。

 エルスさんは体が小さいのに、身のこなしが軽い。闇夜に紛れる毛色も相まって、油断するとすぐに見失ってしまう。

『もう少しだよ』

 エルスさんが立ち止まって、わたしを見上げた。

 返事をしようとしたけれど、息が乱れてうまく喋れない。

『まったく、人間ってのは図体がでかいだけの情けない生き物だねぇ』

 大きな三毛猫さんが、わたしの足元であくびをした。マブルさんだ。

 さすが猫さんたち。わたしも歩き移動が多いので体力に自信はあったけれど、全く敵わない。

 膝に手をついて息を整えていると、二匹とも並んでわたしの顔を覗き込んだ。なんとも可愛らしい。

 深く息を吸って、なんとか話せるくらいに整えた。

「はぁ……待たせてしまってすみません。まだ町中ですけど、こんなところにも空き家があったんですね」

 だいぶ走ってきたとはいえ、まだこのあたりは民家が立ち並んでいるし、道も石畳で舗装されている。

 人知れず身を隠す……というのには、向いている場所とは思えない。

「犯人ではなく、誰かが引っ越してきただけなのでしょうか?」

『さてね。それを確かめるのが、あんたの仕事だろう?』

 マブルさんが、尻尾でわたしのふくらはぎを叩いた。袖の中のアジンさんが、ビクリと跳ねる。

 わたしはローブの上からアジンさんを撫でた。

「付き合わせてしまって、申し訳ないです」

『い、いいってことよ』

 小さな震え声が、袖から聞こえた。

 エルスさんが足元まで来ていたので、腕を組むようにして袖を隠す。

「もう大丈夫です。そのお家はどこですか?」

『うん。こっちだよ』

 エルスさんは細い路地に入った。肩が壁に触れてしまいそうなほど狭い道だ。

「こんな道沿いに家があるんですか?」

『違うよ。ここを抜けた先さ』

 二軒ほどの長さだっただろうか。すぐに道は開け、馬車がすれ違えそうな広い道路に出た。

 こんな立派な道沿いなら、普通は好立地だ。長く空き家になるとは思えない。

 でもすぐに、その理由がわかった。

「道が輪になってるんですね」

 大きな木を中心に道が一周している。ここに通じているのは、さっきの細い道だけのようだ。

 木を中心にした広場があると思えば悪くない場所に思えるけれど、住みづらそうではある。

 家は五軒ほど並んでいた。どの家にも、低めの門がついている。エルスさんは左に三つ行った家の前で止まった。

『ここだよ』

「ありがとうございます」

 場所さえわかってしまえば簡単だ。

『すぐに殴り込むのかい?』

 マブルさんがわたしの足に体を擦り付ける。

「そんな物騒なことはしません。朝になったら、近くに住んでいる人間に話を聞いてみようかと――」

 マブルさんが足から離れ、一瞬にして闇に姿を消した。気づけばエルスさんの姿も見えない。

 何事かと思う間もなく、古い戸の軋む音がした。

 わたしが立っている門から、数歩入った所。まさにエルスさんがここだといった家の扉が開いたのだ。

 開いた扉から顔を出したのは、長い赤毛が印象的な女の子だった。わたしより、少し若いだろうか。きっとヤトコさんと同じくらいだ。

 珍しい髪色ではないけれど、よく映えて印象に残りやすい。もしこの人が翻訳術師役をやったのなら、受付のお姉さんがこの特徴を口にしないのは不自然だ。

 それとも今はランタンのせいで、赤く映えてしまっているだけなのだろうか。

「どなた?」

 か細い優しい声だった。暗い中でも、しっかり目が合っているのがわかる。それくらい、わたしと彼女の距離は近い。

「すみません。道に迷ってしまいまして」

 とっさに出たのは、ありきたりな嘘だった。相手の質問に答えてすらいない。

 それでも赤毛の女の子は、嫌な顔一つしなかった。

「あらたいへん。このあたりは入り組んでいるものね。案内してあげたいけれど、わたしもここには来たばかりなの。行きたい場所に連れて行ってあげれるかどうか……」

 女の子は何か思いついたように、両手を合わせた。

「そうだわ。少ししたら、このあたりに詳しい人が来る予定なの。その人に案内してもらうといいわ。少し休んでいって」

 女の子は門を開いて「どうぞ」と中を示した。
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