花握りの魔女は話せない ~言葉のわからない異世界で、コミュ障のわたしが謎解き魔女になった理由~

もさく ごろう

文字の大きさ
11 / 45
第一章 虹色の瞳

第十一話 わたしだけが開けなかった鍵

しおりを挟む
 わたしが一人で向かったのは、事件のあった小屋だった。一度調べた場所だけれど、ここぐらいしか手がかりのありそうな場所が思いつかない。

 そして調べ直してわかったのは、お巡りさんが早く帰った理由だけだった。

 小屋の外に出た時、辺りがかなり暗くなっていたのだ。空の半分はまだ赤みを帯びていたけれど、周囲の森は夜の魔物と化している。

(そうか。電気がないから、暗くなると早いんだ)

 小屋の中にある明かりも、ロウソク一本と小さなランプだけ。他の家も大きな違いはないのだろう。

 暗い中でやることもないだろうし、こうなったら寝るしかない。

(日の出とともに起きて、日の入りとともに寝る感じなのかな。わたしはどうしよう)

 暗い中で調べても、何か見つかるとは思えない。もう寝てしまって、朝早くから調べた方が良さそうだ。

(交番に戻らなかったら、お巡りさん心配するかな?)

 暗くなり始めたとはいえ、まだ交番に戻るのは難しくない。ただ、外からしか鍵のかけれない牢屋で寝るのよりも、中から鍵のかけれるこの小屋で寝たほうが、安全なように思える。

(人が殺された場所で寝るなんて気味が悪いけど……)

 わたしはここで寝ていても殺されなかった。ということは、やっぱり安全なのではないだろうか。

(でも、どうして殺されなかったんだろう?)

 わたしに罪をなすりつけるため? 

 標的の女の子以外には興味が無かった? 

 考えればいくらでも理由は思いつく。ただ、目撃者かもしれないわたしを見逃す理由としては、弱いものばかりだ。

(だとすると……殺せなかった?)

 それならしっくりくるけれど、同じ小屋で寝ていたわたしを殺せないことなんて、あるのだろうか?

(わたしと女の子で何が違った?)

 寝ていた場所。まず思いつくのがそれだ。

 ただベッドに変なところはなかったし、窓からナイフを刺すというのも出血量からしてありえない。

(他には……他に何か違うところは?)

 昨日、小屋に着いてからのことを一つずつ思い出していく。すると、女の子の優しさも一緒に思い出して、温かいココアに氷を入れたような、複雑な気分になった。

(そんな場合じゃない。寝る前……寝る前に何をした……?)

 ほんの一日前のことだ。ビデオのようにとはいかないけれど、かなり鮮明に思い出せる。

 具合が悪そうなのに、言葉のわからないわたしにたくさん話しかけてくれた女の子。

 水を一杯だけもらって、話すのを代わったわたし。言葉はわからないはずなのに、女の子はたくさん相づちを打ってくれた。

 途中で小屋に来たお医者さん。

 わたしが泊まれるように、説得してくれた女の子。

 説得され、女の子に湿布を貼って出ていくお医者さん。

 扉に閂をかけるわたし。

 横になって話していたら、眠ってしまった女の子。

(あれ……?)

 頭に浮かんだ映像の中に、引っかかるところがあった。

 ふと右の手のひらに目線が動く。そこには黒いチューリップのような花があった。

(え? うそ……、わかったかも)

 まだ絶対の自信はない。本当の確信を得るために、調べたいことがあった。

(でも、時間がない)

 証拠はまだ残っているけれど、明日にでも消えてしまうかもしれない。

(今すぐに調べに……! でも危険だし、この時間じゃ確認できないかもしれない)

 そうなると道は二つ。明日まで待って、確信を得てから動く。もしくは確信のないまま、推理を犯人に突きつける。

(正直、後者は怖い。もし間違っていたら、もうわたしは信用してもらえなくなる。犯人じゃない人を傷つけるかもしれないし、わたしもひどい目にあうかもしれない)

 なら前者なら、わたしは自信を持って犯人と対峙できるのだろうか?

(きっと、別な理由を見つけて逃げる)

 わたしの中で確信を得ても、自分自身を信用しなければ不安は変わらない。今ここで決断できないのであれば、後でだって、ずっと同じだ。

(やろう。他の可能性なんて思いつきそうにないし、間違ってたって、真実の手掛りくらいにはなるかもしれない)

 本当はわたしが犯人を見つけたいけれど、それにこだわる必要はない。わたしの推理を参考にして、誰かが本当の犯人に気づいてくれてもいいんだ。わたしはホームズじゃないのだから。

(問題はどうやって推理を伝えるかだけど)

 言葉の壁を乗り越えるのは最低限。そして、できるだけたくさんの人に聞かせるのが理想だ。

(となると、やっぱり推理ショーみたいにした方がいいよね。ぴったりのタイミングが、私の予想だと、すぐにある)

 それは証拠が消えてしまうタイミングでもある。明日すぐにでも訪れるかもしれないそのときまでに、言葉の壁を超える推理ショーの準備をしなければならない。

(どうしよう。仕草……いわゆるボディランゲージは日本と同じ感覚で伝わるみたいだけど、それで詳細を伝えるのはさすがに無理。とうか、わたしが前に出て何かするなんて、絶対に無理)

 気が付くと、小屋の入り口近くに置いたアタッシュケースに目を向けていた。

(アレを使えばもしかしたら……。でも時間がないし、完成させたことなんて一度もない)

 間に合わなかったら。完成しなかったら全部無駄になる。

(できるかもわからないことをするの……?)

 心の中で問いかけても、答えてくれる人なんていない。自分で全部、決めなければならないのだ。

(でも、止める人だっていない。無理だと言って笑う人もいない)

 それでも不安のほうが大きい。ずっと恐れてやらないでいたことを、これからやろうというのだから。しかも厳しい期限付きだ。

 目に涙が溜まるのを感じた。それほどまでにわたしは恐れて――

(いや、これは変われることへの、歓喜の涙だ)

 わたしなんかが自分から動ける。それがうれしくてたまらないのだ。

 気持ちが切れないうちにと、わたしはアタッシュケースを開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...