花握りの魔女は話せない ~言葉のわからない異世界で、コミュ障のわたしが謎解き魔女になった理由~

もさく ごろう

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第二章 ノーカウントパンチ

第三十九話 祈る足元の宝箱

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 あんなことがあったばかりなのに、朝ごはんはいつも通り食堂で食べるらしい。料理を作るのはいつものおばちゃんだ。

 いつもと違うのは、わたしの立ち位置が坊ちゃんとお人形ちゃんの間になっていることくらいだろうか。

(でも、やっぱり空気は重たいかも)

 わたしが倒れたときと同じように、眠気メイドさんも猫目メイドさんも、姉御ちゃんと姫ちゃんの肩に手を置いて、席を離れないようにしている。たったそれだけで、部屋が面接会場のような緊張感に包まれていた。

 居心地のいい場所ではないけれど、ここも事件の現場だ。何か手掛かりがあるかもしれない。

(だいぶ片づけられちゃってるから、何も残ってないかな?)

 当たり前だけれど、汚してしまった床は綺麗に掃除されている。坊ちゃんの前のお皿は黒ずみなんて一切ない銀一色のお皿だ。昨日の名残なんて一切ない。

(昨日もあったのはスプーンくらいかな? 料理に使ってるお鍋とかも無関係じゃないか)

 スプーンもお皿もお鍋も、同じような銀色の金属でできている。きっと同じ素材でできているのだろう。

(あれ……?)

 何か引っかかったような気がしたけれど、お皿に料理が注がれたので、無意識にお皿を凝視してしまった。他のメイドさんたちも同じようで、あからさまに料理を覗き込んでいる。

(さすがに今日は大丈夫そう)

 薄いビーフシチューのような茶色で半透明なスープが入ったお皿は、くすんだり変色したりはしてなさそうだ。

 それでも料理をすくうスプーンは震えた。

 水面を揺らしてお皿の状態をもう一度確認したり、変なものがないか確認して、なるべくたくさんの種類の具材がのるようにスプーンにすくう。

 怖くても、スープから漂うビーフシチューのような香りはお腹を刺激する。口元まで運ぶと、口に入れるのにあまり抵抗はなかった。

 いつも以上においしく感じたのは、昨日色々あったせいでお腹が空いていたからだろう。野菜の旨味が抜群に引き出されていて、お肉のコクと旨味を支えている。

 いつも通りのおいしい料理だ。

(こんな状況でもおいしく食べられるって、料理として最高だよね。それとも、わたしが図太いだけなのかな?)

 お人形ちゃんと目が合って、もう一つ毒見をしないといけないと思いだしたときにも、そんなに嫌な気分にはならなかった。

(おばちゃんの料理が美味しすぎるだけ。わたしが変なわけじゃない)

 わたしはもう一口のスープを頬張りながら、そう思うことにした。


~~~~~~~~~~~~~~~


 昨日今日で色々あったのにも関わらず、坊ちゃんの勉強時間は普段通り行われた。事件のことをどう調べようか考えていたら、黒ドレスさんが部屋に入ってきたのだ。

 お人形ちゃんと二人きりになると、行先はすぐに決まった。きっとお人形ちゃんも行きたいはずだ。

「教会に、いこう……」

 言葉は通じていないはずだけれど、お人形ちゃんは素直についてきた。大きな教会の扉は相変わらず見た目のわりに軽く、静かに開く。

 お人形ちゃんに手を引かれて、祭壇の前に立った。何か期待されてたらどうしようかと思ったけれど、お人形ちゃんは何かお願いしてくることもなく、頭の上に手を載せてお祈りを始めた。

「あ、それは……」

 それは無垢なメイドさんがやっていた祈り方だ。この教会では正解の祈り方だと思うけれど、お人形ちゃんがこの祈り方をしたとき、無垢なメイドさんは胸に手を当てる祈り方に直させていた。

(わたしも直させた方がいいのかな?)

 そう思ったけれど、やっぱりやめた。一生懸命祈っているお人形ちゃんの表情を見ていると、注意する気にはなれない。

 いったい何を祈っているのだろう。

(そういえば、お人形ちゃんは無垢なメイドさんが亡くなったの知ってるのかな?)

 わたしが牢屋から戻ったときは落ち着いていたから、お人形ちゃんは知らないのかもしれない。だとしたら「早く無垢なメイドさんが戻ってきますように」と祈っているのだろうか。

(近いうちにお葬式もやるだろうし、隠し通すのは無理だよね。何か、うまく伝える方法はないかな?)

 ぱっと思いつくのはアニメを作ることだった。できれば、お葬式の前に伝えて、受け入れる準備をさせてあげたい。

(事件の調査よりも優先したほうがいいのかな……? でもお人形ちゃんが寝てからじゃないと作業できないし、結構キツイなぁ)

 ちらっと見ると、お人形ちゃんは額に人差し指を当てて、考え込むようにしていた。

(何を考えているんだろう?)

 ふと自分も右手の人差し指を、おでこに当てているのに気づいた。そういえば、こうやって考え込むのが癖になっていたかもしれない。

(あれ? もしかして、わたしの真似してる?)

 前にここで、お人形ちゃんがわたしの合掌を真似していたのを思いだした。お人形ちゃんは色んな人のお祈りを真似するのが好きなのかもしれない。

(それ、祈りじゃないんだけどなぁ)

 でも、もしかしたらそのポーズで祈ってもいいのかもしれない。わたしも熱心な仏教徒とかではないので、合掌で祈ることにこだわりがあるわけではない。

(どうせ祈る神様だって違うんだから、わたしらしく祈ろうか)

 わたしはポーズをそのままに、目を閉じ、頭の中を祈りへとシフトした。

 祈りをささげる先は、無垢なメイドさんだ。

(お人形ちゃんは元気だよ。犯人もわたしが見つけるから、見守っててね)

 祈りと呼べるものか怪しかったけれど、言いたいことは伝えられた。犯人を捕まえたら、もう一度来よう。その時には、本当の祈りを捧げることができると思う。

「あれ……?」

 目を開けたときに、違和感を覚えた。祭壇の置いてある一段高くなっているところと、床の境目のところだ。

 階段一ステップ分だけ上がっているその場所は、床下が見えないように板が張ってあった。その正面部分がタブレット一枚分だけ、明らかに板ではなくなっていたのだ。

(布……かな?)

 色は板と似ているけれど、麻のような布が垂らしてある。

 近寄ってみると、お人形ちゃんも隣に屈んだ。

(前からこんなんだったっけ? 何度も来てるから、気づかなかったとは思えないけど)

 お人形ちゃんの様子をうかがってみると、首をかしげていたので、やはり前から布だったわけではないのだろう。

 お人形ちゃんが布をめくりあげると、裏の板が割れてなくなっていた。

(誰かが間違って穴を開けちゃったのかな? それで隠すために布を張ったとか)

 ここにお人形ちゃんと無垢なメイドさん以外の人がいるのを見たことがない。けれど、その二人が壊してしまったのなら、お人形ちゃんが知らないのは変だ。

(わたしの知らないタイミングで、他にも誰かが来てるのかな? お人形ちゃんなら知ってるかな?)

 穴を覗いていたお人形ちゃんが、穴に手を突っ込んだ。

「えっ! あぶないって……!」

 子供から目が離せないと言っているお母さんたちの気持ちが、ちょっとだけわかった気がした。

 お人形ちゃんを抱えて、後ろに引っ張った。穴から引き抜けたお人形ちゃんの手には、平べったい紙箱が握られていた。

「え? なにそれ……?」

 それは、お土産のお菓子とかが入ってそうな箱だった。
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