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2章 臨時冒険者登録試験
第43話 『仕事』
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『いい? 私達の一番の仕事は、冒険に命を懸けて向かった冒険者達の無事を祈ること。それは忘れないでね。』
それが彼女、セリルさんに教わった最初の『仕事』だった。
セリルさんとは、俺がこのギルドで最初に声をかけた受付嬢だ。俺は入社してすぐの頃は彼女の下につき、仕事を教わった。
レベルこそ2だったが、当時俺以外でこのギルド唯一の「書記」のジョブ持ちで、受付嬢の中でも一番の美人でありながら、聡明で優しく、実を言うと当時、俺は一目惚れをしていた。
残念ながら彼女はその時点で、Bランク冒険者との寿退社が決まっていて、後を任せられる人材を探しているところに俺が来たというわけで、すぐにギルドを辞めてしまったが。
その最初の『仕事』を教わったとき、内心『いや、それは受付嬢の仕事であって、これから裏方担当をする俺には関係ないことだな』くらいにしか思わなかったし、それは最近まで変わらなかった。
だが、今これから冒険に向う俺に頭を下げるマイヤーを見て、確かに俺の中で『生きて帰ってこよう』という思いが強くなったのを感じた。
きっと人間は皆、そんな隠しパラメーターが存在し、それが0になったとき、俺の前世の最後のようなときが来るのだろう。
全く、俺は最近まで仕事を一人で抱え、「出来るやつ」だなんて勘違いしてたんだなと苦笑いが出てくる。立場なんて関係ないんだ。
そんなこともわかっていなかったのか俺は。
俺ももう38だし、何処かで冒険にも1区切りがつくだろう。その時にもう一度、職員として一からやり直してみたくなるような青臭い心がチラつく。
が、まあそんなウブな心は長くは続かない、一瞬の気の迷いだろうけど。
金も手に入るようになったし、悠々自適に暮らしたほうが幸せなのは目に見えているからな。
回想を振り払い、マイヤーを直視して、
「言葉も態度も要らない。けど、今の冒険者への無事を祈ることだけは仕事の初心だからな、そこからやり直そう」
とだけ告げ、振り返って歩き出した。
自分のことを棚に上げてどの口がいうんだか、ブライアンのことをどうこう言えないなこれは。
さあ、行こう、最初の森の方向の門へと向かい街を出る。
目指すは最初の森を超えた先にある、Dランクダンジョン『リザードの巣窟』だ。
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が、まあそんなウブな心は長くは続かない、一瞬の気の迷いだろうけど。
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とだけ告げ、振り返って歩き出した。
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さあ、行こう、最初の森の方向の門へと向かい街を出る。
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