ハウリング・ユー

KANAME(小僧)

文字の大きさ
5 / 14
2 五人の劇団

リーダー

しおりを挟む

ーーーーーーーーーーー


大学の学食というのは、便利なものだ。
と、学食で買った親子丼を食べながら思う。
リーズナブルでいて旨い。それにわざわざ外に出ていく必要がないという利点まである。


「…ハァ…とりあえずこれ食べたら続きな。今日中とは言わねぇから、昨日よりはペース上げてくれよ…」
「……ごめん」

対面に座った月彦がラーメンを啜りながら言う。
その隣に、手作りに見える弁当を食べる鈴。


そう。当然というかなんというか…昨日中には、結局脚本の執筆活動は終わらず、それどころか完成の目処も立たなかったのである。

何せ、俺が書いたといっても書いた記憶などまるでないのだ。
「誰かが書きかけた脚本」というのが、俺の率直な感想だ。
つまり、昨日はまず台本を読むところから始めなくてはならなかったのだ。

今読んでいるマンガの続きを考えろ。というような。
なんとなく二次創作のような気分で執筆している。
なのでどうにも話が浮かんでこない。

これならば、1から書かせてくれた方が早かったかも知れない。と思うレベルだ。


「…なぁ、やっぱりあそこはタカに庇わせた方が話進めやすくないか?」

月彦が言う。
月彦はこんな風にアドバイスしてくれる。それがどうにも的確なので「もう月彦が書けばいいんじゃないか?」なんてことを思ってしまう。

「あ、うん、確かに。そうしよう」
「……………あーそれと、アキはこの後みんなと合流させたらどうだ?」
「なるほど。分かった」
「………………………………ハァ…」

月彦は手を所在無げにふらふらとさまよわせた後、ため息をつきながら頭を掻く。
そしてその手でラーメンどんぶりを持ち、残ったスープをイッキ飲みする。

「……とりあえず先に戻ってるぞ。後はそれからだ……ハァ…」

そう言ってため息を1つ。食器を片付けて食堂から出ていく。


「……ため息多いな…」
「それはユイ先輩が最近変だからですよ?」

月彦を見送ると、今まで黙って話を聞いていた鈴が薄い笑みを浮かべて言う。

「だからユイはやめろっ…て……あーやっぱり変?」
「はい」
「…例えば?」 
「うーん…さっきのだと、『アキは性格的にそうはしなくないか?』とか『タカはそんなことしない』とか言いそうです」

鈴は俺のモノマネのつもりなのか、若干声を低くして言う。

「うわ…面倒くさい」
「フフ……ユイ先輩のことですよ?」
「………そうなんだよなぁ…」


今さら自分が自分であることを疑おうとは思わない。
というか、疑っても仕方がないと思ってはいるのだが、みんなの話を聞く限りの俺と、今現在の俺とでは、どうも差違を感じてしまう。
随分活発なヤツなんだな…俺は。


「…だから、月彦くんは張り合いが無く感じちゃってるのかもしれないですね」

鈴は去っていった月彦の背中を見つめるように、学食の出口に微笑んでいる。

「…ふーん。そういうもんか」
「このチームハウリングも、ユイ先輩たちで立ち上げたんですよね?……それも覚えてないですか?」 
「……いまいち……ってかハウリングか、変な名前だな?」

ハウリングっていえば、マイナスのイメージがするけど…

「…名前決めたの、ユイ先輩ですよ?」
「え?そうなの?」

……俺のセンスってどうなんだ?

「…って、よく茜がそんなの許したな。そういうの決めるのってリーダーの役目じゃないのか?」
「…あ」


鈴は何か大切なことを思い出したように固まった。



「…えっと…ウチのリーダーは…ユイ先輩です」

「え…?………えええええ!?」

鈴は驚いたのかビクッと体を震わせる。

「ちょっ!俺がリーダー!?あのメンツの?」
「はい…茜さんが入ったのは、創設から数ヶ月経ってからだって…」
「でも、仕切ってるのアイツじゃん?」
「それは…ユイ先輩が仕切れる状態じゃなかったから…」
「ま、まぁ…でも!ということは俺の方が立場上じゃないのか!?茜の奴、散々こき使いやがって…!」
「…プッ…フフフ…」

鈴が口元を押さえて笑っている。

「え?なに?」
「…いえなんだか、今のはいつものユイ先輩っぽかったです」
「え?そ、そう?」

今のってどれのことを言っているんだ?

「月彦くんにも、そんな感じで接してあげて下さい」
「え、えー?でも、脚本はなー…………月彦が書いた方が面白くなるんじゃないか?」
「月彦くんはああ見えて、ユイ先輩の脚本をいつも楽しみにしてるんですよ?…多分今回も」


そうなのか…なんというか、意外だ。
月彦がそんなに俺のことを評価してるとは。
でも、今の俺にその力がないということも解ってほしい。


「… 詳しいんだな、月彦のこと」
「へ…?…それは…幼なじみだからですよ」
「ふーん」


そうだ、二人は幼なじみなんだった。
そう思った瞬間、ずっと聞きたかった疑問が口から零れた

………ずっと…?


「そう言えば、鈴って月彦のこと好きなのか?」


俺は「あぁしまったなぁ」と思う。さすがにこれはデリカシーに欠けただろうか?
しかし、もう言ってしまったものは取り返しのつけようがない。
どうも記憶が曖昧になってこういうことが多い。

そんなことを一瞬考えていたが、想像していたより幾分大きい反応が返ってきてそれが吹き飛ぶ。


「へ…?…ぇぇぇぇええええ!?」

顔を紅くして立ち上がる鈴。
周りの視線が痛い痛い…

「あの…!…いや!そういうのではなく…!…違くて!いや、違うというか…いやいや!もっとこうー……!!」
「………アイツも隅に置けないな」


俺は率直な感想を言う。
鈴は目の前に広げていた弁当をバババッと片付け、その途中で「それに、月彦くんには好きな人がいますから」と呟いた。

それだけ言って逃げる様に学食を立ち去ろうとする。


「ほー…そうなのか、後で月彦に聞いてみるか…」

あのクール系イケメンに好かれるとは幸せ者がいたものだなぁ…と他人事のように思うすると。 

「…それは本当にやめておいた方がいいと思います」

鈴が一瞬振り返ってそう言った。



え…?…そんなにデリケートな話なの…?
俺は冷めきってしまった残り少ない親子丼をかきこんだ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...