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2 五人の劇団
リーダー
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大学の学食というのは、便利なものだ。
と、学食で買った親子丼を食べながら思う。
リーズナブルでいて旨い。それにわざわざ外に出ていく必要がないという利点まである。
「…ハァ…とりあえずこれ食べたら続きな。今日中とは言わねぇから、昨日よりはペース上げてくれよ…」
「……ごめん」
対面に座った月彦がラーメンを啜りながら言う。
その隣に、手作りに見える弁当を食べる鈴。
そう。当然というかなんというか…昨日中には、結局脚本の執筆活動は終わらず、それどころか完成の目処も立たなかったのである。
何せ、俺が書いたといっても書いた記憶などまるでないのだ。
「誰かが書きかけた脚本」というのが、俺の率直な感想だ。
つまり、昨日はまず台本を読むところから始めなくてはならなかったのだ。
今読んでいるマンガの続きを考えろ。というような。
なんとなく二次創作のような気分で執筆している。
なのでどうにも話が浮かんでこない。
これならば、1から書かせてくれた方が早かったかも知れない。と思うレベルだ。
「…なぁ、やっぱりあそこはタカに庇わせた方が話進めやすくないか?」
月彦が言う。
月彦はこんな風にアドバイスしてくれる。それがどうにも的確なので「もう月彦が書けばいいんじゃないか?」なんてことを思ってしまう。
「あ、うん、確かに。そうしよう」
「……………あーそれと、アキはこの後みんなと合流させたらどうだ?」
「なるほど。分かった」
「………………………………ハァ…」
月彦は手を所在無げにふらふらとさまよわせた後、ため息をつきながら頭を掻く。
そしてその手でラーメンどんぶりを持ち、残ったスープをイッキ飲みする。
「……とりあえず先に戻ってるぞ。後はそれからだ……ハァ…」
そう言ってため息を1つ。食器を片付けて食堂から出ていく。
「……ため息多いな…」
「それはユイ先輩が最近変だからですよ?」
月彦を見送ると、今まで黙って話を聞いていた鈴が薄い笑みを浮かべて言う。
「だからユイはやめろっ…て……あーやっぱり変?」
「はい」
「…例えば?」
「うーん…さっきのだと、『アキは性格的にそうはしなくないか?』とか『タカはそんなことしない』とか言いそうです」
鈴は俺のモノマネのつもりなのか、若干声を低くして言う。
「うわ…面倒くさい」
「フフ……ユイ先輩のことですよ?」
「………そうなんだよなぁ…」
今さら自分が自分であることを疑おうとは思わない。
というか、疑っても仕方がないと思ってはいるのだが、みんなの話を聞く限りの俺と、今現在の俺とでは、どうも差違を感じてしまう。
随分活発なヤツなんだな…俺は。
「…だから、月彦くんは張り合いが無く感じちゃってるのかもしれないですね」
鈴は去っていった月彦の背中を見つめるように、学食の出口に微笑んでいる。
「…ふーん。そういうもんか」
「このチームハウリングも、ユイ先輩たちで立ち上げたんですよね?……それも覚えてないですか?」
「……いまいち……ってかハウリングか、変な名前だな?」
ハウリングっていえば、マイナスのイメージがするけど…
「…名前決めたの、ユイ先輩ですよ?」
「え?そうなの?」
……俺のセンスってどうなんだ?
「…って、よく茜がそんなの許したな。そういうの決めるのってリーダーの役目じゃないのか?」
「…あ」
鈴は何か大切なことを思い出したように固まった。
「…えっと…ウチのリーダーは…ユイ先輩です」
「え…?………えええええ!?」
鈴は驚いたのかビクッと体を震わせる。
「ちょっ!俺がリーダー!?あのメンツの?」
「はい…茜さんが入ったのは、創設から数ヶ月経ってからだって…」
「でも、仕切ってるのアイツじゃん?」
「それは…ユイ先輩が仕切れる状態じゃなかったから…」
「ま、まぁ…でも!ということは俺の方が立場上じゃないのか!?茜の奴、散々こき使いやがって…!」
「…プッ…フフフ…」
鈴が口元を押さえて笑っている。
「え?なに?」
「…いえなんだか、今のはいつものユイ先輩っぽかったです」
「え?そ、そう?」
今のってどれのことを言っているんだ?
「月彦くんにも、そんな感じで接してあげて下さい」
「え、えー?でも、脚本はなー…………月彦が書いた方が面白くなるんじゃないか?」
「月彦くんはああ見えて、ユイ先輩の脚本をいつも楽しみにしてるんですよ?…多分今回も」
そうなのか…なんというか、意外だ。
月彦がそんなに俺のことを評価してるとは。
でも、今の俺にその力がないということも解ってほしい。
「… 詳しいんだな、月彦のこと」
「へ…?…それは…幼なじみだからですよ」
「ふーん」
そうだ、二人は幼なじみなんだった。
そう思った瞬間、ずっと聞きたかった疑問が口から零れた
………ずっと…?
「そう言えば、鈴って月彦のこと好きなのか?」
俺は「あぁしまったなぁ」と思う。さすがにこれはデリカシーに欠けただろうか?
しかし、もう言ってしまったものは取り返しのつけようがない。
どうも記憶が曖昧になってこういうことが多い。
そんなことを一瞬考えていたが、想像していたより幾分大きい反応が返ってきてそれが吹き飛ぶ。
「へ…?…ぇぇぇぇええええ!?」
顔を紅くして立ち上がる鈴。
周りの視線が痛い痛い…
「あの…!…いや!そういうのではなく…!…違くて!いや、違うというか…いやいや!もっとこうー……!!」
「………アイツも隅に置けないな」
俺は率直な感想を言う。
鈴は目の前に広げていた弁当をバババッと片付け、その途中で「それに、月彦くんには好きな人がいますから」と呟いた。
それだけ言って逃げる様に学食を立ち去ろうとする。
「ほー…そうなのか、後で月彦に聞いてみるか…」
あのクール系イケメンに好かれるとは幸せ者がいたものだなぁ…と他人事のように思うすると。
「…それは本当にやめておいた方がいいと思います」
鈴が一瞬振り返ってそう言った。
え…?…そんなにデリケートな話なの…?
俺は冷めきってしまった残り少ない親子丼をかきこんだ。
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