ハウリング・ユー

KANAME(小僧)

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3 忘却と真実

サイセイ

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「…ハァッ……ハァッ…ッァ……ハァッ……」



いつの間にか俺は膝をついていた。



………そうだ…そうだ…思い…出した…


…穂香は…もう…


すべてが埋まって、再生していく。
色の抜け落ちた部分がどんどん元の色を取り戻していく。


だが、記憶が戻ってくる度に、穂香の声が、笑顔が、その温度が蘇る度に、痛い。苦しい。



自分が自分でなくなってしまったように、体と心が言うことを聞いてくれない。


「ユイ!」「ユイさん!」


茜と滉が駆け寄ってくる。そこに上から声がかけられる。


「そうだ。それが、ユイ。お前が都合よく忘れた、穂香の最期だ」


…穂香は…もう…いない…

俺が一番分かっているはずだったこと。
自分の記憶に蓋をして逃げてきたこと。
真実に迫る度に消し去ってきたこと。

痛い、痛い。頭が、胸が。



「お前が…誰よりお前が!逃げて良い訳がないことだ!」


月彦は俺の胸ぐらを掴み引っ張り上げる。茜が静止するも聞く耳を持たない。


「茶番劇は終わりだ。いつまでも浸ってんな。お前のことはお前で受け止めろ!」
「…月…彦…」


…何で……何でこんなことになるんだ……?
穂香が……何をしたって言うんだ?

俺は…ただ、穂香を…
穂香を…穂香を…ホノカ…を…




目の前には暗い茶髪の青年。




「…つ…お前は………だ…れ……俺…は…?」



「逃げんなッッッッ!!!!新木結人ッッッ!!!!」


耳を劈くような月彦の怒号が、俺を震わせた。


…新木 結人
俺は、また失いかけた名前を取り戻す。



「お前が逃げて良い訳がないだろ!?忘れて良い訳がないだろ!?」



そうだ、俺は忘れちゃいけない。あの人の、穂香の、声も笑顔も温度も。
俺が忘れてしまったら…穂香は…



「お前が覚えていなきゃいけない。俺達なんかより、誰よりお前が!」



どんなに痛くても、辛くても、苦しくても…
穂香が消えてしまうより、ずっと…
だから…もう。



「お前が忘れたらッ!!穂香はどうなるッ!?アイツは…ッ…!!……お前のことがッッ!!」

「もう大丈夫だッッ!!」


右目から一粒の涙を零した月彦に俺はそう答えていた。
月彦はその目を見開いて言う。


「……何が」



「もう…忘れない」



ーーーもう、忘れない。


誰かの息を飲む音が聞こえる。


「…もう大丈夫だから、もう忘れたりしないから。みんなのことも、穂香のこともちゃんと向き合う」


その言葉に茜は泣き崩れ、滉と鈴は信じられないものを見たように目を見開いている。


「…本気だろうな?」

「あぁ」

「…そうか」


そう答えた月彦の目には、もう涙はなかった。
大丈夫。もう2度と忘れたりしない。大切な人を、大好きな人を…


「なら、着いてこい」


それだけを言うと、コートをはおり、部屋から足早に出ていく。
俺も黙ってそれに続く。
後から3人が追ってきているようだったが、月彦は見向きもせずに、ひたすら前だけを見続けていく。


月彦がどこに向かおうとしているのか、俺には何となく分かる気がした。


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